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『輪廻の先で再会を』
Uisca=S=Amhranka0754

 穏やかな時の流れの中、庭園の中心部に建てられた華やかなガゼボの中で、Uisca=S=Amhran(ka0754)は一人の女性を出迎えた。
「……こうして会うのはお久しぶりです、ソルラさん」
「変わりないのは私だけのようですね」
 サイドテールを揺らしてソルラ・クート(kz0096)は、ゆっくりとした足取りでUiscaの前まで歩み近付く。
「久々の女子会ですね」
「はい。ソルラさんと話したいって思っていたので、嬉しいです!」
 純白のテーブルにはいつの間にか珈琲が注がれたカップと菓子が置かれていた。
 クート領内の町に有名な珈琲店があってね……とソルラは告げながら、椅子に座る。
 初耳のような、だけど、どこかで聞いた事もあるような、そんな不思議な思いでUiscaも椅子に腰を掛けると珈琲の香りを確かめた。
「Uiscaさん、改めて、良いですか?」
 ピシッと背筋を伸ばし真剣な表情のソルラの言葉にUiscaは深く頷いた。
 彼女としては筋を通しておきたい事があるようだ。
「王国の事、ノセヤ君の事、希さんの事……本当にありがとうございました」
「私は希望を広げる為に、できる限りの事をしたと思っています」
 だから、Uiscaは胸を張って応えた。
 あれからの王国と世界については、Uiscaがソルラの命日に墓参りした際に伝えていた。聞くしかできないソルラにとっては、まずはどうしても言わなければいけない事だったのだろう。
 ソルラは申し訳なさそうな表情を浮かべながら、自身の頬の辺りをなぞる。
「それと……死ぬつもりはなかったのに、迷惑をかけてしまって、すみませんでした」
「謝らないで下さい、ソルラさん。確かに、貴女を死なせてしまった時、とても落ち込みました……でも、落ち込んでいる私に声をかけてくれた人がいたんです!」
「それは恋人の……」
 ハッとしたソルラの言葉を遮るUisca。
「いえ、レオではなくて……ソルラさんも知っている人ですよ。その人のおかげで、少し心の整理ができたので、いつかあの人にも感謝を伝えられたら……って思っていたんですけれど……」
 一瞬、首を傾げてサイドテールが揺れたソルラだったが、何かを察したようでポンと手を叩いた。
「きっと、そのうち、伝えられる機会があると思いますよ」
 そう言って、珈琲が入ったカップを口に運びつつ、チラリと視線を庭園の一角へと向ける。
 Uiscaがその方角に目を向けると――2人の女性が池の畔で楽しそうに散策している様子が見えた。一人はよく知っている緑髪が特徴的な女性。もう一人は、明朗快活な様子で長い黒髪を揺らしている女性だった。
「そうそう、ノセヤ君も探せばすぐにいますよ」
「ノセヤさんには青の隊の隊長という責務を背負わせてしまって、無理をさせてしまったかもです……」
「大丈夫ですって。一見、頼りない後輩ですが青の隊の者は全員、頑丈ですから。私も『鉄壁』とか言われていた位ですし」
 少し影を落としたUiscaを慰めようとソルラは笑顔で言った。
「死ぬ気がなくて死んでしまったソルラさんがそれを言ってはダメですよ」
「うぅ……そう言われると、確かに……」
 ソルラは痛い所を突っ込まれて苦笑すると一度、咳払いしてから話題を変えた。
「そういえば、お子さんの事はよく話してくれたり、見せてくれたりしましたが、旦那さんの話はあまりしてくれませんでしたよね?」
「あまり墓前で話す事でもないかなって」
「いえいえ、聞きたい所です。どこで式を挙げたのですか?」
 質問しながらググっと迫るソルラ。
「結婚式は、フライングシスティーナ号で」
「えぇぇぇ!?」
 くりくりとした目が今にも飛び出しそうな程、驚くソルラ。
 保守的な思想が強い王国では、ハンターの結婚式を軍船で行うなど、あり得ない事なのだ。
 Uiscaが救国の英雄だからこそできたのだろう。
「王国もだいぶと柔軟になったのですね」
「女王が先鋭的に取り組んだおかげです。確か、百年計画(クイーンズ・プラン)だったと」
 立憲君主制への移行を目指した数々の改革の中で、アルテミスの存在もまた、必要とされた。
 絶望と向き合い、希望を持って慈善事業を行うアルテミスは、その先駆的な役割を果たしたのだ。
「ずっと忙しいと新婚生活も慌ただしかったのでは?」
「充実していましたよ」
 忙しかったのは事実だが、愛する人と過ごした時間に欠けたものは無かったと思う。
「私、結婚どころか恋人もいないままだったので……実際、どんな生活なのかなと……」
「唐突に何か変わったりはしてないですよ。ハンターの時と変わらないです」
「……そうでした。Uiscaさんも私と似て、普通の女の子じゃなかったですね」
「フフ。今頃、分かりました?」
 笑顔で応えるUisca。
 王国騎士であるソルラと龍の巫女であるUisca。立場は違うが、一般的な人々とは違い、どこか一線を引く役目であるのは同じ事だ。
「ソルラさんとは、似た者同士だと思っていましたよ。それと、どこか“距離”を作ってるのも一緒だって」
「“距離”ですか……家の事もあったので……それもあるのかなと」
「私は寂しかったです。“距離”があったまま、ソルラさんが亡くなった事が心残りでしたから」
「こんな風に接しておきたかったですね」
 頷きながら同意するソルラは微笑を浮かべていた。
 Uiscaは満面の笑みで告げる。
「だったら、今からでも大丈夫ですね。今度から、私の事はイスカって呼んで下さい」
 ソルラはUiscaの唐突な言葉に、思わず珈琲を吹き出しそうになった。
 口元をハンカチで抑えながら、少し照れたような顔で視線をUiscaへと向ける。
「いきなりずるいですよ。それなら、私の事も、ソルラって呼んで下さいね」
「勿論です」
 改めるとそれもそれでちょっと気恥しく、その事が今更かという所で、二人は声を出して笑った。
 笑い声が聞こえたのか、池の畔を散歩していた緑髪の女性が、Uiscaを呼ぶ。
「暫くはあっちにこっちにとイスカも忙しくなりますよ。ここでは後から来た人が根掘り葉掘り、色々といじられますから」
 エルフであるUiscaは人よりも長命だったが故に、こればかりはどうしようもない。
「それじゃ、また後で、ソルラ」
「それなのですが、実は……この世界でまた会えるかどうかは分からなくて……」
「どうして?」
 折角、距離が縮んだというのに、だ。
 ソルラは誇らしく天上に向けて腕を挙げた。
「私、戦乙女になろうかと思っています。あの時、出来なかった事。今度こそ、確りとやり遂げたいのです」
 いかにも真面目な彼女の台詞にUiscaは眉をひそめる。
「また『鉄壁』に?」
「いえ、これからは王国騎士でもなければ、クート家の娘でもなくて、私は、私が思うまま。イスカが自分の道を駆け抜けたように」
 そう言ってソルラは右手を差し出す。
 Uiscaはその手を確りと握って応えた。
 思えば、似た者同士。もし、自分が逆の立場なら分かる。ここで止めても自分は止まらない事を。だから、この場に相応しい分かれ方をしようと思った。
「人は死んでも魂は輪廻を繰り返すから……また、輪廻の果てに会おうね、ソルラっ!」
「はい、イスカ。また、どこかで一緒に楽しくお話しましょう!」
 天上から降り注ぐ光が分かれる二人を包み込む。
 いつか、ここではないどこか、輪廻の先で再会できる事を祈りながら――。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
話を盛り過ぎて強引に捻じ込ませて頂きましたっ!
墓の中から話を聞くしかできない身となると、きっと、話せる時になったら、あれもこれも聞きたいし、絶対に伝えないといけない事とかもあるんじゃなかろうかとか、色々と想像していたら、詰め込み過ぎに……が、それだけ、良い組み合わせの二人だったのかなと、今は自分で振り返って納得しています(
“鉄壁”はソルラにとってアイデンティティであると同時に、枷であったとも思います。それをUisca様の生き様を見届けて、ソルラは強い影響を受けたはず。そう考えて二人を描きました。とても、楽しかったです。

この度は素敵な機会を頂きまして、誠にありがとうございました!
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2020年02月25日

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