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『復讐の残骸(4)』
水嶋・琴美8036

 敵を全て倒し終えた水嶋・琴美(8036)は、施設の奥で見つけた資料に目を通していた。
 彼女の指先が、ディスプレイに浮かんでいる文字をなぞる。そこに記されていたのは、とある者に対する復讐の計画だった。
 対象者は――水嶋・琴美。
 どうやら、この研究所の所長は琴美に対し強い恨みを抱いていたらしい。
「あのロボットには、この復讐計画がプログラミングされていたようね」
 琴美へと恨みを持つ者が作り上げたロボット。夜道で琴美へと襲いかかったアレの狙いは、最初から琴美だけだったようだ。
 彼女に倒され一度機能を停止したロボットだが、琴美が後処理を頼んだ仲間が現場に到着するまでの間に、動きの参考にするために読み取った琴美のデータを自分へと組み込んだ。そして、本気を出していなかったとはいえ琴美の力の一部を模したロボットは、再起動すると同時にその驚異的な力を駆使しその場から逃走したのだろう。
 現場に敵の拠点を割り出せる痕跡が残されていたのも、恐らく故意だったのだろうと琴美は推測する。琴美を復讐計画の舞台……自らの拠点へと誘い出すために、彼女でなければ気付けない程細かな痕跡をロボットは残したのだ。
「私なら、逃げ出したりなんかせずその場で全員を倒してみせるけど……このロボットは私以外には興味がなかったみたいね」
 琴美以外眼中に入っていない様子からして、彼女への異常な程の執着が見て取れる。計画書には、琴美への憎悪と殺意が込められていた。
 この研究所の様子からして、ロボットの製作者はすでに死亡しているようだ。部下の研究員達を琴美に倒された事で彼女に強い恨みを抱き、秘密裏に復讐計画をたてていたようだが、彼自身もその後琴美の手により呆気なく倒されている。
 不穏な噂の耐えなかった組織だ。琴美へせん滅の任務がきていても、おかしくはない。
「まぁ、こんな奴の事なんて全然覚えていないけど」
 数多の知識を持ち、記憶力にも自信がある琴美だが……いちいち、この程度の弱者の事まで気にかけていてはきりがない。この相手も、記憶の片隅にすら残らない程簡単に倒せてしまえたのだろう。
 相手は死後に復讐の計画が実行出来るようにロボットにプログラミングする程琴美に執着していたようだが、琴美の方には存在していた事すら覚えられてはいなかった。
 くだらない復讐の計画しか書かれていなかった資料から興味を失い、琴美は手に持っていたそれを放り投げる。ディスプレイから放たれていた光は衝撃により消え、資料の保管されていた機器はそれきり何の反応も示さなくなった。
「予定よりも早く任務が終わったわね。帰ったら、訓練の続きでもしようかしら」
 独りごちながら、琴美はその場を後にする。今回も完璧に任務を成功に導いた事に高揚感を覚えながら、誰も真似出来ぬ程の実力を持つ少女は闇夜を駆けて行くのだった。

 ……琴美のいなくなった研究所に、その復讐の残骸は転がっている。
 ふと、ロボットの光を失った瞳が、何かを映し出した。どこかへと、ロボットは琴美との戦闘で得たデータを送信した後、再び沈黙する。
 後処理を行う者達が現場にやってきた頃には、以前のように再び動き出し逃げる事もなく、ロボットは完全にその機能を停止していた。

 ◆

 拠点にあるトレーニングルームで、琴美は訓練用の人形を次々に叩きのめしていく。
 機器を操りトレーニングマシンのレベルを最大にまで上げると、命の危険を警告するメッセージが表示されたが、琴美は気にせずそのまま訓練を続ける。
 難なく危険な訓練も完璧に終えた琴美は、もう少し手応えがほしいので改良を頼もうかとさえ考えていた。あのロボットの技術をトレーニングに運用出来ないか、と一瞬思ったものの、「あの程度の半端なコピーしか出来ないロボットと戦ってもつまらないわね」と彼女は冷たく吐き捨てる。
「人形を相手にするより、私を満足させてくれる力を持った敵と戦いたいわ。次の任務では、強敵が現れてほしいものね」
 失敗や敗北という二文字を知らぬ少女は、まだ見ぬ敵に思いを馳せ心を踊らせるのだった。

 ――彼女の期待に応えるかのように、強大な悪は笑っている。
 闇夜に身を潜ませる不気味な影は、とあるデータを見て歪な笑みを一層深めた。琴美の力をコピーしたロボットが、最後に送ってきた彼女の戦闘データだ。
 影が所有している琴美に関するデータは、それだけではない。膨大な量の戦闘記録が、華麗に敵を倒す琴美の姿を映した映像が、聡明な彼女がとった作戦の内容が、影の目の前には幾つも並べられている。
 あのロボットもロボットを製造した研究者も、強大な悪のコマの内の一つに過ぎなかった。琴美へと興味を抱く者、彼女に同胞を倒され恨みを持つ者……琴美の事を狙っている者は、彼女自身が思っているよりもずっと多い。復讐の計画は、まだ終わってはいないのだ。
 予測していなかった敗北に、慟哭したロボット。自らの実力を過信した琴美の心すら真似た者の、無様で哀れな最期。
 まさか、自分の方がそれを真似する事になるとは、琴美は夢にも思っていないだろう。蹂躙された琴美のプライドがへし折られ、自信が潰える瞬間。
 それは、恐らく死よりもひどい――あまりにも痛々しい末路。敗北し転がる琴美の姿は、完璧で華麗だった彼女の姿との差異も相まって、あのロボットの残骸よりも惨たらしいに違いない。
 圧倒的な実力で琴美が勝利していくと共に、彼女に向けられる憎悪もまた大きくなっていくのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
琴美さんの今回のご活躍、このような感じになりましたがいかがでしたでしょうか。
お気に召すものに仕上がっていましたら、幸いです。何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
今回もご依頼誠にありがとうございました。機会がありましたら、次回も是非よろしくお願いいたします。
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年01月20日

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