▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『待ち人が一応動ける様になった後の話。』
黒・冥月2778

 動けたはいいが、黒冥月(2778)にしてみれば別の疑問もある事はある。

 何の話かと言えば、件の博士作になる「ノインの新しい体として使えそうな木偶」へと実際ノイン当人の魂に憑依して貰った後の事――つまり今のノインの実際的な運動機能の話になる。
 動かすに当たり「体の隅々まで意識して操る」と言う遣り方をして初めてまともに動けたと言うその状況。ただ動く――それだけの為にそこまでする必要があるのなら。

 無意識や反射で行うだろう行動については、反応が遅れると言う事にならないか?

「……戦闘でそれは致命的になりかねんが」
「どうでしょう。取り敢えず、同じ遣り方をしていた霊鬼兵だった頃にそういった不都合が起きた事は無いですが……」
「なら、それで無意識や反射に値する反応速度で動ける訳か?」
「それは……あ、さっき糸繰って言い方しましたが、それこそ糸で「動かす部位」を直接操って動かしている感じなので、知覚してから脳や神経を経由して筋肉に動かす命令を――みたいなタイムラグは無いんです。なので知覚さえ出来れば――そこから動くまでには反射並みの反応速度が出せる事だけは言えます」

 つまり、本当に操り人形みたいな状況とでも言う事か。

「ふむ。……まぁ、体に聞けばはっきりするか。だがそれで戦闘の方は間に合ったとしても、それもそれで一般人の動きとしては違和感が出そうだな?」
「……でしょうか」
「握力計を握り潰して手を痛めた時に自己修復しただろう。あの件も合わせれば余計にな」

 自己修復――ノインが取り敢えず動けるとわかってから、一通り運動機能の測定をした時のちょっとした事故で判明した事である。あれは見られたら最後言い訳のしようが無い。全くあの博士は。妙な機能を持たせおって……これでは一般人としての生活に支障が出るぞ。

「……すみません」
「お前が謝っても詮無い話だ。便利だが使わず済む様にしろ」
「そう、ですね」

 ノインは素直に肯じる。何の代償も無い能力とは思えん――ノインの方でもその位は察しているか。どういう理屈でそうなっているのかはこれまたわからんが、「それ」を使う事で体の寿命を縮めたり他者から生命力を奪う様な事にでもなっては意味が無い。本末転倒だ。

 ……深読みかもしれんが、これら余計な能力については「聞きに来い」との博士からのメッセージじゃないだろうなとさえ疑いたくなる。もしそうなら面倒臭い事この上無い。



 懸念は尽きないが、どれも今ここで考えていてどうこうなる事じゃない。ならそこの解決は後回し。
 さて、本番と行くか。

 そう改めてノインに声を掛け、軽く組手を始める。声だけは掛けたが、それ以上態勢を整える間は与えない。す、と冥月はノインに一気に肉薄、試す様に掌打を繰り出し肘に繋げ、拳も織り交ぜ連続で撃ち込む――冥月のそれら一つ一つを往なしては躱し、ノインはするりと反撃も入れて来た。勿論冥月側でもその反撃を往なし、躱してはまた反撃に繋げる――少しずつ打つ位置も変え、足の方も織り交ぜ複雑に。徐々に速度も上げて行く――それでもノインは合わせて来る。……ここまで合わせて来れるだけの反応速度と技量はあるらしい。

 そろそろ、あの二人――エヴァ・ペルマネント(NPCA017)と草間零(NPCA016)にも本当に伝えておくか。



 一度影内から帰しておいたエヴァと零に、再び連絡だけは入れておく。待つ間にもノインとの組手を続ける――まぁ、現時点で取り敢えずの及第点はやれるとしても、何処に落とし穴があるかわからん以上は色々試しておいた方が良かろうと言う事だ――と、来たか。
 こちらの連絡に答える形で影外にエヴァと零が来ている。さて、では影内に呼ぶか――……

 ……――いや。
 ちょっとからかってやるか。「落とし穴」を探す一手段にもなるし。

 思いつつ、わざと体勢を崩す。反撃でノインがこちらに強く打ち掛かって来た所――その位の反撃になる様、事前に攻撃の重さを加減した。これで私の方が崩れれば、ちょうどノインに私が押し倒されている形になる。
 そしてその状況が現実になろうかと言う所で。

 エヴァと零を影内に招き入れた。

「は?」
「え?」

 当然、その「状況」を目の当たりにする訳である。

「まずい、見られてしまったぞ」
「……って、え?」

 余計な一言を付け加え、意味ありげにノインをちらと見てから、エヴァと零の二人に視線を流す。
 途端。

「何 や っ て ん の よ ユ ー ! !」
「って、てて、の、の、ノインさん何をっ!?」
「いや、何って……二人とも?」
「全く。来て早々賑やかだな。体を馴染ませる訓練中だ、邪魔するな」
「っ――か、体を馴染ませるって何をどう馴染ませてるのよっ」
「見た通りだ」
「済みません冥月さん、重いですよね」
「いや? ちゃんとこちらに体重が掛からん様に気を遣えているじゃないか」
「なら良かったんですが……」
「良 く な い わ よ っ ! !」
「!?」

 エヴァの大音声にびくりと体を起こすノイン。ただその起こし方からして、あまり後ろめたさは感じ取れない。……どうもこちらは気にしてもいないか。まぁいい。
 私の方も体を起こす。

「何だ。自分がしたいのか、エヴァ」
「〜〜〜!!」
「えっと……今はまだ冥月さんとの方がいいと思うんだけど」

 組手をするのは――と、ノインはそのつもりの科白なんだろうが。
 言われた途端、がんっ、と傷付いた様に青くなる零とエヴァの貌。

「あ……そうですね、冥月さんの方が……はい」
「……こいつの方が……こいつの方がいい……?」
「二人には心配掛けたくないから……ってあれ? 二人とも?」

 寧ろ心配事てんこ盛りの様子に見えるな。

「気にするな。お前が確り戻れば治る。続けるぞ」
「あ、はい」
「続け……!?」
「って、ちょっとっ!!」

 制止する声を無視して、組手再開。何を「続け」ているのか――それを見た時点でエヴァと零の方からも安堵の空気が流れて来た。つまり今の体勢は単なるアクシデントだったのだと理解したのだろう。

 まぁ、それはそうなのだが――それだけで済ますのもな?



 二人の前で、組手続行。ノインの動き自体はそろそろ問題を感じない――危なげの無い丁々発止を暫く続け、油断をさせておいてから――軽く仕掛けて押し倒し、ごく自然に寝技に持ち込んだ。腕と首を取り関節を締め付け極めに入る――その過程で当然の如く体は密着、逃れようと動くのを押さえ付けているのも、見ようによっては居た堪れなかろう。試しに僅か緩めてみれば、すかさず形勢も変わる。ふむ。この緩みを衝けるだけの技量もあるか――なら、と更に返し技でぎりぎりと締め返し、今度こそ相手が降参したと見た所で解放する。当然の様に相手の体からは力が抜けている。それで落ち着く先は、こちらの胸の上。
 つまり、胸に顔を埋める形になる。

 それらの状況にいちいち動揺しては騒ぐ小娘二人。
 流石にここまで来ればノインの方でも気が付いてはいるか。

「……えーとこれ冥月さんわざとですよね?」
「黙ってろ。お前らには自覚が足りなさ過ぎるからやってる」
「自覚、ですか?」
「ほらな。少しは慌てて見せろ」
「えー……と、充分慌ててますけれど体が動かないので退けません……っ!」

 ふむ。まぁ、感情の表出は人それぞれか。
 ひとまず「この手の事」にまで頭が回る程余裕が出て来たなら上々だろうが。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 黒冥月様にはいつも御世話になっております。
 今回も続きの発注有難う御座いました。

 前回の後半部分、お任せ頂けまして感謝です。お待たせしました。
 あと予想外れたとの件もお騒がせ致しました。
 ……因みに、冥月様の方から「すぐ動けない可能性」を出された時に「この場合それ当て嵌まりそうだな」と思ってそうなったと言う面もあったりするんですが、実は(苦笑)

 と、今回はこんなところになりますが、如何だったでしょうか。
 結局終盤は駆け足になってしまった気もしたり、特段ヒキも無い終わり方になってしまったりもしてますが、少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、次はおまけノベルで。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年02月04日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.