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『お祭りは魔女の嗜み』
吉野 煌奏la3037)&加倉 一臣la2985)&月居 渉la0081



 空の端を染めるオレンジ色が少しずつ弱くなり、入れ替わるように街の明かりが増えていく。
 通りに並ぶ店の軒先には、あちこちで南瓜色が揺れていた。
 ショーウィンドウにはコウモリのシルエットがいくつも飛び交い、枯れ枝にマントをひっかけた案山子が笑っている。
 吉野 煌奏(la3037)は被いた布の陰から、そんな通りの様子を窺う。
 ハロウィンイベントの夜、行き交う人々もいつもと違っていた。
 ドラキュラ伯爵と腕を組んで歩くのは不思議の国のアリス、そのすぐ近くではゾンビ達は不思議なステップを踏んでいる。
 煌奏は小さく笑いながらそれを眺めていたが、ハッと我に返り、足をはやめて目的地に向かう。

 通りの先にある公園が、今日のイベントのメイン会場だ。
 日暮れを待っていたように集まる人々を、無数のテントが待ち構えている。
 待ち合わせの目印に便利な大時計の下には、スマホを片手に誰かを待つ人がごった返していた。
「ええと……あ、臣小父様!」
 手を振るのとほとんど同時に、ちょいワル風の渋いオヤジが笑みを浮かべて片手を上げた。
「やぁ、煌奏ちゃん!」
 煌奏が「臣小父様」とよぶ加倉 一臣(la2985)は黒のタートルネックに黒のジャケット、程よくダメージの入ったジーンズをラフに身に着けていて、若々しく見える。
 笑顔を浮かべる顔の真ん中には、にゅっと犬の鼻面が突き出していた。どうやら今日のコンセプトは「狼男」らしい。

 ……その狼男の笑みが能面のように顔に張り付き、軽く上げた片手は仏像のように動きを止める。
「……仮装……え、仮装?」
 人混みにまぎれていたが、一臣のすぐ隣でひょこりと白いモノが持ち上がる。
 もうひとりの待ち合わせ相手、月居 渉(la0081)の頭の被り物だ。
「え、何々? 煌奏ちゃん、あっちからきたの?」
 渉も煌奏の姿を認め、何故か吹き出す寸前の顔になる。
「ちょ、それ、もしかして仮装?」
 煌奏は得意げにくるりと回ってみせる。
「ハロウィンといえば仮装! ふっふーん。魔女や黒猫で来ると思いました?」
 そんなありきたりなパターンで来るワタシではない!
 そう言いたげな煌奏の「仮装」は、頭から白いシーツをかぶっただけのオバケなのだった。
「まさかのお化けで……」
 明らかに、一臣と渉の反応が芳しくない。
 特に一臣は、あからさまにガッカリしているではないか。
「え? 可愛くない、だと」

 渉が胸を張る。
「いやだってさ、俺だってこんなに頑張って来たんだよ?」
 はだけたフリースジャケットの隙間からもこもこの羊毛がのぞいていた。
 頭にかぶっているのは羊の頭にそっくりなもこもこの白い毛の帽子。
 パンツはぴったり身体に沿う黒革で、さながらサフォーク種というところか。
「MUNAGEもこもこふわっふわな羊! かわいかろう!」
 可愛いかどうかのジャッジはともかくとして、それなりに気合は入っている。
 可愛いかどうかは別として(※2回目)、このノリの良さは流石で、煌奏も若干負けたような気はしないではない。
「じゃ、煌奏さんを可愛く仕立ててくださいな?」
 にっこり笑って小首をかしげると、一臣の表情がぱっと明るくなる。
「任せて! さっそく探しに行こう!」
 なんといってもハロウィンの夜なのだ。魔法をかけてくれるお店は沢山あるだろう。




 煌奏は両脇に狼男と羊男を並べて、通りを歩いていく。
「どれがいいかなぁ、魔女や黒猫は絶対に似合うと思うけどね!」
 一臣は実に楽しそうだ。
 それらしき店を見つけては、帽子やカチューシャやリボンを煌奏にあわせて透かし見て、どんな様子かを確認する。
「うーん、ありきたりと言えばそうかな。でも王道も悪くないと思うんだよね」
 その間も渉は、店の中を興味深そうに見回している。
「へー、意外にちゃんとハロウィンしてんのなー」
 ちょっとグロテスク風な血糊のついたミニスカナース服から、ふわふわ可愛いドレスまで、今日の為に並べたものらしい。
 皆ちょっとした変身を夢見て、ああでもないこうでもないと迷うのだろう。

「女性バンパイアもありかな?」
 一臣は白いフリルをぜいたくにあしらったブラウスを引っ張り出し、煌奏に当てるように持ち上げる。
「似合う似合う。いいんじゃないかな」
 渉が頷いた直後、さっと服を引く一臣。
「いや、こっちのパイレーツも捨てがたい」
「あ、そっちもいいね!」
「と思うんだが、煌奏ちゃんはありきたりは嫌なんだよね。まさかのマミー?」
「あー、でもそれはセクハラっぽいと思うよ」
 渉の指摘に、一臣が雷に打たれたように白目をむいて動きを止める。
「え、何、俺の発想ってばオッサンなの? そうなの?」
 なお、この間に煌奏の興味は若干ずれた方向に向かっていた。
 店の外を歩いていくカップルを凝視する煌奏。
 ふたりは楽しそうに笑いながら、美味しそうなクレープを頬張っていたのだ。

 それでも結局、煌奏は店員さんと男どもの意見を尊重し、フィッティングルームに消えた。
 しばらくたってから現れた姿に、渉がぱちぱちと拍手した。
「おー、似合う似合う。さっすがあ! 王道ハロウィンって感じで、すごく良いと思うよ」
 渉がぱちぱちと拍手した。
 黒のフリルブラウスに、黒のふんわり広がるスカートの裾からは黒のパニエがふわふわと。
 黒の編み上げブーツからのぞく膝は、アクセントカラーの紫がかったピンク色のタイツに覆われている。
 そこに黒のショート丈マントを羽織り、リボンと木の実の飾りをつけた黒のとんがり帽子をかぶれば、ハロウィンの悪戯魔女のできあがりだ。
 これが似合うと太鼓判を押されたのもあったが、煌奏にも考えがあったのだ。
「お菓子をくれなきゃ悪戯しますよ! だって今日はハロウィンなんですから」
 片手に提げたのは、ツタや造花をあしらった可愛い籠。中身は空っぽだ。
「煌奏さんは魔法が使えるんですよ、ご存知ない?」
 すう、と大きく息を吸うと、銀のタクトを一振り。示した先を、クレープを持った人がまた通りかかったのだ。
「臣小父様、渉さん、煌奏さんあれがほしいです!」
 それは魔法の言葉だ。
 羊男と狼男は、顔を見合わせて笑いだす。
「よーし、じゃあ次は食べ歩きだ!」
「今日の為に新しいカード、用意したよHAHAHA」

 一臣がとっておきのカードで支払いを終えて外に出ると、渉が少し遅れて出てきた。
「はいこれ。魔女さんに似合うと思うから!」
 アップルグリーンの貴石が、銀色のリンゴと一緒に揺れているペンダントだった。
 一臣がニヤリと笑う。
 渉の財布にはやや厳しい品なのが分かったのだ。
「軍資金は従兄からもせしめてますのでご安心ください……」
 渉の語尾が若干弱々しい。
「ありがとう渉さん。似合いますか?」
 さっそく身に着けた煌奏がにっこり笑う。
 その笑顔のためなら、財布の痛みもしばし忘れられるというものだ。
「よし、じゃあ食べ歩きだ!」
 女の子は甘やかすものと考える男が周りにはあふれている。
 ほぼ年の変わらない相手だとしても、きっと連中は同じように大切に扱うだろう。
 だいたい一臣と違って、自分はお姫さまとデートだと言い張ることだってできるのだ。
(少なくとも俺なら、パパ活には絶対見えないはずだからな!!)
 男として負けたくない気持ちもある以上、ここで弱音を吐くわけにはいかない渉なのだった。




 公園はさっきよりもずっと賑わっていた。
 屋台の灯りはキラキラ輝き、店先の品物をとても素敵に見せている。
「クレープ、わたあめ、りんご飴! カボチャのアイスにカラフルキャンディー!」
 歌うように煌奏が並べあげ、お目当ての店を見つけるとすたすたと歩いていく。
 人混みが嘘のように、素早い動きだ。
 一臣と渉もするすると人をすり抜けてついていく。
 あれも食べたい、これも食べたい、甘いもの。
 お祭りの夜はいつだってワクワクがあふれている。

 だがそれだけで済まないのが、夜の人混み。
 物の割れる音、女性の悲鳴が聞こえた瞬間、渉はそちらへ駆け出していく。
「こらこら、楽しいお祭りの夜だぜ。本物の血は見たくないだろ?」
 掴みあっていた同士が、何故かどちらも渉を睨む。
 当然、売られた喧嘩は買うものであって、ただし今夜は極力穏便に買わせていただくことを心掛けて。
 足をつっかけ腕を捻り上げ、怪我をさせないように無力化させる。
 ついでに胸元のふわふわを取り出し、相手の頭に乗せると、無力化を通り過ぎて脱力化。
「MUNAGE両成敗だぞ☆」
 ついでに辺りに吊り下げられたカボチャのランタンにもふわふわをお裾分け。
 カボチャもふわふわ、カボチャ頭野郎もふわふわ。
「つまり世界はMUNAGEで平和ということ!」
 ひとり満足そうに、羊男は立ち去っていく。

「魔女様放ったらかして、何やってたのかな?」
 一臣がちょっと呆れたように笑いながら渉を手招きする。
 飲食スペースの一角を確保し、テーブルの上にスイーツを並べて、すっかり腰を落ち着けていた。
「ごめん。ちょっと野暮用。あ、パンプキンパイ食わねえか」
 渉は途中で調達したパイをテーブルに置いた。
「渉さんのもふもふ、気のせいかちょっと減ってるみたいです」
 煌奏が渉の胸元をじっと見つめた。
「え? ああ、世界平和のために役立ったみたいだぜ☆」
 世界平和はともかく、煌奏を楽しませるために色々と工夫して仮装してきてくれた気持ちが嬉しかった。
「うんうん。素敵な小父様達とデートなんて、みんなが羨ましがりますねぇ」
「お、そう言ってもらえると、頑張った甲斐があるね!」
 渉がまた新たにモフモフを仕込んだ胸を反らした。

 その間に、一臣はひとり屋台を覗いて回っていた。
「お、あれはウケるかな?」
 いそいそと店先を回り、トレイを色々なものでいっぱいにして、やっと元のテーブルに戻ってくる。
「おまたせ☆」
 ちょっと気取った調子でトレイを掲げ、ふたりの前に大きなガラス製のマグを置く。
「ホットワインが飲みたくてね。でもふたりはまだこっちだね。熱いから気を付けて!」
 マグの中身は、深い赤色の飲み物にドライフルーツが沢山入った、カラフルなフルーツティーだ。
 煌奏は嬉しそうにマグを手元に抱え、それから自分が確保してきたデザートを差し出した。
「ありがとう。じゃあ臣小父さんにはこっちをあげますね」
「わぁ……すごい……これって……目玉?」
 嫌にリアルな白いゼリーに、青だの黒だので虹彩そっくりに色が入れてある。
 それが赤いジャムにまみれているところは、中々に不気味だ。
「狼男だもの、平気ですよね?」
 理由はよくわからない。だが平気じゃないとは言いにくい雰囲気だ。
「……冒涜的な気分……が、ハロウィンっぽい……かな……」
「じゃあ魔女が食べさせてあげますね! はい、あーん♪」
 精一杯悪い顔の煌奏がスプーンで目玉ゼリーをすくいあげ、一臣の口元に運ぶ。
 これはますます、嫌とは言い辛い。
「いいよいいよー! 煌奏ちゃん、もっと近づいてー!」
 ひきつった笑顔で目玉を頬張る一臣を、渉のスマホがバッチリとらえていた。
「わあ、一生の思い出だよ☆」
 あちこちに同時送信された写真を自分も受け取り、一臣はテーブルに突っ伏した。




 それからも交代で席を立っては、競争のように珍しいスイーツや、美味しそうなデザートを買い集めた。
「ハロウィンは悪戯もお菓子も楽しめますね!」
 煌奏の言葉に、一臣が笑みを浮かべる。
「それだけじゃないよ。今日だけ特別なおしゃれもできるからね」
 まるでこのタイミングを待っていたかのように、紫と銀のリボンで飾られた小さな包みを取り出す。
「良かったら開けてみてくれるかな」
「なんでしょう……チェーン?」
 大小の星を連ねた銀色の鎖を引っ張り出す煌奏。
「こう使うみたいだよ。……ちょっと失礼」
 伊達男らしい所作、そして実に自然な仕草で、一臣が煌奏のウェストに鎖を飾る。
 一歩間違えばひっぱたかれそうな行動だが、全く嫌味が感じられないのも見事だった。
「ペンダントとタクトとお揃いだね。うん、似合ってる」
 煌奏は席を立ち、くるりと回ってみせた。
 銀の星を振りまいて、可愛い魔女はぴたりと止まるとスカートの裾を軽くつまんでポーズをとる。
「狼男さんと羊男さんに、お礼に幸せの魔法をかけてあげますね!」
 一臣と渉は互いに顔を見合わせ、それから同時に笑い出した。
「煌奏ちゃんがいい笑顔してるだけで、俺らも楽しいからな!」
 渉がそう言って、一臣に向けて拳を握ってみせる。
「な、加倉さん! 可愛い子とデートはそれだけで素晴らしい!」
「まさしく、渉の言う通り!」
 一臣も拳を握り、渉の拳に軽く合わせる。
 うまく行った、と互いの健闘を称えるように。

 それから一臣が立ち上がり、胸に片手を当てて丁寧に腰をかがめて見せた。
「エスコートさせてくれてありがとね、マイレディ!」
 暫くの間の後、また顔を上げた一臣と顔を見合わせ、煌奏も渉も笑い出した。
「まだまだ夜は続くのですよ! 朝まで楽しむのがハロウィンなのです♪」
「よーし、任せろ! あ、加倉さんが財布的な意味で頑張るって言ってマス」
「HAHAHA、大人の底力を見せてやるよ!」
 楽しくて、甘くて、ほんのちょっぴりの毒が、それを一層引き立てるのがハロウィンのお約束。
 だから悪戯さえもお楽しみのうちで。
 魔女が望むままに、夜が明けるまで奇妙なお祭りは続くのだ。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

長らくお待たせしました。ハロウィンのお祭り騒ぎをお届けします。
少し(?)時間を巻き戻してお楽しみいただけましたら幸いです。
なお参加者様の呼び名など、参加キャラクター様にあわせてご発注内容を変更した箇所がありますが、何卒ご了承くださいませ。
この度のご依頼、誠にありがとうございました。
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2019年12月23日

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