▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『聖し、この夜に。』
ユリア・スメラギla0717)&霜月 愁la0034


(ここ……で、いいんでしょうか)

 見上げるほどに重厚な造りの飾り門を前に、霜月 愁(la0034)は躊躇いがちに呼び鈴を鳴らした。今日は12月24日。愛すべき恋人のユリア・スメラギ(la0717)に招待を受けてここまで来たのはよいものの、彼は若干戸惑っていた。内輪のクリスマスパーティとユリアからは聞いていたが、本当に会場はここで良いのだろうか。

「ごくごくプライベートの人しか来ないから、肩ひじ張らずに来てくれると嬉しいわ」

 そう言って手を握った彼女の顔を思い返しながら、インターフォンに備えられたカメラの向こうに視線を遣る愁。キンコン──と、呼び出し音すら上品に格式を感じさせた、その矢先にスピーカーから女性の弾んだ声が聞こえた。

「はい──愁君? すぐに行くから」
「ユリアさん──良かった。ここで待ってればいいんですか?」
「ええ、ほんの少しの間だけ、ごめんなさいね」

 ユリアが通話を切るや否や、音も無く飾り門が開く。車用の正門の隣に設けられた通用口であるにも関わらず、門扉には精緻な細工が施されていた。全体にバラの花をあしらい、ノッカーは蔓バラの絡められた意匠は、なるほどユリアの趣味と言われれば違和感がない。

「お待たせ。寒くは無かったかしら」
「大丈夫です。時間は──」
「主賓を置いて始めるわけ、無いでしょう? さ、行きましょう」

 主賓と言われてまたも驚きを隠せない愁をよそに、ユリアは彼の手を引いて恋人を誘う。今日のユリアの出で立ちはサンタクロースを意識してか、赤を基調としたエプロンドレスに、惜しげも無くフリルが施された……清楚さの中にも可愛らしさと大人の色気が際立つメイド服姿であった。純白のフリルに縁どられたミニスカートと、きゅっと細身に引き締まった長い脚を包むロングブーツの隙間からはちらちらと絶対領域が見え隠れする。待ちかねたと言わんばかりにぐいぐいと腕を取って進むユリアに、愁はたたらを踏み踏み遅れまいと着いていった。

「あの……今日も、キレイです」

 ユリアの勢いに若干気圧されつつも、愁がそう零すと、ユリアは振り返って愁をぎゅっと抱きしめた。

「本当──嬉しい! 今日は愁君に楽しんでもらうために、いろいろ──頑張ったのよ」

 そう言ってもう一度恋人の体温を肌で感じてから、ユリアは母屋の中へと愁を招き入れる。

「さあ、クリスマスの楽しいひと時を始めるわよ!」

 パーティのホステスたるユリアの宣言によって、華やかにパーティが始められた。



 内輪の集まりとユリアが言う通り、パーティは邸宅の広さの割には小規模なものであった。ユリアのモデル仲間や仕事の繋がり、SALFの高官といった面々が思い思いに和やかな会話を楽しんでいる。それらの人々に、ユリアは甲斐甲斐しく給仕をしつつも愁を恋人として紹介していった。

「今日は良くお越しくださいまして、ありがとうございます」
「──ええ、自慢の恋人なんです」

 愁とてひとりの男性として、恋人にいいところを見せたいという気持ちがある。だが、それはそれとして……こうして、社交の顔を見せるユリアの姿を並んで見上げていると、誇らしいような面映ゆいような気持ちになる。
 一通り参加者への顔見せも終わり、少しの間ユリアから離れた愁は並んだ料理を摘まみながら、尚も忙しく立ち回る恋人の姿を微笑ましく見守っていた。

「愁君、お疲れさま。料理……どう? 美味しい?」

 ようやくホストの責務から解放されたユリアが、愁の下へと戻って来る。

「はい。とっても」

 そう愁が答えると、ユリアは今日一番の弾けるような笑顔を見せた。

「ふふっ、良かった! 今日の料理、全部あたしが作ったのよ」

 全部ですか──? そう言って驚く愁に、ユリアは誇らしげにあれこれと料理を見繕って彼へと差し出す。

「フレンチのフルコースならオードブルから、カフェ・ブティフールまでね。上達ぶりに驚いたかしら」
「それは──ええ、もちろん。この日の為に?」
「愁君に喜んでもらおうと思ったから、練習したの」

 愁が特製のフレンチに舌鼓を打つ姿を見ながらユリアは想う。改めて、彼が想い人で良かった──と。



 フレンチのコースも一通りが終わり、最後に大きなブッシュ・ド・ノエルが運ばれてくる。これをカットして皆へ取り分けるのも、もちろんユリアが買って出た。

「デゼール……クリスマスケーキも、あたしが腕に縒りをかけて作ったのよ」

 皆が食後のスイーツを楽しむ間に、ユリアと愁は別室へ下がってお色直しをしつつ二人だけでブッシュ・ド・ノエルを堪能する。互いにフォークで切り取ったケーキを「あ〜ん♪」と交換しながら、束の間の秘密の時を過ごした。

「あ、でも……もうこんな時間です」
「いけない、お客様たちを待たせちゃダメね。愁君と一緒だと、時間が過ぎるのが早くて」

 ふと見遣った時計はいつの間にか思ったよりも針が進んでおり、二人は慌てて身支度を整える。ユリアは先ほどとは一転して、ぐっとシックなロングドレスに装いを変えている。愁もユリアに合わせて、普段の制服から着替えると落ち着いた燕尾服に胸元にはハンカチーフを差して大人の社交スタイルへと気分を切り替えた。二人が会場へ戻ると、ホールは照明が少し落とされ、この日の為に呼ばれた楽団が音楽を奏でている。

「愁君、一緒に踊りましょう?」
「喜んで、ユリアさん」

 参加者達がそうするように、今度は愁から手を差し伸べてユリアをエスコートする。ダンスは得意ではないとコッソリ打ち明けた恋人を慈しむように受け止めると、自然にユリアは愁の歩調に合わせて踊っていく。こういった時に上手くステップが踏めない自分がもどかしくも、さり気なくフォローしつつリードステップを導くユリアに合わせて愁もまた、踊る。

「ユリアさん──」
「なぁに? アイドル部で修行したから、ダンスはバッチリのはずだけど……少し速いかしら?」
「いえ、そういうのではないのですが……」

 ステップを一つ、二つと刻む度に愁の目の前で蠱惑的なユリアの肢体が揺れる。普段は取り立てて意識しないようにはしているが、こうして肌を密着させて触れ合うには些かばかり刺激が強い。顔を朱に染めて俯く愁の様子を見ては、ユリアの胸に愛おしさがまた一段とこみ上げた。

「ふふ──ねぇ、あたしの愛しい人。今宵を楽しんでもらえたのなら、口づけを交わしてくださいな?」
「──えっ、ここ、で……ですか?」
「そうよ。恋人同士なんですもの。それに……あたしにとっては、愁君とキスするのもダンスの一部よ」

 だから、ねぇ──と吐息と共に零したユリアのおねだりに愁は耳まで顔を赤くして、最後に意を決すると──背伸びしてからせつなげに震える淑女の唇にそっと口づけた。

「ありがと。愁くん」

 柔らかな余韻を指の腹でなぞり返し、ユリアからも愁へとキスを返す。暖炉の火がちろちろと燃え、楽団がひと際盛大にムードを盛り上げる。何度も、何度も。ステップに合わせて。
 恋人たちは睦み合う。粘膜の先から互いが溶けて、一つに合わさっていくように、心まで熔ける。それは灼けた鉄を流し込むようにどくん、ドクンと鼓動を激しくさせた。

「んっ──ふぅ」
「あぁ、ユリアさん──」

 どちらがリードしているのかはもはや分からない。ただ、情動のままに身体が動く。音楽に乗って、いつまでも、いつまでも。



「あっという間だったわ」
「ちょっと慣れなくて疲れましたけど、楽しかったです」

 楽しい時間は過ぎるのも早く、宴も闌となって招待客らも三々五々に家路につく。それらを見送りつつ、愁とユリアは夜風の寒さにどちらともなく身を寄せる。

「ねぇ……愁君。この後、あたしの家にお泊りしない?」

 それは少しの勇気と共に。ユリアも常に余裕綽々、大人の余裕を見せているように見えて恋人との距離をこの大切な日に一歩縮めたいと考えていた。彼女の声を聞くものは、愁のほかには夜空に瞬く星以外に無い。

「え……と。それは」

 ゴクリ、と喉が鳴る。

「夜も一緒に過ごせるのは、もちろん、嬉しいのですが──」
「──いや?」

 畳みかけるように問いかけるユリアに抗う術は、愁には残されていなかった。

「そんな訳はっ!? でも、緊張して眠れないかも……」
「それならあたしが、愁君が寝つけるまでずっとそばにいてあげる──」

 風がざぁっと吹き、二人はその冷たさに震えて再度、邸宅の中へと戻る。



(あぁ……本当に、心臓が痛いぐらいに)

 ドクドクと、愁の心臓が早鐘を打っている。壁を隔てた向こうでは、絶え間なく水音が聞こえる。だが、その音は愁の頭の中には入ってこなかった。事の次第に、彼の手が足が、意に添わず震える。今日は恋人の色々な一面を見ることが出来た。恋人と共に過ごすクリスマスとしては、これ以上に無いほど楽しんだ。
 だが、この──この展開は。
 ぎゅ、と拳を握り、そして開く。掌をしっとりと湿らせる汗を拭うと、彼は胸に手を置いて心を落ち着かせた。

「お待たせ、愁君」
「いえそんな──って、うわっ!?」

 シャワーを終えたユリアが部屋へと戻ってくる。声を掛けられて愁が視線を遣ると、そこにはセクシーなランジェリーに身を纏ったユリアが立っていた。レースの繊細な薄布一枚の下に、ユリアの活力にあふれた身体が隠されている。目のやり場に困って視線を泳がす愁に微笑みかけて、ユリアはベッドに上がり蠱惑的にシーツをたくし上げて胸元を隠すした。

「ねぇ、愁君。このセクシーでビューティな、あたしのランジェリー姿──全部、愁君に見て欲しいわ」

 甘く囁くユリアの声が、愁の耳朶に絡みついて理性を蕩かしていく。夜は深く、静かに。而してまだ早い。

「ふふっ、聖夜のクリスマスプレゼントは、このあたしの──」
「ユリアさん、僕もユリアさんのこと──」

 聞く者の無い声が、ひっそりと部屋に沁み入っていった。月が、雪が。二人を見守っている。


──了──

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
この度はご発注どうもありがとうございました。クリスマスに遅刻してしまったのが誠に申し訳なく、お二人が良い日を過ごせたのであればいいなぁと思う次第です。これからも寒い日が続きますので、お身体に気を付けつつも良い年末年始をお過ごしください。
イベントノベル(パーティ) -
かもめ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年12月26日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.