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『シナリオ「宝物の番人」』
夢路 まよいka1328

●自作シナリオ
 夢路 まよい(ka1328)は机に向かって書き物をしている。
「うーん、敵の配置がちょっと難しいかな。防御も攻撃も、職業によって異なるしね」
 そこには幾枚もの紙が置かれている。一つは箇条書きにした進行表のようなもの、また別の一つは見取り図の様なもの。まよいの筆跡で色々と書き付けてある紙の他には、分厚い本が置いてあった。TRPGのルールブックである。

 ある年、自由都市同盟で行なわれる秋のお祭、郷祭にて、TRPGのセッションにプレイヤーとして参加した。洞窟を探検して侵略生命体を討伐するシナリオである。
 その後、邪神戦争も終結を迎え、遊ぶ余裕ができはじめた。ある日、ハンターオフィスで仲間たちと何気なくおしゃべりをしている時に彼女は言った。
「TRPGのセッションをまたやりたいな。時間もできそうだし」
 言い出しっぺの法則、という訳ではないが、好奇心が旺盛で色んな事にチャレンジするまよいは、その流れでゲームマスター、いわゆるGMを引き受けた。使うシステムを皆で決めて、ルールブックも購入する。彼女はそこで思いついた。
「折角だから、シナリオも自分で作っちゃおう」

 シナリオの導入はこうだ。廃墟と化したとあるお屋敷の地下に、何やら大事な宝物があると言う噂が流れた。しかし、行ったものは帰ってこないか、酷い有様で帰ってくる。人を襲う何かがいた、ということだけわかっているのだ。
「これはきっと怪物がお宝を守っているに違いない。調査を依頼しよう」
 そう言うことで、クリムゾンウェストで言うところのハンターオフィスの様な組織が、プレイヤーキャラクターたちを集めて、そのお屋敷へ調査に行かせる、と言うわけである。
 戦闘や謎解きを繰り返すと、地下室に辿りつき、そこでボスを討伐すれば宝物が手に入る、という構成にした。シンプルだ。

 間取り図を作り、そこにどんな敵や仕掛けを配置するか、と言うことを考えなくてはならない。間取り図は建築の本を借りてそれを参考にした。本物はあまりにも部屋数が多いので端折ることにする。
「探索するなら、全部の部屋調べたいもんね。必要な部屋だけにしよう」

 次に、お屋敷に住み着いている魔物的な雑魚敵について考える。敵のステータスを考えながら、
「うーん、敵の配置がちょっと難しいかな。防御も攻撃も、職業によって異なるしね」
 しかし、
「このお屋敷にそんな何種類も敵がいてもなぁ。バトルは前衛職に任せて、斥候職とか魔法職の人は、知識とか観察眼が生きるようなギミックにしようかな」
 夢路まよいは基本的に協力プレイができる女の子だ。だから、シナリオも突出した一人が活躍するのでは面白くない。参加者全員に見せ場ができるように、と頭を捻っている。
「それに、折角戦闘に強いキャラメイクしたのに、他のキャラも戦闘で活躍しちゃったらちょっと埋もれちゃうもんね」
 突出した一人が全て解決してしまうのも論外だが、それぞれに設定された個性を活かせる場がないのも問題である。ハンターが請ける依頼もそうだ。集まった人員が強みを活かして事件の解決にあたるのだから。
「だから皆、心得てるとは思うけど」
 今回のプレイヤーは皆、ハンターだ。協力の重要性はよくわかっているだろう。

●ダイスと頭脳
「もう一工夫したいなぁ」
 何か調べ物をするときは、ただダイスを振るだけではつまらない。もう少し何かないだろうか。いや、情報そのものはダイスロールで出してしまっても良いだろう。その代わり……。
「その後については、リアル推理も入れた方が面白いかもね? 能力値だけで決まっちゃうのもつまんないし」
 ヒントは、それまでの描写にもさりげなく混ぜておけば良いだろう。センテンスを別にすれば、プレイヤーの耳にも付きやすいかもしれない。

 ペンの頭でほっぺたをつつきながら、まよいは思案した。悩むところは多いけれど、
(こうやって考えてるのが楽しいんだよね)

「ダレちゃいそうだったら謎解きは端折っても良いようにしておこうかな。このギミックは描写に入れちゃっても良いし。ボタンがあったら押してみようってなっても不思議じゃないもんね」
 出目が悪かったり、プレイヤーのひらめきが奮わない時には、進行のテンポが悪くなってしまうだろう。そうすると、プレイヤーのモチベーションが落ちてしまうかもしれない。そういうときに多少テンポを上げられる仕組みは必要になる。
 もっとも、このボタンが押してまずいボタンなら、勝手にGMが押させるのは論外であるが。
「予想通りに行くわけないし……ううん、予想通りじゃ面白くない」
 悪戯っぽく笑う。

●怨霊を囲め
 さて、宝物を守っているラスボスのことも考えないといけない。この前遊んだシナリオでは、オオサンショウウオだったと記憶している。
「欲深い、亡者の怨霊にしようかな。この宝は自分たちのものだ! ってすごく主張していて……物理攻撃は通じることにしよう。そうじゃないと手も足も出ない人が出てきちゃうし」
 ただ、敵からの攻撃を防御することにおいて、魔法に秀でた者の方がやや有利、という設定にしておこう。もちろん、魔法防御が多少低いからといって秒殺されるほどの差は作らない。ちょっとした怨念らしさ、とでも言おうか。
「魔法職集まれ〜! みたいなシナリオを作っても面白いかもね」
 最初から、魔法職推奨、ということにしてシナリオを作成すれば、参加者もキャラメイクがしやすいだろう。
 それは次回に譲るとして、今は怨霊の設定だ。
「お宝を集めたは良いけど、誰かに盗られるのが怖くなって地下に隠し場所を作ったとか。そんな欲深い人が、死後もお宝に執着して怨霊になった、と……こういう欲深さがわかる手記とかも出せば良いか。どうせならキャラクターの性格出せる場面はあった方が良いかな」
 そうすれば、ボスと対面したときに、その欲深さに対するロールプレイを楽しむ余地が生まれる。善良なキャラなら「死後もあなたを縛る執念から解放します」とモチベーションを高めても良いし、冷徹なキャラなら「同情する理由がまったくないな」と言い放っても良いし、同じ欲深キャラなら「こいつを倒せば、この宝が自分のものに……!?」と目をGマークにしても良い。

 足を伸ばす。爪先が壁について、引っ込めた。
「とりあえずこんな感じかな!」
 紙束を両手で掲げる。草稿だから粗はあるだろうが、ざっと見直すと楽しそうだ。今参加が決まっているメンバーがしてくれそうなロールプレイを予想すると、今からでもわくわくする。

「うーん、色々考えてたら、疲れちゃった」
 達成感のある疲労だ。今日はもう眠ろう。明日見直しをして、手を入れることにした。セッションの予定はもう少し先だから、それまでに推敲もできるだろう。紙束を揃えて整える。机に置いて、重しを乗せる。ベッドに飛び込んで、ランプの灯りを消した。
「おやすみなさい」
 眠りに落ちるまでも、シナリオのことをあれこれ考えてしまう。夢に見ちゃうかもしれない。それはそれで良いか。何かひらめくかもしれないし。

 小さな寝息が、夢への足音の様に、規則正しく聞こえていた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
まよいさんの「楽しみたい!」という気持ちと、気遣い上手なところが良い感じに合わさったらこんな感じかな〜と思いながら書かせて頂きました。まよいさんがGMのセッション、私も参加してみたいですね。
該当シナリオは私も楽しくリプレイ作成しました。その節はお世話になりました。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年02月25日

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