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『ささやかで、とくべつな』
桜壱la0205)&化野 鳥太郎la0108


 2059年12月、クリスマスイブの夜。

「お帰りなさい先生! めりーくりすます!!!」

 帰宅した化野 鳥太郎(la0108)を、桜壱(la0205)は満面の笑顔で出迎えた。玄関から続く廊下はクリスマスらしい飾り付けが施されていた。

「メリークリスマス! ただいまー」

 鳥太郎も笑みを返し、上着を脱いでマフラーを取って、手洗いうがいをして――そわそわした桜壱が待っている居間へ。そこはとびきりクリスマス空間だった。輝くツリーに、アドベントカレンダー。壁や窓には飾りつけ、そしてテーブルにはクリスマスのディナーだ。

「おおー、今日はすごく豪華だね!」
「えへへ……今日のメニューは、ローストビーフにパンプキンスープ、ラザニアにショートケーキ! クリスマスのスペシャルディナーですよっ!」

 今日は特別な日。二人きりのささやかなものだけれど――ツリーの飾りは二人で付けたし、部屋の装飾だって一緒に買いに行って飾り付けた。ここは二人で作り上げた、二人がいないと成り立たない、とっても特別な空間なのである。

「びーじーえむ! すいっち! おん!」

 桜壱が携帯音楽再生機をポチッと押した。そうすれば、耳に馴染んだクリスマスソングが流れ始める。

「いいねぇ雰囲気ある、超クリスマスパーティーじゃん」
「超クリスマスパーティー!」

 二人はくすくすと笑い合った。
 さてさて、冷めない内にディナーである。

「いただきまーす」
「めしあがれー!」

 ヴァルキュリアである桜壱に食事機能はない。だから、食事をしている鳥太郎を正面からニコニコ見守るのだ。

「うん、うん、すっごくおいしい」

 鳥太郎がどの料理も嬉しそうに頬張ってくれるので、見守る桜壱は「むふふ!」と左目の液晶に音符を浮かべた。桜壱が喜んでくれると、鳥太郎も幸せだ。

「桜壱さん、この一年でメキメキ上達したよね、料理」
「そうですか? よかったー! Iは味見ができないので……毎回、上手にできてるか心配で」

 ちょっと恥ずかしそうに桜壱は指先同士をツンツンさせた。しょっぱくなったり薄味になってしまっても、ヴァルキュリアの桜壱には味見によって確かめる方法がない。だからこそ、最初の一口で鳥太郎が「おいしい」と笑ってくれると桜壱は心底ホッとするのだ。

「今日もおいしい!」

 鳥太郎は心からおいしいと思っていることを伝えるように、ローストビーフを大きな口で頬張った。



 ●



「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」

 お皿が空っぽになれば、感謝の言葉。食器を片付けたら、ワクワクのプレゼント交換タイムだ。

「先生、くりすますぷれぜんとです! どうぞ!」
「ありがとう、桜壱さん。俺からもどうぞ、メリークリスマース」

 クリスマスカラーにラッピングされたプレゼント。お互いに送り合い、せーので開く。
 桜壱から鳥太郎へ贈られたのは、ちょっと高級めの革手袋だった。「手は大事、ですものね!」と桜壱がはにかむ。
 鳥太郎から桜壱へ贈られたのは、桜モチーフのペンダントだった。「少しこういうお洒落も興味出てきたかなと思ったんだけど、どうだろう」と鳥太郎も照れをごまかすように小さく笑った。
 折角なので、今この場で身に着ける。鳥太郎は艶やかな黒革手袋を、桜壱はシャンパンガーネットのペンダントを。

「に、にあいますか……?」

 きらきら輝く小粒の桜色に視線を落とし、桜壱が問う。

「うん、とっても似合ってる。……俺はどう?」
「はい! お似合いです! とても!」

 手袋を付けてグーパーする鳥太郎に、桜壱は食い気味に答えた。「ありがとう」と鳥太郎が表情を綻ばせる。革手袋で着飾った彼の手は、長い指は、男性らしい厚さのある掌は、なんだかとっても『オトナ』に見えて――桜壱は「ひゃああ」と両目を両手で覆ってしまった。

「え、なになに? 桜壱さん、どういう感情?」
「ひゃああ」
「ヒャアアなの?」
「ひゃい……」
「そっか〜」

 とりあえず桜壱が嬉しそうに見えたのでヨシとする鳥太郎であった。

 ちなみに――
 鳥太郎も桜壱もこの時点では気付いていないのだが、ガーネットには「変わらない愛情」という意味があるのだとか。それはラブという意味でもあるし、友愛として用いられることもある。



 ●



 桜壱と鳥太郎のクリスマスはまだ続く。
 二人はピアノの前に並んで座っていた。今日は折角のクリスマスなのだ――そういう訳で、クリスマスソングを連弾する。二人で音符を辿って、ピアノの音色と共に有名な歌詞を口ずさむ。男の声と幼い声と、洋琴の旋律。二人で音楽を奏でるこのひとときは、何にも代えがたく幸福で、安寧だ。

 ずっと続けばいい。だけど、楽譜にいつか終わりがくるように、楽しい時間にもリミットがある。

 ――夜も更け、桜壱はベッドにいた。人形のように横たわっている。呼吸をしないので胸の上下も寝息もない、寝返りを打つこともない、シンと静かな寝顔――こうしていると、本当に人形のようである。桜壱が人形ではなく人間でもなく機械であることを示しているのは、無骨で無機質な充電装置に繋がれた細いコードだった。
 ともすれば、その人ならざる寝姿に嫌悪感を覚える者もいるかもしれない。明らかに人間めいた見た目の子供が、人間らしさのない姿をさらしているのだから。
 けれど――鳥太郎にとっては、慈しむ気持ちが込み上げる姿である。

(うん、寝てる寝てる……)

 そーっと開けたドアの隙間から、鳥太郎は桜壱の『熟睡』を確認した。そのまま音を立てないようにドアを開ける――彼の姿は赤い服に白い付けヒゲ、すなわちサンタクロースだった。

「メリークリスマース……」

 小声で呟く。呟いてから、「なんか寝起きドッキリみたいになったな」と心の中で苦笑した。
 さて、抜き足差し足忍び足、サンタクロース足。そろそろと桜壱の枕元へと歩み寄る――枕の傍にさっき贈ったばかりのペンダントが大事に置かれてあって、鳥太郎は微笑ましい気持ちになった。きっと、寝る前にじっと眺めていたんだろう。

(気に入ってくれてよかった)

 そう思って、もう一つのプレゼントを置こうとした――直後。

「……うーん」

 桜壱が小さな声を漏らしたかと思えば、その目をパチリと開けてしまった。とはいえ充電途中なのでどこか夢うつつな状態ではあるが。桜壱は人間のように目をこすり……凍り付いている鳥太郎サンタと、視線が合った。

「え、あれ、寝てなかった……?」

 鳥太郎の脳裏に、猛烈な勢いで言い訳候補がズラズラと流れていく。どうしたものかとしどろもどろしていると、桜壱がふにゃりと笑った。

「……さんたさん……?」
「はっ。そうそう、おれ……ワシはサンタさんだ!」

 寝ぼけてる。よし押し切れる。鳥太郎は堂々と胸を張って自己紹介をした。「わぁ〜……!」と桜壱は表情を輝かせると、いそいそ起き上がって、ベッドの上で正座をして、深々〜と頭を下げた。

「去年も今年もありがとうございます! 寒い中、おしごと、おつかれさまです」
「ありがとう。よいこの皆の笑顔のためなら、安いものじゃ。ふぉっふぉっふぉ」
「えへへー……、……、……あの、さんたさん……」

 顔を上げた桜壱だが、その表情は――なんだか、今にも泣きそうな笑顔だった。

「……Iは、いつまで貴方と、お会いすることができますか……?」
「――……」

 鳥太郎は目を細めた。「この子は、もしかしたら、思っているよりずっと大人なのかもしれない」。そう思いながら、鳥太郎は桜壱の頭をそっと撫でた。

「そうだな、まだしばらくは一緒かな、と思うけど。……子供の成長は早いから。でも――桜壱さんが大人になっても会えなくなる訳じゃないよ。そういうものだ。それは、その時が来たらきっとわかる」

 桜壱は彼の言葉をじっと聴いていた。だけど、またスリープモードに目蓋は落ちていく。
 こてん、と眠ってしまった小さな体を鳥太郎は受け止める。そのまま桜壱をベッドに横たわらせて、布団をかけて……

「メリークリスマス、桜壱さん」

 枕元に大きなプレゼントをひとつ。小さめの電子ピアノが、クリスマスカラーの下に包まれていた。



 ●



「――さんたさんっ!」

 朝、桜壱はガバッと跳ね起きた。

「さんたさ……あれ、夢……?」

 真夜中にサンタクロースと会った気がする。桜壱はキョロキョロと辺りを見渡したが、そこにサンタの痕跡はひとつもなかった。

 ――否、前言撤回。

「はわわ……!!」

 枕元に見知らぬプレゼント。サンタさんだ。サンタさんが来たのだ! 桜壱は目を真ん丸にして、プレゼントを両手で持ち上げた。

「先生! せんせ! サンタさんが!! サンタさんがーー!!」

 どたばたどたばた。まだ寝ている鳥太郎の寝室に飛び込んで、「うわああああああ」とテンションのままに彼のお布団に頭からダイブする。50キログラムどーん。さながら寝起きドッキリ。

「ぐえっ……あ、おはよ桜壱さん……」
「さんたさんが!! さ……さん……さんたさん! が! ああ!!
「ん? あー、」

 桜壱がぐいぐいぐいと見せつけてくる包みに、鳥太郎はへらりと笑った。

「ほんとだ。サンタさんだ」



『了』

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました!
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2020年01月20日

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