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『お仕置きついでにこのままで。』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

 後片付けが済んだらお茶会にしましょう。
 そう、あの子も――SHIZUKU(NPCA004)も呼んで、三人で。

 気紛れでも何でも、そう持ちかけられた時点でファルス・ティレイラ(3733)に否やは無い。そう、魔法の師匠にして姉の様な存在でもある同族――別世界から異空間転移してきた紫の翼を持つ竜族――のシリューナ・リュクテイア(3785)と、楽しい友人である神聖都学園怪奇探検クラブ副部長にして本名秘密、天下無敵の女子高生でもあるオカルトアイドル、芸名SHIZUKUの二人と三人でお茶会。

 楽しみ以外の何物でも無い。

 そうと決まれば後片付けにも力が入る。後片付け――そう、今のティレイラはと言うと魔法薬屋の奥の部屋、先程お姉さま――シリューナと一緒に仕事で使った薬剤調合の道具を整理しつつ仕舞っている所になる。魔法の弟子としての勉強がてらで敢えて任されている面もある為、ぱぱっと済ませるには少ーしだけ難がある仕事だ。つまり、扱いには細心の注意が必要な物が周囲に山とある場所で、ややこしい事が起きない様に気を付けつつ、肝心の道具をきちんと元あった場所に片付けると言う地道かつ繊細なミッションでもある。
 とは言え、きちんと筋道立てて考えた上で「寄り道」をしない様にすれば、本来、然程難しい仕事でも無い。
 だが。

 その「寄り道」をしないのが――ここは一番、難しいのだ。

 使った道具を片付けておく部屋。即ち、場の主であるシリューナのこなす仕事の守備範囲や趣味嗜好からして、ティレイラにとっては興味深い品々がたくさんあってしまうのが必然である。好奇心旺盛なティレイラにしてみれば、誘惑の囁きがそこかしこから聞こえて来る様な物。そんな場所にあっては、一つの事に集中する方が難しい。
 それでも何とか片付けるべき道具を元あった場所に収め、そうするに当たって動かさざるを得なかった周囲の道具も注意深く元に戻し。よーしこれでミッション完了、と満足と共にちょっとばかり気が緩んだ所で。

 ふ、と非常に気になる品が視界に入って来てしまった。

 ティレイラが今居る位置より上方、やや高い棚の上。そこにある平たい箱――気になったのはその中身。光を反射する何かが入っている。そう、何かが反射するのが外から見えるのだ。
 ……つまり、ちゃんと箱に仕舞えてないのかも。何かの加減で蓋が開いてしまっているのかも。そう頭に過ぎりもする。となると、ちゃんと仕舞い直しておいた方がいいかもとも思う訳で――取り敢えずその場で背伸びをしつつ慎重に手を伸ばし、そぉっと当の箱を取り上げてみる。
 そうしたら、別に仕舞い損ねている訳では無い事がわかった。元々、外から中身が見える形の箱だった――となれば、今の自分のこの行動は余計な事になる。だったら早く元あった場所に戻さないと――思いつつも、中身に目が奪われた。
 箱の中に入っていたのは、金箔やら銀箔、銅箔と言った金属箔である。素材通りの重厚な色彩と輝きを持ちながら、軽やかで儚くも感じられる繊細な箔と言う形状。光の反射も絶妙で――……

 うわ、すごい、きれい……



 店表。

 仕事の後片付けをティレイラに任せたシリューナがお茶会の準備をしている所で、呼び鈴の音が鳴る。店の方は今は閉めているとの札は下げてあるし、タイミングからしてSHIZUKUである可能性が一番高い。
 応対に出てみれば、思った通りにSHIZUKUである。

「いらっしゃい」
「ふふふ、お呼ばれしたよーシリューナちゃん。折角だからお茶菓子もちょっと奮発しちゃった。……あれ、ティレイラちゃんは?」
「ティレなら仕事の後片付けを頼んでいる所なの。じき戻ってくるでしょう――貴方も入って?」
「はーい、お邪魔しまーす」

 主の招きを素直に受け、SHIZUKUはいそいそと中へと入る。そうする自然の流れでシリューナにお茶菓子入りの紙袋を預けつつ、おお、本格的、と準備中――と言うよりもうほぼ準備は終わっていて、後はお茶の蒸らし工程程度だが――のお茶会テーブル側へと視線移動し、軽く感嘆。

「いい匂い〜。ちょうどいいタイミングだったかな?」
「ええ。そうなのだけれど――……





 ……――ティレ、SHIZUKUも来たし二人でお茶会先に始めちゃうわよー?」





 SHIZUKUの言を受けてから、シリューナは少し声を張る様にして奥の部屋へと声をかけておく。そんなに時間が掛かる様な後片付けを頼んだつもりは無かったのだが――何をやっているのやら。



 奥の部屋。

 ぎくり、とした。
 暫し魅入られる様に箱の中の金属箔に見入ってから、いけない戻さなきゃと再び背伸びして元の棚に箱を戻そうとしていた所。そんなタイミングで不意にシリューナから声を掛けられてしまっては――後ろめたさにぎくりともする。……いやいやでも掛けられたのは声だけ、見られてる訳でも気付かれてる訳でも無い。このままちゃんと戻せば何でもない。だから大丈夫! 大丈夫……の筈。





「はーい、お姉さま、今戻りますー!!」





 ティレイラもティレイラで声を張り、怪しまれない様にすぐさま返答。
 した、途端。

 箱を棚に戻そうとしていた手から、箱を保持していた感覚が不意に抜け落ちた。
 え、と頭が真っ白になる。
 箱を落とした事を、思考するより肌感覚で理解する。
 何を考える間も無く殆ど反射的に、落ちて行く箱を止めようと手を伸ばす。何とかしなきゃ、と体の方が勝手に動く。
 が――落ち掛かる箱に指が触れた拍子に、あろう事か箱の蓋も開いてしまった。
 自然、中身がひらひらと中空を舞い――わわわとばかりに慌てたティレイラはそれも床に落ち切る前に掴んで確保しようとする。
 そして、箱と箔とで俄かにお手玉になったかと思うと――ぺたり。
 一度触れるなり箔の方が、吸い付く様にティレイラの手に張り付いた。

 えっ、と思う。

 今掴んだ箔の金属色。そのままの色が――張り付いたそこから膜となって腕へ肩へと広がっていく。自分でその様を見てさぁっと血の気が引いた。あ、これ、駄目な奴。失敗。いつもの。封印魔法とかそっち方面のあれ。多分これそんな道具。剥がさなきゃ。思っている間にも膜の範囲はどんどんと広がって――剥がす端緒にすべき縁部分がすぐに見つからなくなる。じゃあ破けば――ってこれお姉さまの所蔵品だから破いちゃ駄目だしそもそも破けないっぽいし、どうしたら――ああっ、魔力で抵抗すれば何とかなるかも――

 その答えに辿り着いた時には、金属色の膜はティレイラの全身を覆い尽くしていて。
 ティレイラが魔力での抵抗を試みるより、箔の魔力が完璧な形で発動するのが――ほんの僅かだけ先だった。



 店表。

 ほぅ、とシリューナが溜息を吐いている。

「返事だけはいいんだけど……」
 ……でも結局、ティレイラはまだ戻って来ない。何だか戻って来る気配すら無い。
「仕方無いわね。SHIZUKU、ティレの事連れて来て貰えないかしら」
 私は今は淹れている途中のお茶の方を放っておけないから。
「ほーい。奥の部屋でいいんだよね?」
「ええ。悪いわね客人に」
「いえいえ〜。そーゆー場所に堂々入っていいのは歓迎歓迎♪ 面白そうだし」

 と、SHIZUKUは足取りも軽く奥の部屋へと向かう。着いた所で扉を開けるが、途端、何かががしゃんと派手にぶつかる音がした。続いてごとんと硬く重い物が床に転がる様な音が続く――唐突な異音の連続に、何事!? とSHIZUKUはぎょっとする。が――この部屋にはティレイラちゃんが居る筈な訳で、音の正体がわからなくとも確かめない選択肢は無い。もし何かヤバい事になってたとしたらシリューナちゃん呼べばいいし、どちらにしても確かめるのが先決。
 思い、SHIZUKUは恐る恐る部屋の中を注意深く覗き込む。

 と。

 目の前にあったのは――等身大の金属像。
 今こちらが扉を開けた事でぶつかってしまったのか、そんな感じで倒れている。

 何だ、これ。

 思いつつSHIZUKUはその金属像の観察を始める。金属。金色をメインに、少しずつ違う色がマーブルになっている感じもある。不思議な金属だなーと思いつつ今度は造形を確認――するまでもなく。

 ……ティレイラちゃんじゃん、これ。

 一目見て即決でわかった。これ、何かのトラブルに巻き込まれたって事だよね。
 だとしたらあたしのやる事は一つ。

 シリューナちゃん呼んでこよ。



 奥の部屋。

 ティレイラちゃんが大変! とSHIZUKUに呼ばれたシリューナは、目の前の状況をじっくり眺めてまず観察。色味、質感、周辺状況。そういう事ね、とシリューナもシリューナですぐ納得。
 後片付けを託した道具を仕舞う場所の程近く、高い位置にある棚の上に置いてあった魔法道具――魔法の金属箔が原因である。物体に触れると、該当金属と同じ輝度と硬度を以って物体を丸ごと覆い、中身の保護と見た目の装飾を行う代物。ティレイラは何かの拍子に直に触れてしまい、そこを始点に体丸ごと保護する様に包まれてしまった、と言う事だろう。

「……どう、大丈夫なのこれ?」
「ええ。暫くすれば元に戻るわ。……全く。こういう事にならない様に気を付けなきゃならなかったのにね」
 何の為に後片付けを任せたんだか。はぁ、とこれ見よがしに嘆息して見せると、シリューナはすぐに部屋から出て行こうとする。
「え、シリューナちゃん?」
 これ放っといて何処行くの。
「ふふ。お茶とお菓子を持って来るのよ。お仕置きついでにこのままお茶会を彩るオブジェにさせて貰うわ」
「そ、そうなるんだ……」

 厳しいと言うか何と言うか。



 そして置いて行かれたSHIZUKUはと言うと。
 目の前のこの状況を結構無邪気に楽しんでいた。元々、ティレイラちゃんとシリューナちゃんの周りでは不思議現象が満載である。特にお店ともなれば二人の趣味も相俟って、色々その手の不思議道具も集められているからまた面白い。だから、来られる口実が出来たならいつでも訪れたいお気に入りの場所なのだ。
 まぁ、現象の方向性が偏っていると言えば偏っているが、同時に致命的に危険な目に遭う事も中々無いのでSHIZUKUとしては手放しで心躍らせられる訳である。折角だからと今のティレイラちゃんの姿を写真に収めてしまったりもする。
 勿論それだけでは無く、本体その物の方にも興味津々。こっそり触ってみれば、本物の金属としか思えない冷たく無機質な感触。おおおこんなになっちゃうもんなんだー、と触れば触る程遠慮が無くなっていく。髪とか肌とか、顔とか腕とか、服とか脚とか……まぁ、生身感が全く無いから出来る事なのだろうが。
 でも見た目は完全にティレイラちゃんな訳だし、本当に本人な訳だし。……何か倒錯的で、癖になりそうな感じはある。
 と、不意に紅茶のいい香りがふわっと漂って来た。

「ふふ。素敵でしょう? 私のティレは」

 シリューナである。……宣言通りにお茶会用のセットを一通りこちらに引っ越しさせて来たらしい。偶然か狙ったのかお茶の水色はちょうどティレイラの金属像をそのまま移した様な色。これもまた一興かもしれない。

「えーと。どう感想言うべきか迷う感じはあるんだけど……」
「でも。その手つきはもう、愉しんでるわよね」

 クスリと珍しく笑みを見せ、シリューナはお茶菓子の一つをSHIZUKUに差し出す。

「どの曲線をとっても手触りがいいでしょう? 質感も癖になる――それでいて、この一瞬の可愛らしい姿が切り取られているのよ」

 これ以上の芸術は、無いとは思わない?

「うーん。……あたしあんまり芸術には明るくないんだよね……でも手触り良くて癖になるとか、ティレイラちゃんが可愛い事には同意」
「でしょう」
「シリューナちゃん、嬉しそう」
「だって、盗られる心配無しに手放しでティレの事を自慢出来る機会なんてあまり無いのよ。貴方ならティレの良さをわかってくれる。でも貴方の一番は不思議現象、でしょう?」
「うん!」
「だから貴方にならティレの事を自慢しても大丈夫って安心感があるの」
「ふーん。ま、あたしも楽しいしシリューナちゃんも楽しいならそれでいいんじゃないかな?」

 あ、でもこれじゃティレイラちゃんが楽しくないかもか。

「あら、それは仕方の無い事よ」

 ティレは今はお仕置き中で、お茶会の彩りになって貰ってる訳だから、ね。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 紫の翼を持つ竜族な御二人にはいつもお世話になっております。
 今回も発注有難う御座いました。いつもの如く大変お待たせしております。

 内容ですが、シリューナ様&SHIZUKU側とティレイラ様側での状況対比はこんな感じになりました。そして後片付けした物は薬の調合に使った道具としてしまいましたが、「店の商品は液体に魔法を封じ込めた物」となるとそもそもそういう道具使うのかなと書いてから疑問に思ったりしてしまったり……他細部もイメージから逸れてないと良いのですが、如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
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東京怪談
2019年12月16日

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