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『VRな一日』
世良 杏里la0336)&日暮 さくらla2809

●ゲーセンに来た娘たち
 都内某所にある、四階建てビル一棟を占める巨大なゲームセンター。土日ともなれば四六時中人が詰めかけてくるような盛況ぶりである。世良 杏里(la0336)は一足先に店へ足を踏み入れ、連れの二人にくるりと振り返った。
「ここが都内で一番人気のゲームセンター! 少し小さいけどVRコントローラーの台数は日本一なの!」
「なるほど……」
 日暮 さくら(la2809)はビルの中を見渡す。右を見ても左を見ても、ずらりとアサルトコアのコクピットを想起させるカプセルが並んでいた。クレーンゲームやリズムゲームの筐体は一階の隅にこじんまりと並べられている。さくらは首を傾げた。
「しかし、何というか、私の知るゲームセンターとは様子が違うというか……」
「ああ。私たちの世界のゲームセンターだとクレーンゲームの方が多かったからね。札幌にあったゲームセンターもメダルゲームの筐体の方が多かった気がするけど」
 さくらの隣に立って、澪河 葵(lz0067)も肩を竦める。杏里はそんな二人に向かい、店の壁を指差す。新進気鋭の人気VRMMO、『GDL』の宣伝ポスターがでかでかと貼られていた。
「普通のPCゲームはともかく、VRMMOとなったら設備費用もかかるし、その辺のPCでプレイしようと思っても出来ないからね。だから時間単位で筐体を一つ借りて遊ぶことが多いんだよ」
 二人も振り返ってポスターをじっと見つめる。美麗なアバターやフィールド、ライセンサー達の戦い方を参考にしたリアリティのある戦闘体験が魅力として紹介されていた。一枚モニターの前に腰を下ろしてゲームをするのがお決まりだった彼女達にとっては、馴染みのない環境である。
「……こう見ると、近未来的世界観へと飛び込んじゃったんだなって気がするよ」
「いずれ私達の世界でも、ゲームセンターはこういうものになっていくのでしょうか」
「私達が呑気にゲームを出来るような間には実現しないだろうけどね……」
 さくらと葵は故郷での生活を思って少ししんみりする。杏里は軽く飛び跳ねながら二人へと飛びつく。
「今日のために筐体は予約してるんだ! 早速行こうよ!」
「ええ、そうしましょうか」
 満面の笑みを浮かべる杏里に、さくらは柔らかく微笑んだ。

●バーチャルな世界に飛び込め
 杏里や葵と一時の別れを告げ、さくらは球状の狭い筐体の中へ乗り込む。革製のリクライニングチェアやPC、チャット用のキーボードや操作用のゲームパッドが据え付けられている。
(なんだかアサルトコアの操縦席みたいですね……)
 席に腰を下ろしたさくらはちらりとそんな事を思う。インカムを取って耳に付けると、早速杏里の声が聞こえてきた。
『さ、さくらおねーちゃんも早く!』
「ええ、ちょっと待ってくださいね。起動用のスイッチは……ああ、これですね」
 身を伏せてスイッチを起動する。モニターに起動画面が映り、アカウントの登録やキャラ作成を次々に促して来た。その辺りは故郷の世界のゲームでも良くあるパターンである。さくらはさっさとそれらを済ませ、天井からつり下がってきたVRゴーグルを掛ける。
(故郷のVRゲームは居間や自室でこれを付けるというのがどうにもおかしな気分でしたが……この空間でならアリ……かもしれませんね……)
 そんな事をちらりと考えながら、彼女はゲームの世界へと飛び込んでいった。

 先日ブラウザでキャラ作成まで済ませていた杏里。既に彼女はゲーム内の本部ビルの前でうんと伸びをしていた。ゴスロリ調のドレスに三角帽子。金髪の三つ編み。ジョブはサイキック。見た目も中身も杏里そのままのスタイルである。
「おや、杏里はもう杏里そのままですね」
 そこへさくらもやってくる。目鼻立ちこそさくらそっくりに作成されているが、身に着けているのは普通の白い軍服である。杏里は首を傾げた。
「さくらおねーちゃんはちょっと違うんだね?」
「さすがにデフォルトで軍服ワンピースを着てるジョブは無いようで……無難そうなソルジャーにしてしまいました。剣も銃も使えるようなので」
「ふむふむ。でもその服も似合ってるよ!」
「そうですか……」
 さくらは照れくさそうに頬へ手を当てる。そこへ更に新たなメンバーがやってきた。
「ふーん。キャラメイクの精度が高くて感心するよ……」
「葵おねーちゃん! ……え?」
 そこに立っていたのは、タブレットを片手に抱えた白衣姿の葵。ジョブはサイエンティスト。敵MOBの情報を収集したりバフデバフをばら撒く典型的な後衛である。顔立ちもどこか野暮ったく、現実の彼女の方がずっと美人なくらいである。
「えー? いつもの勇ましい葵おねーちゃんはどこ行ったの?」
「あんまり操作が忙しいのは嫌なの。アタッカー二枚あるんなら私まで攻撃に参加する必要ないでしょ」
「そういえば、以前もそんな事を言っていましたね……」
 タブレットでデータをじっと見つめている葵に苦笑しつつ、さくらもタブレットを取り出した。画面の中で初心者用の任務を選び、受注をクリックする。
「ともあれ、早速ゲームをプレイしに行きましょうか」
「おー!」

 そんなわけで都市区画を抜け、敵MOBのはびこるフィールドへと繰り出した三人娘。杏里は早速群れていた大きなハイエナ型のMOBへと狙いを定める。
「まずは肩慣らし! ……こうでいいのかな、っと!」
 杏里は魔導書を手に取ると、宙へと飛び上がって小さな火球を一発放つ。火球は群れのど真ん中で弾け、爆ぜた火が次々に狼に襲い掛かった。不意を突かれた狼達は慌てて跳ね起きた。地面にすとんと着地し、杏里は得意げにポーズを決める。
「いつもは使いどころ考えなきゃいけなかったりで少し面倒だけど、ゲームだと自由に撃てるね!」
 押し寄せてくる狼の群れ。さくらは素早く正面へ飛び出すと、サーベルで敵の攻撃を捌きつつ、抜き放った光線銃で敵の頭を一つ一つ丁寧に撃ち抜いていく。
「現実の私は座ったままなのに、ゲームの中の私はどんどん身体が動きますね……不思議な感覚ですが、アサルトコアを動かす時のようにイメージを働かせれば……!」
 さくらは目の前の狼の顎を蹴りつけると、派手に桜の幻影を舞わせながら狼の中心へと飛び込む。ヘイト取り用のスキルだ。サーベルを振り抜いて敵の眼を引き寄せる。
「さあ、このサムライガールにかかってきなさい」
 普段の役目とは違うが、これはこれでやってみたかった技である。次々に飛び掛かってくる狼をひらひらと躱しながら、さくらは二人に目配せする。
「お願いします!」
「オーケー。杏里、決めちゃって」
 葵は杏里に向かってスプレーを放つ。噴霧された薬剤が、杏里の魔力を強化した。
「よーし! これで決めるよ!」
 杏里は早速魔法陣を描き、拳で撃ち抜く。さくらへ群がっていた狼達が、次々に雷に打たれて倒れていった。
「どう? すごいでしょ!」
 胸を張る杏里。さくらはこくりと頷いた。
「さすがです。次に行きましょう」

 そんなわけで道中戦闘を繰り返しながら、調査対象の洞窟へと足を踏み入れる。そして、いつの間にやら洞窟を占拠していた巨大な蜥蜴との戦いが始まったのだ。

「ひえー! 助けてぇ!」
 蜥蜴がは背後に突っ立っていた葵へと襲い掛かる。攻撃用のポーションを投げつけながら、葵は必死に逃げ回る。さくらは咄嗟に間へ割って入り、サーベルを縦に構えて敵の攻撃を抑え込む。
「葵、大丈夫ですか?」
「うん……まさか、回復で溜まるヘイトがこんなに高いなんて……」
「もう大丈夫です。下がっていてください!」
 さくらは勇ましく言い放つと、右から左に剣を振り抜き、蜥蜴の頭を弾き返す。そこへ杏里が素早く踏み込んだ。
「これで、トドメだよ!」
 杏里は氷の槍を一振り放つ。蜥蜴の脇腹を力強く撃ち抜いた一撃。蜥蜴は仰け反り、そのまま地面に倒れて消滅した。洞窟の壁に張り付いて様子を窺っていた葵は、二人の姿を見渡してほっと溜め息を吐く。
「はあ……助かった。二人はゲームの外でも中でも頼もしいねえ」
 葵は力なく微笑む。
「もちろん!」
「……ええ」
 二人は見つめ合うと、得意げに笑ってみせるのだった。

●平和な日を目指して
 ゲームをすっかり楽しみ、三人はゲームセンターを後にする。ロングコートの裾をひらひらさせながら、杏里は陽気にブーツの踵を鳴らす。
「あー、楽しかった! 遊んでくれてありがとう! おねーちゃん!」
 満面に笑みを浮かべている杏里を見て、さくらも眼をすっと細めた。
「私達も楽しかったですよ、杏里。また時間があれば誘ってくださいね」
「もっと世の中が平和になれば、もっとたっぷり時間を使って旅行とかも出来るんだろうけど。キャンピングカーでも借りてヨーロッパ横断とかね」
 葵は片手を揺らし、車のハンドルを転がすような仕草をしてみせる。さくらはほうと声を洩らした。
「ヨーロッパを横断ですか……本当に葵は旅行するのが好きなのですね」
「卒論用のフィールドワークとかも兼ねてたんだけどね。良いもんだよ。やっぱネットで見聞きするのと実際に見るのとじゃ全然違うからさ。杏里も任務で遠出する時は、ちょっと目的地の情報を頭に入れとくといいよ。学校の勉強の助けにだってなるよ」
「勉強……テスト……うっ、頭が」
 久遠ヶ原学園の定期テストが近づいていることを思い出し、杏里は思わず顔を青くする。葵は肩を落とした。
「あーあー、テスト勉強はしてないの?」
「してる、してるよ? でも、あんまり手は回って無くて……」
「仕方ないなあ。お姉ちゃんが見てやろう」
「ハイ、ヨロシクオネガイシマス……」
 そんな二人のやり取りを横目にしていたさくら。彼女も彼女で難しい顔をしていた。
「勉強……こっちの久遠ヶ原学園で取った単位を向こうに転用する事は出来ないものでしょうか。大学で留学などをした時は出来ますよね?」
 卒業の区切りなどで飛んで来ていたら都合良かったが、生憎さくらは高3の受験シーズン真っただ中に脇目を振らず飛んできてしまったのだ。葵は肩を竦める。
「さくらの御父上が方々に掛け合って法整備でもしてくれてたらいいけどね。まー、とりあえずは留年込みで考えた方がいいんじゃないかな」
「ふむぅ。こちらの世界に来たことは後悔していませんが、いざはっきり言われると胃の腑に鉛が落ち込んだような気がします……」
 萎れた花のような顔をしているさくらを眺める杏里。今の今まで意識したことなどなかったが、ふと杏里はとあることに思い至った。
「そういえば、もしこの世界からナイトメアがいなくなって平和になったら、二人ともこの世界から帰っちゃう……んだよね」
「まあそうなるね。帰りを待ってる家族もいるし」
「そっか……寂しいな。折角おねーちゃん達と会えて、仲良くなれたのに」
 肩を落として呟く杏里。さくらは葵とちらりと目配せし、そっと彼女へ歩み寄った。
「心配なさらず。私の世界には異世界渡航用の技術があります。現在は此処とは自由に行き来できない状態のようですが、その問題が解決すれば、いつでもこの世界に遊びに来れますし、杏里が私の世界に遊びに来るという事だって、不可能ではない筈ですよ」
「ほんとに? また来てくれるって、約束してくれる?」
 鈴のような眼を見張って、杏里は咄嗟に二人へ詰め寄る。さくらは微笑むと、そっと杏里の手を取った。
「ええ、約束しますよ。ですから、時が来たら杏里もこちらの世界へ遊びに来てください。今度は私の両親や家族を、杏里に紹介しますから。ね?」
 葵に振り返る。彼女もこくりと頷いた。杏里は声を上げながら二人へがばりと飛びつく。
「ありがとう! 絶対行くからね!」



 いつか平和になった時を目指して、三人は明日もライセンサーとして任務へ励むのであった。

 おわり






━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●登場人物一覧
 世良 杏里(la0336)
 日暮 さくら(la2809)
 澪河 葵(lz0067)

●ライター通信
 いつもお世話になっております。影絵です。この度は御発注いただきありがとうございました。ゲームは折角なので僕が劇中に登場させていたゲームを広げる形で書かせていただきました。お気に召していただけたでしょうか。ついでに今回の葵は完全にオフモードです。シナリオでも始終ゆるいという事は中々無いので、この際楽しんでいただければと思います。

 ではまた、ご縁がありましたら……

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2019年12月05日

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