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『Merry Christmas for you.』
ティアンシェ=ロゼアマネルka3394)&イブリス・アリアka3359

 ティアンシェ=ロゼアマネル(ka3394)は早朝からノンストップで頑張った。
 生クリームが入ったボールを抱え、デコレーションを終えたティアは時計に目をやる。
 あと2時間もすれば彼が来てしまう。
 オーブンの中の焼き加減を手早く確認し、スープの味付けに取りかかる。
 彼好みのお酒はちゃんと冷やしてあるし、部屋の飾り付けも万端。
 何しろ今年のクリスマスは特別なのだ。関係が変わって初めての聖夜なのだ。
 ……ティアから誘ったことは去年と変わらずだが……なお、呆れた顔のようでそうではない、「仕方ないな」といった表情も変わらずだったが……その両肩を竦める仕草一つにも何処か甘やかさがあった……と、思う。
 思い出して思わず頬が緩むが、同時に悩みの種がむくりと芽吹く。
 今年はティアの家で過ごすクリスマス。うんと美味しいディナーに、素敵なプレゼントを用意しなくてはいけない。
 そのプレゼントが最大の難題になろうとは、お誘いした時点では思ってもみなかった。

 ――実は、まだプレゼントが買えていないのだ。

 クリスマス一緒に過ごすと決めてからずーっと街を見て回ったけれど、どれもこれもピンっと来なくて。
 “ティア”が心惹かれたのは『ペアの切子グラス』。
 淡い緑色と、桃色のペアのグラスは何だか自分たちみたいだったし、あの時の場所のステンドグラスのようにも思えた。
 だけど、これは自分が嬉しいもので、果たして彼がどう思うかは別問題……そう思ったら伸ばしかけた手が止まった。
 去年までの一方的に渡していたプレゼントとは訳が違う。プレゼント『交換』なのだ。
 料理は完成して、約束まであと30分ちょっと。
 やっぱり今からでも! と、慌ててコートを羽織って扉を開けて飛び出した瞬間、大きな体躯に顔面からぶつかった。

「きゃん!?」
「……っ! どうした?」

 耳朶をくすぐる低音の声。鼻腔を満たす大好きな香り。両肩を支える無骨で長い指。顔を見るまでも無く、緑の瞳が怪訝そうに自分を見下ろしているのが分かる。
「い、イブリス、さん……」
 名を呼ばれたイブリス・アリア(ka3359)は眉間にしわを寄せたまま、ただティアをじっと見つめている。
(ああああああ! 眉間にシワが寄っている! え? 約束の時間まであと30分はあったハズなのに……!? でも「今からプレゼント買いに行きます」なんて言える訳ないし、嘘なんて吐いたら間違いなくばれちゃうし……!? ど、どうしよーーーーーー!!!)
 ティアはふるふると震え、視線を彷徨わせる。
 その悪戯を見つかった仔犬のような様子を見て、イブリスはすっと目を細めた。
「随分と熱烈な歓迎っぷりだが、俺が来る気配でも察して出てきたのか?」
「……! は、はい!! そう、なの、です!! とても良い匂いがっ!!」
 “助け船”に、首が折れんばかりに縦に振るティアを見て、イブリスは喉の奥で嗤う。
「そいつは、ドーモ」
 いつになく機嫌の良さそうなイブリスを見て、ティアはホッと胸を撫で下ろしながら扉を開くとイブリスを招き入れたのだった。

(クリスマスか。異世界の文化も、すっかり恒例になったもんだな)
 料理をテーブルへと運び、並べる少女の姿を眺めつつイブリスはそんなことを考える。
 手伝いはしない。これはティアが自分をもてなす為の晩餐だと知っている。手を貸すのは無粋というものだ。
「随分と豪勢だな」
「……はい! イブリスさんに喜んで貰えるように、頑張りました、です」
 流石に七面鳥の丸焼きこそ無いが、甘辛いタレの匂いが立ちこめるローストチキン。温かな湯気を上らせるクリームチャウダー。マッシュポテトで作った樹氷を囲むのはリースに見立てた色とりどりのサラダと果物。ハムチーズ、トマトとオリーブ、パプリカマリネのブルスケッタ。サイコロ状に切られたスペイン風オムレツは星のピックで飾り付けられ、オーブンから取り出されてきたのは焦げたチーズの香りが食欲をそそるミニミートグラタン。
 素人目に見てもこれだけの料理を作るには時間がかかっただろうと察するに余る。
 次いでティアが持って来たのはスパークリングワイン。リアルブルー産の逸品だとひと目見て分かった。
「俺がやる」
 開け方が分からず瓶を振りそうになったティアを留めてボトルを受け取ると、イブリスは手早くワイヤーを緩め外す。
 本来なら、コルクを飛ばさないように静かにガスを逃がすのがマナーだが、イブリスは注ぎ口を壁に向けた。
 ポンッ、という軽やかな音を立ててコルクは飛び、ティアの短い悲鳴とほぼ同時に壁に当たり、跳ね返ってティアの足元に転がってきた。
「びっくりした、です」
 笑うティアにイブリスはボトル口を向ける。
「最初の1杯ぐらいは付き合って貰おうか?」

「メリークリスマス」
「メリークリスマス、です」

 小さくグラスを合わせると涼やかな音が二人きりの室内に響いた。
 そのまま一口含めば舌の上で小さく弾け、果実の豊かさを伴い爽やかに喉を通り過ぎる。そして芳醇な香りが鼻を抜けるが、それも一瞬のことで後を引かずさっぱりとした余韻だけを残す。
「……これはいい。……が、お嬢ちゃんには少し早いか?」
「喜んで貰えて何より、です」
 アルコールと炭酸の刺激で辛味を感じるのか、少し困り顔のティアからグラスをもらい受けると、サラダに飾られていたオレンジをいくつか手に取り、果汁を搾り入れる。
「少しは飲みやすくなる筈だが……」
 勧められて一口飲めば、ティアの顔は花が咲いたように綻んだ。
 その表情を見てイブリスは小さく頷くと料理へと手を伸ばした。

 ローストチキンは予想通り少し甘めの味付け。塩胡椒のシンプルな物に比べるとやや食べづらさを感じるが、辛口のスパークリングとの相性は悪くない。
 ポテトサラダは何度か口にしたことがあるが、今回は飾り付けがされている分、いつもより華やかだ。そして安定の味付け。その周囲を飾るサラダはシンプルにオリーブオイルと塩。
 クリームチャウダーは何処か優しい味で、中から身体を温めるよう。ブルケッタはそれぞれ飽きさせない味付けで、中でもトマトとオリーブはシンプルで良い。
 まだ湯気が踊るミートグラタンは、ミートソースにはチーズの旨味と挽肉から出る甘みが絡みあい、熱々のマカロニを味付けている。
 どれも美味い。だがそれだけではない。
 イブリスはチャウダーを一口飲んだ後、眉間にしわを寄せ、左手で口元を抑える。
「ど、どうかしましたか……?」
 イブリスの一挙一動を見逃すまいと見つめていたティアが直ぐ様反応し、不安そうに表情を曇らせる。
「……砂が」
「す、済みません、砂抜き仕切れてなかったんでしょうか……?!」
 今にも泣きだしそうなほど顔を青くしたティアを片手で宥め、スパークリングを一口飲むと、ブルケッタを頬張る。
 その際、少しだけ目元を和らげてみせれば、ティアは目を見張って、そして嬉しそうに微笑む。
 フォークに刺したマカロニにふぅふぅと息を吹きかけていると、その様子をじっと見つめるティアと目が合ったので、イブリスはフォークの先をティアへと向けた。
「え?」
 戸惑いの声、一瞬置いて耳まで真っ赤に染まったティアは声にならない声を唇から漏らし、視線を彷徨わせた後、小さな気合いを入れて両目を固く閉じると、小さな口を開いてイブリスのフォークからマカロニを引き抜いた。
「どうだ?」
 問えば、口元を隠し、頬を染めたまま上目遣いで「美味しい、です」と答える。
(これだな)
 そんなティアとの食事はイブリスにとって間違いなく楽しいひとときだった。

 デザートのケーキはブッシュドノエル。
 甘さの抑えられたビターチョコレートは間違いなくイブリスの好みに合わせた結果だろう。
 今回は“おもてなし”される側である分、いつも以上だが、基本的に一事が万事、ティアはイブリスを優先して行動している。
 ――だが。
 イブリスの予想が正しければ。
 今夜はここから先が“お楽しみ”だ。

 食器を流しへと運びながら、ティアの内心は嵐のように焦っていた。
(どどどどうしよーーーー! プレゼント、結局買えてないよぉおおおおお!!)
 料理は概ね好評だったようで、その点には安堵した物の、プレゼントを用意出来なかった、その一点の後悔と不安のあまり殆ど料理は口に出来なかった。
 そして恐らく食べる量が少なかったから、彼手ずから食べさせてくれたのだろう。
 一度だけではない。まるで餌付けるように何度も食べさせてくれたのだから。
「ティア」
「は、ハイっ!?」
 滅多に呼ばれぬ愛称で呼ばれて、ティアは飛び跳ねんばかりに驚き、そろりと後ろを振り返る。
 暖炉の前の1人掛けソファに席を移したイブリスが「こっちに来い」と手招いていた。
 ティアは絞首台に上る死刑囚の様に青ざめた表情で、一歩一歩イブリスへと近付いていった。

 恐る恐る、といった様子で近付いて来るティアを見て、イブリスは思わず上がる口角を、顔を撫でることでごまかす。
(……あれ? もしかして、イブリスさん、嬉しそう……?)
 どんな小さな表情も見逃さないティアは双眸を瞬かせて、イブリスの横まで近付いた。
 腕を取って引き寄せられ、大きく開かれた左の太腿の上に座らされたティアは、イブリスの顔がぐんと近付いたことで、暴れ出す心臓を思わず抑え込む。
「プレゼント交換といこうか?」
「あ、あのっ! ごめんなさい!!」
 うつむき、ティアは必死で声を絞り出した。
「プレゼント、まだ、決まらなくて! イブリスさんがうんと喜んでくれる物をあげたくて、色々探したんですけど、決まらなくて!!」
 情けなくて、涙が出そうだ。クリスマスを一緒に過ごしたいと我が儘を言ったのは自分なのに。
「私だったらイブリスさんから貰えるのなら、野原で摘んだ花も手入れされた薔薇に負けないと思うし、鼻かんだティッシュだって宝物のように思える、けど……」
 衝撃の告白に、思わずイブリスは吹き出した。
「いや、やらんがね、そんなもの」
 愛が深すぎるというのも問題だな、とイブリスは心中で呆れかえりつつ、俯いたまま硬直しているティアの頭頂部に小さな箱をコツンと当てた。
「!?」
 驚いて顔を上げて、箱に触れるティアへ、イブリスは「改めて、メリークリスマス」と告げる。
 その表情は本人に自覚は無いかも知れないが、ティアが今まで見たどの表情よりも優しくてやわらかな微笑みに彩られていて。
 呆けたように凝視してしまったティアの鼻先をイブリスは軽く人差し指で弾いた。
「いひゃい……あ、あの。開けても……?」
「お好きに?」
 丁寧に包装を解いて、出てきたのは桜色の口紅。
「……これを、私に?」
 呆然と容器を眺めるティアを見て、イブリスはもたげる嗜虐心のまま目を細めた。
「口紅のプレゼントの意味するところ……お嬢ちゃんは知っているかい?」
 耳元で囁くように問えば、ティアはみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
 それを肯定と見做し、イブリスは蓋を外し、中指で紅を浚う。
「そうか。なら、分かるな?」
 左手で顎を捕らえ、右手の中指でティアの唇をなぞる。
 少女らしい桜色の唇を、“桜の色”で染める。
 たったそれだけで、潤んだ瞳、朱に染まった頬、艶やかな唇……少女は驚くほど女の顔になる。
「さあ、どこに返してくれるんだ?」
 ティアの唇はまだイブリスの指の感触に震えているのに。
 その問いかけは、ずるい。そう、ティアは思いながら、熱に浮かされるようにイブリスの唇に唇を重ねた。
 ついばむような口づけは、徐々に互いの唇から口紅を奪うような激しいものへと変わる。
 その間、息継ぎが出来ず、イブリスの胸を叩いてようやく解放されたティアは肩で大きく息をして、それを見るイブリスはくつくつと笑った。
「使い切るまで随分とかかりそうかと思ったが……まあ意外とすぐになくなるかもな?」
 そう言いながら、己の唇に付いた紅を親指で拭う。
 その仕草を見ただけでティアは瞬間湯沸かし器のように赤面して、イブリスの胸に顔を埋めたのだった。





━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3394/ティアンシェ=ロゼアマネル/女/貴方の隣に】
【ka3359/イブリス・アリア/男/お前だから許す】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はご依頼ありがとうございます。葉槻です。
 ティアちゃんの可愛さと健気さを前面に押し出させていただきました(当社比)。
 恐らく後日2人で何かお買い物に行ったんじゃないかな、と妄想を膨らませたりなんかもしたり。

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。

 またOMCでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。

イベントノベル(パーティ) -
葉槻 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年12月23日

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