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『勝負の夜明け』
レオーネ・ティラトーレka7249


 レオーネ・ティラトーレ(ka7249)が、友人のヴィルジーリオ(kz0278)と共に、ハンターオフィスから隊商の護衛を引き受けた時のことである。十一月も半ば。涼しいを寒いと形容するようになった頃。
「見事に壊れているな……」
 農村に着いた頃、どうにも振動がおかしいと言うことで、二人は馬車の点検を手伝った。左後輪がひしゃげている。村の人間の手も借りて、車輪の修理は終わったが、日はすっかり暮れてしまっていた。ここからまた移動をするのは危険である、と言うことで、この晩は村で一泊が決まった。隊商とハンターは分散して民家に受け入れられた。
 温かいスープの夕食を取り、若者のいる食卓を喜ぶ家主夫婦と楽しくおしゃべりをして、借りた寝床へ引き上げる。寝るのには少し早いが、よそ者の娯楽がある村ではない。ヴィルジーリオが窓から星を眺めていると、部屋のドアが開いた。
「借りてきたんだ」
 レオーネが、笑顔でトランプを見せた。いつも上げている前髪を下ろしていて、少し幼く見える。
「おや、カードですか」
「寝るまでちょっと遊ばないか?」
「良いですね。よそのお宅ですと、あんまりはしゃぐのもはばかられますしね。何して遊びますか? ばば抜き? 七並べ?」
「いや、スピードをやりたいなと思って」
「ほうほう。初めて聞きますね」
「同じ隊の奴に教わった奴なんだが、面白いぜ」
 そう言って、レオーネはカードを分け始めた。


 ヴィルジーリオにハートとダイヤの札を渡し、レオーネ本人はスペードとクラブの札を持つ。赤と黒に分けたことになる。
「まず、自分の前に四枚並べて」
「こうですか?」
「そうそう。そうしたら、それぞれの手札から一枚ずつ出す」
「はい」
「この札の数字と、連番か同じ数の札を上に重ねていく!」
 ヴィルジーリオが置いたハートのエースに、レオーネがスペードのエースを重ねた。動きが速い。
「なるほどね!?」
「どっちの山に置いても良いぜ! スピードが勝負だ!」
 小さなカードが、鋭く空を切る音がする。レオーネが、ハートのクイーンにクラブのキングを重ね、ヴィルジーリオが出そうとしていたダイヤのジャックの行き場がなくなる。
「ちょっと、レオ、早すぎませんか!?」
「咄嗟の判断力がものを言うからな」
 素早く札を出し続けながら、ぱち、とウィンクをする金髪の友人に、赤毛の司祭は目を剥いた。
「ここでウィンクするのも咄嗟の判断ですか!? 顔が良いと、ほんと何しても様になるな……」
「手が止まってるぞ」
「なんだって」
 レオーネの札が減っている。慌てて出せる札を出すと、その上にレオーネが自分の札を乗せた。
「これ、出さないことによる意地悪ができたりしませんか?」
「できるけど、二人だからな。自分もその内手詰まりになる」
「考えるより、動いた方が早いゲームですね」
「そう言うことさ。あがり!」
「早! 私まだこんなにあるんですけど!」
「初戦だしこんなもんだろ。第二ラウンドは? それとも明日に備えて寝るか?」
「まだ寝るのには早いでしょう。私が一勝するくらいの時間はあるはず」
「そう来なくちゃな」
 レオーネは笑うと、黒の札を集めて切り混ぜた。


 ヴィルジーリオが反射的に二枚の札を出した。札を一枚持ち上げたレオーネの手が止まる。
「おっと失礼」
「やったな」
 眉を上げるヴィルジーリオに、にやりと歯を見せるレオーネ。すぐに切り替えて、別の札を乗せた。素早く手札を開く。今度はレオーネの方が早かった。
「これ、スートや色が違うと迷いますね」
 クラブのエースに、一瞬迷ってからダイヤのエースを乗せながら、ヴィルジーリオの眉間に皺が寄る。
「訓練が足りないな」
 軽口を叩き合いながら、時に挑発しながら、時に笑いながら、時に相手の手際に感嘆しながら、二人は勝負を続けた。勝敗はほぼ互角と言ったところで、ふて寝する余地もない。
 外の気温は下がり続けていくが、白熱した二人は気付かない。月が南中しても、窓を見ない二人は気付けない。
「別のにするか?」
 また一勝負終えてレオーネが尋ねると、ヴィルジーリオは首を横に振り、
「いや、他のゲームって二人でやると手札が多すぎたりするじゃないですか……これ楽しいですし、これが良いです」
「お前が気に入ってくれて嬉しい」
「そう思ってもらえて嬉しいですよ」
 レオーネは好意の表出を怠らない男だ。言葉も表情も足りないヴィルジーリオにとっては学ぶべき所も多い。
 それは別として……。
「そろそろ私も慣れてきました。ここから差を付けますからね」
 ヴィルジーリオはリボンで髪をくくった。レオーネも前髪を掻き上げ、
「望むところだ。お手並み拝見と行こうじゃないか」
 二人は手札を切り混ぜた。


 月が西に沈んでいく。東から朝日が昇る。気温が徐々に上がり……鳥が鳴き始めた。
「鳥……?」
「ちゅん……?」
 朝によく聞く音に、まさかと思って顔を上げると、カーテンの向こうが明るい。
「しまった……」
 ヴィルジーリオが呻く。勝負に熱中するあまり、夜明けを迎えてしまったのである。見れば、ランプの燃料がかなり減っていた。燃料代を置いていくべきかもしれない。
「……引き分けかぁ」
 レオーネが、記録していた勝敗を数えて結果を告げた。ていうか、こんなに回数遊んでいたのか。それは夜も明けると言うものだ。
 階下で物音がする。家人が起き出したのだろう。
「俺たちも降りるか……」
「そうですね……今寝たら起きられなくなりそうですし……」
 二人が着替えて、階段を降りて行くと、家主は二人の起床が早いことに驚いたようだった。勤勉な若者だと思ったのだろう。まあ、早いんですね、と笑顔で言われて二人は、
「ええ、まあ……」
 言葉を濁した。目を見交わす。勝敗は引き分けだ。だが、たとえ友人であろうとも、男には決着を付けたいことがある。
 無言のままに再戦を誓って、二人は朝食の席に就いた。

 その後、仕事を終えた睡眠不足の二人が、帰りの馬車の中で互いに寄りかかりながら居眠りしていたのはまた別の話。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。
友達とはしゃいで夜中(どころか夜明け)までトランプしちゃうのって楽しいですよね。そう言う楽しい気持ちを思い出しながら書かせていただきました。楽しんでいただければ何よりです。
また、レオーネさんは好意と感謝の表出を怠らない、あるいは隠さない方だと言う印象を受けておりますので、今回そのように描写させて頂きました。
またご縁がありましたら。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年12月13日

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