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『どこへでも、どこまでも』
鬼塚 陸ka0038)&鬼塚 小毬ka5959

 邪神戦争が終結し、人々がその先の“明日”へと踏み出し始めている、今。
 鬼塚 陸(ka0038)はクリムゾンウェストへ来た当初の目標、「冒険」をやりなおそうと一念発起し、旅路を進んでいた。ただしひとりではなく、妻となった鬼塚 小毬(ka5959)を共連れて。
『まあ、妻となったっていうより、お嫁さんになってもらったってほうが正しいけどね。いや、そう言えってプレッシャーかけられてるわけじゃなくてさ。うん、世界といっしょに家庭も平和にしときた』
『うふふふうふふ』
『ぼくのおよめさまわさいこおでぇす!』
 このあたりはリアルブルー男子とクリムゾンウェスト女子の噛み合わせなんだろうか? ともあれ、そんな感じもありつつふたりは旅の途中でとある村に宿を求め、近隣に出現した雑魔退治を請け負ったのだ。
「僕は守護者だ。その名と力を尽くして、みんなが安心して暮らせる今日を取り戻してみせるよ」
 夫の力強い言葉に、小毬はトゥンク! ときめかずにいられなかった。さすがリクさん、私の素敵で無敵な旦那様ですわ!
 しかしだ。雑魔風情との戦いに大精霊の加護が得られるはずもなく、ついでに雑魔が弱いくせに分裂増殖するアシッドスライムだったことから思わぬ苦戦を強いられて、陸は思わぬ傷を負うことに。
 果たして、小話は幕を開ける――

「マリさん、僕、質問があるんですけど」
 村唯一の宿屋、その二階にある名ばかりのスイートルーム。ベッドに横たわったまま小さく手を挙げた陸は小毬に指されて発言を許可されるまで待ち、おずおずと言葉を継いだ。
「その衣装、要る?」
 小毬の服は旅衣どころか室内着ですらなかった。リアルブルーで云うところのナース服……しかもコスプレ衣装っぽい超ミニスカで、さらに巫女装束風に仕上げられているという謎仕様。
「符術は呪い(まじない)を基にしていますのよ? 呪いにおいてはすべてに意味があり、その意味を込めればこそ符は呪いとなり得るのです。癒やすがため装うこともまた呪いですわ!」
 リクさんは本当に物を知らなくて困りますわーって顔をやれやれと振る小毬に、陸はため息をついて。
「じゃあ、僕の上に跨がってるのは」
「呪い(まじない)ですわ!」
「それが僕にもたらすこの妻へのすさまじき情熱は」
「呪い(のろい)ですわ!」
「ヒールかけてくれないのは」
「お仕置きですわー!」
 つまり情熱うんぬんは我慢しろということで、まさに陸にとっては呪いでお仕置きだ。ただ、呪われてお仕置きされるようなことを自分がしでかした自覚もあるので、おとなしく寝ていることにする。
「マリのガーターベルトは目の毒すぎる……」
「それも呪いとお仕置きですわ」
 ぷりぷりしながら陸の怪我を確かめる小毬。これ以上手当のしようがないのはわかっていた。わかっていてなお、確かめてしまう。
「――私なんてかばうから、怪我をするのです」
 飛びついてきたスライムを符で払ったと思いきや分裂され、体へ貼りつかれそうになった。そこへ咄嗟に陸が割り込んで、かばってくれたのだ。
 そればかりか、彼はその後小毬を押し包もうとしたスライムどもを噴き飛ばし、結果、防具の隙間から染み入った酸で焼かれてしまう。だから。
 小毬は怒っていた。守られなければならなかった自分に、そして無様な自分を守るため傷ついた陸に。だから陸の情熱と、今すぐに陸を抱きしめたくてたまらないこの愛しさにおあずけの罰を与えるのだ。
 そんな感情と感傷の押し詰まった小毬の面を優しいまなざしで見上げ、陸は静かに語りかける。
「人を護らない守護者は守護者じゃなくて、マリを守らない僕は僕じゃない」
 包帯で固められた自分の胸を指して“心”を示し、そっと小毬を手招く。誰かに聞こえる声じゃなくて、マリにだけ伝えたいことがあるんだ。
 彼の意を悟り、小毬はためらいながら彼の横へ身を横たえた。
 すぐ前に、陸の笑顔がある。慣れるほどに見てきたはずの顔。この距離にだって、もうとまどいはない。なのにどうして、こんなに胸が躍るのでしょう?
 答はすぐに知れた。
「マリが大切だ」
 僕なんかよりずっとずっと、大切だ。
 添えられた言葉を、小毬は噛み締める。
 リクさんの想いはいつも、いつまでも変わらない。純粋で強くて一途で――だから私はそれを見る度に感動して、思い知るのです。
「リクさんが大切です。私などよりずっとずっとずうっと、大切なのですわ」
 わかっていますの。私の怒りが理不尽なことは。でも、私より大切なリクさんが傷つくことを見過ごしてしまったことが赦せなくて。それに。
「そもそもお知りになられているはずでは? 「僕のマリ」がリクさんをどう想っているものかなど。守るだの護るだのおっしゃられるなら、かすり傷ひとつなく封殺圧殺完全勝利を決めていただくのが筋というものではありませんこと? ええ、「私のリクさん」なら故郷の流行歌など口ずさみながら悠々とこなしていただけるはずですわよね!」
 語るにつれヒートアップしていく小毬のかわいらしい顔を見ながら、陸はふと思い出す。この世界に突然転移させられ、とまどうよりも先に生きるため、還るために踏み出したあの日を。
「こっちに来たばっかりのころは、すごく強い敵にもそうでもない敵にも全力だったからさ。大失敗も大怪我もよくしてたけど、それに比べたらこんなケガへーきへー」
「決戦前の戦いでもほぼほぼ毎回、担ぎ込まれていましたわよね?」
 き。最後まで言い切れないまま陸はぐぅ、言葉を詰まらせる。だって僕、守護者だし? 力の代償は払わなきゃいけないんだ。でもさ。
「ありがとう」
 まだ言い足りず、言葉を探して尖らせた視線をさまよわせている小毬へ、告げた。
「はいッ!?」
 虚を突かれて語尾を跳ね上げる小毬。今の流れの! いったいどこに! ありがとうを差し込む余地が! ありましたの!?
 陸は硬直した彼女の橙髪を梳き、そして。
「僕がここで怒ってもらえてるのは「マリの僕」だからなんだよね。僕にその地位をくれて、ありがとう」
 本人に自覚があるかは知れないが、陸は人たらしである。常は多数へ向けるその力をただひとりへ向けるのだから、それはもう――
 急上昇した血圧に突き上げられ、小毬はがばーっと起き上がる。ここで素直とかああもうああもうあああもおおおううう! どうしてくれようって気分ですけれどどうしてやったらいいのやら皆目見当もつきませんわー!
 とりあえず深呼吸して微妙に落ち着いて、彼女は愛しい夫を見下ろした。すると自然に言葉が溢れだしてくる。
「何度でもお伝えしますわ。リクさんが大切なのです。……どうぞ、大いなる使命負い世界守るがための戦へ向かうあなたを送るよりなかった私の心、哀れんでくださいまし」
 たとえ同じ戦場に在るときにも同じことで、小毬はいつも、陸の背を見送ることしかできなかった。
 戦い抜く決意をした陸と、送り抜く覚悟をした小毬。でも今は――もう二度と、そんな覚悟を私はしたくはないのです。あなたにそんな決意をさせたくも。ですのでどうか、ご自愛を。
 小毬の万感押し詰まる赤瞳に、陸は渋い顔を映し。
「うん、ちょっと改めるよ。「僕のマリ」に置いてかれなくていいように……別離(わか)れなくていいように」
 陸の口にした別離が、離婚を指しているのではないことはすぐに察せられた。
 人は死ぬ。寿命を全うするばかりでなく、病を患ったり怪物に襲われて、それどころかどこかにつまずいて転んだだけでも。
「私たちが結んだ二世の契りに誓ってくださいます?」
 身を起こした陸は真面目にうなずく。
「僕たちの結んだ契りに、なにより僕のマリに誓う」
 そう言いながら、きっと変わらないのでしょうけれど。ええ、存じていましてよ。リクさんがなにひとつ放っておけない方だなんてこと。
 小毬はにゅう。陸の右頬をつねりあげた。
「へ、ひょっほまっへ。はないひんほふにいひゃい」
「痛くしているのですから当・然。ですわ」
 言い放っておいて、小毬はぶっちん。陸の頬を解放する。
「どうせ言って説いたところで身につかないでしょうから、体のほうに直接教え込ませていただきました」
「いやいや、お手とかおすわりはちゃんとできるよ!」
 さすがに主張しておかなければなるまい。僕だってちょっとくらいの芸はできる男なんだからさ!
「待てはできませんけれどね」
 あっさり切り返され、さすがに言葉を失う陸だったが。
 そっと小毬に抱きしめられ、あれこれどうするよぎゅってしかえすべき? などと悩んでいる内にゆっくりベッドに押し倒されていて。
「ただし。待てができないのは、私も同じです」
 迫り来る潤んだ瞳に視界を塞がれ、そして。
「やっぱり僕ら、気が合うね」
「ええ、誰よりずっと、似たもの同士なのですわ」

 一方、一階の食堂兼ロビー。
 宿屋の親父は降り落ちる埃に二階の有様を幻(み)る。
 そうか。俺もついにあの伝説のセリフを語るときを迎えるか。
 昨夜はお楽しみでしたね。

 陸と小毬は並んでベッドのヘッドボードに背をもたれている。
「改める気しかないんだけどさ。でも、やっぱり改まらないのかもしれない」
 神妙な顔で言う陸に、小毬は小首を傾げてみせた。その促しをありがたく受け、彼は言葉を継ぐ。
「マリが傷つくくらいなら僕が死ぬし、マリを傷つけるヤツは生かしとけないわけで。そりゃもう超覚醒からのサンディルマン食らわして原子ひと粒残さない」
「……職権乱用では?」
 さすがにツッコむ小毬へかぶりを振って。
「マリがいない星に価値なんてないんだよ? つまりはマリを護る戦いは星を守る戦い、大精霊だって認めざるを得ないね!」
 言葉が軽いせいで伝わりにくいが、陸としては大真面目である。本気で言い切れないことは言わない。言うからには守護者の立場をかけて大精霊を丸め込み、本気で貫いてみせる。
 マリ、もうあきらめてよ。僕はマリのことになったら一秒だって待てができない男なんだ。そこは改まらないし、それを改める気もない。
 小毬のほうは、そんなこと考えてらっしゃるんでしょうね。などと察しつつ思う。なかなかの大演説をかましてくださいますし、人は他愛なく死ぬことも弁えておりますけれど、さすがにその論は理不尽ですわ。
 が、陸は妻が無言へ込めた意に対してきっぱり言い返すのだ。
「僕だって何度でも言うよ。僕なんかよりずっと、マリが大切だから」
 本当、私たちは似たもの同士ですのね。互いへの想いのために、理不尽を貫こうとしてしまうのですから。
「やっぱりわかってらっしゃらないのですわね」
 小毬は苦笑し、陸の手に手を重ねる。
「さっき言ったばかりですわよ? 私などよりずっとずっとずうっと、リクさんが大切なのです」
 今度こそヒールで夫を癒やして健康を取り戻させて、彼女はその胸へ飛び込んでいった。
「さ、思い知ってくださいまし」
 今度こそ強く小毬を抱きしめた陸は言葉を詰まらせたまま何度もうなずき、あわててかぶりを振る。
「思い知るのはマリのほうだよ! なにせ僕は超あきらめが悪くて心身共にとんでもなくしぶとい男なんだから!」

 再び一階。
 宿屋の親父は剥がれ落ちてきた煤に思い悩む。
 伝説のセリフを語ること夢見てきた俺だが、どうやらオリジナリティを付け加えなきゃならないようだ。
 昨夜は、そりゃもう実にお楽しみでしたね。

 翌朝、旅支度をまとめなおして一階へ降りていった夫婦は、親父のオリジナリティを加えた伝説のセリフにそろって「「ああああ」」。適当につけた主人公の名前みたいな呻き声を漏らすこととなった。
「そんなこと言われても! 夫婦なんだからなかよくするよね!」
「ええ! 夫婦なのですから仲が良くて当然ですわ!」
 赤い顔でサービスの朝食をいただいて、宿の外へ。
「山の奥に隠れた洞窟、ずっと昔に放棄された神殿、誰も知らない雪原の先……これからどこに向かおうか?」
 陸の問いに、小毬は笑みを返す。
「心向くままどこへでも、どこまでも! あなたとふたりなら、旅路で行き会うすべてがきらめいて見えますもの」
 陸の手を引いて、小毬が踏み出す。
 小毬の手を引いて、陸が踏み出す。
 ふたりの目の前には無限の未知が拡がり、歩を刻むごとにきらめく既知へと姿を変えていく。
 だからふたりは進んで行くのだ、どこへでも、どこまでも。


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2019年12月23日

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