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『やっていいこととわるいこと』
デルタ・セレス3611)&石神・アリス(7348)

 十月晦日の恒例の。

 可愛いかぼちゃの飾り付け。
 黒とオレンジが煌いて。

 ハッピー、ハロウィン――トリック、オア、トリート?
 万聖節の前の夜、今宵は死者の門があく。

 ハロウィンが日本に定着して早何年か。
 今となっては「らしい」仮装をして気軽に練り歩く者はそれなりに居て、つまり――「この日」に「そういう姿」で決まり文句を言って回る子供達は、あまり珍しくも無かったりする。

 デルタ・セレス(3611)と石神アリス(7348)もまた、そんな子供達の中に居た。
 ちょっとした仮装をし、二人連れ立って思う様ハロウィンを楽しんでいる。



 セレスは十四歳の男子である。
 そんな彼の仮装は、一言で言えば仮面の魔女っ娘。衣装はふわふわしたファンシーな仕立てで、可愛らしい印象が先に立つ。元々の小柄な体格もあり、女の子の格好をしていても体型的に全く違和感は無い。
 彼の顔立ち自体も違和感が無い位に可愛らしくはあるのだが、今日は仮面で隠しているのでその辺がどう見られるかは今はさておく。ただ、ぴょこんと一本飛び出たあほ毛はいつもの通り。仮装していても仮面を被っていても、そのあほ毛と佇まいからして、ああ、セレスだな、と見る人が見ればすぐわかる感じは、ある。
 他方、アリスは十五歳の女子である。彼女の方もまた、仮装は魔女。但しこちらはすらっとした妖美さが際立つ仕上げになっている。アリスの方もセレスに負けず劣らず小柄な体格ではあるのだが(と言うか本当に女の子な分セレス以上に小柄とも言うのだが)、内面の――本質的な抜け目無さがより表面に出て、子供らしさはかなり薄まっている。元々の金目も相俟って中々に神秘的な魔女振りで――つまり二人共に仮装の題材が魔女は魔女なのだが、一口に魔女と言っても、色々あるのがよくわかる。

 お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ――決まり文句に笑って反応してくれる大人もそれなり。貰ったお菓子もそろそろ豊富。そんな訳で、セレスもアリスもこれまでの戦利品を引っ下げ、公園でちょっと食べようと小休止を考えた所。
 同様に考えたのだろう子供達も、その公園には結構居た。わいわいがやがやと賑わうそこで、アリスはひとまず空いたベンチを確保する。

「……セレスさん、こちらに」
「あっ、有難う御座いますアリスさん!」
「どういたしまして。流石に人出が多いですね」
「うんうん、これぞハロウィンって感じですよね!」
「お誘い有難う御座いました。たまにはこうやって羽目を外すのも悪くありません」
「そう言って貰えると嬉しいですね。……あ、こっちのクッキー食べてみます?」
「有難う御座います。……折角ですから幾つか交換こ、しましょうか」
「はい! 是非!」

 そんな感じで、和やかにハロウィンらしい楽しい時間は過ぎて行く。
 筈、だったのだが――そんな時間は、唐突に終わりを告げた。



 初めは誰も、何が起きたかわからなかった。
 ただ、黙っていても人の視線を呼ぶ、可愛らしい小さな男の子がふらっと公園に来ただけ、だった。格好は中世の貴族っぽいイメージの洋装に、蝙蝠めいた悪魔の羽と矢印めいた悪魔の尻尾が生えている。
 その悪魔っ子な男の子が公園に現れた時、何故か辺りの空気が変わった――気が、した。
 気温が突然下がった様な、暗さが増した様な。

 ともかく、何かしらの引っ掛かりを覚えて、セレスもアリスも何となく視線をその悪魔っ子へと向けている。わ、可愛いと反射的にセレス。アリスの方も同意ではあったが――どうも、それだけで済ませては拙い様な予感もあった。
 勿論、その時点ではその『悪魔っ子』の容姿は辺りの皆と同じく、仮装でしかないと思っていた。そう見るならば出来栄えはかなり上等で、セレスもアリスも反射的に自分の作品――人物オブジェのモデル(当人を素材にした物)にしたいとか考えてしまうレベルである。
 あるが、勿論今ここでいきなりその考えを実行する様な真似はしない。
 場を弁える時は弁える。
 トリックオアトリート――お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ。祭りの様式としてそうは言っても、ここでは流石にやっていい悪戯とそうでない悪戯がある。

 そして悪魔っ子がその場で当たり前の様にやってのけていたのは――やってはいけない方の悪戯だった。

 ねえねえきみ何処の子、すごく可愛い仮装だね、一緒にお菓子貰いに行かない――そんな風に、懐っこく悪魔っ子に話し掛けている元気な子供のグループが居た。が、そんな風に話し掛けられた悪魔っ子の方は――話し掛けて来た彼らを品定めする様見返すだけで返事をするでも無い。かと思うと不意に何か、気取って指揮でも取る様にして、それっぽく指を立てた腕を大きく振って見せていた。

 途端。

 ぶわっと黒っぽい「何か」が指揮に従い中空を舞う。粘性のある膜の様な、舞う側からボタボタと一部が落ち続けているスライムの様な――同時に押し寄せる独特の甘い匂い――チョコレート。
 どういう理屈でかは不明だが、その溶けたチョコレートと思しき大量の黒い「何か」が、悪魔っ子に最初に話し掛けていた子供にべちゃりとぶつけられる――その子供は一気にチョコ塗れになったかと思うと、何でこんな事するのとばかりに悪魔っ子に抗議――と言うか、子供ならではの癇癪の如く、問答無用で泣き出した。
 が、超音波めいた大きな泣き叫ぶ声が辺りに響き渡るだろう直前のその形で、唐突にその子の動きが止まる――直前の状況から考えて、有り得ない程に、ぴたりと。
 その姿はまるで、チョコレートに塗り固められてしまった様で。

 瞬間的に、しん、と静まり返る。
 一拍置いて、絶叫がそこかしこから響き渡った。

 何が起きているのか厳密にはわかっていなくとも、チョコの様な「何か」で子供一人が固められてしまったのだと言う事だけは見ていれば誰でもわかる。そしてそれを成したのは、貴族めいた悪魔っ子――よくよく見れば、その羽も尻尾も、作り物とは思えない程に、やけに自然に動いている。
 つまり、仮装では無く本物――少なくとも人知を超えた力を持っていて、悪魔で連想される様な羽と尻尾を自前で本当に持っている悪魔っ子だった訳だ。
 正体を現した(元々隠していた訳では無かったのかもしれないが)悪魔っ子は次の獲物を狙う。初めの子供と同じグループに居た子供は、殆ど時差無くチョコらしき「何か」をぶちまけられて即時固化。次は逃げ惑う子供達。誰彼構わず塗り固め、冗談の様に中空を舞い踊るチョコらしき「何か」。広範囲にボタボタと落ちている粘性の塊は、逃げ惑う子供達の動きを妨げる泥沼同然。最早悪魔っ子の独壇場である。

 そんな様子を傍目に見、ヤバいですよこれっ、とセレスは傍らに居たアリスを振り返る――が、居た筈のそこにアリスが居ない。え、何で!? とセレスは驚くが――驚いている場合でも無い。「あれ」がここまで来るのは時間の問題。何とかしなきゃ。思うが――思ったからと言って何とか出来る物でも無い。
 そもそもアリスは何処に行ったのか。まさか何処かで既に固められちゃってたりしないよね!? アリスさんだもん、無事で居るよね!? 何で居ないの、何処行っちゃったの――。
 思考する間にも動く子供の姿が目に見えてどんどん減って行く。

 やがて、最後の一人が固められたか、と思った所で――悪魔っ子と、目が合った。

 反射的にさぁーっと血の気が引く。当たり前の様に悪魔っ子がセレスの方に来た。ヤバいです、完全に目を付けられた――思うなりセレスの足の方が勝手に後退るが、数歩も行かない内に足を取られて尻餅をついた。地面もチョコらしき「何か」でどろどろのぐちゃぐちゃだった訳で――尻餅をついてしまえば咄嗟にそれ以上動けない。ふわふわな仮装の服が、却って重い枷になる。咄嗟に突いてしまった手も、もう固まり掛けて動かし難くなっている。
 悪魔っ子がすぐ側にまで来、セレスをじーっと見つめている。かと思うと、被っていた仮面がゆっくりと剥がされた。その下の顔を見て、悪魔っ子はにやり。やっぱりきみ可愛いね――それだけを告げると、チョコらしき「何か」をとろとろとろとセレスの頭上から改めてゆっくり流し掛け始める。
 まるで反応を見る様な遣り方。地面から頭上から、薄付きの部分から固まって行くのが自分でわかる。やだ、と思わずうわ言の様な声が漏れる。震えが来る。かちかちと歯がぶつかって鳴る。その様に気を良くしたのかもしれない――悪魔っ子はまた指揮をする様にくいくいと指を動かし、チョコらしき宙を舞う粘性の膜を呼び付けてセレスにべちゃり。一回では無く何回も、反応を試す様にして、べちゃり、べちゃり。その度にセレスはなけなしの抵抗を見せるが、全然効果は無く結局されるがまま。どうしよう、もう無理です。動けません。アリスさん、ごめんなさい。誰か、助けて……。
 どろどろの絶望の中で、意識が霞んで行く。やがて後に残ったのは――全身万遍無く大量のチョコらしき「何か」でべっとりと塗り固められたセレスの姿。尻餅をつき絶望に泣きじゃくっている姿のまま、固められて像と化している。無様と言うには酷かもしれないが、様になっているとは到底言えない。

 そんな情けない姿に満足し、悪魔っ子は次の獲物を探す――探そうとするが。
 探す前に、ぞっとした。
 背後。
 いつの間にか、あった気配。
 じっとりと粘り付く様に感じられる、何か、致命的なミスをした様な感覚。
 それでも、その感覚の正体を確かめないままで居る訳には行かない。
 振り向く。

 刹那。

 金無垢の。
「魔女」の瞳の。
 不穏な光が。
 感じた途端。

 みしり、ぱきりと。
 悪魔っ子は己の身の内から、何かが軋む様な音がした――と思った。

「ダメですよ。こんな悪戯なんかをしては」
「――」
「ハロウィンにする悪戯ならば、もっと節度を持って行うべきです。ただ闇雲に恐怖だけをバラ撒く様では、このささやかな祭りに興じるには無粋の極みと思いませんか?」

 これはペナルティですよ。

 可愛らしくも冷たい声にそう囁かれた時には、今度は悪魔っ子の方が恐怖に震える番だった。
 動けない。
 動けないどころか、自分の体の表面の色が――じわじわとまるで石の様に変わって行く。更には色が変わった部分はやがて完全に動かなくなり、感覚までも無くなっている――「見た目通り」の物になっている事も理解した。

 悪魔っ子が背後を振り返ったそこ、ひっそりと佇んでいたのは――魔女の仮装をしていた、アリス。
 彼女は悪魔っ子の所業を認めるなり即座に退避、ペナルティとして懲らしめるべく背後を取る事を狙って暫し様子見、行けると思った今漸く実行、相手が取る行動を見越して、魔眼で見つめて石化させた、と言う事になる。
 アリスの魔眼での石化は彼女の意思次第で自由自在。即座も可能なら時間を掛けて少しずつも可能。今回の場合は――襲われた子供達やセレスの仕返しも兼ねて、石化していく己を自覚出来るよう、じっくりと時間を掛ける事にした。どうやらこの相手、自分が「される側」になるなど考えた事も無かった様で、じわじわと石化していくのが怖くて怖くて堪らない様である。チョコの様な「何か」を操っていた時の余裕は完全にかき消え、恥も外聞も無く泣き喚き――助けを乞いつつ完全に石化する。

 前後して、子供達からチョコらしい部分が消えた。元に戻った――のだろうが、誰も彼も気絶状態。そして何故かセレスだけ戻らない――ただ、よくよく見れば少しずつチョコらしい成分が消えているのがわかった。と言う事は、大量のチョコらしい「何か」で塗り固められたから戻るのに時間が掛かっている、と言うだけと思われる。
 なら、放っておけば起きるでしょうとアリスは判断。ついでにセレスをコーティングしているチョコらしい成分をぱきりと折ってちょっと舐めてみる。……やっぱりチョコレートと見て良かったらしい。ついでに結構、味も良い。

 髪の辺りも味見してみる――折角だから、味見しながら後の始末を考える。
 子供達については起きれば怖い夢――もしくは集団幻覚でも見たで済むだろう。
 ただそうする為には、この悪魔っ子がここに居てはいけない。
 セレスについても戻るまで他の子と相当に時差があるだろうから、少し考えた方がいいかもしれない。

 さぁ、どう片付けた物だろう。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 デルタ・セレス様には二度目まして。石神アリス様にはいつもお世話になっております。
 今回は、当方では初めての組み合わせでの発注有難う御座いました。
 そして毎度の如く大変お待たせしております。……季節物なので遅いのが余計に申し訳無い気がしています。

 内容ですが、御二人や悪魔っ子の容姿、考え方、色々なタイミング等で少々勝手をしてしまった気もしています。イメージと合致していれば良いのですけれど。
 それとチョコと石化を長め……にしたつもりではあるのですが、如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
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2019年12月17日

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