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『実りは一時、花なら常に。』
神代 誠一ka2086)&エラ・“dJehuty”・ベルka3142)&レイレリア・リナークシスka3872)&浅緋 零ka4710)&鞍馬 真ka5819)&メアリ・ロイドka6633)&クレール・ディンセルフka0586)&鳳城 錬介ka6053

 棚の隙間に物を詰める。パズルブロックをはめ込んでいる感覚で徐々に楽しくなってきた。ただし形ばかりを優先していて、隙間を埋めることにばかり気が向かいすぎていて、要不要の判別をしていないけれど。
 買い込んだ、けれど食糧ではないものは本棚の上に避難させる。丁度見つけた箱に詰めたうえで“要”の一文字を書き入れたから大丈夫の筈だ。わざわざ箱の中身まで見ないだろうし?
 床穴については……寝る場所じゃないから、と忘れていた。今更どうにもできやしない。
 と、いうことで。
「軍手があるから大丈夫だよな!」
 神代 誠一(ka2086)は、皆が来るのを待つことにしたのだった。

 秋、と言うよりも冬に近い。落ち葉の色は皆落ち着いたものばかりになっている。
 それでも何かのモチーフをと考えてしまうのはやはり性分かもしれない。そんなことを考えながら浅緋 零(ka4710)は落ち葉を掃いていく。
 早く来てしまうのは性分もあるかもしれないけれど。
「……いらっしゃい」
 家主ではないけれど、この場所で、誰かを迎えることが当たり前になっている。訪れたメアリ・ロイド(ka6633)に待っていてと声をかけてから箒を片付けた。

「先に教えておくな、足元、気をつけないと穴に嵌るからさ」
 何てことのないように説明する誠一は少し先を零と一緒に歩いている。
「まじかよ……トラップハウスか……?」
 つい素の口調が出てしまったメアリ。ギリギリ口の中で留まってくれたはずなので、聞かれてはいないと思うのだけれど。
 部屋が片付いていない、というのはまだわかる……つもりだ。かつてはあまり物に執着しない生活を送っていたのでその感覚はまったくもってわからないけれど、今はそういった人が居るということは理解している。ただ、ここは住居の筈である。
(……だよな?)
 もう一度入り口を、目の前に立つ建物を凝視する。そういえば普段は庭に邪魔するばかりで、中に入ったことがなかったような。
 穴がある。……まあ、そういうこともあるだろう。なにせ手入れの際に何かしら起きているのは知っていたし……屋内でも同じようなことがある、と?
「夏にスイカ割りしたときにうっかりなあ」
 びっくりしたよな、と朗らかに笑いあう師弟。
(屋内で……スイカ? それでドアが取れそう。……ある……いや、あるのか? ある、か……?)
 何よりもそれを放置したまま現状過ごしているのが不思議で仕方ない。ここの家主、つまり誠一は自分と同じくリアルブルーからの転移者だったと思うのだが。便利に慣れた身でそんな住居に暮らしているなんて、耐えられるのだろうか。少なくともメアリは自分が同じ状況にあったとして、安眠できる自信はない。
 それを当たり前のように受け入れている周囲の者達にも正直驚きしかない。慣れって……怖い。
 警戒? ……するに決まっている。人をではなくて、この先の展開にだ。なぜなら、それが当たり前として過ごすほどに、この場の皆は今の状況に慣れている。それだけ、日ごろから何かが起きるのが当たり前だと、それを示していることに他ならないのだから!
 しかし足りないものを聞いた時に気付くべきだったのだ。メアリは不足分を補充、程度の感覚でたずねたけれど、何が足りないかもわからない、という返事だったので。
 結局、間違いなく自分が使う品と、当たり障りのない調味料と調理器具に留めたのだが……成程納得、と今更ながらに思う。
 まさかとは思ったが、ここまでとは。
 これも後で知ったことだが、毎回手荷物を置く場所を作りたくても、その荷物を置く場所さえ見つけられない。という事態らしい。入る前に見かけた段ボール、何故と思っていたけれど、置かれていた理由を正確に理解したメアリである。

「メアリさん、着替えは、こっち……」
 日頃から零達女性陣が使っているスペースは、比較的被害がない。と、いうよりは流石に誠一が踏み込むことがないのでむやみやたらに物が増えるなんてことが起こらない。
 メアリと共に自分でもジャージに着替えて、邪魔にならないように軽く編んで髪をまとめる零。軍手は使う直前でいいだろうからポケットにいれておこうか。
「……土いじりだと聞いてましたし、動きやすい服を用意してきてよかったな、と」
 咄嗟に退避する時にも役立ちそうだ、と思ったことは言わないでおくメアリだが、その視線は遠い。
「危ない物は、ないはず……だけど」
 それは間違いがない筈なのだ。物だけなら、ただ置いてあるだけならなんの力も持たない物ばかり。
「……棚とか……開けると、雪崩、起きたりもする……から……」
 零もなんとなく、メアリの方に視線を向けられなかった。

 段ボール箱、というのは非常に便利なものだと思う。
 使わない場合は畳んでおけるし、なによりそれなりに丈夫で、軽い。
 牛乳に生クリーム、自宅で仕込んでおいたチキンスープ入りの鍋等を纏めて運んできたレイレリア・リナークシス(ka3872)は、予想通りの惨状に溜息をつくべきかしばし迷う。
 一応、スペースはある。ある、が……台所は駄目だ。
(確かに必要だと思っていましたが)
 本当に使うタイミングになると改めて呆れさせてくれるこの様式美とも呼べる状況を、喜ぶべきか否か。
「……いえ、自問する必要もありません」
 段ボール箱をそっと安全な場所に置こうと視線をめぐらせる。テーブルの上も場所がないので仕方ないと、椅子の座面だ。バランスを崩して倒れる心配もしなければならないと、紐で固定しておく。この紐も片付け用品として持ってきたものだった筈なのだけれども。
「今年も掃除をしなければいけないでしょうが……いえ、本題はそちらではありません」
 惨状はほんの少しの間だけ、見ないフリをする。
「最低限に致しましょう」
 言葉を呪文にして、レイレリアは自分に言い聞かせる。まずは収穫からなのだ。
 廃棄処分対象リストを脳内で書き連ねながら、改めて庭の方へと向かっていった。

「まあ、焚き火もしますしね」
「え゛?」
 何故だ、と言わんばかりの誠一の声を聞かなかったことにしながら、エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は零の掃き集めた落ち葉を指さした。
「丁度ありますし」
「いや零も別に焼き芋のつもりじゃなかったと思うんだが!」
 誠一の記憶には前の年の秋の己の叫びが蘇っていた。色々と失ったあの日は忘れられない思い出である。大掃除でも毎年叫んでいる気がするが!
「……そろそろ結婚というか要らないものが出てくると思うんですが」
 何か別の話をしようとした気配を微塵も感じさせずに別の話題にシフトさせるエラ。あまりにも自然体過ぎて聞き間違いだったかな? と思わせるレベルの話題転換に言われた誠一はあっさりと思考を誘導されている。鮮やかな話術は時に人を混乱させるものである。
「掃除しますか」
 畳みかけた言葉は疑問符のつかない時点でただの宣言になっていた。勿論エラも収穫が先なのは忘れていないので、後でレイレリアと息のあった処分活動が見られることだろう。


 芋の眠った畝だけではなく、他にもある野菜の姿を目を細めて眺める鳳城 錬介(ka6053)。
「立派になりましたね」
 はじめの瞬間は、本当に何もないただの地面だったのに。皆で一から手掛けた畑は、確かに命を育む場所に、成果を示して輝いているようで。
「……早いものです」
 気付けばそれほどまで時間が経ったのだと教えられて、目の当たりにさせられて、少し感慨深くなってしまうのも仕方がないと思うのだ。
 しかしそこで立ち止まっていては、折角の実りに、その成果が楽しめない。
「芋を掘りましょう」
 動きやすいように解き込んだ作業着が変に乱れていないかどうかと身支度を整える。
「誠一さんは、そのままの格好で大丈夫ですか?」
「軍手があればいいんじゃなかったっけ?」
 結構な勢いで汚れますよ、と首を傾げる錬介。不慣れ丸出しの様子に、つきっきりで教えた方がいいかもしれないと思っているのだ。

「故郷の、農家のお手伝いを思い出しますね!」
 実家は鍛冶を軸に生計を立てていて、だからこそ武器だけでなく農具や調理器具だって作っていて。その縁や近所付き合いなりで手伝いに行くことは少なくなかった。錬介の説明を聞きながら、確かに! と手を叩いてよろこんでしまうくらいクレール・ディンセルフ(ka0586)には楽しみな時間がもうすぐやってくる。
「こんなに育ったんですね」
 控えめなメアリの声音には確かに喜色が混じっている。その声につられれば、確かに微笑みが浮かべられている。
「バッチリ育ったお芋さんですからね!」
 せっかくこれまで手をかけた分にケチをつけるなんてことはしたくない、とクレールも気合を入れた。
「丁寧に掘りましょうっ!」
 今日持ってきたのは茎や葉の処理をするための鎌くらいだ。掘り出すのは軍手で保護した手だとずっと決めていたのだ。

「芋掘り、小学生以来……だなぁ」
 随分と前にやったきりだとはいえ、意外と覚えているものだ。錬介が教えている声も耳を澄まして確認しながら、零がゆっくりと芋を掘り出していく。
 茎を持って引くところは案外ひとりでは難しくて、誰かに助けを求めようと顔を上げる。
「私で良ければ?」
「おねがい」
 目のあった真と共に掘り起こして、一息。
「意外と、やれるものだと……思うんだけど」
 軽くしりもちをついた真がちらりと、誠一に視線を向ける。
「誠一さん、どうして初心者なんだろう?」
「……そういえば……不思議」
 まさか昔過ぎて忘れてしまった、なんてことはない……筈。きっと誠一の通っていた学校はそう言ったカリキュラムがなかっただけなのだろう。


「まずは茎の周辺からですね。乾燥しているから大丈夫だと思いますけど、なるべくやさしく掘らないと、皮に傷がついてしまうので気をつけてください」
「やさしく」
「ええ、なのでスコップで勢いよく掘ったりできないんです。こうして周辺の土から掘っていって……」
 自分の前にある茎を辿るように土を避けて、見本を示す錬介。
「棒倒しみたいだな」
「……ああ、確かにそっとやると考えれば、近いですね」
 やってみますか、と二人がかりで土を掘っていく。おっかなびっくりの誠一も、次第に慣れてきたらしい。茎の曲がり具合、どちらに向かっているか……そのあたりから場所の予想を始めているのかもしれない。
「そろそろかな?」
「見えてもいい頃ですね」
 指の腹で拭うような優しい手つきになっていく。少しずつ、土を払って。芋の在りそうな場所より少し外側の土を崩して。
「……おっ!」
 眼鏡の奥で輝く瞳にうん、と頷いて。
「では、誠一さん。この茎をしっかり握って、引っこ抜きましょうか」
「え?」
 全てを取り出すまで同じと調子だと思っていた、とその表情が雄弁に語っている。
「全部優しく掘るのもいいですが、時間もかかってしまいますからね」
「さっさとやらないと日が暮れますよ」
 やらないなら私が、と様子を見に来たエラが手を伸ばそうとする。
「ああっやる、ちゃんと自分でやるってば!?」
 それで誠一も腹をくくったらしい、不安溢れる唸り声と共に茎を掴む。
「ここまで土を避けたのだから、後はもう簡単ですよ」
 錬介も穏やかに、その背を押した。
「勿論、土の中に芋が残っているかもしれないので。その後でよく探してみましょう!」
 おまけの宝探しみたいなものですよ!

「うおおお、ちゃんと出来るもんだな!
 喜びの声を上げる誠一に驚いたのか、駆けまわるのはみんなのアイドル、ぐま。楽しそうな空気に溢れていた中、更に普段は入らないようにと言明されている畑。イレギュラーの連続に興奮しないわけがなくて。
「うわ、ちょ、ぐま!」
 ぴょんと跳ねてから、やみくもに走りはじめた!
「こら! ぐま待てって!!」
 ぐまが走れば芋が転がる。
 転がる芋に誠一が転ぶ。
 誠一が転べば……ほら、予想通りの泥だらけ!
 どうにか捕獲されたぐまなんて、元の毛並みが辛うじてわかる程度。全体的に薄茶色になってしまっている。
「せんせい、顔にも……」
 泥が付いて居る場所は眼鏡の近くが多い。一生懸命になりすぎて汗で滑る眼鏡を何度もかけ直したのがよくわかる。
 軍手を脱ぐ手間を惜しんだあたりが流石先生だと思う。呆れながらもタオルを誠一に向けて一枚。もう一枚はぐまに向けて広げて見せる零。
「ぐま……泥、拭いてあげるから。おいで?」
 慌てた声の主より、そりゃあ穏やかに優しい声の方に向かうわけだ。
 おとなしく綺麗にされていくぐまをみながら、とほほと肩を落とすのも仕方ない。
「芋掘るより疲れた気がする……」
 眼鏡、また傾いてるよ?


「1ヶ月使わないものは使わないんです」
 とはいえ季節限定、例えば特別なイベントの装飾は流石にそこには含まない。毎年買う方が無駄だし、何よりそう多くはないものの筈だからである。
「……毎年同じものを買って重複させているなら話は別」
 しかしエラはたった今節分用の鬼面を複数見つけだしていた。複数名が鬼をやる場合があると言われればそれまでだが、大体皆が持っているような量産品を、個人でだぶつかせている方がむしろおかしいレベルの代物。
 買ったのではなく引き当てただけかもしれないが……処分の手間を惜しむというのもどうなのか。その場で売り払えばいいのである。どうして持ち帰っているのか。
 遠慮なく不用品箱に放り込みながら、視線がドアの方へと向かった。かつて適当に間に合わせを貼りつけただけのドア。勿論視線を逸らしてはいたが床の穴も忘れてはいない。
「ついでに補修もしときましょうかね……そろそろ私も東方へ出ますし」
「……もしかして長い、のか?」
 誠一が驚いて溢し、すぐ近くでフライパンの探索に励んでいた鞍馬 真(ka5819)が一度手を止める。
「すぐというわけでもないですが。行けば当分の間はこちらには戻りませんね」
「そっか……寂しくなるな」
 素直にその言葉も零れ落ちてくる。誠一の脳裏にはきっと今までが巡っているのだろう、そういう、すぐに感情が顔に出るのだから。
「大丈夫ですよ」
 心配の声は確かに心地よく感じもするが、何もそこまでと思ったりもする。しかしそれを口にすることはない。そう言われるだろうと、エラは知っていたから。
「忙殺はされるでしょうけど。死ににいくわけじゃありませんし」
 むしろ忙しくなるほどに人手がないと聞いたから行くのだ。働くために行くのだから、そうならない方がおかしい。
「戦うわけじゃないですよ。むしろ生きるため、生かすための仕事です」
 別に戦いが嫌いという訳でもなかったが、手間は多いと思っていたかもしれない。
「畑耕して種を撒くだけです。ちょいと大掛かりですけど」
「でも、ん。時々連絡する」
 教えてくれてありがとうな、と。少し早い送り出す言葉を一緒に贈られた。

 微笑みを、少しだけ強引に貼りつけて。
(やっぱりこうなるのか)
 予想は出来ていたのだけれど、いざそうなってみるとどうしてか複雑な心境になるのはどうしてだろう。片付けに従事している皆は各自の担当場所に分かれて作業しているのだが、何かあると真の元に尋ねてくるようになってしまった。
 焼き網発見をしたあたりが多分切欠だ。誠一に聞いても“どこかにある……多分?”という不安な返答しか返ってこないが、真の場合は現物と共に置かれた説明までついて来るのである。
 そりゃあ皆真に聞くに決まっている。勿論家主が誠一である事は皆が皆、わかっているのだけれど。
「真、あれどこにやったかわかるか?」
「誠一さんまで!?」
 まさかの家主本人からの追加創作依頼である。
(しかも“アレ”じゃわかりませんって! 私は貴女の嫁か何かですか!?)
 混乱で思考放棄に近い状態の真。おかげで何かを更に失いそうな発言は声になって零れるようなことにはならなかったけれど。
「アルミホイル、余ってただろ? 使えるってんでそのまま残しておいたはずなんだけど」
「……まあ、片付けるついでですから探してみますけど」
 使いたいものなら、探さないわけにもいかないだろう。
「でも、期待しないで下さいね?」
 とか言いながらも、後でしっかり見つけたものを出してくるのが真なのである。皆、顔では頷きつつも内心では期待しているのだった。

「お掃除でそんなにゴミが出ましたか!」
 手伝いますよ、とレイレリアに訪ねれば、まだ運びきれていない箱が部屋に残っているらしい。
「なら私も運んじゃいますね! 今日も寒いですし、燃やしていいものは焚き火にしちゃいましょう!」
 勿論火加減についてはお任せだと胸を張るクレール。勿論皆が頷いて……いや、誠一が近くに居ない。
「誠一さーん!」
 運ぶ方が優先だというのもあるし、今は見えないだけで近くにいるのは間違いない。だからクレールは声を張り上げる。
「燃えちゃいけないのを救出するなら今のうちですよー!!」
「ちょっと待てなんで燃やす前提なんださっき止めたよなエラ!?」
 ドタバタとした駆け足も慌ただしく誠一の声が聞こえたけれど、なぜか姿は見えない。
「誠一さーん?」
「大丈夫そうですね」
 もう一度声をかけたクレールに、何故か隣のレイレリアからの返答。
「不要判定が出ていますので」
 更には追加の箱を持って出てくるエラが後を繋ぐ。その箱は“要”と書いてあるがいいのだろうか?
「……っ……!」
 今エラが出てきた部屋の向こう。ドアの隙間から物音がするのだけれど。“誰か、鼻すすってません?”なんてクレールもレイレリアも聞かなかった。
 誰かなんてわかりきっているので、ね?


 まずは今日の主役である芋を丁寧に洗っていく錬介。
 傷がつかないように掘ったおかげで丸洗いだけでも十分に汚れが取れている。皮まで美味しく食べる予定なのでつい口元が緩んだ。
 芋をオリーブ脂で炒めれば長く煮込む必要も減るし、何より皮に香ばしさがプラスされる。
 芋の色が透き通ってきはじめたかな、というところで薄切りの状態で持ってきた豚バラ肉を乗せていく。なるべく重ならないように広げていくと、落し蓋のようにも見えるだろう。
 味付けはシンプルに水と酒と塩。あとは全体に味が回るように、火が神まで通るように煮込むだけ。新鮮なじゃがいもの味を、その旨味が楽しめるはずだ。好みでかける為の黒胡椒を持ってきているので、あとで添えておこう。これは風味を全体につけるというより薬味の扱いなので。

 料理に使えるハーブのうち、葉の形が綺麗なものは丁寧に洗って、水気をふき取り選り分けておく。そのまま食べられる飾り用という訳だ。
 茎の部分や僅かな虫食いのある部分は、これも丁寧に洗ってから調理用として軽く干しておく。下処理は先にしておくのが美味しさのコツだ。
「では……」
 まだ未練がましく手元を見てくる誠一に視線を向けるレイレリア。その手には廃棄用の袋が下げられ、今も容赦なく不用品判定を出した品が放り込まれている。台所の大処分作業はまだ終わっていないのだ。
「収穫祭との名目です、わかっています」
 この時の副音声は“貴方もわかっている筈ですね?”ということである。
「最低限とはいえ、散らかりようにも限度はございますね?」
 これは“文句を言わせる気はありません”である。
 誠一には頷くしか方法はなく、追加された燃料と言う名の処分品を運ぶ羽目になるのだ。

 硬くなったパンをおろしてしっかり乾煎りしておく。それだけでもバターがふわりと香ばしい。少し多くなっても構わないだろうと多めに用意した真が一度首を傾げる。余ったら……あとで考えればいいだろうか。
 ジャガイモを茹でる間に玉ねぎをみじん切り。これは早々に痛めて挽肉も一緒に合わせておく。下味はシンプルに塩胡椒。
 茹で上がったジャガイモの潰し具合は迷った挙句、あえて不揃いに。量が多いこともあるけれど、これは他の皆と同じで芋そのものの味を楽しめるようにするためだ。炒めた肉と玉葱を合わせて混ぜて……食べる直前まではそのまま鍋の中に。あまり早く盛り付けると冷めてしまうと思ったからだ。

 皮ごと茹でたジャガイモを均一にスライスして、容器に敷き詰めるレイレリア。ミートソースをかけたものは上から粉チーズを。ベシャメルをかけたものは干して刻んだハーブ類を。それぞれをオーブンで焼けば二種類のポテトグラタンの出来上がりだ。
 チキンスープには玉葱と一緒に丁寧に痛めた芋を合わせてミキサーでしっかりと混ぜ合わせる。口当たりを追及して一度猿にも通してからゆっくりと温めて、味を調えればビシソワーズも完成だ。

「手が足りない分……手伝うよ」
 単純作業でもいいし、複雑なものはレシピを教えてくれればと告げる零に渡されたのは芋と包丁だった。やはり皮向きが難所の大半を占めていたのだ。
 メアリにはくし形、錬介には半分、真には薄切り、レイレリアには茹でてからスライス……それぞれ量が多いので、助かったと口々に労われる。
「……皆も。少し休憩?」
 後で飲む分の紅茶の支度とは別に、香りの良い特製ブレンドを淹れて振る舞う。片付けに奔走している皆の分は、後で淹れ直すことにしよう。
「今度は私が手伝います」
 手早くふっ手アンドチップスとポテトサラダを作り終えたメアリがお茶を運ぶ役を買って出る。
「ありがと」
 ならばと足りない分のお湯を準備しはじめて、待つ間にカップを傾ける零。
(にしても……いつも通り、だよね)
 呆れもあるけれど。同じだからこその安堵もあった。

 たくさん用意した薄切りのジャガイモは水に晒しておいたけれど、そろそろ頃合いだろうか?
 削っておいた粉チーズと、噛み応えのあるサイズに刻んでおいたベーコンと一緒にフライパンの近くへ向かう真。焼きたてが美味しいガレットは、出来れば皆の好みに合わせて作りたい。
「チーズの量と、胡椒の量……食べられる量にも合わせて作れますよ?」
 そう言えば、皆から口々に声が上がった。
(途中であっちも仕上げようか)
 平の皿はあえてコンロの近くに置いてある。鍋の中に残したままの芋たちはまだ冷めていないようだけれど……少しだけ牛乳を足してあたためれば、きっと口当たりが滑らかになる。それを平皿にしきつめて、炒ったパン粉をまぶして。オーブンで仕上げの焼き色を足して……スコップコロッケも、各自食べたい量を変えられるから丁度よい筈だ。

「焚き火もありますし、火加減調節は任せて下さいね!」
 クレールが請け負うところでレイレリアが後は焼くだけの状態にしたじゃがバターを持ってくる。軽く茹でた芋に切り込みを入れてアルミホイルで包んでみたり、ハーブと香味野菜に少しのスープを和えた物もホイルで包んである。前者はあとでバターを、後者は好みで胡椒をかければさらにおいしく食べられそうだ、
「見てると作りたくなりますね……調味料あったっけ?」
 レイレリアがもう使わないと譲ってくれたものもあるが、それだけではちょっとものたりない。視線をめぐらせるクレールは、都合よく、と言うよりもそこらにいくつもある瓶を見つめる。しかし調理器具は空いていない。
「うーん……あっ!」
 視界に入り込むのはレイレリアの持ってきたホイル焼き。そして去年たくさん持ってきたおかげでまだたくさんあるアルミホイル。一枚ずつなら薄いけれど……いけるかな?
 少しずつずらして重ねた数枚を一部折って留める。底が円形になるように徐々に壁を立ち上げて襞を丁寧におりたたみ。更に縁をしっかり固めて……即席鍋、あれである。
「ちょっとペラペラ感がありますが、一回使えれば十分です! よーし! 誠一さん! お酒貰いますね!」
「飲むのか……って、待ってそれ楽しみにしてた」
 どばどばっ!
「煮詰めて減っちゃいますもんね、これくらいはないと!」
「あぁぁあああっ!?」
「美味しいソースができますからねー!」
 余ってる野菜、追加で焼けるよう頼んでおかなくっちゃ!


「どうしてこうなった……」
 その台詞も一連の〆として定番で、皆それを聞くとつい笑みを浮かべてしまう訳だったりするのだが。
 地に崩れ落ちている誠一はそれに気づいているのだろうか。
「後の大掃除が楽になったのですから」
 素っ気ない台詞のレイレリアは知っている……と言うよりも確信しているのだ。今片付けてもまた短期間で惨状に戻ることを。だから優しい響きにはあえてしないでおく。
「簡易ですが補修もしましたし」
 エラの声は逆に穏やかだ。容赦なく箱のを断捨離下彼女は中身を知ってしまったのである。唯その行動前提の声音なので誠一にしてみればまったく慰めに聞こえない。
「あれは見逃してくれとあれほど頼んだのに……」
「せ、誠一さん、こういう時のためのお酒ですよね!?」
「丁度誠一さんの分が焼けたよ?」
 あまりのしょげっぷりに錬介が酌でもしようと立ち上がり、真がガレットを持ってくる。お酒が進むの間違いなし、チーズと胡椒たっぷりな仕上がりだ。
「うんうん、これがいつもの射光ですよね!」
 次私のお願いしまーす! と手をあげて寄っていくクレールは誠一の横を素通りだ。
「……いつも通り……」
 唖然とした声を零しながら、今日何度目になるだろうか、見慣れない誠一の様子に目を見張るメアリ。
「……そう、いつもどおり。冷やさないように、ね」
 女性陣は特に必要だろうと用意しておいたひざ掛けを渡す零。揃いの模様の暖かいそれは着製品のように見えるけれど、実はすべて零の手製だったりする。零が、それを口にすることはないけれど。
 飲みすぎ注意、はとうに伝えているから。後は見守るだけだ。


【観察日記】11月某日 晴れ (ウッドデッキの上で開催された収穫祭の写真が添付されている)

 満を持して開催した、ジャガイモの収穫。採れたてって美味いのな!
 頑張った草花の命の結晶ですからね! 当然です!
 慎重な手入れの甲斐もありますよ。じゃが〜♪
 適切な量を守ってこそ、見返りがあると、答えてくれるというものです。
 ……じゃが〜♪
 真似ばかりだったけど、形になって良かった。
 感慨深いものがありましたね。
 皆も、植物たちも元気が一番です……じゃが〜?


 自分が掘り出した芋の中でも、これぞと思ったものをいくつか。
「一食分にはなるだろ、確かこれくらいは食った……よな?」
 飲みながら食べていた時点で、正しい量を覚えているわけがない。
 それにどんな状態でも、きっとうまく調理して食べてくれることはわかっているから。
 土付きのままがいいと教えてくれた皆の言葉を守って、綺麗に洗いたいのも耐えて袋に詰めた芋を手に立ち上がる。
 カサリと、袋とは違う音がする。
 手紙になんて書けばいいかもわからないから、いつもメモに使っている紙を一枚剥がして、包んだのは朝顔の種を十数粒。
 もし、この手がまだどこかに繋がるなら。
 新たに言葉を紡ぐ寄居、これだけでいい……筈だ。
「ん、なんだーぐま、お前も一緒に行くか?」
 足元に跳ねてきた白兎を抱え上げた誠一は、まだ少し二日酔いに悩む頭を抱えて。慣れた筈の道を、ゆっくり確かめるように歩いていった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【神代 誠一/男/32歳/疾影越士/伸ばす先に、望むのは、望まれるのは】
【クレール・ディンセルフ/女/23歳/鍛機導師/見つけた先を、見失わないから、駆けて】
【エラ・“dJehuty”・ベル/女/30歳/機戦導師/遠くとも、見据えるは、未来の】
【レイレリア・リナークシス/女/20歳/魔符導士/一時だけと、見せかけて、密かに】
【浅緋 零/女/15歳/猟影越士/道の向こうを、知った今、踏み込むために】
【鞍馬 真/男/22歳/闘技狩人/微かに、けれどそこには、確かな】
【鳳城 錬介/男/19歳/聖戦導士/変化も、不変も、どちらにも】
【メアリ・ロイド/女/24歳/機導撃師/垣間見て、釣られて、自然に】
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2020年01月21日

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