▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『とろける甘さに包まれて』
デルタ・セレス3611)&石神・アリス(7348)

「わぁ!」
 デルタ・セレス(3611)は、目の前に広がる光景に目を輝かせる。道には石畳の代わりにクッキーが敷き詰められ、空には雲のように綿飴が浮かんでいた。
 木に茂る葉っぱからも甘い香りがしたため、試しに一枚手に取ってみる。どうやら、砂糖菓子で出来ているらしい。
「甘いです。本当に、この世界のものはみんなお菓子で出来ているんですね」
 食べてみると優しく甘い味が口の中いっぱいに広がり、思わずセレスは笑みを浮かべた。
 隣にいた石神・アリス(7348)もまた、口にしたお菓子の美味しさに舌鼓を打つ。彼女は手折った小枝をパキリと二つに割ると、その半分をセレスに差し出してきた。
「セレスちゃん、こちらの枝はココア風味のビスケットのようですよ」
「本当ですね。これも美味しいです!」
 二人は気に入ったお菓子を分け合い、笑い合う。
 ここは、魔法の本の中。見渡す限り、全てがお菓子で出来ているお菓子の国だ。しかも、そのお菓子は今まで食べてきたどのお菓子よりも美味しいときている。
 セレスとアリスはすっかりこの国に夢中になり、散策しながら気になったお菓子を次々に頬張っていくのであった。

 ◆

「向こうに水飴で出来た湖があるみたいですよ。次はあそこに行きませんか……って、あ、あれ?」
 小さく首を傾げた後、セレスは辺りを見回す。先程まで近くで美味しそうにお菓子を食べていたはずのアリスの姿が、見当たらない。
 どうやら、お菓子に夢中になっている内にはぐれてしまったらしい。
「大変です。早く探さないと……!」
 慌てて、セレスはアリスの事を探し始める。
 バウムクーヘンで出来た切り株で休憩をとっていた時は、確かに横にいたはずだ。あの後、誤って森の奥深くへと入って行ってしまったのだろうか。
 勇気を出し、セレスも森の奥へと向かう。なんだか嫌な予感がしてならなかった。
 足を進めるたびに、辺りの雰囲気もだんだん怪しくなっていっているような気がする。セレスは迷子になっている友人の事がますます心配になり、必死になってアリスの名を呼ぶのであった。

 ふと、人の声が聞こえた。くすくすと笑う少女のような声だ。
 アリスかもしれない、という期待を胸に、セレスはそちらへと向かう。
 だが、そこにいたのはアリスではなかった。何体もの悪魔っ子達が、談笑しながら楽しげに何かの準備をしている。
「あの、ここらへんで女の子を見かけませんでしたか? ……って、え? な、何ですか!?」
 アリスについて聞こうとしたセレスだったが、瞬く間にその悪魔達に囲まれてしまった。そして、抵抗する間すらなくそのまま囚われてしまう。
「待ってください! 僕、友達を探さないと……!」
 慌てるセレスの声を、悪魔達の笑い声が遮る。セレスの話を聞いてくれる気は、どうやらなさそうであった。

 悪魔達に半ば強制的に連れてこられた先にあったのは、開けた空間だった。
 大きなテーブルと何脚もの椅子が設置されており、飾り付けもされている。何かのパーティ会場のようだ。
(あれは……チョコフォンデュ?)
 その会場の中でもひときわ目立っているのは、中央に設置されているチョコレートフォンデュ用のタワーだろう。人一人が入れてしまいそうなほど、大きなタワーだ。
 近くのテーブルの上には、串にささったフルーツが行儀よく並んでいる。様々な種類のフルーツは、色鮮やかで見ているだけでも楽しい気持ちになれそうだった。
 悪魔達は、自分をこのパーティに招待してくれたのだろうか?
 フルーツの中には、セレスの好物のリンゴもあった。思わずセレスは期待に胸を膨らませてしまう。
 だが、セレスの期待は呆気なく裏切られる事となった。悪魔達が、チョコフォンデュタワーに似合う獲物を見つけてきただの、早くタワーの一部にしようだのと、何やら物騒な事を話し始めたのだ。
 その獲物というのが、セレスの事だという事は悪魔達のニヤニヤとした意地の悪そうな視線から察する事が出来た。
 悪魔達にとって、セレスは招待客ではない。このパーティを盛り上げるために必要な、道具の一部に過ぎないのだ。
(に、逃げなきゃ……!)
 慌てて、セレスは悪魔達の拘束を振りほどこうとする。
 しかし、何人もの悪魔に掴まれているせいで、思うように動く事が出来ない。抵抗らしい抵抗も出来ないまま、セレスの身体はフォンデュタワーに拘束されてしまった。
 タワーから溢れ出してきたチョコレートが、甘い香りと共にセレスの身体へと浴びせられる。まるで包み込むかのように、チョコはセレスの身体の上を伝った。 
 チョコが漬けこまれるたびに、セレスの体の動きが鈍っていく。流れているチョコと自分の身体の境界が曖昧になっていくような、そんな違和感をセレスは感じた。
(もしかして、僕の身体がチョコになってる!?)
 悪魔達の言っていた、チョコフォンデュタワーの一部にするという言葉の本当の意味を、セレスはその時理解する。自分の身体に起こる変化が、セレスのその発想が間違っていない事を証明してくれていた。
 しかし、チョコの滝は無情にも、動けないセレスの身体に浴びせられ続ける。
 チョコの噴水の中で藻掻く彼の身体で、チョコレートに染まっていない箇所はもはや存在しなかった。愛らしくぴょこんと跳ねるあほ毛さえも、綺麗にチョコレートにコーティングされてしまっている。
(た、助けてください! アリスさん! 誰か……!)
 彼の必死な叫びが、声になる事はなかった。もう口は動かない。口だけではなく、他の箇所も、動かす事が出来ない。
 ついに全身がチョコレートと化し、セレスはチョコフォンデュタワーの一部になってしまったのだ。

 ◆

 パーティ会場には、楽しげな笑い声が絶えなかった。悪魔達は、フォンデュパーティを満喫している。
 会場の中央には、変わり果てた姿のセレスがいた。チョコフォンデュタワーの一部になっている彼は、悪魔達が串にささったフルーツを好き放題突っ込んできても文句の一つも言う事が叶わずにいる。
 悪魔達は悲痛な表情のままチョコの像と化しているセレスの心情など知った事ではないとばかりに、好き勝手にフルーツをチョコレートで味付けし続ける。先程までセレスが食べたがっていたリンゴも、悪魔達の口の中へと消えてしまった。
「こんなところにいたんですね、セレスちゃん」
 不意に、会場に少女の声が響いた。黒く長い髪を揺らしながら、少女、アリスは会場へと足を踏み入れる。
 いつの間にかはぐれてしまったセレスの事を、アリスもまた探していたのだ。
「わたくしの許可も取らずに、勝手にセレスちゃんを『作品』にするだなんて……制裁する必要があります」
 変わり果てたセレスの姿を見て状況を察したアリスは、悪魔達の方をまるで睨むように見やった。
 アリスがひと睨みしたその瞬間、悪魔達の身体に変化が起こる。
 会場に、いつの間にかいくつもの石像が並んでいた。それは、アリスの魔眼の力により石と化した悪魔達の成れの果てであった。
「ふふ、パーティ会場に相応しい飾りが出来たのではありませんか?」
 くすり、と微笑み、石像を一瞥してからアリスはセレスの元へと向かう。
 悪魔達を倒したものの、セレスは依然としてチョコレートのままであった。どうやら、チョコの供給が切れるまでは元の身体には戻る事が出来ないらしい。
 アリスはそんな哀れなセレスの身体を、優しく撫でる。
「けれど、この美しさは認めざるを得ませんね。美術品として、最高の出来です」
 だが、それは友を気遣っているというよりも、まるで大事な美術品に触れる時のような仕草だった。
 彼女はそのまま、セレスのチョコレートの身体を隅々まで観察し始める。普段美術品をチェックする時のように、丁寧な手付きでその質感を確かめていく。
 アリスはお菓子の国で、素敵なものをたくさん見た。どのお菓子も美味しい上に愛らしく、可能であれば美術品として持って帰りたいくらいだった。
 けれど――。
「わたくしの一番のお気に入りは、間違いなくこのチョコフォンデュタワーですね」
 助けを求めて、藻掻くように伸ばされているセレスの手。その手をそっと掴んだアリスは、恭しく口づけを送るように、彼の指先を舐めた。途端、甘いチョコの味が彼女の口の中にふわりと広がる。
 嗚呼、彼は本当にチョコになってしまったのだ。指先から髪の先まで、余すところなく。
 しかも、ただのチョコではない。見た目も香りも、そして味も極上なチョコレート細工の像だ。
 アリスはセレスの頬へと、キスを落とす。子供がお気に入りのおもちゃへ捧げるような愛らしいキス。至高の美術品のみが許される、アリスからの寵愛だった。
「やはり、この世界のお菓子は美味しいですね。それとも、セレスちゃんだからこそ、こんなに美味しく感じるのでしょうか?」
 パーティ会場は、とろけるような甘い香りに包まれている。本来の参列者達は皆物言わぬ石像と化してしまったが、チョコフォンデュパーティはまだ終わらない。
 否、むしろこれからが本番なのだ。ただ一人自由が許されているアリスは、チョコになったセレスをまだまだたっぷり堪能する気でいた。
 セレスが元に戻るまでの間楽しませてもらう事に決めた少女は、串にささったフルーツをチョコフォンデュタワーの方へと向けるのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
お菓子の国で繰り広げられるチョコフォンデュパーティ、このようはお話になりましたがいかがでしたでしょうか。
お二方のお口に合う作品に出来ていましたら幸いです。何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、この度はご依頼誠にありがとうございました。またいつか機会がございましたら、よろしくお願いいたします!
イベントノベル(パーティ) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年02月20日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.