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『友情、努力、ふぉんでゅ』
アルバ・フィオーレla0549)&ケヴィンla0192


 からんからんからーん。

 グロリアスベース某所、商店街。アルバ・フィオーレ(la0549)はクジ引きで一等賞を当てた。もしかして海外旅行券とかかな、とそわついたアルバに手渡されたのは――小脇に抱えられる程度の大きさの箱。そこには「チーズフォンデュセット」と書かれていた。

「ちーず、ほんでゅ、せっと」

 箱をまじまじと眺めて呟くアルバ。それからほどなく、その表情がパァッと笑顔になるのであった。
 きっと、皆で食べれば楽しいに違いない――想像するだけでワクワクする。だけどチーズフォンデュをするには材料が必要だ。もっと言うと、友達に振舞う前に、一度自分で使って確かめておくべきだろうと思った。なのでアルバは、その足でいそいそとスーパーに向かうのであった。

 ――そのスーパーでケヴィン(la0192)と出会ったのは、本当に偶然だった。

「あ。ケヴィンさん」
「アルバさん、どーもこんにちは」

 ケヴィンはアルバに会釈をして……それから、彼女が大事そうに抱えている箱を見た。

「……アルバさん、それ何? 新型EXIS……ではないか」
「あの、あのね! これ当てたの! お店のクジ引き!」
「ははー、なるほどね」

 アルバとケヴィンは『契約』を結んでいる。アルバが自身の腕を上げる、創作意欲を満たすために料理を作り、それをケヴィンが消費し食費を節約する――といったものだ。
 ゆえに、ケヴィンはアルバへこう言った。

「そういや最近、約束を果たしてないね。何か食べに行ってもいいかな」
「……!」

 アルバはハッと思い付いた。そう、ちょうど、「チーズフォンデュをしようにも一人では寂しいし食べきれなさそう」と悩んでいた時だったのだ。
 ゆえにその目をキラキラさせながら、アルバはチーズフォンデュの箱を見せるのだ。

「だったら……チーズフォンデュいかがかしら!」



 ●



「チーズにも、いっぱいあるのね……」

 スーパーのカゴを持つケヴィンの後ろを小鴨のようについて回りながら、アルバはしげしげとカゴの中身を眺めていた。カゴの中にはミックスチーズ、グリエール、ゴルゴンゾーラ。それから牛乳などのチーズソース用材料も。

「凝らずに作ることももちろんできるけど、折角なら手間暇かけておいしいもの食べたいだろ」
「うん!」
「だろ。……さて、あとは何をフォンデュするかだな。アルバさんはどういうのが好き?」
「んー……チーズフォンデュ、どういうのが合うのかしら?」
「そうだな、まあバケットは確定として。野菜ならジャガイモとかニンジンとかブロッコリー、エビやホタテみたいなシーフードもアリだし、ソーセージとか鶏肉とかの肉類もいいだろうし。甘いのなら、マシュマロとかイチゴ? あ、カステラをチーズフォンデュするとチーズケーキみたいになるってどっかで見たな。……この季節だからモチもいいかも」
「ほわー……! 結構、なんでもありなのね……!」
「……。その目は『全部試したい』だな……」
「だめ?」
「食べきれないだろ、二人で……」
「うぅ〜……」
「まあ試せなかった食材は、次回のお楽しみってことで」
「そっか……! それもそうなのだわ」

 というわけで、フォンデュする具材はアルバが主導で決めた。買い物袋を手に提げて、二人はアルバの自宅へ向かう。
 何かと風邪が怖い冬の季節、手洗いうがいをちゃんとして、エプロンを着けて、チーズフォンデュセットを箱から出して、二人で説明書を読んで、コタツの上にセットして……。

 さて、フォンデュする具材は茹でるなり焼くなり、ちゃんと下処理が必要だ。

「そのままフォンデュしちゃ、だめなのね……」

 それもそうか、とアルバは頷く。調理の為に髪をまとめた姿のアルバは、フライパンでソーセージをころころと加熱していた。隣のコンロではブロッコリーとジャガイモが茹でられている。ちなみに塩で下味もついている。具材はどれも一口大に切り分けられていた。

 一方ケヴィンはフォンデュセットの方で、真剣な表情でチーズソースを作っていた。チーズ好きが長じてチーズソース作りも詳しいのだ。詳しすぎて、まるで狙撃手のような目つきをしている。劇物でも扱っているのかと言わんばかりにはかりやらでチーズと牛乳の量を慎重に厳密に測り、片栗粉やニンニクと混ぜ合わせている。

「これに関しては俺の方がおいしく作るよ。任せてくれ」
「チーズ先生!」

 アルバにとってケヴィンはとても頼もしい。頼もしすぎて口出しができないレベル。でも作り方を知りたいので、下処理を一区切りするとぽてぽてとケヴィンの隣へ。その袖をそっと引いた。

「私にも教えて欲しいのだわ」
「もちろん。まずは――」

 材料に、配分に、作り方。
 ケヴィンの丁寧な説明に、アルバは真面目な顔でふんふんと頷いた。もちろんメモもとる。

 そうして――ほどなくすれば。

「……チーズ……フォンデュ……!」

 アルバは完成したそれに目を輝かせていた。こうして自作するのは初めてなだけに――まあ厳密に言うとほとんどケヴィン頼りだったけど――感動もひとしおだ。

「いただきまーす」
「いただきます……っ!」

 ケヴィンと二人で手を合わせ、アルバはまずはバケットをフォンデュした。

「見てみて! チーズがみょーん、みょーんて!」

 とろとろチーズが具材に絡み、まるでおもちのように伸びる。「熱いから気を付けてね」とケヴィンに言われつつ、アルバはふぅふぅ冷まして、おそるおそる一口……。

「……!」

 濃厚なチーズと、軽く焼いたバケットの香ばしさが、最高!

「おいしい! おいしい! すごーい!」

 語彙力が幼女になっているアルバ。ケヴィンは「よかったよかった」と頷きつつ、自分もあつあつのチーズフォンデュを食べ始めるのであった。

 定番のバケット、ほくほくの野菜、ジューシーなソーセージに、1月らしくモチも。いずれも一口サイズだけれども、濃厚なチーズにつけることで食べ応えが生まれるのだ。温かいコタツで温かい料理を食べると、体もぽかぽか温まってくる。

「あつぅ……」

 ほこほことじゃがいもを頬張りながら、アルバは着ていたセーターを脱いだ。静電気がばしばしして、髪が広がってしまう。

「髪が長いと大変そうだな」

 ケヴィンはゆっくりモチを噛みながらアルバを見やった。「まあね〜」と苦笑するアルバは手櫛で髪を整え、また食事に戻った。
 そんな中、ふと彼女は首を傾げる。

「ところで、ふと思ったのだけれど……」
「ん?」
「フォンデュって、どういう意味かしら?」
「んー……」

 ケヴィンはスマホを取り出すと、ついついっと指先で操作し「フォンデュ 意味」と検索した。

「どれどれ……フォンデュの語源は、フランス語で『溶ける・溶かす』の意味……だってさ」
「へ〜〜。ひとつ頭がよくなったのよ」
「良かったな」
「えへへ!」

 この部屋にテレビはなく、部屋の中には二人の他愛ない会話と食事の音のみが響いている。時折会話も途切れるが、その静寂に二人が気まずさを感じることはなかった。親しいか親しくないかで言えば俄然前者であるが、二人は友達ではない。あくまでも、お知り合い同士。それでも気兼ねなく遠慮なく接することができる、傍から見れば不思議な関係性だった。

 さて――

「ごちそうさまでした」

 二人の声が揃う頃には、鍋は空っぽになっていた。
 感じるのは心地いい満腹感。「食べきれるもんだな」「そうねー」とやりとりをして、この満腹感のままコタツでだらだらしたい気持ちをグッと律して、二人はお皿洗いなどの片づけを先にした。えらい。こういうのは後回しになるほど面倒くさくなってしまうのだ。

「はふぅー」

 お片付けも終われば、達成感と満腹感。アルバは何の憂いもなくコタツに潜り込んだ。ケヴィンも同様に「お疲れさん」と座る。綺麗に片付けられた卓上には、冬の風物詩、ミカンが置いてあった。

「アルバさん、ミカン食べていい?」
「どうぞどうぞ」
「じゃ遠慮なく」

 ケヴィンはミカンを手に取った。平たくて甘そうなやつ。機械の手で取ったそれに親指を押し込んで、皮剥こう――とするが。

「あっ いけね」

 説明しよう。ケヴィンの両手は機械であり、触覚がないので感覚で動かしている。ゆえに日常品を握り潰してしまうことがまれにあり――今回はミカンが犠牲になった。ミカンぐしゃあ。

「あーあーごめんティッシュとってティッシュ」
「あららー。ドジっこさんなのだわ」

 とりあえずミカン汁まみれの手なのでキッチンにダッシュしたケヴィン、机にスプラッシュしたミカン汁をティッシュで拭くアルバ。戻って来たケヴィンは「ほんとごめんね」とミカンを頬張っていた。割れたミカンを一気に頬張ったのでハムスターみたいになっている。

「ハムちゃんみたいなのだわ。……うふふ。ミカン、私が剥いてあげますね〜」

 アルバのお姉さんムーヴである。流石に「はい、あーん」は「いいよそこからは自力でいけるよ」と遠慮するケヴィンであった。

「……ケヴィンさん、ミカンの皮の白い方、あるじゃない?」
「あるね」
「金属をそこで磨くと、ピカピカになるんですって」
「そうなんだー。……。試したいとか言わないでね……?」

 でも家に帰ってから一人でこっそり試したケヴィンだった。ピカピカになった。



『了』

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました!
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2020年01月20日

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