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『白椿の明日』
ラシェル・ル・アヴィシニアla3428)&珠興 凪la3804)&ルシエラ・ル・アヴィシニアla3427)&皆月 若葉la3805

 12月、オーストリアの首都ウィーンにナイトメアの大群が侵攻。
 SALFは緊急招集したライセンサーを3隊に分けて迎撃した。1隊はVIPの身柄奪取を目論見、ウィーン支部へ殺到するナイトメアへ向かい。1隊はウィーン北西に本陣を置くエルゴマンサー・テルミナスへ向かい。そして最後の1隊はアサルトコアを駆り、ウィーン市街地に浸透した大型ナイトメアへ向かう。
 この、269機が参戦したウィーン防衛隊の内にラシェル・ル・アヴィシニア(la3428)とルシエラ・ル・アヴィシニア(la3427)との兄妹小隊【白椿】はあり、空より襲い来るスリープバードを相手取っていた。

『ラシェル!』
 スリープバードの急降下を愛機の分厚い装甲で受け止め、ルシエラが兄を呼び。
『2秒』
 小隊長でもある妹へそれだけを返したラシェルは、愛機たる高機動型をアスファルトへ一転。ロックの突進をくぐらせて膝立たせ、長弓「舞宙」よりイマジナリーアローを射放した。
 機体性能を生かすべく開発された専用弓は狙い過たずにスリープバードの翼の根元へ突き立ち、体勢を崩させる。
『2秒もいらなかったの』
 がくりと沈み込むスリープバードの首を抱え込んで投げ落としたルシエラ機は、さらにその胴を重い膝で抑え込み、ガイカクランスの穂先を突き落とした。
『なら、残った1秒は次に回すか』
 駆け戻ってこようとするロックへ弓を射込むラシェル。
 そのカバーに入りながら、ルシエラは低い声音で――
『却下だの』
 言い合う間にも、2機は前後左右へスイッチしつつ、敵を狩り続ける。彼らの後方で避難を続ける市民から、少しでもナイトメアの脅威を遠ざけるために。
『掛かって来るが良い。人も彼らの住む場所も、壊させはせぬ!』
 仁王立ち、思念式拡散波動を燃え立たせるルシエラの重装甲型。肩に担いだレヴァイアタン砲がミサイルを撃ち放ち、こちらへ目を奪われたスリープバードを爆炎と衝撃とで噴き飛ばす。
『前に同じだ。避難の邪魔はさせない……早々に退場願おうか』
 その後方から跳び出したラシェル機は、SeRo-01ラオフェンのローラーを繰って右へ左へ。惑わした敵を弓で射貫き、特殊兵装『神風―KAMIKAZE―』で貫いた。
 兄妹ならではの、細やかにして濃やかな連携……しかし。
 誘導という目的が、ふたりの挙動を縛める。進むべき先がひとつに定められていることで、どれほど手を尽くそうともパターン化は避けられず、徐々に詰まり始めていた。
「腕が2本しかないのは辛いところだな」
 額に貼りつく汗を拭い、ラシェルはうそぶく。
 他少隊と連動しているとはいえ、パターンを打破し、空を埋めるスリープバードを引き寄せ続けるには、文字通りに手が足りていない。
『それでもやるしかないの』
 返ってきた妹の言葉はまったくの正論だ。そう、やるしかない。
「俺が引きつける。ぶっ飛ばしてやれ」
 ダメージの深いルシエラ機を守るため、ラシェルは言い置いて前へ出た。
『ラシェルごとかの?』
 追ってきた軽口へは生真面目な顔で。
「そのときはためらうなよ」

 共に攻撃型へ搭乗してバディを組んだ皆月 若葉(la3805)と珠興 凪(la3804)は、スリープバードの動きが不自然に偏っていることを見、そちらへ向かっていた。
『やっぱりだ。誘導してる人たちがいる』
 凪の通信に若葉はうなずき、戦況を確かめる。複数の小隊が連動し、空の敵を避難民の流れから遠ざけているようだが、数の差で押し込まれている上に陸戦型ナイトメアの突撃までも受け、その作戦は今にも崩壊しそうな有様だ。
『行こう、凪!』
 地上よりアサルトコア陣へ襲いかかる敵群を特殊兵装『プラズマシューター』で突き抜いた若葉は、愛機をさらに前へ。
『ここからは僕たちが相手だ』
 若葉機の左を守って踏み出した凪機は、ファングブーストを乗せたハルバード「ファールバウティ」のフルスイングでロックを揺らがせ、若葉の追撃を呼び込んだ。
『下は俺たちが支える! 上に集中して!』
 ロックの装甲の亀裂をマインゴーシュACで抉った若葉は誘導班へ告げておいて、敵群の奥へ肩を割り込ませていく。乱戦でもっとも恐ろしいのは死角からのスナイプだ。
 かき分け、蹴飛ばし、押し退け、敵の後陣にあるレールワームまで辿り着いた凪は、そのレーザー発射口が開くより早く、ストームファングの刃を突き込んだ。
 臓腑を薄い表皮ごと抉られたワームは悶えながら、それでもレーザーを吐こうとするが。
『させないよ』
 凪が撃ち込んだベヒモス砲のミサイルに打ち据えられ、爆炎に焼かれて引きちぎられた。
 その爆炎をカーテンに機体を巡らせた若葉機は、換装したア・ドライグ・ゴッホW964のフルオート射撃で横薙ぎ、凪機へ向かおうとしたロックを弾く。
 ロックが揺らぐ中、凪機はハルバードを振り上げていた。あとは縦一文字に振り下ろすだけの簡単なお仕事だ。
 銃弾と斧刃が空へ描いた十文字。その残像が消えた後に残るものは、ナイトメアの骸ばかりである。

「流れるような連携だな」
 スリープバードへ対する中で、思わず目を奪われかけるラシェル。名も知らぬライセンサーふたりだが、その連携は自分たち兄妹にも劣らぬ冴えを魅せる。加えて。
『声も似ている気がするのだけど――とにかく、私たちとも相性がよさそうだの』
 兄の思いをルシエラが言葉にして表わした。
 わずか20秒の共闘でわかったようなことを言えるはずもないが、不思議なほど信じられるのだ。あのふたりは、俺たちに合う。
 出会いとはそういうものなのかもしれない。そんなことを思いながら、ラシェルは操縦桿を押し込んだ。
「あの2機に合わせるぞ」
『了解』
 妹は答えるより先に動き出していて……兄としては苦笑するよりなかった。

 2機と2機は4機となり、互いにカバーし合って敵へとあたる。
『撃つの!』
 ルシエラのミサイルがスリープバードの急降下を突き上げて阻み。
『支えるよ』
 その胴へ鎌を喰らわせようとしたマンティスの足を凪がハルバードで引っかけて払い、斧刃を振り下ろした。
『ありがたい』
 同胞の骸に足止めされたロックがたたらを踏めば、その間に狙いを定めたラシェルがスリープバードを射貫いて仕留め。
『おっと!』
 ついに骸を踏み越えてきたロックへ、ルシエラ機のかがめた背の上を転がって跳びだした若葉機がその装甲の隙間に銃弾をねじり込んだ。
『前進だの!』
 地へ転がったロックをサッカーボールキックで蹴散らしたルシエラ機が進み、機体を据えれば、他の3機はそれを軸に展開、空と地とへ連携攻撃をばらまいていく。――深く根を張る樹が枝葉を伸べ、風を巻き取るがごとくに。
 誰が言い出したわけでもないのに、最初の10秒で戦術は定まっていた。だからこそ申し合わせる必要もないままに4機は為すべきを成し、作戦を完遂させたのだ。


 撤収作業が進む中、アサルトコアを降りた4人は素顔を合わせる。
「……」
 ラシェルは若葉と凪を前に言葉を詰めた。
 あまりに似ていたからだ。彼の故郷たる世界の叔父たちに。いや、年齢はこのふたりのほうが遙かに若いのだから、そら似でしかないのだろうが……それにしてもだ。ふたりの胸元に光るブルーサファイヤをあしらったシルバーリングは、まさに叔父たちがつけていたものと同じデザインで、どうしてもそら似には思えない。
「お疲れ様。俺は皆月 若葉――って、どうかした?」
 かぶりを振って否定を示すと同時にとまどいを振り落とし、ラシェルは応えた。
「いや。ラシェル・ル・アヴィシニアだ。それからこっちは妹のルシエラ・ル・アヴィシニア」
「よろしくの!」
 右手で若葉、左手で凪と思いきりの握手をするルシエラ。
 こういうときは妹の天真がうらやましい。彼女はなにかに捕らわれることなく、すべてをありのままに受け容れる。
 握手されながら凪はふわりと笑み。
「珠興 凪です。誘導が成功してなによりでした」
「若葉と凪か。ふたりが来てくれなければ、誘導はともかく俺とルシは危なかった。感謝する」
 ラシェルの角張った言葉にルシエラはむぅ、顔を顰める。
「顔にもっと感謝を表わすの」
 兄に言っておいて、彼女は若葉と凪へ笑みを向けた。
「私は残念ながら未成年だから、お礼にカフェでウィンナコーヒーを一杯奢らせてもらうの」
 ふたりは顔を見合わせ、そして。
「えっと、ルシエラさん? それはありがたいけど……さすがにカフェは開いてないんじゃない?」
「あ」
 戦いが終わったとはいえ、カフェの店主も今は避難所にいるはず。若葉に指摘されてルシエラは言葉を失った。
 それに代わり、ラシェルが親指でアサルトコアの回収にあたるキャリアーを示す。
「キャリアーならコーヒーくらいは飲めるだろう。礼はあらためてさせてもらうが、その、な。もう少し話がしたいんだ。付き合ってくれるか?」
 いつにないラシェルの歯切れ悪いセリフ回しへ、ルシエラは疑問を浮かべたりしなかった。彼女もまた、初めて会うこのふたりになんとない別れがたさを感じていたから。
「私が砂糖を入れるの。もちろん、かき混ぜるのもだの」
 兄妹の言葉を聞いた凪は目線で若葉と申し合わせ、ほろりとうなずいた。
「喜んで」
 理由知れず別れがたいのは、彼らも同じことだ。

 愛機を収めたキャリアーのカーゴ。その片隅に輪を為した4人は、気持ちだけはウィンナでと、クリームをたっぷり加えたコーヒーの紙コップの縁をこそりと合わせた。
「乾杯するには熱過ぎるな」
「豆が酸化してて味もよくないけど」
 若葉の苦笑に凪が苦笑を重ねる。互いに深く通い合った有り様がまた叔父たちを思い起こさせ、なんともまぶしい。
 誘ったはいいがなにをどう話したものかと悩んでいたラシェルは、ゆるくすがめた目線をふたりへ向けて。
「若葉と凪は、俺やルシがよく知っている人と似ている。だからこその親近感はあるんだが……それだけじゃない」
 言葉を切った兄の後をルシエラが継いだ。
「それはもうよく似ていてびっくりしてしまったの。でも、別人だってことはちゃんとわかってるから、ふたりもそこは気にしないで聞いてほしいの」
 そして彼女は背筋を伸ばして姿勢を正す。ああ、この凜然もまた、俺にはないものだな。そんなラシェルの感慨に背を押されるように、切り出した。
「4人なら、ふたりとふたりよりもっとたくさんの人を守って救えるの」
 若葉と凪は先の戦いを思い出す。
 ただのひと言がその後の展開をもれなく伝え、それを相手がなぞることを確信すればこそ、自らも己のひと言をなぞり切ることができる。以心伝心、阿吽の呼吸、言い様は多々あれど、むしろそんな言葉で縛りたくないほど自然に、4人は“ひとつ”だった。
「誰かを守って救う。僕と若葉も、その思いがあるから戦場へ立つんです」
 凪の言葉に若葉が添える。
「俺はそこにいる誰かの今日とか明日、ちっちゃな幸せを守りたい。今まで凪とふたりでがんばってきたつもりだけど……」
 それを聞いたルシエラはラシェルを返り見ることなく、強くうなずいて。
「私たちの小隊【白椿】で、同じ先を目ざさぬか?」
 妹の意はまさにラシェルの意だった。ゆえにラシェルはそれ以上の言葉を加えることなく、答を待つ。
 対して凪と若葉は答えるより早く、そろって手を伸べる。答など、問われる前から決まっていた。
「ルシエラさんとラシェルさんがいてくれたら、俺の手はもっと遠くまで届く。だから、あらためてよろしく!」
「よろしくお願いします、隊長。ラシェルさん」
 コーヒーはまるで冷めていなかったから乾杯はできなかったが、それでいい。この出会い、あっさり終わらせてしまってはあまりに惜しかったから。


 戦場より戻った【白椿】は、アヴィシニア家のリビングにて新隊員の歓迎会を実施する。
 たとえ言わずとも伝わるのだとしても、4人ともきちんと言って伝えたいことがあった。
「【白椿】はふたりを歓迎するの。これからよろしくの」
 隊長らしくルシエラが音頭をとり、他の3人にグラスを掲げるよう指示を送る。
 未成年を含んでいることもあるが、同じものを分け合いたいことから全員がライムを浮かべた炭酸水である。
「若葉と凪の入隊を祝して、乾杯!」
 ルシエラが前へ押し出したグラスの縁に3つの縁が合わさって、澄んだ音をたてた。やはり乾杯とはこうでなければな。そう思ったのはラシェルばかりではないだろう。
 そして柑橘の香をまとった炭酸が等しく4人の舌に弾けた。
「いざとなるとなにを言えばいいのかわからないが、ふたりといっしょにやれることがなによりうれしい。よろしく頼む」
 ラシェルの笑みに若葉の笑みが重なり。
「正直、凪以外にいないと思ってた。俺を俺のまま、思いっきりやらせてくれる人はさ。ラシェルとルシエラは、俺にとって最高の特別だ」
 と、ふたつの笑みに凪もまた笑みを併せて。
「うん。僕も、あんなに通じ合える人が若葉以外にいるなんて思わなかった。ルシエラとラシェルは僕にとっても最高の特別だよ」
 ふたりとも話しかたが変わった。初めて会ったときよりもくだけて自然な、心を添わせるように気負いも気取りもない言葉を差し出してくる。
 そうだ。俺たちは、ふたりとふたりじゃなく、4人になったんだ。若葉も凪も、それを言葉で示してくれている。
 ラシェルは魂に染み入るふたりの声音を味わうように目を閉じた。
「しみじみしている場合かの! 話したいことも聞きたいこともたくさんあるし、食べなきゃいけないものも飲まなきゃいけないものも同じくらいあるのだからの!」
 3つの笑みへ自らの笑みを割り込ませたルシエラが急かし、会は一気に加速する。

 それから4人はいろいろなことを話し、聞き、うなずきを交わした。
 言いたくないことや言うべきでないことを口にする必要はない。問い質す者も、ない。それを察し合えることがなんとも心地よく、だから気づかわずに言葉を重ねられることがうれしい。
「でも、一回くらい会ってみたいな。ふたりの叔父さんって人たちにさ」
 若葉が胸に下げた指輪を見下ろした。次の世も共に在ることを誓い合った凪とそろいの石は、灯光を映して青く輝く。
「円熟とはあのふたりのためにある言葉だの。あれを見てしまうと、自分が同じように結べる相手は見つからないだろうと、あきらめてしまう」
 肩をすくめるルシエラにラシェルが苦笑を向け、「ある意味で自分の両親よりも手本ではあるな」。
「僕たちもふたりがそう思ってくれるくらいになりたいなぁ」
 言いながら凪は立ち上がり、手土産と共に持ってきていたバッグからそれを取り出した。
「えっと、招待してもらったお礼と、この前のコーヒーがちょっと残念だったリベンジを兼ねて」
 テーブルに並べられたのは、コーヒーミルと真空パックにされたコーヒー豆、軟水を詰めた水筒、そしてサイフォンセット。
 凪が居心地のいい喫茶店を営む夢を持っていて、若葉もそのために尽力していることは聞いた。しかし、コーヒーの仇をコーヒーで取ろうとは……すでに人となりは理解していたつもりだが、さすがに早計だったようだ。
「味わいはネルドリップのほうが引き出しやすいんだけど、今日は目でも楽しんでもらいたくて」
 若葉の挽いた豆をサイフォンの漏斗に移し、凪は下へ繋いだフラスコの水をアルコールランプで熱していく。ぞんざいにこなしているように見えてまるでそうではない、熟達ゆえに為し得る適切なる当然――適当であることを、王子、王女として本物に触れてきたラシェルとルシエラは察していた。
 沸騰した湯が漏斗を遡り、豆を潤す。凪が煮出し具合を計って火を落とせば、今度は漏斗を辿ってコーヒーがフラスコへ落ちてきた。
 こうして、まさに目でも楽しませてくれたコーヒーが、若葉の用意したカップへ注がれる。
「飲む前からもうおいしいの」
 芳香まとう湯気を深く吸い込んで、ルシエラがため息をついた。
「すでに十二分の味だが、これを越えるものを常に飲める店なら迷わず入り浸るぞ」
 コーヒーを味わったラシェルは深くうなずく。えぐみの一切ない深みの純然は、豆のひと粒ひと粒を吟味し、最高の苦みを引き出す焙煎をしていればこそ。
 満足げな兄妹の様を見やり、やわらかな笑みを交わす凪と若葉だった。

 ゆっくりと流れ行く時間が一点に到達すれば、決戦の幕は切って落とされるだろう。
 しかし、4人に恐れるものはなにもなかった。心ひりつく戦場もなんでもない日常も、心やすく分かち合える誰かがとなりにあるのだから。
 果たして【白椿】は、新たなる絆によって得た枝葉をしなやかに、大きく伸べて、明日という日に白き花弁を開かせるのだ。


イベントノベル(パーティ) -
電気石八生 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年01月27日

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