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『ただ縷々とそよぐように』
そよぎla0080


 ――20XX年、どこかの世界であったかもしれない、もしもの話。

 そよぎ(la0080)にとって、父親とはナイトメアだった。
 なぜ、とか、いつから、とか、そういうのは分からないしどうでもいい。兎角、そよぎにとって重要な真実は、「自分の父親はナイトメアである」ということだった。
 もちろん、血は繋がっていない。ナイトメアは人間を産まない。だからそよぎにとって、そのナイトメアは父は父でも義父にあたった。それでも、「お父さん」だった。「お父さん」から教えられること、「お父さん」と並んでみる景色が、そよぎの世界の全てだった。

 ――10歳を迎えた時、見たことのないモノをごろごろとナイトメア達が運んできた。
 銃、剣、盾、防具、アクセサリー……それらがEXISという、ナイトメア殺しの兵器であることをそよぎは教わっていた。SALFという組織に所属する、ライセンサーなる人間達が扱う武器なのだという。

「どうして?」

 唐突に武器を渡されて、そよぎは不思議そうに首を傾げた。手にした銃は幼いそよぎの手には大きく、そして重かった。だけど不思議な力を感じた。
 そよぎの「なぜ」に対し、悪夢は自分達の尖兵になれと答えた。人間ならば、人間の町に忍び込んでも怪しまれない。一人二人、攫って持って帰れば悪夢達の食事になる。あるいはライセンサーに対して、人の姿をカモフラージュに奇襲をしかけることもできる。

 ――そして、ナイトメアにとっては喪っても懐が痛くない存在。
 つまりは使い捨ての手駒。愛も情もなく、ただの便利な道具扱いだった。

 それでも――。

「……、うん! 僕、みんなのためにがんばるのっ」

 そよぎは嬉しかった。道具扱いだろうと非常食扱いだろうと何だろうと、大好きな皆の役に立てることが幸せだった。何よりも、自分のために皆がプレゼントをしてくれたことが嬉しかった――この血の付いたEXISが、殺された人間から剥ぎ取られたものだとしても。

 小さな少年は大きな銃を胸に抱いて、花のように微笑んだ。どこまでも無垢に。



 ●



 何のために殺すのかちゃんと考えて殺しなさい。
 考えなしに殺して足が付けば、面倒なことになる。
 狙うのなら、いなくなってもバレ難い相手を選べ。

 教わったことを頭の中で繰り返す。

「んしょ、んしょ……」

 真夜中の路地、そよぎは人間を背負って歩いていた。ちょっと重たいけれど、問題はない。想像の力が華奢な少年の膂力になる。こうありたいと願う想いが、そのままそよぎの力になるのだ。
 もしも人間に見つかって何か言われても、「酔った父を迎えに来た」と言えばいいことをそよぎは知っている。そしてもちろん、背負っているこの人間はそよぎの父親でもなんでもない。そこらにいた浮浪者だ。殴って気絶させたのである。

 そよぎが人間を運んで行く先は、街はずれの埠頭である。
 真夜中のそこは真っ暗で、波の音だけが響いていた。

「んしょ、っと……えいっ」

 人がいないことを確認して、そよぎは人間を海へと投げ込んだ。どぼん、と音がして、人間が慌てふためいた様子で目を覚ます。
 なんだここは、何が起きたんだ――そんな声は。真っ暗な海からざわざわと現れたナイトメア達によって、一瞬で消える。悲鳴も何も聞こえず、波の音だけ。
 こうすれば血も何も残らないし、死体についてもナイトメアがバラバラにしてくれるので、発見されることはまずありえない。ナイトメアについても海伝手に移動すれば人間にも見つかり難い。――最近、そよぎ達がよく使う狩りの手段である。

「ごめんね」

 しゃがみこんで、暗闇の向こうの捕食光景を眺めるそよぎは呟いた。黒い波がわずかな光にてらてらと輝いている。そよぎの表情は、本当に憐れみの色が浮かんでいた。
 可哀想だと思う。あの人間も、ついさっきまでは生きていたのだ。殺してしまうことは、悪いことだと思う。そよぎのその想いは純粋だ。

(でも、僕の大事なものはナイトメアだから……)

 人間であるそよぎにとって、大事なものがナイトメア側に多いから、そちらについているに過ぎない。だからこの殺害も仕方のないことだ。――情のないナイトメアと共に生きてきたからか、そよぎの考え方には時に蟲めいた無機質さがあった。
 びゅう、と風が吹く。ひときわ波が揺れて、そよぎは寒さに小さく震えた。

「さむ……」

 膝を抱え、鼻をすする。あの人間を海に突き落とす前に上着を失敬すれば良かったかな、と考えた。そよぎの衣類は、全て被害者から剥ぎ取ったものである。普通の人間のように毎日洗濯機と洗剤で洗濯ができるような環境にいない、クローゼットもなにもないし、ブティックに出かけるようなお金もない。だからそよぎの衣類は、ともすれば被虐待児のようにくたびれておりサイズもバラバラだった。

(靴、ちっちゃくなってきたの……そろそろ、新しいのにしないと……)

 自分の爪先を見ている。前に、自分と同い年ぐらいの子を『狩った』時に剥ぎ取った靴。成長期真っ盛りの頃合い、服の交換頻度は高い。
 ぼーっと海を眺めていると、ナイトメア達は食事を終えて、暗闇の彼方へ消えて行った。なのでそよぎも立ち上がる。

「……おなかすいたの」

 ナイトメア達の食事を見ていると、自分までお腹が空いてしまった。
 幸いにして、先ほどの『犠牲者』のサイフから取り出したお金がポケットの中にある。そんなに多くはないけれど、コンビニで今日の夜ご飯と、明日の朝ごはんを買う程度の金額はある。

 吐いた息は白い。見上げた星々が描く模様の名前を、そよぎは知らない。ただ、今夜も星が綺麗だなぁとだけ思った。夜空と境界のない夜の海。あの向こうに、インソムニアというナイトメア達の『おおきなおうち』があるんだろうか。

(行ってみたいなー……)

 きっと楽しいのだろう。色んなナイトメアがいて。エルゴマンサーというすごーいのがいて。彼ら皆と家族になれたら、きっときっとすっごく幸せなことなんだろう。

(がんばったら、いつか、ご招待されたらいいな……)

 そんな未来をふっと想像して、そよぎは口元を綻ばせた。
 寒空に赤い頬をして、少年は希望を胸に、黒い街を駆けていく。



『了』

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました!
無垢ゆえの危うさ、素敵ですね。
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2020年01月08日

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