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『terrible troble』
ケヴィンla0192)&六波羅 愛未la3562

 僅かの気の緩みが命取りになりかねない、とある戦闘地域の前線。
 ケヴィン(la0192)はその中に設けられた、SALFの仮設支部を訪れていた。気の抜けない状況に一石を投じようと計画されたナイトメアのたまり場への奇襲作戦に参加する為だ。
 他にも何人かのライセンサーがいるとは聴いてはいたものの、顔見知りは居ないだろうと思っていた。
 ……思ってはいたものの、世が世である。
「ケヴィン君じゃん。奇遇……って程でもねえか。同業だしネ」
 実際遭遇したとて、驚きはそれほど大きくない。
 ばったり出会した六波羅 愛未(la3562)の姿を見、ついでにこれまた偶然だが作戦の中で組むことになり、驚きどころか何だか溜息が漏れてしまう。
 愛未も愛未で肩を竦めた。
「まあ良いよ、お前相手ならやりやすい」
「ま、やりやすいのは確かだからね」
 そこに対しての異論はない。ケヴィンは義手で軽く頭を掻いた。

 ところで、この作戦は単にナイトメアを殲滅するだけでなく、近く卸されるという新武器のテストも兼ねているという。
 そんなわけで、作戦行動に入りポイントで待機している二人の手にはそれぞれ槍と大剣の柄が握られている。
(だけどまぁ、イマジナリードライブに働きかけることで駆動する武器ねえ)
 待機しながら、ケヴィンはまず自分が装備している槍――鋒と銘打たれたEXISの先端を見下ろす。一見何の変哲もない槍のように見えるけれども、実際に働きかけると先端がドリルのように回転するのだという。
(あっちは確か、刃が高速で駆動するんだっけか)
 少し離れた物陰をポイントとしている愛未の方を見遣る。大剣の銘は確か、錻。
(駆動することでどれだけ威力を高めてくれるか……ん?)
 襲撃する先に視線を向けた直後、どこからか駆動音が響き始めた。
「何だよコレちょーっと待て?! 奇襲もクソもねえだろオイ!」
 愛未が叫んだおかげで音の発生源はすぐに分かった。錻の刃が、聞いていた通りチェーンソーのように拘束で駆動している。
 ケヴィンは思い切り顔を顰めた。愛未の慌てぶりからするに特にIMDに働きかけたわけではない……ということは冷静に考えればすぐに分かることだろうけれども、流石に奇襲作戦の開始前にその事故はいただけない。
「おいテメエ何して……ってこっちもかよふざけんな!!」
 愛未を叱責しようとした矢先、急に唸りを上げ始めた手元の鋒へと怒りの矛先を変えざるを得なかった。
 思わず舌打ちする。これだけ煩く駆動音が響けば、もはや奇襲も何もない。事実、標的としているナイトメアの集団の気配が明らかにこちらに向かって猛烈な勢いで動き始めていた。
「ケヴィン君左の敵、良いね?」
「ハイハイ言ってろ」
 思考を切り替えたのは愛未も同じらしい。愛未の声がけにはそう返しながらも、互いの位置的には実際に左に向かった方が色々と効率が良かった。
「作戦? 知らねーなあこんな武器持たせる方が悪ぃんだよぉ!」
 もう奇襲作戦なぞなかった。二人は死角を補うように襲いかかるナイトメアを次々と返り討ちにしていく。
 幸いナイトメアは、事前情報通り数は多かったものの個々の強さはそこまで大したことがなかった。多少タフなヤツがいた程度で、テストと称され渡されたEXISの威力を試すにはちょうどよかった。
 ただお察しの通り、テストとしては失敗だけれども。
「ねえコレ止まらねぇんだけど。クソかよ」
 殲滅が終わってもなお駆動を続ける鋒を見下ろし、ケヴィンはそう毒づいた。

 ■

 戦闘が終わったそのポイントで、今度はナイトメアの援軍、もしくは逆襲がないか見張りをするのも予定通りだ。元々ここにいた戦力は既に全滅させたから、あるとすれば後者だろう。
「はーークソだよ。武器が言うこと利かねえってのは欠陥品だろ……」
「クソッタレにも程があんだろ……おかげで無駄な体力使っちまった」
 ふたりとも、『欠陥品』のせいでどっと疲れたのを隠しもしない。壁に背を預け、双眼鏡を片手に遠くの様子を伺いながらもどちらからともなく深く息を吐き出した。
 苛立った様子で電子煙草を吸うケヴィンを愛未は一瞥する。
 EXISの件についてはまた話は別にしても、正直愛未にとっては面倒臭い奇襲作戦よりは大立ち回りの方が楽しかった。
 というのは、きっと『やりやすさ』もあったのだろう。
「僕は正義の味方じゃないし、お前もそうだろ。だからやりやすいよ」
 愛未がそう声をかけると、ケヴィンは「何を今更」とでも言いたげな視線を愛未に向けてきた。
 誰かの為の『正義』ではなく、自分の為に戦う。単に仕事柄、というだけでなくそういう意味でも『同業』であると愛未はケヴィンのことを認識していた。
 でも、少しだけ違うことがある。
「だから僕はケヴィン君のこと愛してるぜ?」
 何気なく吐いたその台詞は、彼の性癖を知っているケヴィンには「ああそうかい」と軽く流される。
 『同業』であっても『同族』ではない。もし同族だったなら、こんなふうには思わなかったのかもしれない。
 『愛している』のは、彼がきっと自分には持ち得ない光を持っているからだろう。
 愛未も含め他人と、ケヴィンは一定以上の距離を置こうとする。戦いまみれのこの世界の中で、状況を冷静に直視するには最も効果的な手段だし、放浪者である彼は転移前も軍人だったというから現実主義になるのも肯ける話だ。
 だけどそれでいて、「自分の為」というケヴィンの目的の奥底には、微かに正義感が存在している。
 もしかしたら彼自身も意識していないかもしれない程度のそれは、愛未にとってはケヴィンの中に今にも潰えてしまいそうな『光』として見える。その仄かな輝きが、彼に興味を抱かせるのだろう。
 とはいえ、決して『それ』を本人の前で言うつもりはないけれど。

 ■

「大体、よく考えたら試作品もいいとこのものを前線に持ってこさせるか普通。単に駆動不良で済んだから良かったものの、全く機能しなかったり変な事故でも起きたらどうするつもりだったんだか」
「まぁそん時はナイトメアに投げつけておけばいいんじゃないの。爆発したとか言っとこう」
「それはそれで面倒くさくならないか……?」
 警戒は怠らぬままだらだらと愚痴や与太話を続け、戦場の夜は更けていった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
まずは大変お待たせし申し訳ありませんでした。
津山佑弥です。

欠陥品の苦情はヘッジまでどうぞ……いやこれ描写してみたら確かにえらい面倒臭いですね。
心情をどうやって盛り込もうかなと思った結果ああなったわけですが、お気に召して頂ければ幸いです。

ご依頼ありがとうございました。
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津山佑弥 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年11月13日

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