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『愛しさの距離』
アルマ・A・エインズワースka4901

 1020年1月。
「ただいまーですっ。フリーデさん、僕がいない間に何か変わったことはありませんでしたかー?」
リアルブルーのVOID討伐へ向かっていたアルマ・A・エインズワース(ka4901)は徒歩で出立したにも関わらず、何故か大型の馬車に乗り帰宅の途についた。
 帰宅する度に大型犬のように抱き着いてくる夫をフリーデリーケ・カレンベルク(kz0254)はふんわりと抱き留める。
『お前のことだからどこへ向かおうと何の心配もないとわかっているが……無事の帰還、何より嬉しいぞ。それとこちらにはこれといった変化はない。昨日役人が書類の確認に立ち寄ったぐらいだな』
「そうですか、よかったです。それじゃ……えへへ」
 アルマは馬車から薄茶色の紙箱をひょいと運び出す。
突然現れた大荷物に『どうしたのだ』と首を傾げるフリーデに、アルマは悪戯少年のように口もとに指を立てて微笑んだ。
「リアルブルーのお土産です、きっとフリーデさんも大好きになってくれるはずです!」

 エインズワース孤児院のキッズルームは転んでも怪我のないようコルク製のボードを敷き詰めている。
 しかし他は絵本や図鑑を揃えた本棚と、ゴムボールなどの玩具を詰めた木箱が置いてあるだけの些か殺風景な光景だった。
「……ん、このお部屋なら丁度いいですね」
『どうしたのだ、リアルブルー土産とは子供向けのものなのか?』
「子供はもちろん大人にも大人気なんですよ。クリムゾンウェストでも流通するようになったらすぐに売り切れになるんじゃないかなって。だから一足先に買ってきたんです!」
 ふたりで部屋を軽く掃除した後、ちょいちょいとアルマがフリーデを手招きする。
 紙包みを開いてみれば、様々な冬の花がプリントされたマットレスと何枚かの毛布にタオルケット生地の布。フリーデがほう、と息を吐いた。
『なるほど、これはリアルブルーの寝具だな? 紙箱の中身はベッドフレームか』
「わふん。フリーデさん、それはノンノンですー。これの形をよく見てくださーいっ」
 アルマが紙箱を開封する前にマットレスを手に取る。正方形の大きな布地がふわりと広がり、部屋の雰囲気を華やかに変えた。
「これは炬燵といってですねー、リアルブルーの日本でよく使われている暖房機なんです。ささ、紙箱の方も開けちゃいましょー!」
『あ、ああ』
 目の前のマットレスと暖房器具の関係がいまひとつわからないが、夫の心遣いに間違いはない。フリーデはすぐに紙箱を開封し、木の骨組みを引っ張り出した。
「えっと、この同じ高さの棒と、金属の板がついた板を組み合わせてっと」
『なに、これは机……なのか? それにしては天板がないが』
 マットレスの上にできたのは木製の机の骨格。金属板が嵌められた部分は机として使えないこともなさそうだが、それにしても小さすぎる。
「わふふ、これからがお楽しみなんですよー。まずはこれをかけるんです!」
 骨組みに掛けられたものは肌触りの良い綿。それに毛布を数枚重ね、最後に裾に雪模様のレースを飾った青いカバーを掛ければ――なんとも愛らしいインテリアになった。
「フリーデさんが心配してた天板は最後の仕上げ! これを乗っければお布団がずれにくくなるし、お食事やお勉強もできるようになるんですよー」
 仕上げはもちろんふたりの作業。ピカピカに磨き抜かれた板を置くと、異国情緒あふれるテーブルが完成した。
『これは……すごいな。ひざ掛けと机がひとつになっているのか』
「です! それにこの机にはもうひとつ仕掛けがあってですね?」
 アルマがにんまり笑って金属板から繋がっている紐についた仕掛けを押す。すると「ブゥ……ン」と鈍い音がして金属板の中の輪が淡い赤光を放ち始めた。
『む、光るだけではなく熱波も出るのか。これは一体……』
「クリムゾンウェストではマテリアルエネルギーを使うのでまだ流通には時間がかかりそうなんですけど、リアルブルーでは電気って力でどのおうちでもこのあったかい炬燵を使えるんです! ……って、説明ばっかりじゃこの炬燵のすごさがわかんないですってー。フリーデさん、一緒に入りましょうですっ!」
『わ、わかった。しかし机に入るというのも、なんとも不思議な感覚だな……』
 ――アルマとフリーデは夫婦そろって長身である。ゆえに隣り合って座ることは困難で、向かい合うことにならざるを得ない。
 どことなく戸惑いを隠せない様子で布団を捲るフリーデの前に、アルマは菓子皿に乗せた蜜柑と東方伝来の茶を並べた。
「東方でも炬燵はよく使われてるみたいですよ。もっともこういう機械式ではなくて、床に穴をあけて火鉢みたいなもので足元を温める造りなんだそうです。それでお茶とおみかんを食べて、のんびりおしゃべりしたり、好きなご本を読んだり……いい時間の使い方だと思いません?」
 蜜柑の皮を剥いて、一口頬張る。僅かな酸味と蕩ける甘露が口いっぱいに広がった。
「フリーデさん……ううん、フリーデ。たまにはこう……心も休めて、ね?」
 心ほぐれる甘みを妻にも――一粒差し出すと、フリーデは戸惑うように視線を揺らがせると恥ずかしそうに唇を開いた。
「ね。美味しいでしょう?」
『……ん』
 アルマは知っている。フリーデが善き母となろうと日々努力していることを。彼女の教育書に書き込みが増えていることや、料理や裁縫が少しずつ上達していること、それにアルマが不在の際に何度も役場に向かっては交渉に励んでいることも。
 そんな妻に心がほぐれる場所を作ってあげたかった。自分がいる間だけでも笑って、傍にいてくれてほしかった。
「わぅー……これ、ひとをだめにするやつです……。きっとみんながこたつの良さに気づくともっと平和になるです」
 だからいつものように、甘えん坊の子犬になる。向かい合った席からひとつ移り、妻の隣に滑り込んできゃふきゃふと笑う。
『そうだな……身体が温まるのも心地よいが、何よりもお前が傍にいると感じられるのが何よりうれしい』
 ですよね、と笑ってアルマはフリーデのロングスカートを指先でつついた。かつて革の甲冑ばかりを纏っていた精悍な脚が今は柔らかな布で包まれていることが嬉しいのだ。
「たまにはのんびりするです。あとこどもたちを迎えたらこれ(炬燵)、増やすです」
『そうしたらきっとお前と子供達でかくれんぼやトンネルごっことか、大騒ぎをするのだろうな? 追いかける私もきっと大変だ』
「でもね、でもね、夜になったらフリーデさんと一緒にみんなでご本読むです。今まで色んなことがあったから……戦いだけじゃなくって、精霊さんとの出会いとか悪い心を持ってない歪虚さんのお話とか、色々あったじゃないですか。きっと帝国でもたくさんの物語が生まれるはずです。歴史のお話だけじゃなくて、そういう幸せなお話もたくさん聞かせてあげて……皆でお茶とおみかん食べて、わふーって幸せになれたらいいですよね?」
 ああ、そうだな……フリーデが頷くと、アルマの青い瞳が幸せそうに三日月を描いていた。ドレスシャツに頬を乗せてこくりこくりと舟をこぐ。
 彼はきっと依頼の解決だけでなく、この土産品を探すために懸命に奔走していたのだろう。
「きゅぅー……」
 子犬のような寝息に思わず笑みがこぼれる。フリーデは彼に身を寄せると『お休み、私の主人殿』と頬にキスをした。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
いつも大変お世話になっております。
このたびは大変お待たせし、申し訳ありませんでした!
また、お申込みくださり誠にありがとうございました。
FNB完結後もこうしてアルマさんとの幸せなお話を紡がせていただけますのは
本当に幸せなことだと常々感じております……。
不器用なりにアルマさんを愛し続けられるフリーデは本当に幸せですし、
300年の孤独を癒してくださったアルマさんは本当に素敵な殿方だなと……。
これからもご縁がありましたらなにとぞよろしくお願いします!
イベントノベル(パーティ) -
ことね桃 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年02月17日

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