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『なんでもないふたりのなんでもなくない聖夜』
ミリア・ラスティソードla3398)&雲井 旭la3264

「……っと、今日はクリスマスイヴか。最近、少しばかり忙しかったからな、自分の分はすっかり忘れてたな」
 雲井 旭(la3264)はベッドから身を起こすと、枕元に置いたカレンダーを横目で見てため息を吐いた。
 故郷の家族には先日クリスマスカードとささやかな土産品を送ったばかり。しかし自分のために何か……と考えるとこれといったアイデアは思いつかなくて。
 そこで旭は考えを纏めるため、まずは電子煙草に気に入りのフレーバーを挿し込んだ。馴染みの芳香が口腔を満たす瞬間は何とも心地よい。
(今は特別に買わなくちゃならないものはないんだよな。……そうだ、今年は電子煙草のフレーバーの詰め合わせでも買いに行こう。新しいやつを試すのもいいし、復刻版でクラシックな気分に浸るのもいい。たまの贅沢ぐらい、許してくれるよな?)
 旭は家族写真の飾られた写真立てをつん、と指先でつついた。急を要するものがないのなら、日常を豊かにする小物を集めよう。そう決めた旭はカジュアルなスーツを纏う。
(これぐらいならクリスマス商戦真っ只中の商店街を歩いても問題ないだろ)
 明るい色の髪に軽くワックスをつけて、コートを羽織って――さて、出かけようと鞄を片手にドアノブを掴もうとした瞬間。
「暇だろ、あさひー! 遊びに来たよー」
 真夏の太陽のように明るい声が扉越しに飛び込んできた。
「み、ミリアか?」
 旭がアパートのドアに据え付けられたスコープを覗くと、レンズの向こうでミリア・ラスティソード(la3398)のライトブルーの瞳がぱちぱちと瞬きをしている。
「だよー! ボク以外の誰だと思ったのさ」
 瞳は動かないが、ちょっとだけムッとしたように眦が上げる。旭はそんな友人の屈託のなさにやれやれと肩を竦め、扉を開けた。
「丁度これから出かけようと思っていたところだったんだ。これといった目的のない散策のようなもんだけど……良かったら一緒に行くか?」
「あはっ、やっぱりアサヒは今日はフリーなんだ? それじゃボクもついてくっ!」
 彼からの誘いにご機嫌になったミリアは満面の笑みで大きな紙箱を旭へ突き出した。突然の大荷物の登場に旭は思わず息を漏らす。
「随分な荷物だな、これはどうしたんだ?」
「んふふ、これは後のお楽しみ! それよりもさ、まずはお出かけしようよ。日本だと明日になったらクリスマスの魔法はおしまい、ニューイヤーパーティーに向かって忙しくなるんでしょ? 大掃除とかおせち料理の準備とか、やることいっぱいでさ。だから今日ぐらいは思いっきり遊ばなきゃ損なんだよっ」
 玄関先に紙箱を立てかけ、旭の腕に無邪気に腕を絡めるミリア。白いコートの胸元から赤と緑――クリスマスカラーのワンピースがちらりと覗いた瞬間、旭は彼女がこの日を如何に楽しみにしていたのかを感じ取った。
(ミリアの故郷……アイダホでもクリスマスは盛大に祝うんだよな。本物のもみの木に電飾を飾って、その下にプレゼントを山のように置くとか。そういうのを懐かしく思っているんだろうか)
 底抜けに明るい友人が商店街に足を踏み入れれば、クリスマスオーナメントにきゃあきゃあ声を弾ませる。
 その様を旭は微笑ましく眺めながら、今日ぐらいは彼女の思うがままに付き合うのも悪くないと思い始めていた。

「んーっ。いつものジュースやスムージーも美味しいけど、この時期はショコラショーが最高だよねっ。アサヒはどう思う?」
 買い物のさなか、一休みにと立ち寄ったカフェでミリアはマグカップを傾けながら満面の笑みを旭に向けた。
 旭は珈琲のマグを傾けながら目を細める。
「俺はショコラクッキーに珈琲が好み、かな。甘みはほろっと感じる程度でいい。むしろ苦味が暖房で火照る体をほどよく引き締めてくれる」
「ふぅん……オトナなんだ?」
 くすっと笑ってミリアは付け合わせのクッキーを口に放り込むと、コートを翻してさっと立ち上がった。
「それじゃ今日は頑張ってくれてるアサヒクンのためにちょっと奮発しようカナ」
「えっ、そんな……いいって」
「だってさ、アサヒってばおっきい荷物ほとんど持ってくれてるじゃん。これからも増えるんだし。それぐらいの仁義はボクにもあるんだよー?」
 ――その言葉を受け、慌てて旭は足元の荷物籠を覗いた。
 雑貨店でミリアが買い込んでいた何やらキラキラ輝く装飾品、リカーショップで買い込んだドリンク類、その他食品の数々……。
(これ、もっと増えるのか……?)
 レジで愛らしい小袋を受け取り、ニコニコしながら戻ってくるミリアを迎えながら、旭はその背に確かな戦慄を感じていた。

「うー……これは下手な任務より体に効くな……」
 アパートに帰宅した旭は玄関にまずは重いドリンク類を置くと、手荷物で両手をいっぱいにしたミリアを先にリビングへ通した。
 旭の居室はSALFに手配されたものであるため、扱いは丁寧そのもの。男子学生にありがちな雑多さとは無縁だった。
「うんうん、相変わらずシンプルイズベストなお部屋だねーっと。清潔感はポイント高し、でも季節感も大切なんだよ?」
 そう言ってミリアは雑貨店の袋から次々と煌びやかなアイテムを取り出す。
 テーブルの上に並べられたものはアメリカンな意匠の星型をしたプレートや、色とりどりのモールやクリスマスオーナメント……どれもクリスマスを楽しむための装飾品だった。
 早速星のプレートを手にしたミリアは壁に向かってぴょこぴょこ飛び跳ねる。
 どうやらワンルームの中で最も目立つ柱に星を飾りたいようだが、身長が平均的な女性と大差ないミリアでは高所にバランスよく貼り付けることが難しいようだ。
「ボクの背じゃ届かないからアサヒちょっと来てー」
「ん、ああ。それぐらいなら」
 旭の身長は184cmとかなりの高身長だ。その気になれば爪先を立てなくとも柱にしっかりと貼り付けられるはずだが……。
「アサヒ、しっかり足をおさえててよねっ。転んだりしたら大変なんだから!」
 すっかり張り切りモードに入ったミリアは旭の頭を太腿でしっかりと挟み込み、プレートとモールを柱に配置しはじめた。
 アメリカで奔放に育ったわがままボディの美少女を肩車するというシチュエーションは世の男性にとって至極羨ましいものに違いない。
 実際、みずみずしい太腿に両頬を挟まれ、見上げてみれば豊満なバストが視界いっぱいに広がるという状況にある旭の胸のうちに戸惑いがないといえば嘘になるの……だが。
(ううっ、ミリアの奴……こういうの結構こだわるんだよなぁ。色とかバランスとか……)
 ミリアと旭の関係は決して艶めいたものではなく、よき友人であり、時折悪友めいた悪戯混じりの関係性でもある。
 今日の一連の出来事もつまるところデートというような心弾むものではなく、年間行事のひとつを友人同士で気ままに過ごすだけ――だから旭はミリアに助言しながらせっせと左右に移動した。
 それを受けたミリア自身も楽しそうに笑い、シンプルな部屋をクリスマスカラーに染めていく。
 ふたりの関係はそんな健全な、ある種のきょうだいめいた信頼性に基づくものなのだ。

 やがて部屋がクリスマスパーティー会場といった様相に整ったところで、ミリアは玄関に立てかけていた紙箱を部屋に持ち込んだ。
「アサヒ、これ開けてみてよ」
「そういやずっとこれ秘密にしてたよな。いいのか、俺が開けて」
「いいのいいの。だってボクが開けても意外性がないっていうか……ねぇ?」
 悪戯娘のように微笑むミリア。それじゃ、早速……と旭が丁寧に開封すると。そこにあったのは。
「グ、グロリアスレンジャー……クリスマスツリー……?」
 今年放送の特撮番組をモチーフにしたクリスマスツリーだった。よく見てみれば包み紙は有名玩具店のイラストが入っている。そういうことか、と横目をミリアに向ける旭へ彼女はにんまり笑った。
「これ、凄いんだよー! ツリーの根っこにあるスイッチを押すと主題歌のクリスマスアレンジが流れるしね、毎年新作のオーナメントだけのセットも売られるからツリーごと買い替えなくても毎年使えるの。最高にエコだよねっ!」
 ミリアは意気揚々と登場人物や怪人のフィギュアを吊り下げ、ツリーの天辺には星の代わりに主人公チームの要塞を乗せる。そしてコードについたスイッチをオンにすると、ツリー全体が作品のイメージカラーである青と白に輝いた。
「……眩しいな」
「うん、これぞヒーローって感じだよね! ボク的には最近登場したアサルトマシンもついてくると嬉しかったんだけど、ま、来年に期待ってことで!」
 ミリアがにっこり笑うと旭の複雑な胸中がどことなく晴れていく。
(ま、たまにはこういう日もいいよな。大学の勉強もライセンサーの責務も頭の隅に置いといて、楽になる日っていうのもさ)
 そう考えることにして――テーブルに並べたケーキやローストチキンの箱を親友の前に広げた。

 ふたりのクリスマスは日常の延長線上にあるような和やかなものだった。
 バラエティ番組を見て笑って、好みの番組が途切れる時間にはミリアおすすめの特撮番組やプロレス特番のDVDを鑑賞して。
 その間にチキンやピザを肴に飲み物をちびり、ちびり。ミリアはシャンパン風の炭酸ジュース、旭はワインで乾杯した後し、その後はそれぞれ好きな飲み物で喉を潤した。
 そして――ケーキを食べ終わる頃にはDVDのケースが山のように積み上がり、時計は既に12月25日深夜1時を数えていた。
 ミリアは歌番組の終了と同時にテレビの音量を下げる。
「んー……シャンパン風の炭酸って匂いもなんかお酒っぽいよねぇ……ボク、眠くなってきちゃった。アサヒはー?」
 中途半端にジュースの残ったグラスをテーブルに置き、旭の顔を覗き込むミリア。
 つい先ほど前まで歌番組を楽しそうに鑑賞していた旭だが、その端正な顔は心地よさそうな表情のまま俯いていた。
「うわ、寝ちゃってる……。このままじゃ風邪ひいちゃうよね。アサヒ、肩貸して……」
 ベッドに旭を寝かせようと、彼の脇の下に腕を通すミリア。だがその時、机が傾いた。
「わわっ、ジュースが倒れちゃうっ!」
 ばしゃっ!
 ミリアのワンピースにロゼ風ジュースの桃色が広がった。
 たちまち甘ったるい葡萄の香りが広がり、ぐっしょりと体まで濡らしてしまう。
 だがミリアの顔は安堵に満ちていた。
(……よかった。濡れたのはボクだけ。アサヒをまず布団で休ませて、その間にシャワーを借りよ)
 濡れた服を脱ぎ捨てて、まずは旭をベッドに。
 ミリアは彼を枕元に畳んであるシャツとジャージのパンツ姿に着替えさせるとほう、と息を吐いた。
肩まで毛布を掛けておけば身体を冷やすこともあるまい。
(アサヒ、シャワールームと洗濯機を使わせてもらうね。あ、あと浴室乾燥機も……)
 くふふ、と勝手知ったる何とやら。
 ミリアは豊満な身体をボディーソープでたっぷりと洗うとインナーのみという艶めいた姿で旭のもとへ戻った。
「おーけーおーけーこれで良しっと。それじゃおやすみぃ……むにゃ……」
 時計は既に夜2時を数えている。成長期のミリアにとっては休養に充てねばならない時間だ。
 だから彼女は迷うことなくベッド――そこには旭という先客がいるのだが。
 温まった体を毛布で包み込んで幸せそうに目を瞑るのだった。
 何しろ酒で体の火照った旭は彼女にとって最高の抱き枕となっていたのだから。

 さて、12月25日の朝8時――いつもより遅めの起床となった旭は体にかかった重みに目を剥いた。
「み、ミリア……? 俺は、何を!?」
 自分の身体に縋りついた少女はインナーのみという頼りない姿で、体からは洗いたての石鹸の香りがする。
(たしか俺は昨日、ミリアと一日遊んで……でも夜は少し酒を飲んで……も、もしかしてその時にミリアに!?)
 考えを纏めようと電子煙草に手を伸ばす。すると、煙草の横に見慣れぬ小さな箱があった。
 フレーバーのリキッドが小さく揺れる。
 ――アサヒへ。いつもありがと。
 小さく書きこまれたメッセージはここにいる少女のもので。だから……ほんの少しだけ、落ち着いた。
 きっと過ちは犯していない。そうでなかったらこの闊達な子は自分を拒んでいるだろうから。
「あと5分……むぎゅう」
 幸せそうに微笑むミリアの髪を旭は優しく撫でると、甘いフレーバーを深く吸い込んだ。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
はじめまして、このたびはご発注くださり誠にありがとうございます!
また、ぎりぎりまでお待たせしまして申し訳ありませんでした。
ことね桃と申します。
この度は男女の友情と聖夜という和やかな題材で
作品を描かせてくださりありがとうございました!
旭さんの誠実そうな面とミリアさんの奔放な明るさ、
描写していてとても楽しく幸せでした。
これからおふたりはどんな関係になっていくんだろう……?と
ひっそりと楽しみにさせていただきます。
もし次の機会をいただけるのでしたら
もっともっとたくさんのおふたりの表情を描きたいです!
今後ともよろしければなにとぞよろしくお願いします。
イベントノベル(パーティ) -
ことね桃 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年02月18日

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