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『Oasis』
鞍馬 真ka5819

「……やあ、来てくれて有難う」
「あはは、この場合文字通りこちらこそ、お招き有難う、だよ」
 呼び鈴を鳴らすと玄関から顔を出した伊佐美 透(kz0243)に、鞍馬 真(ka5819)が笑って応える。
 ふと真が、透の顔色を伺うようにしっかりと視線を向けた。透はそれを受けて、大丈夫だよ、と言いたげに苦笑する。真は頷いて、透の住むアパートへと上がっていった。
 二つの世界が行き来可能になった少し先の未来。思ったよりも法整備はきちんと進み、移住をするというのではなく一時的な来訪というのであれば、往来はかなり自由になった。
 ……とはいえ真は、転移が可能になり初めて透に会いに来た以降は、何か余程の理由が無い限り滅多にリアルブルーへは訪れない。クリムゾンウェストでやるべきと決めたことがまだまだあるからだ。つまり今日ここにこうして彼がやってきたのは『余程の理由』があった──昨日が、透が出演した舞台の千秋楽だったのだ。
 真としては、楽屋で少し挨拶出来れば良いな、くらいに弁えていた。今日こうしてゆっくり過ごせないか、と誘ったのは透の方からだ。
「疲れてるんじゃないの?」
 真としては、勿論そう確認した。
 そうして。
「……正直に言えば、明日になって疲れはかなり出ると思う。ぼんやりして不快にさせることもあるかもしれない……けど、もしそれでも良いって言ってくれるなら、君ともっと話したい」
 透の方こそ躊躇いがちにそう願い出てきて。
「……そう言ってくれるなら、嬉しいよ。うん、明日改めて会いに行く」
 そうして、今日の来訪になったわけである。

「改めて、出演おめでとう、透。昨日の舞台もすごく良かったよ! しっかり役者として歩んでるんだね」
「……有難う。うん、まだ、手探りを抜け出た感じではないけれど」
 詳しく聞けば、Web用の動画広告出演やイベント会場のデモンストレーション役などの細かい──でも「役を演じる」──仕事でつなぎながら、こうして舞台に出られる機会を掴んでいっているという。
「真の方は最近どんな様子なんだ?」
「私は……そんなに変わりは無いよ。これまで通りハンターとしてそれなりにやってる」
「……まだ忙しいのか。クリムゾンウェストもまだまだ大変そうだな」
「……い、いや、『変わらない』ってそう言う反応になるの? 確かに汚染地域の浄化なんかはもう暫く時間はかかりそうだけどさ……」
 別にそんな走り回ってる訳じゃないよ、と真は近況を細かく話し始めた。知り合いの様子を訪ねて歩き、その道中で雑魔の気配を感じては討伐したり、立ち寄った村の相談を受けたり、そうしてそのまま浄化キャンプに合流して……。
「……働き続けてるじゃないか」
「まあ、なんかその、だって、目について放っておくわけにも行かないし……」
 ただ、知り合いに会いに行って汚染地域の確認に行って、そのつもりでいたら成り行きでそうなっただけなんだよ、と真は弁明する。
 そうやって、話題は昨日の舞台の感想とその礼から始まって、自然に近況にシフトして。それから雑談に逸れていって。
 ……もっと話したい、といって、何か重大な話があるとか相談があるとかいう訳ではなかった。ただこうやって、とりとめの無い話をして。そんな話が、始めてみれば幾らでもあって。そんな時間が、ただただ心地良い。
 ソファに横に並んで座って軽食を摘みながら話し続けて。それだけであっという間に時間は過ぎていった。

「ふぁ……」
 そんな会話を途切れさせたのは、小さな欠伸の音だった。真が顔を向けると、透が気まずそうな表情を浮かべている。
「夢中で話し続けちゃったけど、やっぱり疲れてるよね」
「いや、……ごめん」
「少し、寝ても良いよ?」
「や、でも……」
「大丈夫、起きたら居ない、とかしないからさ。私もまだもう少し話したいけど、ちょっと小休止?」
 透が何に躊躇っているのかを察して、先回って提案する。そうして、何にせよ休憩を宣言するように、口を閉じてソファに凭れかかった。
 透も少し躊躇ったあと、一旦は真に倣うことにして、黙ってソファに身を沈める。
 暫く沈黙が続くとやはり疲労に勝てなかったのだろう。やがてすぅすぅと寝息が聞こえてきた。
 真はそっと、瞼の閉じられた穏やかな表情や小さく呼吸に上下する身体を見守って。
 それから、ゆっくりと室内を見回した。
 入ったときから気になってはいた。透の部屋。クリムゾンウェストで過ごしていた時の彼のそれと、雰囲気から変わっていると思っていた。物が増えている。といって散らかっている訳ではないが、『意識して増やすのを抑えている』感じが無い。調度品も、如何にも身軽な収納ケースといったものではなく、落ち着いた色合いの、しっかりした品が増えている。
 そこから感じるのは、彼が向こうの世界にいた時とは真逆の意志。『こここそが自分の居場所』『ここに残ってみせる』と、そういった。
 彼は確実に。この世界での生き方を、自分とは違う道を固め始めているのだと、そう感じた。そのことに、安堵も寂しさもあって。
 だけど。
 この部屋に入って一番に目に入るのは飾り棚だ。そこに飾られる一つに。いつかプレゼントしたメダリオンが、立てかけて、ケースに仕舞われて、大事そうに飾られてあって。
 ここは、彼の部屋。
 ここが、彼の部屋。
 でもそこに、真の居場所はちゃんとあるからなと、そう言われている気がして。
 自分はきっと、彼のように自分の在り方が定まることは無いだろう。ただ今己に出来ることを探し続けて、流れ続けて、戦い続ける。そんな自分が留まり続ける場所はきっと見つからないけど。それでもここは──寄す処にはしていいのか。
 吐息が漏れる。ここにいると、彼といるとひどく安心して……そして気付けば、真もまたふわぁ、と欠伸が溢れた。
 やはり彼も働き詰めで疲れてはいるのだ。気を抜けないから全く自覚しないだけで。
 また、横を見る。まだ起きそうにない、気持ち良さそうな寝顔。引き摺られて眠気が加速する。
(……私も少し、いいか……)
 そうして、真も目を閉じて。
 気付けば、互いに寄りかかり合うようにして二人で眠りに落ちていた。

 目が覚めたのは多分、同じくらいだったと思う。
 うぅん、伸びをして、はっとして時間を確かめて、あれ、という顔をするまで行動が一致した。
「……そんなに長く寝たわけでも無かったね」
「うん。いやなんか、すごくすっきりはしてるんだが」
「透も? 私もだよ」
 顔を見合わせて、笑う。
 実際、昼寝はダラダラと寝るより短時間のほうがスッキリする、なんて話もあるが。何というか──それ以上に、『満たしあった』ような感触があった。
 またお茶や軽食の準備をしながら、とりとめのない話を再開する。
 あまりに心地の良い、けど、特別なことをするわけでもない、そんな時間、だけど。
 きっと満たされることはない、そんな人生の中で。それでも間違いなく、幸せといえる時間で。
「それじゃあ、今日はどうも有難う」
「うん、こちらこそ」
 ……名残惜しいけど、立ち去るときは来る。
 けど。
「じゃ。これからもお互い、頑張ろうな」
「うん、また暫く会えないと思うけど……何度でも言うよ。ずっと応援してるよ!」
 互いの人生、互いの道。先行きは見えなくとも、また今を精一杯歩んでいこうと、そんな気持ちになれるのは、こんな時間があるからなのだ。







━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
凪池です。ご発注有難うございます。
あっはい。なんか筆が走りました。我ながらこの速度は久々ですね。なんかこう……余程ほのぼのに飢えてたものと思われます。毎度とても有難うございます(
今回のハイライトは『ソファで横に並んで寄っかかりあって寝る』ですね。恋愛感情無しの天然でやってるといって許される範囲のコースギリギリは何処までなんだろう。我ながら何やってんだ。
問題ありましたら申し訳ありません。
改めて、ご発注有難うございました。
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凪池 シリル クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年01月22日

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