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『ぬくぬく、ほこほこ、たいせつなあなたへ 』
点喰 紬la2065)&立華 あやめla3152



 季節は冬。
 12月。
 宗教上の理由で『それはそれ』とストイックに過ごす人々もいるけれど、多くはフワフワ浮足立つ季節。

 クリスマスが今年もやってきた。




 ショッピングモールは赤と緑のリボン、金と銀のベルに彩られている。
 由緒正しい賑やかなクリスマスソングがBGM。
「ほわー……」
 切りそろえた前髪で隠れている瞳を目いっぱい見開いて、点喰 紬(la2065)は人の波に及び腰。
 こんなに賑わっているとは予想外だった。
 だって、クリスマスまでにはまだまだ余裕がある。
 みんな、何をそんなに楽し気に歩いているのだろう。

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 そんなポスターもあちらこちら。
 クリスマス当日ではなくても、世間はクリスマスを楽しんでいる。 
「波に乗り遅れてしまったねぇ……?」
 いや。そんなはずは。
 わたしたちのクリスマスはこれからだ。
 紬は、抱えていた紙袋の中身を再確認する。
「お母さんの少しこーきゅーな毛糸も、使っていいよってちょっとだけもらったし……!」
 ふわふわ手触りの毛糸は、とても綺麗で、暖かい。
 こちらを組み込んで、紬は手編みの手袋を作る予定なのだ。
(あやめちゃん、喜んでくれるかな?)
 立華 あやめ(la3152)。あやめちゃん。
 真っ直ぐな黒い髪に、しっかりした意思を感じさせる金の瞳をしたお友達。
 紬にとって、大事な一番のおともだち。
 彼女に似合う、彼女のための、世界でたった一つの手袋を。
 目指すは、可愛いぽかぽか手編みの手袋!!
 暖かさ重視なら、なんといってもミトン型だろう。
 手首の切替でアレンジも出来るし、こーきゅーな毛糸も活かせるはず。
 甲には、あやめちゃんのトレードマーク・リボンをあしらおうか。ワンポイントのお花も良いな。
 紬から、というメッセージを込めるならにゃんこ一択だけれども。
「何色が似合うかな。パターン図も手芸屋さんにあるだろうけど、本屋さんの方が揃えは良いかなー……」
 ここは、なんでも揃うショッピングモール。
 まずは理想の手袋像を吟味しよう。
 EXISを発動しなくたって、イマジナリーは大切。
 猫耳フード付きのキルトコートを翻し、紬は書店を目指した。




 お世話になっている方々へ、日頃の感謝を込めて贈り物を。

 大人になると『お歳暮』と呼ぶのだけれど、あやめはクリスマスプレゼントに想いを込めることにした。
 時間をかけて、ひとりひとりに似合うもの・贈りたいものをリストアップ。
 小学生だから予算には限りがある。できるものは、手作りで。
(これから寒くなりますし、紬さんにはマフラーが似合うかなぁ)
 ロシアでは、トラ柄ねこ型のマフラーを着用していた。あれは可愛かった、と思い起こす。
 端末で、手編みマフラーの画像を検索する。
 猫柄を編み込む……のは、難しいだろうか。
(猫のぬいぐるみをポンポンにして、先端に付けるのはどうでしょう?)
 マフラー自体は長めにして、ぐるぐる巻いて暖かく。
 複雑な造りができるかどうか、問題はそこではない。難しければ調べ、やり遂げるまでである。
 あやめにとって、紬は一番のおともだち。
 大好きとありがとうを、たくさん詰め込みたい。
 紬の笑顔を思い浮かべると、無限にイマジナリーがわいてくるようだった。


 かくしてプレゼントリストが完成した本日、なんでも揃うショッピングモールに到着。
「さすが師走ですね。年の瀬に向けて、どちらも慌ただしいです」
 今はクリスマス一色だけれど、終えてから年末年始に向けての衣替え・バーゲンセールに福袋という怒涛の展開をあやめは知っている。
 友人知人、お世話になってる人たちもイベントや何やら忙しそうにしていたから。
「まずは材料、そのあとにラッピング資材を選びましょう」
 荷物が嵩張らないものから順番に。買い物の鉄則。
 迷うことなく、少女の足は手芸用品店へ。




 12月といえばクリスマス。
 クリスマスといえばプレゼント。
 雑貨屋、衣料品、アクセサリーショップなどを主体にプレゼント商品が前面に押し出されているが、手作り需要も根強い。
 手芸用品店では、毛糸が山ほど積まれたワゴンの隣に初心者向けから熟練者向けまでの道具が揃っており、買い求める先客がひしめいている。
「さすがですね……」
 編み物と一口にいっても、使用する毛糸の太さに編み針を合わせる必要がある。
 マフラーを作るにしたって、細い毛糸で軽やかなものか、太い毛糸でザックリ感触を楽しむものかで違うのだ。
 毛糸と編み針が並べられ、どの毛糸にはどの編み針が良いかの一覧も貼りだされている。
 編み物の初心者向けの本などもぬかりない。
 あやめは感嘆しつつ、目当ての毛糸を手に入れるべく賑わう売り場へ飛び込んだ。
 ――そこで。
「紬さん、こんにちは。奇遇ですね」
「ほ、ほわ! あやめちゃん! ……き、奇遇だねぇ……」
 見慣れた、亜麻色髪のおかっぱ頭。紬だ。
 こんなところで会えるとは思っていなくて、嬉しくてあやめが声を掛けるも対する紬は挙動不審である。
 本を眺めていたように思うのだけど、それを紙袋に突っ込んで後ろ手にしている。
「私は少々入り用を揃えに。そちらはどうしたのですか?」
 入り用の中には紬へのプレゼントも込められているが。嘘はついていない。
「えっとその……プレゼント用の材料を買いに……」
 あやめちゃんの、とは小声で。嘘はついていない。
「…………」
 じ、と金の瞳が紬の顔を覗きこむ。黒髪が、マスタードイエローのダッフルコートの肩をさらりと流れる。
 怒っているわけではないようだけれど、何か考え込んでいるのは、わかる。
(うそ、じゃない、けど)
 本当は、内緒にしておいて驚かせたかった。けど。
 ここで濁して、あやめちゃんに隠しごとをする方が、もっと嫌だ。
「紬さん……? どうしたんですか? 顔色が悪いようです。具合が悪いなら一緒に……」
「ちっ、違うの、あやめちゃん!!」
 嘘は嫌だ。
 隠しごとも嫌だ。
 一番のともだちに、本当に伝えたいことは。

「あやめちゃんの、クリスマスプレゼントにっ……手袋を編もうと思ってっ!!」

 だから、毛糸を。
 熱を測ろうとするあやめの腕を取って、紬は下を向いたまま声を上げた。
(言っちゃったー……!!)
 ぱちぱち、あやめがまばたきを繰り返す。少し困ったような顔をして、それからやんわりと笑顔になった。
「すごい奇遇ですね」
「ふえ?」
 想像していなかった言葉に、紬が顔を上げる。
「私も紬さんに、自作マフラーをプレゼントしようと考えていたんですよ」
「……あやめちゃんが? わたしに?」
「はい」
 なので、毛糸を。
 紬は手先がとても器用だけれど、意外なところで不器用だ。
 あやめはしっかりしているけれど、それゆえに鈍感なところもあって。

 きっと、紬は内緒にしたかったのだ。

 あやめの手首を握る紬の手から、緊張が伝わってくる。
 どれくらいの気持ちを振り絞って、彼女は本当のことを話してくれたのだろう。
(最初から分かっていても……やっぱり、声を掛けてしまったと思いますが)
 あやめは、申し訳なさと嬉しさが半分半分。
「サプライズではなくなりますが、一緒に編み物しませんか。ちょっと分からない所がありまして」
「!!」
 ピンッ、とご機嫌ネコ尻尾が紬の後ろから伸びたように見える。
「一緒……一緒に、いいのかな」
「ぜひ。紬さんがよければ」
「是非もないよ!」
 歯切れよく話すあやめの言葉には、いつだって嘘がない。だから大好きだ。
「では一緒に買い物しましょう」
「……うん!」
「紬さんは、どんな手袋を作る予定なのですか?」
「えーっとね……。このページの、これをベースに。こっちの本の、ここをアレンジして――……」
 参考文献、5冊ほど。
 可愛い飾り模様。肌触りの良いもの。長く使えるためのワンポイント。
 様々な要素を少しずつ取り入れて、アレンジして、世界に一つだけの手袋を。
「あやめちゃんは、どういうイメージなのかな」
「私はですね……」
 あやめは、手書きの完成図を取りだした。
「……これは最高難度だぁねぇ……」
「ええ……。でも、絶対に作りたいんです」
 『できない』理由を排除して『紬に着けてほしい』を最優先した、たった一つのマフラー。
 少女たちは一瞬の沈黙の後、顔を見合わせて笑った。
 アイディアを知っても、できあがりは当日のお楽しみに変わりなかった。
 どんなものになるだろう?
 想像する楽しさが、更に大きくなった。

「がんばろうね!」




 頭の中で考えるのと、現物を見て触れるのとでは全く違う。
 2人は当初の予定と大幅に違う毛糸たちと運命の出会いを果たし、お会計を。


 それから、近くのカフェで小休憩。
 お値段が優しく、自分たちでも入りやすい雰囲気のお店だ。
 オーダーはクリームがたっぷり乗ったココアとケーキのセット。
 ショートケーキとモンブランを、半分ずつわけあって。
「あやめちゃんは、他にも買い物があるんだね」
「はい、お世話になってる皆さんに贈り物をしたくて」
(クリスマスじゃなくて、お歳暮かな……?)
 紬はココアと一緒に言葉を飲み込み、買い物リストを覗き込む。
「ふむふむ……、そうなると最短経路は……」
 お買い得で良質なモノを売っているお店。
 素材であれば、このお店。
 オマケが嬉しいところも要チェック。
 なんでも揃うショッピングモールだからこそ、見極める『眼』が重要。
「詳しいですね、紬さん」
「猫さんに会える路地もあるよ」
「ねこさん」
 それは会いたいです。
 きらり、あやめの瞳が輝いた。
「良いモノ造りには、良い材料を選ぶことが大事なんだって。ええと、それなりのものでも良いものを作り上げるのが腕前だって」
 紬の父の実家は指物屋。幼いながらも、紬には職人気質が刷り込まれている。
「それなりの」
 常に最高級品質の素材を扱えるわけではないので。
 予算に応じた、最善を。
 それこそ、今のあやめが求めていること。
「やっぱり、紬さんに会えてよかったです」
「わたしもあやめちゃんに会えて嬉しい。せっかくここまで来たんだもん、色んなお店を覗けて嬉しいな」
 ケーキも、1人だったら1種類しか頼めないもの。
 それ以前に、1人で飲食店へ入る勇気がないかもしれない。
 2人だったらできることは、無限に広がる。


「クリスマス、楽しみですね」
「楽しみだね!」




 浮足立ったショッピングモール。
 行き交う人々。
 それらと同じように、少女たちは鼻歌交じりでステップを踏むように、雑踏の中へ溶け込んでいった。

 ありがとう、たいせつなおともだち。
 気持ちを込めた贈り物を、届けるからね。




【ぬくぬく、ほこほこ、たいせつなあなたへ 了】

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼、ありがとうございました。
JS、尊い……発注文で召されそうになりましたクリスマス準備ノベル、お届けいたします。
素敵な聖夜を迎えられますように。
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佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年12月23日

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