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『After.』
ルカ マーシュaa5713)&ヴィリジアン 橙aa5713hero001



 泣いて笑って、勉強して遊んで本を読んで食べて寝て。そんな1日を繰り返し積み重ね、いつしか1ヶ月に。1ヶ月はまた積み重なって1年に。
 あっという間で、けれど振り返れば過ぎたたくさんのことを思い出せる。時が過ぎるというのはそうなることだ。

 それではほんの少しだけ、時の頁を進めよう。
 愚神を倒した”現在”から、その後を歩む”未来”へと。とある1日をそっと覗いてみよう。




 某大学ではここ数年有名な研究室があった。それはとある学生が在籍するが故なのだが──。
「えっなにこれ魔法? 魔法じゃん!」
 研究室で目をきらっきらさせるルカ マーシュ(aa5713)に周囲の学生が引きつった顔で違う違うと告げている。違うのかと残念そうな表情を浮かべたルカは、けれどすぐに立ち直った。ならば次だと分厚い参考書を広げる姿は、”姿だけを見れば”勉強熱心で優秀な学生である。
 だがしかし。二言目には『魔法』と言い出すルカを──面白いと言う者は友人になったが──大抵の人間は奇異の目で見る。これで只々実験の結果を「魔法だ!」と言っているだけならとっくに研究室を追い出されていただろうが──。
「あ、これだけだとわからないな。ちょっと図書館行ってくる」
 席を立ちあがり、今しがた読んでいた参考書を抱えて研究室を出ていくルカ。彼は魔法を実現させることに対して実に意欲的で熱心だった。その姿勢には後輩も刺激されるようで、研究室全体の評価も比較的高いものだ。
 そんなルカは年齢的に見れば就職していておかしくない年齢。だというのに大学へ在籍しているのは、彼が大学院生であるから。その理由は当然研究のため──だったらよかったのだが。
(そういえば、この先どうするかなー。就職か大学に残るか)
 図書館まで歩く道すがら、のほほんとそんなことを考えるルカ。大学卒業時の就職活動はうまくいかなかったので大学院へ進んだが、さてこの先はどうしよう。
 すぐではないけれど、遠くもない分岐点。つらつらと考えていれば、あっという間に目的地へ到着する。中へ入ると心地良い室温と紙の匂いがルカを迎えた。
 書籍は電子化が進んでいるものの、完全に電子書籍へ移行するには蔵書数が多すぎる。それに「読書は紙が良い」という者も少なからずいるため、図書館には書架スペースの他に電子書籍コーナーが設置されていた。
 書架スペースのカウンターで作業をする人物はルカの良く知るそれ。声をかけると静かに視線が向けられる。
「……探し物?」
「そ、研究に使う参考書」
 頷くと、大学図書館のバイト司書でありルカの英雄──ヴィリジアン 橙(aa5713hero001)がひとつ目を瞬かせた。手元に置いてあった1冊の本へ目を向けると、それをおもむろにルカへ差し出す。
「えっなに?」
「後で読んでみれば」
 ヴィリジアンからそれを受け取り、後でと言われたがその場でパラパラと頁をめくってみる。ルカの知る、専攻分野の研究書籍らしい。流し読みとはいえ、頁をめくるにつれルカの瞳が好奇心に輝いていく。
「すげー、これ面白そう!」
「図書館では静かに……」
 ヴィリジアンが小さなため息をつくと同時、ブブッと携帯のバイブレーションの音が小さく響く。ルカの懐からだ。
 携帯をつけたルカは視線を走らせるのもそこそこに、ヴィリジアンへ「依頼だ。従魔だって」と告げた。その依頼を受けるということで、研究室まで戻る暇はないからと本を預かったヴィリジアン。身に着けていたエプロンと共に置いてくる。
 駆け足で出ていこうとするルカに大学の友人たちが気づくが、リンカーの仕事と返しても苦笑されるだけ。どうしてなのかはわからないが、彼らはルカがリンカーであると信じてくれないのである。
(何でだろー?)
 首を捻るも、今はそれどころではないと大学の敷地外へ足を向けた。
 戦闘は得意ではない。けれどもリンカーという立場上、自分たちが戦わなければ──。

「わー、こっわ! こっわ!!」
 ──とは思うものの、やはり得意でないものは得意でないのだ。半泣きになりながら敵の攻撃を避け、応戦する。唯一変わったことと言えば、
「何で僕ここにいんだろ!?」
『この依頼受けたのルカじゃん……』
 共鳴中に英雄であるヴィリジアンと会話できるようになったことだろう。経験を積んでも尚戦闘では半泣きになるルカへの態度は冷たいが、ボソボソとした声で適当なアドバイスをくれるから氷よりは冷たくないと思う。多分。
「うわぁっ!?」
『ルカ近すぎ……』
 距離とって、という呟きにすぐさま後退するルカ。視界が広がれば若干の余裕も出るもので、ビビりながら反撃を繰り出せば従魔がばたりと地面に伏す。
「あーー終わった! 良かった!」
「……はぁ」
 共鳴を解き、安堵の息をついたルカ。その傍らでやれやれと言いたげなヴィリジアンが深いため息を吐く。
 気が付けばもう日差しは傾いて、空は茜色。
 ヴィリジアンの勤務時間はとっくに過ぎていたし、ルカも研究室で絶対に済ませなければならない用事もない。帰るか、と2人は荷物だけ持ってきて帰路へ着いた。
「ヴィー、バイトどう?」
「まあ……居心地はいい」
 ルカの問いかけにヴィリジアンは小さな声で答える。本の虫とも言える彼にとって、本に囲まれている時間は良いものだ。仕事をしながらでも、暇なら合間に借りた本を読むことができる。それに仕事中に見つけた本──例えば、今日ルカに渡した本とか──を彼へ紹介することもある。基本的にはのんびりとした時間だ。
(……ちゃんと就職したらって……言われはするけど)
 職場の人間はヴィリジアンが英雄であるとは知らない。彼らから見れば三十路の見えてくる男である。行く末を心配もするのだろう。もはや本が恋人のようなものだし、今の生活以上を望まないので、それを聞き入れることはないだろうが。
「……ルカ、俺こっちだから」
「あ、そうだった! 僕こっち!」
 じゃあまた! と告げてるかはヴィリジアンと別れる。以前までは幻想蝶に彼が引きこもっていたため、実質同居みたいなものだった。しかし大学入学の折に引っ越し、やがてヴィリジアンも引きこもりに飽きたからとバイトを始めて別居した。リンカーとしての仕事もあるので、それぞれの家はそこまで遠くないのだが。
(またヴィジーと一緒に住むべきかな?)
 ルカはそんなことを考えながら家までの道を歩いていた。英雄に対して呼び方が変わるのはいつものこと。
 ひとり暮らしのアパートはH.O.P.E.を仲介したため、同じ物件より比較的安い。家からの仕送りは大学卒業、そして大学院入学の際になくなっているが、現状は贅沢しなければなんとかなる。それもひとえにエージェント業を定期的にしているが故だ。
 それでもそのようなことを考えてしまうのは──やはり、将来に一抹の不安があるから。英雄と共に住んでいれば、最低限どうにかなると思うのだ。ヴィリジアンはずっと引きこもりだったとはいえ、ルカよりしっかりしている。
(でもなー彼女できたとき困るよなー)
 絶対困る。とても、すごく困るのだ。だって彼女できたらご飯とか作ってもらいたい。2人きりで過ごしたい。
 引っ越すときもこんな話したなぁ、とルカは懐かしそうに眼を細めた。

『おまっ、僕に彼女できたら出て行けよ!?』
『できたらね。……できたらの話……ね』
『二回も言うなチクショー!』

 懐かしい。入学前のことだ。あの時のヴィリジアンにどうだと言ってやりたい。
(大学入ってからちゃんと彼女できたし)
 すぐ振られて別れたけど、と小さく付け足すことになるが。
「あ、コンビニ。寄ってこー」
 暗くなる中、コンビニの光にふらりと吸い寄せられたルカ。扉を押し開けば独特のメロディーと共にバイト店員の雑な挨拶が聞こえる。
 さあ、1日の終わりに何を買って帰ろうか?




 時の頁は進んでいく。
 白紙である箇所に、人々の、ルカの、ヴィリジアンの生き様を綴っていく。

 頁をめくったなら──そこにはきっと、ありふれた日常が広がっているのだ。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 お待たせ致しました。お2人の未来のお話をお届け致します。
 最後に初めましてのご縁ということで、どんな文章を書くのかドキドキされていることかと思います。私も大丈夫かなとドキドキしています。どうかお気に召されますように。
 気になる点などございましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。
 この度はご発注、ありがとうございました!
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2019年12月02日

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