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『新しい年を、共に歩む喜びを』
ユリア・スメラギla0717)&霜月 愁la0034

病める日も健やかなる時も。
穏やかな時間を共に過ごすことのできる、愛する人がいるという喜びを。


「ハッピーニューイヤー、愁君♪ 今年もよろしくね!」
「はい、よろしくお願いします。ユリアさん」
それは年末年始のこと。節目の時を、ユリア・スメラギ(la0717)と霜月 愁(la0034)は共に過ごしていた。
普段ライセンサーとして、厳しい戦線へ赴くことも多い二人だ。穏やかな、二人でいられる時間を噛みしめるように味わう。
ダーク・ラムを落としたホットミルクを二人分。マグカップの一つを愁の方へそっと置いて、何気なく切り出したのはユリアの方だ。
「新年は実家で、あたしのパパやママと過ごすつもりなの。愁君も一緒に来ない?」
マグを取りながら愁は目を瞬かせた。しかし返答は早く、迷いもない。
「は、はい! 是非ご一緒したいです!」
ユリアがその両親と仲良くやれている様子は、心の底から嬉しく思っている。
また、こうも華々しく見えて、ユリアが細やかな気遣いの上手い女性であることも知っている。今何気なく口にした様子であっても、念入りにいろいろ考えてくれた結果なのであろう。
「良かったわ。パパもママも、度々メールで愁君の顔が見たいって言うのよねー」
困ったように笑いながら、ユリアが隣へ腰かける。両親が優しく気の良い人達であることに自信は持てるものの、優しさ故の強引さは如何ともし難い。
「実家に挨拶、か……。緊張するなあ……」
マグから昇る白い湯気へ目を細めつつ、嬉しさと不安を綯交ぜにした声をぽつりと落とす。



かくして。SALFを発ち、二人はユリアへの実家へと赴いた。
愁が最初に目を見開いたのは、溢れんばかりの花、花、花だ。
ユリアの実家は花屋である。故にか、家には季節の花が多くあった。
華々しくもどこか素朴で、どこか気品のある芳香が漂う。ユリアもまた、花のような女性だ。不思議と納得するような感覚があった。
ユリアの両親は愁の姿を見て、少し驚いたような顔をした。――が、それも一瞬のことだ。

結論から言うと、愁の訪問は大いに歓迎された。新年ということもありテーブルから零れそうなほどのご馳走と、笑顔を以て。
ユリアはあまり両親へ深く話をしていなかったのかもしれない。随分と根掘り葉掘り聞かれてしまったが、それすらも親愛の情が込められたものだとわかった。
「もう! パパもママも聞きすぎ! 愁君が困っているでしょ」
形の良い眉を少しだけ釣り上げて言うユリアは、いつもより少しだけ幼いようにも見える。
愁には既に家族と呼べるものが無い。故に、彼にとってこのくすぐったさはとても新鮮なものだった。
空っぽの器を満たしていくような、不思議な気持ちに目を細める。微笑ましい、などというのはきっとこういうことを言うのだろう。


平和で賑やかな時間というものは、得てしてあっという間に過ぎるものだ。
日も落ちれば会合もひと段落。そこで、ユリアはそっと抜け出して別室へ向かった。
「――あけましておめでとう。今日は、彼氏も一緒よ。驚いた?」
誰もいない静かな部屋で、そっと手に取ったのはフォトフレームだ。中に入った写真は幾分古いものだとわかる程度には褪せているが、埃一つ乗ってはいない。
ユリアはそれを優しく、愛おしげに撫でた。写真の中の笑顔を見ると、いつだって彼の声が聞こえるような気がする。
「……? ユリアさん――、あっ」
ちょうどその姿を見かけた愁が、そこで足を止めた。声に振り返ったユリアは、そんな愁に向けてちょいちょいと手招きをする。
近付いた愁が覗いた写真の面影は、愁本人にあまりにもそっくりで。話は聞いていたものの、はっと息を呑む。ユリアは優しく笑い、口を開いた。
「最初に愁君に会った時、パパもママも驚いていたでしょ? 似ているのよね、すごく」
「そうなんですね。……とても良いご両親です。僕のことも歓迎してくれて嬉しかったですよ」
あの、仲睦まじい様子を思い出す。此処に来るまで一抹胸にあった不安も、今はまったく残っていない。
「二人ともあたし達の交際関係を興味津々に聞きまくったり、親バカなところもあるけど……基本的にはいい人達よ?」
うんうん、とユリアは頷いた。まあ、あの矢継ぎ早に質問されまくるのは流石に困ってしまったけど。
「似ていてとても驚いたけど、愁君のことを愁君として知りたかったんだと思うわ。よく似ているから、余計に」
ユリアの持つ写真の少年は、彼女の最愛の弟だ。そしてこの世にはもういない。かつてはライセンサーとして戦い、殉職をした。
その時に感じた、ナイトメアへのあの胸を焼くような憎悪。ユリアとて忘れたわけではない。きっと両親だって同じだろう。
自身もライセンサーになるのだと言い、それを止めたがった両親とは喧嘩もした。
けれどそれも、時が経ち、愁という人に出会い、今は少しずつ良い方向へ歩き始められている。
「パパとママ、愁君のことをとても気に入ってくれて。愁君へ、自分達をもう一組の親のように思って欲しいって……」
「え――」
静かなユリアの言葉に、愁は目を見開く。沈黙からの静寂に、ユリアは慌ててかぶりを振った。
「無理にとは言わないのよ! 驚くわよね、突然こんなことを言って」
「いえ! ――いえ。僕も驚いてしまって、嫌というわけではなくて」
心なしか早口になる愁の脳裏に浮かぶのは、楽しそうな笑顔。笑い合う声。あの中に自分も入って良いのだろうか。漠然とした感慨がそこにあった。
「……すごい、ことだと思います」
「そうね、グレイトだわ。それにとても素敵よ」
おずおずと口にする愁に、ユリアは微笑む。少しずつ歩いていける――彼とならきっと。
(だから、ね。この一年も、あたし達を見守って頂戴)
優しい視線を写真へと落とす。そこに切り取られた時を生きる少年は、確かに姉へ笑いかけた。



新年の空気はやはりどこか新しさを感じる。まだ冷たい風が吹くと、白い息が解けていった。
どこか長閑な時間をそれでも人が多く行き交うのは、ここが神社であるからだろう。初詣に訪れる人々は、この時勢においてもとても多い。
愁はシンプルだが上品な紺の着物姿で、手袋の両手を擦り合わせた。
目の前を子供が駆けていく。その後ろを離れすぎずに、両親であろう男女が朗らかに笑い追いかけるのを、眺めて。
(平和だ……)
じんわりと温かいものを胸に感じる。自分は少しでも、この世界を守る為に頑張れただろうか、なんて思考を巡らせていると。
「ハァイ、愁君。待たせちゃったかしら?」
ユリアの声に笑って振り返り、そこで思考は停止した。
「あ、あ、あの、ユリア、さん……!」
派手過ぎず上品な色合いに花の刺繍があしらわれた、美しい振り袖姿。胸元や背中は大胆なデザインになっており、全体的なシルエットも華美すぎないながら美しいラインが隠れないものになっている。モデルとしても活躍するユリア本人の美しさも相俟って、それはまるで芸術品の如く。
周囲の人の視線を一身に受け、ユリアは毅然とそこに立っていた。
「ど、どこか変かしら……! これ、ショップの方に勧めて貰ったのだけど」
大層楽しそうに振袖を勧めてくれたレンタルショップの女性を思い出すユリアに、愁は慌てて両の手を振った。
「いいいいいえ! とても……とても綺麗です。ユリアさん」
顔を真っ赤にするのは寒さからか、それとも。
「それなら問題ないわね。行きましょ♪ 愁君」
ぐい、と腕を掴んで、上機嫌にユリアが歩き出す。「わ、わ」と声を零し、腕を引かれるままに愁も続いた。

手水から二礼二拍手一礼。一つ一つの所作を丁寧にやることで、心まで洗われるような心持となる。
少しばかり厳かな気持ちで鈴を鳴らし、二人は並んで参拝をした。
(今年は、愁君と更に親密な恋愛関係になれますように……なんてね)
ユリアがちらりと隣へ視線を向ければ、愁もまた手を合わせ何かを願っている最中である。
(ユリアさんを守れるくらいに強く、強くなりたい)
というのは願いではない。彼にとってこれは、決意の表明。
ユリアはとても強い人だ。精神性もだし、それ以外も――ライセンサーとして、間違いなく最前線を戦える優秀な人材。
だからこそ。叶えてもらうのではなく、自分がやらなければならない。自分でありたい。強い彼女もまた、強いだけの女性ではないと知っているのだから。
そうして手を打ち、真っ直ぐに前を見据える愁を見て、ユリアは少し頬を紅潮させる。
彼はとても可愛らしく、美しい人だ。優しくて、それでいて強い。先程のように照れたり赤くなったりするかと思えば、こうも真っ直ぐに誠実な目をするのだ。
(……もう、格好良いんだから!)
だからこそ、ユリアは彼の手を強く引く。
「愁君、こっちこっち♪」
早く行きましょ、と御籤箱のある方を指さして。少し驚いたように頷く愁の顔は、もう元の優しい少年のものに戻っていた。

二人で御籤を引き、甘酒を貰う。寒い屋外で飲むあつあつの甘酒は、鼻を通る香りも良く大変に美味だ。
「愁君はどうだった? あたしは――」
折り畳まれた紙を開くと、大吉の文字。ふふ、と花のように笑うのを見て、つられるように愁も頬を緩ませた。
「『恋愛:良い』ですって。願事も思うままに勝てる……」
「僕も大吉ですよ。お揃いですね」
今年も幸先が良さそうだと、顔を見合わせて微笑む。穏やかな時間がこんなにも楽しいのは、やっぱり。
(二人でいるから、なのよね)
微かに当たる肩の感触に、少し照れたように愁は顔を俯かせた。それでも距離をおくことはしない。
今この時をしっかりと感じておきたい、そんな気持ちが胸にあった。だから。
「ユリアさん。折角ですからお守りもお揃いにしませんか?」
今度は愁が立ち上がり、言った。初詣に訪れる人の数も、少し増えた気がした。



「それじゃ……またね、パパとママ」
短くも濃密な休暇を過ごし、二人は揃ってユリアの実家を後にした。
このままSALFへと戻ればまた、厳しい戦線の日々が始まるのだ。無論、それは二人が望んだことでもある。
飛行場へと続く道の途中で、ユリアはふと立ち止まった。
「あの、愁君」
ひときわ強く、ぐいっと腕を手繰り寄せる。顔を寄せられて、突然のことに愁は言葉を詰まらせた。煌びやかな絹のような髪に、長い睫毛が見える。綺麗なひと――そう、いつも目を奪われてばかりだ。思わず胸が高鳴るのを抑える愁へ、ユリアは少し神妙な顔で口を開いた。
「過酷な戦いが続くけど……だからこそ、愛に心が安らぐわ」
あなたのおかげなのだと、改めて思ったのだ。ここに居られるのは。こうして穏やかな日々を過ごすことが出来るのは、共に歩ける人がいたから。
だから、言っておかねばならないと思った。
そのしっかりとした言葉に目を瞬かせ、柔らかな髪を揺らし愁は頷く。優しい少年の、けれどもそれだけではない強いまなざしで。
「ええ。今年もいろいろあると思いますが、僕達ならきっと、二人で乗り越えられますよね」
「オフコース!」
嬉しそうに表情を輝かすユリアは、さらに腕を引っ張って――まるで唇が触れそうなほどに近く、愁を抱きしめて。
「今年も一緒に頑張りましょ、愁君」
「え、あ、――はいっ……!」
ぶわわと頬を赤くする少年。仲睦まじそうな二人は、そうしてまた歩き始める。

辛いこともあった。悲しいことも、憎しみ深い思いも、確かにあった。
けれども愛しているから、歩いていける。隣を行くこの人は、何度だってこの世界が美しいことを教えてくれるから。


【了】



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
遅くなってしまい大変申し訳ありません……!
仲睦まじいお二人の様子が大変微笑ましく、応援したい気持ちで書かせていただきました。
お強いのにとても可愛らしいユリアさんに、可愛らしいのに強い信念をお持ちの愁さん。
お二人の、お二人で歩く道がどうか幸せであることを祈ります。

解釈違いなどありましたら、リテイクはどうかお気軽にお申し付けください。
素敵な発注をありがとうございました!!
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夏八木ヒロ クリエイターズルームへ
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2020年01月31日

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