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『ボクの/私の/自分の/選択、決断、誓約』
リリア・クラウンaa3674)&伊集院 翼aa3674hero001)&片薙 渚aa3674hero002

 リリア・クラウン(aa3674)、伊集院 翼(aa3674hero001)、片薙 渚(aa3674hero002)。スリーピースバンド『マカロンズ』は、まさに絶頂期を迎えていた。
 ヒット曲を飛ばし、それが賞を取ることもあり、ライブはいつだってチケット完売御礼で、グッズだって飛ぶように売れたし、ラジオやテレビにだって出演した。
 まさにイマドキ、ホットでキュートで若者達に大人気、流行の最先端。その傍らでH.O.P.E.エージェントとしてイントルージョナー退治にも貢献し、人々の笑顔を護っていた。歌って踊って戦える、そこがまたいいと人気に拍車をかけていた。

「――今日は来てくれてありがとーっ!」

 弾ける汗が照明に煌く。リリアは舞台の上から、観客席を埋め尽くすファンに手を振った。わーっと歓声が沸き上がり、ファン達が手に手に持ったペンライトを振れば観客席は鮮やかな色彩に輝き煌く。
 今日のライブも大成功だった。リリア、翼、渚はファンからの拍手喝采を浴びて、眩しい景色に目を細める。心地いい疲労感と達成感、人々の笑顔。舞台から見る『絶景』は、今日もマカロンズにとって忘れられない光景のひとつになる。

「これからも応援よろしくねーっ」

 リリアはいつも応援してくれている皆に何度も何度も手を振った。
 今この瞬間こそ、リリアにとっては最高の瞬間。ずっと音楽で有名になりたくて努力をしてきたのだから。
 こんなひとときが、これからもずっとずっと続いて行きますように。それがリリアの願いだった。

 マカロンズはますます人気となっていく。

 けれど……。

「……リリア、顔色が良くないよ。今日の収録はキャンセルしよう」

 ある日のことである。翼は苦い顔で誓約者にそう言った。スタジオに遅刻して現れたリリアの顔は疲労と寝不足でやつれ切っていたからだ。

「でも……スケジュールも押してるし……リリース日に合わせて宣伝とかの調整もしてあるんだし……ここでボクが休んだら、皆に迷惑をかけちゃう……」

 リリアはクマの浮かぶ顔で笑ってみせた。だがどう見ても、いっそ自虐的な空元気だ。
 渚はそんなリリアに我慢ができず、不安だからこそつい強めの力でその肩を掴んでしまう。

「リリア! そんな状態で、皆が笑顔になるような歌声を届けられるっすか!? それこそ皆に迷惑かけちゃうっす! 家に帰って休むべきっすよ!」

 そう諭されて、リリアは苦い顔を浮かべて俯いた。ぐうの音も出ない、だけどすごすご帰りたくもない、と言った様子か。
 翼は溜息を吐いて、そっと渚の手に手を重ねると、その手の力を緩めるように促しながらもリリアの方を見た。

「……ねえリリア、ちゃんと寝てるの?」
「う……」

 リリアは顔を歪める。翼も渚も、リリアを心配するからこそ眼差しで言葉を促していた。そうするとようやっとリリアはぽつぽつと、疲れ切った声で呟き始める。

「……赤ちゃんの夜泣きが酷くて。……ほとんど眠れてない……ここ最近ずっと……」

 リリアが双子の男女を出産したのはつい最近のことだ。英雄達の記憶にも新しい――小さな命を抱っこした時など、翼は自分のことのように喜んだものだ。もちろん渚も、羨ましさを抱えながらも素直に新たな命を祝福した。それは間違いなく幸せな瞬間だった。
 だが――子供を産み育てる、それはハッピーなことだけではない。子育てというのはペットを育てるのとはワケが違う。人間の命と人生を預かるということなのだ。特にリリアは初産であり……しかも双子ともなると、その負担とストレスは計り知れないものになっていた。

「でもボク、お母さんだもん。ちゃんとやらないと。大好きな人との子供なんだもん。お母さんだから頑張らないと。妊娠中だって、長い間いっぱい融通してもらって迷惑かけたのに。世の中には仕事と子育てを両立してる人だってたくさんいる。マカロンズの曲を待ってくれてる人がいるんだもん。それにH.O.P.E.のエージェントとしても頑張らなきゃ。まだまだこの世界は大変なことがあるし、困ってる人がいるし……もっとうまくやらないと、ちゃんとしないと、頑張らないと」

 ――リリアは自己犠牲的なきらいがある。真面目な取り柄が悪い方向に作用して、自分を責任の鎖で窒息するほど縛り上げて、全て全てを背負い込んでしまっていた。

 翼と渚は顔を見合わせた。
 翼はリリアとその子供達のことが何よりも大切だ。だからこそ、リリアも子供達も護りたい。渚もそんな翼に同意である。ここは一肌脱がねばならないようだった。英雄達は頷き合う。

 ――そして。

 今リリアが最も優先するべき存在は、自らが産んだ小さな二つの命のことである。それは明らかなことだ。なので英雄二人は周囲関係者と協力してどうにかリリアを説得し、リリアは子育てに専念することとなった。
 つまりマカロンズとH.O.P.E.エージェントの活動は長期間休止となる。リリアがいなければマカロンズとしても、リンカーとしてもやっていけない。その間、翼と渚はアルバイトをして少しでも養育費の足しにしようと二人で話し合って決めた。翼は雑貨屋で、渚はファーストフード店とゲームセンターで、それぞれ働き始めることとなる。

 皮肉なものだ……事情は確かなものとはいえ、あれだけ一世を風靡したバンドメンバーがバイト暮らしだなんて。そう揶揄する者も世間にはいた。悪趣味なゴシップ雑誌もそれを格好のネタにした。
 それでも翼も渚も負けずに頑張り続ける。何を言われたって、後ろ指をさされたって、毅然として在り続けた。

「ふーー、今日も働いたっすー」

 渚はドラムセットを大きなキャリーカートで引きながら、大きく溜息を吐いた。渚の隣には、ケースに入れたベースを背負った翼がいる。翼は「今日もお疲れ様」と渚に微笑みかけた。
 二人で並んで歩いているのは夜の町。彼女達はバイト終わりに二人で路上ライブをしていたのだ。マカロンズとしては活動休止中だけれども、それでも楽器に触っておきたかったのだ。
 銘々、手にしたスマートフォンで婚約者に帰宅の連絡を送る――今日はちょっと遅くなります、と。翼も渚も既婚者なのだ。そして遅くなる理由というのが、楽器を持つ手とは反対側の手に持つ大きな買い物袋である。バイト代で購入したベビーグッズだ。服、オモチャ、オムツ、離乳食、ミルク、などなど。
 それらはリリアのもとへと届けられる。英雄達はバイトのない日は育児や家事を手伝ったりと、誠心誠意でリリアのことを支えていた。

 その甲斐あってか――リリアの顔色は少しずつ良くなっていた。

 しかし。
 リリアは心の奥でずっと思いつめていた。

 マカロンズ――リリア、翼、渚の一番の目標がバンド活動だ。もっともっと上に進みたい、まだまだ叶えたい夢がある。だけど夢を追うことは、それだけ子育てに割く時間を犠牲にするということだ。二人の子供に寂しい思いをさせてまで追うべき夢なのか? だけどリリアはまだまだ若い、20代という人生真っ盛り、まだまだ青春したい気持ちも本物で。

(ボクは……どうしたら……)

 すやすや眠る赤ん坊の顔を見下ろして、リリアは考える。
 自分の夢か。子供の幸せか。――「二つの願いに同時に手を伸ばす」というのは、英雄にキツく止められている。一生懸命なリリアだからこそ、リソース限界を超えて体がボロボロになるまで頑張ってしまうからだ。

(ボクは、どうしたいのかな……)

 今日も答えは出ないまま、ベビーベッドが見える位置のソファに座り込む。ぐるぐると結論の出ない思考の中、やがてリリアは微睡みへと落ちていく……。

 ――夢を見た。

 大好きな人とケンカしてしまう夢だった。リリアが自分の青春を優先してしまったから。
 夢なのに凄くリアルで、辛くて、苦しくて――飛び起きたリリアは真っ青だった。

 だけど。

(……ああ、)

 決意ができた。辛くて苦しい夢だったからこそ、背中を押された。答えが出た。憑物が落ちたように、スッキリとした心地すらあった。
 リリアは深呼吸をしてから、スマートフォンを手に取った。連絡先は、翼と渚。

「――ねえ? 会って話がしたいんだ。大事な話があるの」



 ●



 リリアの自宅。
 3人は向かい合って座る。
 大事な話がある。そのワードに、翼も渚もいくらかの緊張があった。だが対照的に、リリアの顔はというと清々しい色がある。

「あのね、つーちゃん、なっちゃん」

 リリアは真っ直ぐに二人を見つめ、静かな声でこう告げた。

「マカロンズ、解散しよう」

 その一言に、翼も渚も目を見開く。「どうして」――そんな言葉が口をつきかけるが、英雄は二人共、理由を察し取ってはその一言を飲み込んだ。

「……子供の為に生きるんだね?」

 翼が問えば、リリアはしっかと頷いた。そこに確固たる意志を感じては、渚の方も溜息と共に後頭部を掻く。

「しゃーねーっすねー……リリアが考えて決めたことなら、自分は文句ナシっす」
「うん、私も。ママとしてのリリアを全力で応援するよ」

 翼も頷く。リリアはふわりと笑みを浮かべて、「ありがとう二人とも」と英雄達の手を取った。感謝を込めて、しっかりと握り締めた。涙が出てきそうになる。だけど堪えて、リリアは大好きな英雄達を抱きしめる。英雄達も同じように涙を我慢しながら、大好きな友達をしっかりと抱き返すのであった。

「マカロンズは解散だけど……私達の友情は永遠だよっ」
「もちろんだよ、リリア。これからもよろしくね」
「ったくー……こちらこそっすよ、二人共」

 そして三人は、ケジメとして楽器や機材、舞台衣装を全て売った。マカロンズ解散も公式から発表し、マカロンズとしての様々な契約も打ち切った。
 これからはマカロンズとしてではなく、家族のために生きていく。それが三人の、新しい決意と誓約である。


 ――だけど――


 子供が自立してから、マカロンズが復活する未来だってあり得るのだ。
 三人の夢は潰えてしまったわけではない。だって、そう、青春に年齢なんて関係ないのだから。

 さてさて、これからどんな未来が待っているのか……
 いつかまた、舞台の上でマカロンズの歌は響くのか……
 それはまた、別のお話。



『了』

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました!
リンブレでもお世話になりました。
三人の未来が、幸せなものでありますように……。
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2019年11月25日

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