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『青い虎のいる、探偵事務所』
海原・みなも1252

●もふもふ
 草間・武彦(NPC001)はうつらうつらしていたところで目を覚ました。
 室内にいるのは青い虎。青龍と同様に扱われる青虎もいるが。
 それは海原・みなも(1252)だ。みなもだから、髪の色が影響をしているのかもしれない。
 ブラインドから入る光が当たると、深い海のような毛並みがキラキラと輝く。
 穏やかに眠っていることは良いことだ。
 一瞬、武彦は微笑みかけたが、現実を思い出し、内心溜息を吐く。
 武彦の動きに気づいたのか、みなもはムクッと起きる。虎の姿でも律儀に「おはようございます」というように声を上げ、頭を下げた。
「立ち上がるなっ!」
 制止の声と共に立ち上がった武彦だが、時が遅かったため、椅子に力なく戻った。
 みなもが当たり、積まれていた新聞紙、ゴミの袋等が崩れた。
 虎の大きさであるため、ごみごみした事務所内は事件が起りやすかった。
 みなもは「ごめんなさい」と頭を下げ、落とした物を拾おうとした。
 体の向きを変えた。
 まじめな行動だが、サイズが変わっているという意識が抜けている。後ろ足で立とうとしていないため、虎の姿という認識はある。
 みなもが動くと椅子に尻が当たる。本人は全く痛くないし、当たったという感覚があるだけだった。
 その椅子にはタイヤが付いていたために、ドッと移動してドーンと棚に移動した。棚から、本やカップなどが落ちそうだった。
『こうしてはいられません! 危ないです!』
 自分が動いて椅子を動かしたのだから、問題は解決したい。
 みなもは方向を変えた瞬間に、机に頭から激突した。
『あ、あれ?』
「危ないのはお前だ! おとなしく、そこで寝てろ!」
 武彦はみなも用寝床を指さした。
『す、すみません……』
 みなもはしおれて先ほどまでいた寝床に戻った。戻ったといっても移動したのは一歩程度。

 なぜ、このような事態になったのか。
 短くいえば、怪異の依頼を受けた武彦が、みなもの補助でしぶしぶ片づけた。
 その時、色々あって、呪いなのか、何かの残滓が、みなもに憑いた。
 結果、髪の色と同等の色を持つ、虎になった。
 放置もできないし、武彦が事務所に連れて帰ってきたのだった。

「まったく……」
 武彦は昨晩から何度目かの舌打ちをするのだった。

●日常か何か
 みなもは事務所を見つめる。やることがないため見るだけだ。
 決して広い場所ではない。
 しかし、床面積はそれなりにあるはずだ。
 探偵の机と椅子、書類を入れる棚に食器棚や冷蔵庫、応接用のローテーブルとソファなど、かなりしっかり備えていても、通路はそれなりにあるのだ。
 しかし、みなもの見える範囲は色々な物で埋め尽くされている。
 各種新聞、雑誌、何かの資料らしい紙の束、書籍。
 みなもは応接セットを隅に寄せたところに、毛布を引きつめ座っている。
 座っているといっても、虎なので、場所がいる。眠るにもその体勢から頭を床につけたり、自分の体に載せたりする体勢だ。結局、場所は同じところ。
 ただ、猫が伸びて寝たりするように、虎のみなもの伸びそうになる。寝返りくらい打ちたいが、伸紙や何かの山にあちこち突っ込む羽目になる。
(動くなと言われても、難しいです。人間でいうところの正座と胡坐を交互にしたとしても、することがないのは辛いです。せめて、立ったり、伸びたりもしたいです。でも、それをしても何もすることがないことには違いありません)
 みなもとしての意識は幸いある。幸いであるが、動けないつらさは変わらない。本を読むこともできない。テレビは見られそうだけれども、角度からすると怪しい。移動させてもらえばいいだろうか、一日中テレビを見る生活も、動けないことには変わりなかった。 
(何かしたいです! 別に走り回りたいとかではなく……)
 武彦が食事を買いに行って、今はいない。
 慎重に立ち上がり、少し、気分を変えるならば今だった。
 できるだけ目を動かし、周囲を確認した。肉食獣の理として、視界はあまり広くなかった。じわじわ首を動かし、慎重に慎重を重ねて確認を終える。
 立ち上がる時の筋肉の動きを意識して、ゆっくり動く。胴体と足がどう動くかは理解していても、どの程度周囲に影響があるかまではよくわからない。頭での理解と、実際の行動ば別だった。
 尻尾も注意しないといけない。尻尾が動けば、山が崩れる。
 立ち上がった。
 何かに当たった感触も何もなかった。
 窓の外を見たいなと、首を向ける。ブラインドが降りており見えない。
(そうですよね、外から見たとき、虎がいる、となると騒ぎになってしまいます)
 隣にあるのは何だったか思い出そうとする。壁なら大丈夫なような気もしなくはない。
 みなもの耳に足音が届く。
 みなもは座る。
 立ち上がる時よりも、筋肉の動きが厳しい気がした。一定のところに行くと、勢いよく座りそうだった。
 扉が開く。
 鍵を開けた音はしなかった。
(もし、不法侵入者がいたとしてもあたしを見た瞬間逃げますよね)
「おとなしくしてたな、感心、感心。ご褒美にこれをあげよう」
 武彦はプリンを置いた。
 それも、特大のプリン、だが、虎のみなもにしてみれば小さい。
 そして、カップのままだと食べられない。
『出してくれないと食べれません』
 みなもはつぶやく。
「人間の食事でいいんだよな? 一応、虎だけど虎とはいいがたいし」
 みなもはうなずく。
「野性動物には人間の食べ物をやってしまうと、狩りをする技能がなくなってしまうけどな」
『野生動物ではありません!』
 みなもは反論した。
 何を言ったか通じてはいないだろうが、武彦は「冗談」という。
 武彦はプリンを回収すると皿にサンドウィッチと一緒に並べて載せてくれた。
「虎ならばもっと食べるのか?」
『わかりません』
「ま、ゆっくり食べろよ。やることないんだし」
『うっ』
 武彦は机に戻る。ガサガサとビニールから買ってきたものを出して食べ始めた。
 みなもはサンドイッチを咥える。一口で食べそうだったが、二口にどうにかした。
 口の大きさなどからペースが速い。
 一口食べるとおなかが空いていたのを思い出したかのように、空腹感を覚えた。
 サンドウィッチはあっという間になくなってしまった。
 プリンは実は食べづらい。柔らかいがために、咥えると口の脇から逃げる物もある。
 どうやって食べるか試行錯誤の結果、何とか食べ終わった。
(うーん、プリンはいまいちありがたみがありませんでした。一口サイズの方が食べやすいですね。カラアゲとかとんかつとかでしょうか? はっ、これでは虎になってしまうのでしょうか?)
 みなもは不安に駆られた。
「どうしたんだ?」
『いえ、その……もとに戻るんでしょうかあたし』
「ん? 腹減ったのか……、こっちも食べればいい。また昼には買ってくるさ」
 会話は不成立だった。
 おなかが一杯になると不安が穏やかになり、眠くなった。
「昼はハンバーガーでもするか。にしても、戻るっていつ戻るんだ?」
 戻ることは戻るのだが、いつ戻るかが誰も把握していない。
「依頼料に食費を上乗せしたい」
『ご、ごめんなさい!』
「まぁ、仕方がないな」
 武彦はテレビをつけた。
 みなもはぬくもりに包まれうつらうつらした。その夢の中で、草原を走り回る。
 現実では、崩れる山に武彦が頭を抱えていたなど、知るよしもない。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 青い虎のみなもさん、髪の色由来か、神様か!
 とはいえ、虎のみなもさんには変わりなく、虎でした。
 可愛いだろうし、ほのぼの……草間さん、ほのぼの!?
 みなもさんはほのぼのしているのは想像できたのですが、草間さん……は?
 とはいえ、ボーとしているのは想像つくんですよね。
 いかがでしたでしょうか。
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年12月09日

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