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『遊びの核は楽しいおもちゃ』
ファルス・ティレイラ3733

 機械の動きが鈍くなってきたため、少女は魔法の核を交換する。その途端、止まりかけていた機械は再び勢いよく稼働し始めた。
「うん、今のところは順調だね」
 ファルス・ティレイラ(3733)は、魔法の液体を製造する機械が問題なく動いている事を確認し満足気な様子で頷く。
 機械は完全に自動化されているため作業員等は必要としていないが、動力源である核はこうやって定期的に交換する必要があった。そのため、なんでも屋さんであるティレイラは工場長から手伝いを頼まれ、こうしてたびたび核の交換を行っているのだ。
 さして難しい仕事ではなく、今のところは何のトラブルも起こってはいない。
 けれど、ティレイラは周囲を警戒するように見渡す。この工場には、最近魔力に惹かれて妖精がやってくるらしい。機械に悪戯をするその妖精達を追い払う事も、ティレイラは依頼人に頼まれていた。
「変わった機械がいっぱいある工場だし、好奇心がわいてしまう気持ちは正直分からなくもないけど……悪戯されたらたくさんの人が困るもんね。見回り、頑張らなきゃ!」
 気合を入れ直し、ティレイラは工場内の見回りを始めるのであった。

 ◆

 それから、いったいどれくらいの時間が経っただろうか。
 ふと、不審な物音がした。ティレイラ以外は誰もいないはずなのに、何かを動かすような音や笑い声まで聞こえてくる。時刻はもう深夜を回っていた。
(例の妖精達かな?)
 ティレイラは音のした方向へと向かう。予想通り、そこには何匹もの妖精がおり楽しそうに笑いながら飛び回っていた。
「あなた達ね、最近悪戯をしているっていう妖精は」
 今まさに悪戯を行おうとしていたらしい妖精を止めるため前へと躍り出て、ティレイラは彼女達を嗜める。しかし、妖精達はぴゅーっと素早く逃げて行ってしまった。
 翼をはやし、ティレイラも慌てて追いかける。ここで逃してしまうわけにはいかない。もう二度と悪戯をしないように言い聞かせなくては、今後も工場の被害は減らないであろう。
「こら、待ちなさい!」
 逃げ回りながらもこちらを振り返った妖精達は、みな楽しそうな笑みを浮かべていた。まるで、ティレイラという新しい玩具が現れた事に歓喜しているかのようだ。
 翼で飛行すれば簡単に捕まえる事が出来ると思っていたが、想像以上に妖精達は身軽ですばしっこい。追いついたと思えば、こちらをからかうように笑いながら旋回し逃げて行ってしまう。この追いかけっこも、妖精達は遊びの一種だと思っているのかもしれない。
「もう、ちょこまかとっ!」
 すばしっこく逃げ回る妖精達に、しびれを切らしたようにティレイラは吐き捨てる。
(このままじゃいつまで経っても追いつけない……! 強引にでも、捕まえないと!)
 作戦を変更したティレイラは、勢いをつけて妖精に飛びついた。
「よし、捕まえた! って、あ、あれ?」
 だが、寸前のところで妖精はするりと彼女の腕から抜け出し逃げて行ってしまった。妖精は、くすくすと笑いながら挑発するかのようにティレイラの周囲を飛び回る。
(か、完全に遊ばれてる……! もう、許さないんだから!)
 ティレイラは全力で飛び、妖精へと再び腕を伸ばす。
 だが、今度こそ捕まえた、と思ったその瞬間、妖精の唇が呪文を口ずさんでいる事に気付き反射的にティレイラは身構えてしまった。
 直後放たれた魔法は、幸いにもティレイラではなく見当違いな方向へと向かって飛んで行った。焦って狙いがそれてしまったのだろうか。そんな事をティレイラが考えたその瞬間、何かが破裂するような嫌な音が、周囲へと鳴り響く。
 妖精の狙いはどうやら、正しかったらしい。最初から妖精はティレイラではなく、『それ』に向かって魔法を放っていたのだ。
 ――ティレイラの真上にある、魔法の液体が詰まったタンクへと向かって。
 穴のあいたタンクから中身が溢れ出し、下にいたティレイラに向かって降り注ぐ。
「わっ! なに!? 何これ!?」
 タンクから降ってきた粘着性のある液体に、思わずティレイラは悲鳴をあげた。感触からして、恐らくこの工場で製造されている魔法の接着液だろう。魔法で出来ているため、その粘着性の高さから巷では話題の人気商品だ。
 そんなものを頭から浴びてしまって無事でいられるはずもなく、ティレイラはまるで床に縫い付けられるようにその場へと倒れてしまった。
 身体を起こそうとしてみるが、接着液のせいで全身が床に張り付いてしまい上手くいかない。まるで重いものにのしかかられているかのような感覚だ。粘着液は翼や尻尾にまで及んでおり、ティレイラの行動を阻害していた。
 妖精は、必死にもがこうとしているティレイラを見てまたくすくすと笑う。ムッとしたティレイラは、文句を言ってやろうとして口を開いた。
 ……はずだった。
(……あれっ? 声が出ない?)
 だが、唇が上手く動かない。思わず口にしてしまった驚きの声もまた、声になる事は叶わなかった。
 魔法の接着液はすでに固まってしまい、ティレイラの動きを完全に封じてしまったようだ。今のティレイラには、唇どころか瞼一つ動かす事が出来ないのだった。
(嘘でしょ!? ど、どうしたらいいの?)
 床に固定されたまま、混乱した様子のティレイラは心の中で喚く。ぴくりとも動かなくなったティレイラを、妖精のうちの一体が悪戯につついてきた。どうやら、ティレイラが本当に固まってしまったのかを確認しているようだ。
 完全に接着液が固まっている事を確かめた妖精達は顔を見合わせ、そして嬉しそうに笑い合う。ティレイラ本人の意思など知った事じゃないとばかりに、妖精達はティレイラの身体に乗ったり触ったりと好き勝手に彼女で遊び始めた。魔法の機械よりもよっぽど面白そうなおもちゃを見つけたとばかりに、妖精達の目は好機に満ち輝いている。
(ちょっと、私はおもちゃじゃないってば〜!)
 むろん、ティレイラのその訴えも声にはならない。工場内に響くのは、妖精達の楽しげな笑声と魔法機械が稼働する音だけだ。
 本日の魔法機械工場の被害はタンクくらいなもので、いつもよりもずっと少なかった。ティレイラのおかげであろう。
 その代わりに、妖精達の標的になってしまった哀れな少女は、楽しげに笑う妖精達とは裏腹に一人心の中で嘆きの声をあげるのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
ティレイラさんと悪戯妖精達の慌ただしい一夜、このような感じのお話となりましたがいかがでしたでしょうか。
お楽しみいただけましたら幸いです。何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、この度はご発注誠にありがとうございました。また機会がありましたら、是非よろしくお願いいたします!
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年12月02日

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