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『悲しき雪の怪異・2』
水嶋・琴美8036

 水嶋・琴美(8036@TK01)は石碑を見上げて、眉をひそめる。
「でも石碑自体が封印であれば、移動させても破壊されなければ問題は無かったのでしょう。しかし場所自体が封印であったせいで、こんなに事件が多発してしまったのでしょうね」
 石碑には怪異を封じる為の文字が彫られているが、すでに意味は無い。
 石碑を移動した後に起こった地震とは、封じられていた怪異が解放されたことを知らせていたのだろう。
「しかし封印が解けた直後ですから、怪異も本調子というわけではなさそうですね」
 人を襲うことはあれど、いずれも失敗に終わっている。
「逆に言えば、今が倒し時でしょう。力を取り戻す前に、倒しておきましょうか」
 ため息が白くなるのを見て、琴美はこれから体験する寒さを想像して体をブルっと震わせた。


 その夜、琴美は着替えて夜の温泉街に一人で出ている。
(……しかし『夜に目立つ色を』というのは分からなくもないですが、派手過ぎませんかね?)
 琴美は自分の恰好を見て、白い息を大量に吐き出す。
全身赤一色、と言うしかない。頭にはベレー帽をかぶり、上半身には軍服、下半身はミニのプリーツスカートを身に着けている。寒さ対策として両脚には黒いストッキングと、膝まである編み上げのブーツを履いていた。
 こういった温泉地では、浴衣姿が当たり前だ。至る所に温泉があるので、体があたたまった人々は浴衣と羽織でも寒くはない。
 だがこれから仕事を行う琴美は温泉に入る暇などなく、今まで仲間達との打ち合わせをしていた。そのまま戦闘準備をはじめたので、ろくに休めないまま街に出たのだ。
(でも大きな武器を持ち歩かないだけ、まだマシですかね)
 一般客はチラチラと視線を送ってくるものの、それでも不審者として見られないのは目立つ武器を持っていないからだろう。
(まあ多少場違いな恰好でも、戦いやすさを重視するところがウチの会社らしいです。……ですがさすがに浴衣と羽織の戦闘服というのは、防御力も緊張感も無さそうですね)
 今回の作戦は怪異が現れやすい時間帯に戦闘員が各場所へ赴き、退治するというシンプルなものだ。
 怪異は封印されていた場所から少しずつ、人間が暮らす街の方に寄って来ている。なので山と街の境目に、戦闘員を多く配置することになった。
(封印の石碑があったのは山向こうでしたね。徐々に寄って来ているならば、数日間はこちらに滞在すべきでしょうか?)
 とりあえず二泊三日という予定にはなっているが、一応仕事ということもあり四泊五日までは伸ばせるらしい。
(ですが昼夜逆転の仕事込みの社員旅行なんて、うちの会社ならではですね)
 はあ〜っとため息を吐きながらも軍服の内側から二本のナイフを取り出して、両手に持ちながら構える。
 数メートル先から一メートルほどの大きさの雪だるまが二体ほど、飛びながらこちらに向かって来ていた。
「見た目だけなら可愛らしいんですけどね」
 殺意のオーラを全身にまとっている雪だるまからは、警戒心しか抱けない。
 琴美はスッと眼を細めると、二本のナイフを投げる。二体の雪だるまの額に命中すると、突然ボッと炎が上がり、雪だるまは溶けていく。
「流石は武器開発部が特注で作った炎属性の武器ですね。素晴らしい威力です」
 雪だるまが消滅すると、琴美は雪を踏みしめながら近付き、ナイフを回収する。
 ナイフの柄には赤いビー玉のような魔石がはまっており、何かに当たると炎を出す仕組みになっていた。
 依頼内容を聞いた武器開発部が急いで作ったものだが、怪異となった雪だるまを一発で倒せるほどの破壊力を持つ。
「倒した後、回収を忘れないようにしなければなりませんね。素人さんの手に渡ったら、上司の説教と始末書ものですから」
 寒さとは別の意味で体を震わせながら、琴美はパトロールを続ける。

 その後、何体かの雪だるまを倒して、琴美は気付いた。
「この雪だるまはやはり、普通の雪だるまとは違うようですね」
 戦闘中に転がった怪異の雪だるまは、大きさを変えない。
 普通の雪だるまであれば、雪を得て大きくなるからだ。
「まあ異常に大きくなる雪だるまがいないだけ、マシ……でしょう……か?」
しかし琴美は一体の怪異の雪だるまがこちらへ近付いて来るのを見て、言葉を失う。
「……別にフラグを立てる為に言ったわけではないんですけどね」
 その雪だるまは何と三メートルほどの大きさがあったのだ。
 どすんっどすんっと雪煙を上げながら近付いて来るので、アレに飛びかかれたらいくら琴美でも無事では済まない。
 咄嗟に琴美は雪だるまを囲むように、風雪を巻き起こす。
 視界を遮られた雪だるまは動きを止める。
 その隙にブレスレット型の武器に触れて、ワイヤーを引っ張り出す。そして動きを止めた雪だるまの体にワイヤーを巻き付けると、そのまま力を入れて引っ張った。
 すると雪だるまの体はワイヤーによって切り裂かれて、次の瞬間には炎が立ち上がる。
「……ふう。こちらにも炎の魔石を付けてもらっていて良かったです」
 ワイヤーを巻き戻すと、先端には赤い石の飾りが付いていた。
 だがホッとする間もなく、男性達の悲鳴が聞こえてくる。
「今度はあちらですか! 忙しいですね!」
 急いで走って行くと、ナイトスキーとスノーボードを楽しんでいた若い男性三人組に、雪女が襲い掛かろうとしていた。
「あなた達、さっさと滑って逃げてください! 腰を抜かしていると、凍らされますよ!」
 驚いて固まっていた三人組は、琴美の言葉で慌てて滑って行く。
『待て!』
「それはこちらのセリフです!」
 琴美がナイフを二本、雪女に向かって投げると、雪女は氷の息吹で威力を落とす。ナイフは凍らせられなかったものの、雪の上にボトボトッと落ちた。
「人型の怪異の方が厄介ですね!」
 琴美はその間も走り続け、息吹が消え去るのと同時に雪女の腹を蹴る。
『くぅっ……!』
 数メートル後ろに飛ばされた雪女は、ぎろりっと琴美を睨み付けた。
「人間に害を成さないのであれば、見逃してあげますけどね。あなたはそうもいかないようなので、退治させていただきます」
『生意気な!』
 醜く顔を歪めた雪女は五本の氷柱を作り出して、琴美へ向けて放つ。
 三十センチほどの氷柱は先が尖っており、人間の肉体を容易く貫通できるだろう。
 しかし琴美はワイヤーを引っ張り出して、五本の氷柱に一気に巻き付けて砕いた。
「あなたより若造ではありますけどね。実力は上です」


<続く>



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
このたびはご指名をしていただきまして、ありがとうございます。
次で最終回となります。
作品のタイトルの意味がしみじみ分かる内容になっています。
東京怪談ノベル(シングル) -
hosimure クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年01月20日

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