それから間もなく、セントエデンの街に一つのニュースが稲妻のように駆け巡った。何台ものパトカーがけたたましくサイレンを鳴らし、高所得者住宅街に押し寄せる。慌ただしく規制線を張った彼らは、パパラッチがカメラを構えて押し寄せるのを他所に、屋敷の中へと乗り込んでいった。普段は腰が重い彼らの迅速な働きぶりを前に、パパラッチ達は確信を深める。この町一番の青年実業家が殺されたに違いない、と。
現場は二階の書斎。やって来た捜査員達は、思わず息を呑む。書斎の床が真っ赤な血溜まりになっていた。その上に倒れる青年の死体も、頭を吹き飛ばすだけでは飽き足らず、心臓や臓腑にも執拗に銃弾を叩き込んでいた。そこからは被害者に対する激しい憎悪が読み取れる。そればかりか、犯人は青年の胸から溢れた血を掬い取り、書斎のタペストリーに向かって血文字を書きつけてみせたのである。
“God forgives, the US pardon, I never” (神とアメリカが赦そうとも、この私が許さない)
その文書は、かつてセントエデンに跋扈した復讐鬼『マフィア狩り』が用いた文言と単語一つに至るまで違いがない。それは犯人による宣戦布告である事に疑いは無かった。
警察達は顔を見合わせる。既に彼らの手には負えないような気がしていた。