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『クリスマスイヴ・バトル!・3』
白鳥・瑞科8402

 白鳥・瑞科(8402@TK01)は滑り止めが素晴らしいブーツに内心で感謝しながら、雪道を走る。
 教会の鐘の音が届く近所の家には、『今日はクリスマスイヴなので、夜には特別な鐘の鳴らし方をします』と前もって通告していた。
 通告を知らない一般人も、今日がクリスマスイヴだと気付けば不審に思われることはないだろう。
 鐘の音が響く中、ミニブラックサンタこと邪妖精は『ガマンできないっ!』と言うように子供部屋から外へ出てくる。
 それらを武器化したキャンディケインで叩き、時には鉄製のナイフで仕留めていく。
「はあはあはあっ……!」
 雪降る夜の激しい戦闘は、瑞科の肺に刺激を与え続ける。口からは白い息が出るものの、体内温度は低くなっていくのを感じていた。
(一番の敵が自然というのが、何とも人間らしいですね)
 超常能力者と言えども、自然の力には抗えづらい。春や秋などであれば外での戦闘もそんなに苦ではなかっただろうが、真夏の昼間や、雪降る夜は例外だ。
(邪妖精召喚師は案外、寒さに弱い人かもしれませんね。この寒さで子供を誘拐する為に出歩き続けるのは、無理がありますから)
 ここら辺を通る一般人には幻覚を見せる能力者の仲間が安全なルートへ導いているが、それでも余裕はあまりない。
 邪妖精は弱いが、それでも数が100単位になれば厄介な敵だと言える。
(召喚師はまだ見つからないのでしょうか? 使役できる範囲は召喚師によるようですが、邪妖精の数が多ければ近距離にいるはずですが……ん? アレは……)
 ふと瑞科は、数メートル先を飛んでいるミニブラックサンタを見かけた。しかしその数は一体。明らかに群れから離れて、独自で動いている。
(もしかしたら……)
 瑞科の頭の中に、とある予想が浮かぶ。
 走るのを止めて、気配もゆっくりと消す。そしてできるだけ足音を立てないようにしながら、ミニブラックサンタの後を追い始める。
 ミニブラックサンタは瑞科に気付くことなく、また迷うことなくどこかへ向かう。
 ここら辺の住宅地は一般的な一軒家が多く、奥の方になると大きな屋敷が立ち並ぶ。高級住宅地と言えるものの、それも景気が良かった時の話であった。今では手放す人の方が多く、空き家がほとんどである。
(……なるほど。誘拐した子供を、一時的にでも置いておく場所にはピッタリです)
 ミニブラックサンタは空き家が並ぶ中、一軒の元高級住宅に入って行った。すると、とある部屋に灯りがともる。
 瑞科は敷地内に入ると、窓からその部屋の中の様子を窺う。
(――幻覚、でしょうか?)
 思わずそう思ってしまう光景が、部屋の中にあった。
 暖炉が置かれている部屋はランプの明かりがあるもの、全体的には薄暗い。その部屋の中心に赤いサンタクロースが立っていて、ミニブラックサンタから何かしらの報告を受けているようだ。
(確かに赤いサンタクロースの従者がブラックサンタという説もありましたが……。その気になっているのが、何とも言えない感じです)
 ため息を吐いた瑞科は、スマホで仲間達に連絡を入れる。
 そして玄関から中へ入った。


「こんばんは。子供達を誘拐することに成功しましたか?」
 部屋に入るなりできるだけ優しい微笑みと声をかけるも、赤いサンタクロースはビクッと身体を揺らす。
 一般的なサンタクロースの恰好をしているが、それで瑞科は騙されない。
「この日本にはブラックサンタの伝説は通じないんですよ。でもわたくしはあなた達に、プレゼントをします。絶望と敗北を!」
「くっ!」
 醜く顔を歪めたサンタクロースは、ミニブラックサンタを召喚して瑞科に襲わせる。
「この程度でビビるほど、人生経験は浅くありません!」
 瑞科がミニブラックサンタをキャンディケインで殴って消滅させると、サンタクロースは慌てて窓から逃げようとした。
 しかしそこでピタッと動きを止めると、部屋の内側にドサッと倒れる。寝息を立てており、邪妖精の幻覚効果が切れたのかサンタクロースの姿は消えて、四十代ぐらいのガリガリに痩せている男が現れた。
「お早い到着でしたね」
 瑞科が窓の外に声をかけると、仲間達が答えるように手を振ってくる。
 室内にいたミニブラックサンタは瑞科が全て倒し、召喚師は駆け付けた仲間によって眠らされた。術による眠りは自然に覚めることはなく、彼は囚われの身となったのだ――。


 翌朝、今日も朝からクリスマスイベントが行われる教会では牧師とシスター、そして一般的なシスターの服に着替えた瑞科が準備をしている。
「……っくしゅん」
「白鳥さん、大丈夫?」
「風邪でも引きましたか?」
「いっいえ、寒暖差で出たくしゃみなので、ご心配なく」
 口ではそう言うものの、体の芯に冷たさをまだ感じていた。
(やはり真冬の外回りの仕事は身体に響きますね……)
「白鳥さん、悪いけど暖炉に薪を入れて火を強くしてくれるかい?」
「後は私達だけでも大丈夫ですから」
 二人にグイグイと押されながら、瑞科は暖炉の前に移動させられる。
「そっそうですか? じゃあやっておきますね」
 瑞科は言われた通りに暖炉に薪を入れながら、ぼんやりと考える。
(気を使われましたか。……いくら戦闘能力が高くても、カバーしきれないところはありますね。まあ人間らしいと言えば、そこまでですが……)
 今までは運良く勝ち進んでいる瑞科だが、ふとした瞬間に敗北した時のことが頭をよぎる。
 敵に再起不能にまでされた仲間や、殺されてしまった仲間はいた。彼らのことを思えば、鍛錬を続けて、戦闘に勝ち続けることは重要だとは分かっている。
 負ける時のことを考えれば、自然と言動がそちらに傾いてしまうことだってあるのだ。だからできるだけ、今までは考えないようにしていたのだが……。
(寒さに負け始めたこの身体は、一体いつまで戦い続けられるのでしょうね。あるいは……引退の時期を、考え始めた方が良いのかもしれません)
 敗北した上で、戦闘に勝つならばまだ良い。だが仲間の足を引っ張り、被害者を増すなんてことは絶対にあってはならないことだ。
 戦い続けたいという自分の意思は、ワガママに過ぎず。頃合いを見て、前線から引くのも一つの戦い方である。
(後輩の育成という生き方だってあります。他の部署に回るよりは、そっちの方がわたくしの能力を活かせるでしょうし)
 負けが怖いわけではない。戦いの中で負けることは避けては通れないとも言えるし、それが糧となる場合だってある。
 だが周囲の人々に与える影響力を考えれば、一度でも負けることはあってはならないのだ。
「白鳥さん、そろそろ教会を開けますよ」
「玄関で皆さんを迎えましょう」
「あっ、はい!」
 牧師とシスターに声をかけられた瑞科は、笑顔で振り返る。
 そして木の扉を開け放ち、笑顔で待っている人々を見てほっとした。
 この人達の笑顔を、今日も見られたことに――。
「皆様、メリークリスマス!」


【終わり】



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
クリスマスイヴバトル、最終話となります。
良きクリスマスを、お過ごしください。
東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2019年12月16日

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