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『他愛のない某日』
オリヴィエ・オドランaa0068hero001)&ガルー・A・Aaa0076hero001


 世界が終末を回避してから、10年ほどの月日が経とうとしていた。
 秋というには肌寒く、冬というにはまだコートの出番ではない、そんなありふれた日のことである。

 ――日も大分と短くなってきた。

 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は仕事先であるアパレルショップから退勤し、ふぅと息を吐いた。ちょうど黄昏時ぐらいか――街路樹もすっかり紅葉し、アスファルトに色彩を落としている。
 早く帰ろう、といつもの道へとオリヴィエは歩き出そうとする。だがその足が止まったのは、目の前にガルー・A・A(aa0076hero001)がいたからだ。

「よ、おつかれさん」

 どうやらオリヴィエを待っていたらしい。片手を上げるガルーは仕事帰りのスーツ姿だった。

「……今日、記念日か何かだったか……?」

 オリヴィエは怪訝気に首を傾げる。するとガルーはからからと笑った。

「たまにはいいだろ、デートだよ。最近あんまり2人になれなかったし……泊まりって訳にはいかねえが、夕飯くらいは」

 養子は誓約者のところに預けて来た、とガルーは伝え――オリヴィエが何かを言う前に、その口を塞ぐように彼の顔へモフリと花束を差し出した。

「わぶ。なんだ、薔薇……じゃないな」

 オリヴィエはいきなり眼前に突き出された花にちょっと驚きつつも、小さな花束を受け取った。薔薇によく似た八重咲の、優美な紫色が美しい花だ。薔薇のようだが薔薇特有の香りはしないし、葉っぱの様子も違う。「トルコキキョウだよ」とガルーが言った。

「花言葉は『希望』」
「へえ……そりゃどうも」

 ピッタリだろと言わんばかりのガルーの物言いに、オリヴィエは照れ隠しに視線を惑わせつつ口ごもるように答えた。文句を言わずに花を受け取ったのはデート承諾の合図だ。
 ガルーの突飛な行動はある意味「いつものこと」ではある、が、オリヴィエにとっては嬉しいものだ。いつになっても照れ臭い気持ちは若干あるが、それよりも喜びが上回っている。

「ふふ。……じゃあ、行こうか。エスコートしてくれるんだろ」

 大切そうに花束を持って、オリヴィエはガルーの隣に並ぶ。昔と比べて身長差は数センチ程度になっていた――近い位置で向けられるオリヴィエの瑞々しい笑みに、ガルーは今日もまた恋をする。
 綺麗だ――ガルーは目を細める。彼は綺麗になって、大人になった。その上で愛らしさは変わらなくて安心する。なんでも職場でも随分と人気らしい。年齢差が効いてきちまうよなー、なんてガルーは心の中で苦笑した。

「うん、いつものレストラン予約しといたから」

 それでもまあ、ガルーの方が年上な訳で……リードは取りたいものだ。ガルーは夕闇に感謝をしつつ、オリヴィエの腰をそっと抱き寄せた。







 電車に乗って大通りへと。電車内の広告は来たるクリスマスに向けての告知に溢れていた。尤もまだ11月ではある。
 そんな改札の向こう側はもう日もとっぷり落ちていて、街明かりが星の代わりだった。

「イルミネーションには流石にまだ早いな」
「もうちいと先ならクリスマスで綺麗だろうがな」

 二人は賑やかな往来を歩きながら言葉を交わした。
 ここに来るのは初めてではない。最初に来たのはいつだったか――そうだ、クリスマスだ。あの時はまだ他人同士だったっけ、と想いを馳せる。随分昔のことだから、あんまり鮮明に思い出すと恥ずかしい。

 歩いた時間はほどなく、二人の間に特に会話はなく。されど気まずい雰囲気では決してなかった。静かに景色を眺めて歩くだけでも落ち着ける間柄だ。
 そうして到着したのは、上品な印象のビュッフェレストランだった。この辺りでデートする時に時折足を運ぶ、いつもの場所だ。ちょっとお高いお店である。

 オリヴィエは小食の部類だが、それでも昔よりはオリヴィエなりに食べる量が増えた。彼は「お腹空いてたんだよな」と料理を取って来て席に座る。卓上に置かれた皿には、まるで几帳面に、そして綺麗に料理達が小盛りに並べられていた。

「俺様のおごりだ。めいっぱい食べろよ〜」

 先に席にいたガルーが「いただきます」と手を合わせる。彼の皿には栄養バランスを考慮した品が並んでいた。

「それじゃあ遠慮なく」

 オリヴィエも同じように「いただきます」と頷いて、銀に煌くフォークを取った。

「ガルー、そういえば」
「ん、どうした」

 スライスオニオンの生ハムサラダを頬張ろうとしていたガルーが、そのままムシャリと口にしつつオリヴィエを見る。彼はすいと目線で店内のスタンドボードを示した。

「シニア割引だって」
「ぶ。――はっはっは、親子に間違われたりしたら流石に傷つくからな!」

 両方とも冗談だ。こんな風に遠慮のないネタを放ちあえる程度には彼らの仲は深いのだ。……昔は、親子に間違われたりオリヴィエが子ども扱いされることにモヤついたものが生まれたが、今はそんなことはない。お互いに成長して、関係と絆が安定したことが大きい。二人の絆は揺るがない。
 しかしそれは、互いに向ける気持ちが色褪せたこととイコールではないのだ。むしろ昔よりも想い合い、愛し合い、恋をしている。二人共、今ならば「相手に最もふさわしいのは自分だし、相手を世界一愛しているのは自分だし、相手から世界一愛されているのは自分だ」と胸を張って大声で主張できる。

 ――まあ、俗に言う『バカップル』ではないので実際にはやらないが。照れ臭いしね。







 今日の仕事のこととか、下らない笑い話とか、テレビやニュースのこととか、明日になれば覚えていないような他愛もない会話達。仕上げはデザート。シナモンの効いたアップルパイが美味しかった。
 料理達に胃袋を満たし、ひとときで心を満たし、二人は店から出る。店内が温かかった分、外の気温は冷たく感じた。

「もう冬だなぁ……衣替えしないと」

 寒さに肩をすくませつつガルーが言った。すると、オリヴィエがその肘辺りをつっつく。ガルーがそちらを見やれば、オリヴィエが「ん」と手を差し出していた。

「夜になって、少し冷えてきたから」
「……、なんだ。お前さんは変わんねえよな」

 ガルーは穏やかに笑って、その手をそっと握るのだ。
 触れ合った部分は温かい。その温かさを享受しつつ、オリヴィエははにかむように俯いて、ゆっくりと歩き始める。掌から伝わるのはガルーの手の感触だ。柔らかくて温かい。今では手の大きさは同じぐらいだ。
 オリヴィエは兵器として生み出された。だからベタベタ触れられるのは快くはなかった――かつてはそうだった。今はこうして触れ合って、隣り合って、温度を分かち合うのが心地いい。戦う為の道具なれど、この世の者ならずとも、それでも――オリヴィエは存在を認められ、許されているのだ。ここにいてもいいのだ。

「あの、さ」

 俯いて歩いていれば、二つ並んだ爪先が見える。オリヴィエは言葉を続けた。

「……ちょっと遠回りして帰らないか」

 オリヴィエがそう言うと、ガルーは「ほう」と片眉を上げた。

「リーヴィからお誘いとはねぇ、こりゃ無碍にはできんわな」

 その物言いになんだか含みを感じて……オリヴィエはぶすりと言う。

「……。変な意味じゃないからな?」
「エッ。変な意味ってどういうイミ?」
「あのさぁガルー……そういうのオヤジ臭いからな?」
「な……なんだとぉ……!?」

 そんな冗談めかしたやりとりだ。しかしガルーは「遠回りね、仰せのままに」とオリヴィエのお願いを快諾するのだ。ガルーはオリヴィエを愛している。だからこそ、その想いを表す為に今日はデートに誘ったのだから。

 ――そうしてゆっくりと歩いて、ありふれた広場に辿り着く。あと1、2週間もすればクリスマス用のイルミネーションに彩られる場所だ。ずっと前にも来た場所だ。今は何もない。まあ、花壇やらが小奇麗に整えられている程度だが。すごくすごくありふれた街角の光景だ。
 それでも特別に感じるのは思い出補正と……隣に最愛の人がいるからか、なんて――チープなラブソングにありそうな、クサいことを考えてみる。お互い同じことを考えているのを、なんとなくお互いに察していた。

「クリスマスになったら見に来ようか、ここのイルミネーション」
「そうだな」

 ガルーの言葉にオリヴィエは頷いた。それから「あー……」と少しだけ考えるような間を空けて、ガルーの方を見る。

「ガルー。……今度、一泊二日でもいいから、旅行でもいくか」
「そうだな。旅行いくか。どこ行きたい?」

 どこでもいいよ、はなんだか味気ない。正直に言うとガルーと一緒ならどこでもいいのは本当だけれども。オリヴィエはあれこれ考えてみる。

「うーん……まだ『ここ!』って強い希望は決まってない、かな」
「いっそハワイでも行っちゃう? 冬にハワイ。どう?」
「それだったらせめて二泊三日ぐらいは……ああ、沖縄もいいな……」
「北海道もよくない? カニ食べ放題ツアーみたいな」
「あー……カニ、いいな、カニ……」
「……いかん、候補がしっちゃかめっちゃかになってきた。帰ってからネットで調べつつ予算とスケジュールと相談しつつ決めよっか……」
「うん。そーだな。俺もそう思う」

 ふふ、と互いに微笑み合った。

「じゃ、帰ろうかリーヴィ」
「そうだな、ガルー。うちに帰ろうか」

 愛する人と帰路を共にできる幸福を、今日もまた噛み締める。
 ありふれた一日。他愛のないひととき。それでも今日も、世界で一番幸せな日――。



『了』

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました!
リンブレでもOMCでもお世話になりました。
遂に結ばれたのですね……なんだか感慨深い気持ちです。
彼らの物語に、これからもずっとずっと幸せがあるよう祈っております!
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2019年11月25日

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