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『好奇心膨らむリューインガム』
ファルス・ティレイラ3733

「ふんふふ〜ん! さて、次は……あそこの棚の整理をしようかな」
 多くの魔法道具を扱う店に、少女の鼻歌が響いている。師匠に留守番を頼まれたファルス・ティレイラ(3733)は、店番のついでに店内の片付けを行っていた。
「師匠が帰ってくるまでまだ時間があるし、頑張ってお店中をピカピカにしておこうっと!」
 慣れた手付きで、ティレイラは次々に物を運んで行く。
 ふと、その途中、変わった箱が目に入った。思わず開けてしまいたくなる程、箱からは魅力的な甘い香りが漂ってきている。
 僅かに感じる魔力からして、魔法道具のようだ。店の新商品だろうか。
 中に何が入っているのか気になりはしたものの、ティレイラは膨らみかけた好奇心を必死に抑え、箱を邪魔にならないように隅の方へと移動させる。
「美味しそうな匂いがするし、中身はお菓子かな? 気になるけど、今は我慢我慢。片付けに集中しないと……って、え!?」
 そう独りごちながら箱を床へと置いた瞬間だった。中から突然、色鮮やかな何かが飛び出してきたのは。
「せっかく我慢したのに、どうしてこうなるのよ〜!?」
 ティレイラの嘆きの声を無視し、誤作動した魔法道具から飛び出てきた何かは、彼女へと襲いかかるのであった。

 ◆

 一見、風船のように見えるものの中にティレイラは居た。
 あの魔法道具の中には、どうやら魔法のガムが入っていたらしい。彼女が床に置いた衝撃で誤作動した魔法道具により、ティレイラは膨らんだ風船ガムの中に囚われてしまっていた。
「うう、最悪だよ……。でも落ち込んでる暇はないよね。とにかく、ここから脱出しないと!」
 気合を入れ直し、ティレイラはガムで出来た壁に触れる。ベタベタとした感触に思わず顔をしかめてしまった。気持ちの悪い感触が、彼女の中にある早くここから出たいという気持ちを一層強くする。
 何とか穴を開けようと試みてみたものの、ガムで出来た膜は伸びるだけで変化がない。力任せにガムを掴み、押したり引いたり、はてには引き裂こうともしてみたが、やはり自在に伸びる風船ガムには通用せず、失敗に終わってしまった。
「仕方ない。こうなったら……!」
 竜族であるティレイラにとって、少女の姿は仮初の姿だ。本来の姿であれば、その強い力でこの程度の膜など破る事は容易いだろう。
 ティレイラの姿は、彼女が望んだ通りに元の姿へと戻って行く。紫色の翼を持つ、巨大な竜の姿へと。
「ぐっ、せ、狭い……! でも、この勢いを利用すればいけるっ!」
 少女一人分の大きさにしか広がっていなかった風船ガムの中で突然竜の姿に戻ったため、強引にガムの壁が引き伸ばされる。風船ガムが竜姿の自分の形に伸びた事を好機と見たティレイラは、この勢いのまま膜を破ろうと身体を動かした。
 角のはえた顔を振るい、長い尻尾や大きな翼を揺らす。触れたガムが身体へと付着し、動けば動く程身動きは取り辛くなっていく。狭く動きにくい風船ガムの中で、それでも竜は全力でもがき、暴れた。
 しかし、ガムが破れる気配はない。
「嘘!? これでも駄目なの!?」
 ティレイラの顔に、焦りの色が浮かび始める。今度は爪で引き裂こうと試みたが、振るわれる両肢に合わせ膜はまるで水掻きのように広がったものの……それだけだった。
 諦めずに前肢で膜を蹴り飛ばそうとしたティレイラだったが、べっとりとしたガムに阻害されてしまい上手く動かす事が出来ない。ガムに動きを阻害され、もはや身じろぎ一つ満足に出来ないティレイラは、その事実に思わず声をあげそうになった。
 ……しかし、開かれたその口すらもガムは容赦なく覆い尽くす。
 ガム風船に包まれた竜は、先程まで暴れていたのが嘘のように今は静かに佇んでいる。とうとうティレイラは、動く事も喋る事も出来なくなってしまったのだ。

 ◆

「ティレイラちゃん? ……いないのかな?」
 店へと立ち寄った瀬名・雫(NPCA003)は、いつもならすぐに迎えてくれるはずの明るい声が返ってこない事に首を傾げた。
 店を手伝っているはずのティレイラの姿は、どうしてか店の中にない。彼女の名を呼びながら、雫は店内を探し始める。
 不意に、目に入ってきた見慣れぬ塊に、雫は驚きの声をあげ立ち止まった。彼女の目の前にあるのは、巨大な風船ガムだ。
 膨らんだ風船ガムの中には竜の形をした何かが入っており、ガムはその形をなぞるように引き伸ばされてしまっているのか、奇妙な形をしていた。まるで、竜をそのまま包み込んだかのような形だ。
「これって……」
 雫は、目を見開いてそのガムを見つめる。この竜の形に、雫は見覚えがあった。
「ティレイラちゃん……? ティレイラちゃんなの!?」
 ……『まるで』、ではない。本当に、この風船ガムは本物の竜を包み込んでしまっているのだ。
 立派な翼や尻尾はもちろん、その威厳ごとガムへと封じ込まれてしまったこの竜は、雫が今の今まで探していた友人、ティレイラに違いなかった。
 雫の問いかけに、返事はない。ガムに阻害されているため身動きの取れぬ竜は、もはや口すらも自由に動かせないらしい。
 雫は、変わり果てた友人へとそっと手を伸ばした。伝わってくるのは、ガムのべったりとした感触だ。「こんな……」と、雫は思わずといった様子で唇から言葉をこぼす。
「こんな……こんな不思議な姿になっちゃうなんて! 凄いよ!」
 しかし、その声は歓喜に満ちていた。彼女の瞳は好奇心によりキラキラと輝き、興味津々といった様子で雫はティレイラの身体へと触れる。
「うんうん、なるほど。このガムは竜の爪でも破れないんだね! こっちはどうなってるのかな?」
 一人納得するように頷きながら、雫はガムを隅々まで見たり触ったりと好き放題調べ始めてしまう。今の雫にとっては、ガムに包まれたティレイラは友人である以上に興味の対象なのだろう。
 すっかり夢中になってしまっている雫を止める者はおらず、膨らんだ彼女の好奇心がしぼむ様子はない。魔法のガム風船に囚われた竜が解放されるまでには、まだしばらく時間がかかりそうであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
風船ガムの中で奮闘するティレイラさんのお話、このような感じになりましたがいかがでしたでしょうか。お楽しみいただけましたら幸いです。
何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、このたびはご依頼誠にありがとうございました。また機会がありましたら、その時は是非よろしくお願いいたします!
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年01月20日

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