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『新たな年に、重なる想いを胸に』
神取 アウィンla3388)&神取 冬呼la3621

想いは胸に密やかに、されども巡る。
交わることは無くとも、あり続ければ良いと言い聞かせて。





年の始めともなれば、長閑な時の流れであれどどこか気の引き締まる思いがある。
暖房を入れ温かくしたマンションの一室。神取 冬呼(la3621)は段取りよく手慣れた様子で、アウィン・ノルデン(la3388)の着物を着つけていた。
「折角のハレの日だからね」
帯を結んでやると軽くぺしりと背を叩き、ムフーと得意げな顔で頷く。姿見に映るアウィンの姿は実に様になっていた。
「いやあ、借りものの袷一式だけどね、似合うだろうと思っていたんだよ。背丈もぴったりだし」
その様子にアウィンは微笑ましく笑い、そして自分の姿を改めて見た。彼女が祖父から借り受けたという明灰の西陣織は、シンプルだが質が良く洗練されたものだ。
「流石、冬呼殿は手慣れたものだ」
何度か着たが、まだ一人で着るのは無理だな、とアウィンは独り言ちる。着物という民族衣装は雰囲気の良い正装であるが、正装ゆえにそう簡単に着てしまえるものでは無い。
この機会にきちんとやり方を覚えておこうとてきぱきと着付けを進める冬呼の手元を見ていたが、やはり如何してなかなか自分で出来る気はしなかった。かっちりと崩れにくく、それでいて苦しくはない塩梅は、彼女が丁寧によく考えて着せてくれたからだろう。
「まあねえ、たまたまやる機会も多かったものだから」
なんてしみじみ目を閉じる冬呼もまた、灰銀基調の上品な着物を着用していた。さささっと自身の着物の乱れを直すと、よしよしと頷いて。
「それじゃあ行こうか。初詣は決して逃げやしないのだけどもさ」
ぴっ、と暖房機のリモコンをオフにして、冬呼は口を開いた。





『アウィンさんは初詣には行くのかな。ええとね、神社の近くに美味しいお酒が飲める穴場があって。一緒にどうかなって思ったんだけど』
そう、初詣へアウィンを誘ったのは冬呼であった。年末年始多忙な冬呼に負けず劣らず、忙しいばかりの彼だ。たまの休みに気晴らしの為に外に出るのは良いことだと思ったし。クリスマスプレゼントにくれた美しいボールペンも思い出して、そうそうだから、これはそのお礼でもある。
アウィンはそれを快諾し、ならば着物も用意しようとなり、そうしてこうして――今に至る。
(ちょっと本格的になってしまったけど、普通だよね。彼の勉強にもなるだろうし、こういうのは)
半ば言い訳じみた想いを濁しつつ、深く息を吸う。一月初めのまだ寒い空気は胸に染みて、心を洗うような感覚があった。

元旦では無いものの三が日ともなれば人は多い。神社には同じく着物姿であったり、そうでなくてもコートやジャケットで膨れた者が数多、それぞれ思い思いに新年の参拝を行っている。参道には既に人が長く列を作っており、アウィンと冬呼もそれに続く。
「人が多いね……!」
軽く背伸びをしつつ前方を眺め、冬呼は目を瞬かせる。平均より幾分背が低く、年齢不相応に若く――幼くさえ見える彼女には、この人の群れは目前の壁にさえ等しい。
「俺は、こうして参拝客としてくるのは初めてなのだが。確かにすごいな」
自然体に接せる彼女であるからこそ『俺』と口にしつつ、その様子を見てアウィンは息を吐いた。はぐれないよう手を繋ごうかと思ったが、それにしても人の通りが多い。それはそれで彼女がもみくちゃにされてしまいそうだ。
その間、急ぎ足の男にすれ違い腕をぶつけられ、冬呼は眉を顰める。どうせ背が低いのだ自分は……と軽く膨れていると、ややあって目の前に灰の着物袖の腕が差し出された。
「冬呼殿、はぐれるといけないので掴まっているといい」
それが当然と言わんばかりの様子に思わず冬呼はアウィンを見上げる。
一瞬、迷う。確かに参拝客にも男女の恋人同士に見えるものはいるし、この人の多さなのだから当然腕を組んでいるのだが。果たして自分がそうしてもいいものか。
「……お願いします」
結局迷いは一瞬で、小声でぽそりと零しそそくさと腕を組む。それだけで先程の悔しさや僻みがさっぱりと消え失せてしまうから罪深い。思わず頬を緩むし、寒さも感じなくなってしまった気がする。
(いやいや、いやいや)
先程に感謝の礼だと言い聞かせたばかりで、これである。アウィンという人はこういうことをごく自然に、当たり前にやってしまえる紳士なのだから、喜んでしまうのが筋違いなのだ。わかれ自分よ……と、言い聞かせては俯く。この妙な下心は想定外だ。
「……?」
その冬呼の様子を幾分高い目線から見おろし、アウィンは首を傾げた。

鳥居をくぐり、手水をして、さらに行けばようやく神前が見えてくる。そこで冬呼がはっと気付き、説明を挟もうとするのを制し、アウィンが口を開いた。
「願い事ではなく、新年の挨拶や感謝、決意表明などが正しいのだよな? 確か」
「おお。よく勉強してるね。そうなんだよ、願いも決意も似てるけど、やっぱり違うから」
流石だなあ、と冬呼は朗らかに笑い褒める。これじゃあすぐに教えられることも無くなってしまうかも……なんて冗談は喉の奥へ引っ込めた。
「もうすぐだね。決意表明の内容は決めてきたかな?」
「ああ、それは大丈夫だ。決まっている」
頷くアウィンと共に神前に辿り着くと、少し名残惜しい気がしながらも冬呼はするりと腕を解いた。
恙なく粛々と、冬呼にとってはいつも通りに参拝を行う。隣を見るとアウィンもまた、同じように姿勢よく二礼二拍一礼したところだ。
仕事熱心で勉強熱心。生徒としては優秀で、友人としては頼りになる、そんな人。だからこそ、冬呼は思うところがある。与えるはずの教師としても、心を許せる友人としても、自分が彼に出来ることなど本当は多くは無いのではないか。放浪者としても幾分周囲に馴染み、貪欲に此方の世界のことを知ろうとしてくれる彼が多くを学んだその後、本当に隣に自分は必要なのだろうか――。
思考を振り払い、手を叩く。そう、今は迷うよりも決意の表明をする時だ。彼へ言った通り、願いと決意は違う。
(……私が渡せるもので、少しでも彼を支えられるよう、頑張ります)
渡せるものは決して多くは無いかもしれないけれど、それでも。自分に出来ることをやるのだ。冬呼はただ、胸に決めるようにして目を閉じる。

一方、アウィンもまた己の内にある決意へと馳せる。
隣を歩く冬呼が『特別』といっても差し支えない存在になっていることに、アウィンは漸く気付きはじめていた。けれど、その感情に手を伸ばすつもりはない。
参拝の為に解いてしまった腕が今は少し寒く、同時に微かな愛しさを感じた。そうして生じそうになる感情に、そっと蓋をする。
アウィン・ノルデンは放浪者である。その存在は此方側において川を流れる藁のように心許ない。いつ向こうへ帰還することになるかはわからないのだ、此処に来た理由すらわからない自分には。どうして、手を伸ばすことが許されるというのか。
(……彼女が幸せであるように傍で見守ろう。それくらいは許されるだろうか)
――否、見守るのだ。願いではなく決意の表明であるからこそ、此処に誓う。
誰でもない自分が、彼女を守る。いつか消え入りそうな彼女が夜を飛ばなくても良いように、自分が。

そうして暫しの祈りの末に顔を上げる。互いに、互いの想いは知らぬまま。
「帰りも気を付けてくれ。やはり人が多いな」
「そうだね。帰るまでが初詣だよ、アウィンさん」
アウィンはそっと腕を差し出す。小さくおどけると、今度は迷いなく冬呼は自身の腕を絡めた。





冬呼が穴場と称した休み処は、参道途中の少し目立たぬ路地の先であった。
人の込み入った神社と参道に比べ、一本道を逸れるとこうも人通りが無くなるのか。辿り着いた店は決して大きくは無いが、和室を供える温かな雰囲気が快い。程よく他の参拝客がくつろぎながら酒を嗜んでいる姿が見える。その様子はまさに常連客といった風体で、知る人ぞ知る、とはこのことなのだろうと思わせる。
早速一席に腰かけると、冬呼はアウィンを隣へ促した。
「店主さんが酒造さんと仲が良くて、此処でしか飲めないお酒も多いんだ」
そう言いながら注文票を取り、自身の手提げから藍色の美しいボールペンを取り出す。その所作にアウィンが、思わず目を細めた。
「……使ってくれているのだな、それ」
彼女が手に持つボールペンこそ、アウィンが冬呼へクリスマスに贈った品である。こうして実際に使っている様子を見ると、素直に嬉しさを感じてしまうのは無理もない話だ。
「いやあの、華やかさも今日にちょうどいいかなって」
そう少し照れたように零す冬呼も満更ではない様子で、ボールペンに描かれた兎を揺らしながらさらさらと書きつけた。

三が日にしか出してないんですよ、と笑顔で出してくれた純米酒はきりりと爽快な辛口で、奥深い味わいは想像以上のものだった。
「成程、これは確かに美味い。貴女の太鼓判なら間違いないとは思っていたが」
猪口を傾け、アウィンは思わず唸る。普段から酒を好む彼であるが、それにしてもこの世界の酒の種類の豊富さには驚くことが多い。
その様子にほっとしたように冬呼は胸を撫で下ろす。今日のこの寄り道は、アウィンが楽しんでくれなければ失敗なのだから。美味しそうにもう一口と飲み進める彼を嬉しそうに見やり、自分も猪口へ口を付けた。
休み処らしく、店の者が付け合わせに出してくれた皿にはチョコレート・テリーヌが置かれていた。辛口の日本酒に、小ぶりだが濃厚で蕩けるようなテリーヌは不思議と良く合い、参拝の疲れをじんわりと癒してくれる。
「こういう組み合わせもあるのだな……」
感心したようにアウィンが呟く。この時期は毎年忙しく、とても一人で初詣に訪れようとは思わなかったが、こうやって昨年を思い新年を迎え心を新たにするのは如何してなかなか悪くはない。いや、それも冬呼が誘ってくれたからで、今隣に居てくれるからに他ならないのだろうが。
美味い酒も甘味も、共に楽しむからより特別な時間になる。かけがえのない想いを胸に冬呼を見ると、冬呼もまたアウィンの方を見て頬を緩ませるのだ。
「へへ、美味しいねえ」
そう言って嬉しそうに笑う冬呼の顔は赤い。飲んだアルコールによるものなのか、外が寒かったからなのか、……それとも。
「ささ、アウィンさんも遠慮せずに飲んでね。なんたって新年なんだからさ」
「いや冬呼殿、飲みすぎはあまり、」
言いかけた言の葉をそこで飲み込み、ついでに一口テリーヌを口にした。次いでアウィンは、無自覚なのだろう――あまり見せることのない優しい表情で、穏やかに微笑う。
そう、今日は特別な日。楽しそうに酒を飲む小柄な彼女は、とても愛らしく感じた。

(今年もまた、こうして二人で)
(――楽しい日を過ごせたら)


口にしない想いと知らぬ心。決して交わらない感情はこの時に、緩やかに重なって溶けていく。



【了】


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
【アウィン・ノルデン(la3388) / 男性 / 放浪者 / 密やかなる誓いを抱いて】
【神取 冬呼(la3621) / 女性 / 人間 / それでもただ貴方の未来の為に】


この度は素敵な発注をありがとうございました!
お二人での発注、とても嬉しかったです。
努力家で勉強家、共に誰かに尽くせる方など、実は共通点の多いお二人なのかなと思いつつ
なんだかドキドキと見守らせていただきました。
解釈違いなどありましたらお気軽にお申し付けくださいませ。
ご依頼有難うございました。
どうかどうか、お二人の行く道が良いものでありますように。
イベントノベル(パーティ) -
夏八木ヒロ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年02月10日

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