▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『私の人生は、星屑をまいたように輝いたんだ』
鬼塚 陸ka0038

『だから、見せてくれないかな? 無様でも藻掻き苦しいながら勝ち取る未来を』

 鬼塚 陸(ka0038)は、大精霊リアルブルー(kz0279)から言われたその言葉を忘れられない。
 あの絶望的な戦局の中、鬼塚らハンター達は邪神を倒した。

 ――だが。
 邪神を倒した後でも鬼塚の心からリアルブルーの言葉が消える事はなかった。
 それは、まるで呪いのように――。

「……それで、君はわざわざ僕に会いに来た訳だ」
 鬼塚の前には椅子に腰掛ける大精霊リアルブルー。
 かつて大精霊の加護を受けたCAM『マスティマ』を受領した場所。
 そして、あの消えない言葉を告げられた『忌まわしき』部屋。
「ああ」
「それもそんな物まで持ちだして」
 リアルブルーの視線にあるのは鬼塚の手に握られた星の記憶石。
 守護者となる為に必要な物だが、既にあの戦いを乗り越えた鬼塚にとっては無用な代物。それでも記憶石を握り締めて現れたのは、一種の覚悟だ。
 守護者となり、マスティマを手に入れた時の自分を呼び起こす為に。
「守護者になって……僕はあの戦いに身を投じた。すべてを賭けて戦ったんだ」
 鬼塚の手に力が込められる。
 鬼塚は、自らの理想を胸に戦い抜いた。
 ――凡庸だった自分を、変える。
 すべてを救う為に力を振るう。
 凡庸の人間が力を求めて英雄となる。それは既に凡庸な存在が掲げる理想ではない。それ故の矛盾なのだが、鬼塚はそれでも掲げ続けた。
「…………」
 リアルブルーは黙って鬼塚の言葉に耳を傾ける」
「すべてを救う。そう宣言しておいて、多くも犠牲もあった。いくら手を伸ばしても救う事はできなかった」
 鬼塚が守護者になったとしても、鬼塚一人で世界を救う事などできない。
「分かってたはずだよ。力を手に入れるのは目的を成し遂げるのに必要な要素の一つに過ぎない。相手はあの邪神だったんだ。楽な戦いじゃなかったろう?」
「ああ。それは良く分かる。仲間が居なければ、僕はここにいなかった」
 鬼塚は断言した。
 あの戦いを制する事ができたのは、奇跡以上の事象だ。
 守護者の数が増えようと、ハンターが命を賭けて戦っても邪神の前では針の一刺しにもならない。邪神と正面から戦いを挑む戦略が打ち出された時、多大なる犠牲を払う覚悟はできていた。
 それでも生き残れたのは、信じた人が、支えてくれた人達がいたからに過ぎない。
「君も仲間の為にその力を使ったのだろう? 仲間からすればお互い様じゃないか」
 リアルブルーは鬼塚が言いそうな言葉を敢えて先に言った。
 明らかに面倒そうな表情だ。
 事実、鬼塚は邪神の戦いで今まで以上の戦い振りを見せてきた。
 鬼塚自身も敵に地面を叩き付けられ、身動きが取れず、無様な姿を晒しても最後の瞬間まで抗ってきた。
 ――すべては未来を勝ち取る為に。
「で、君はそんな事を言うために現れたの?」
 リアルブルーはため息を一つ。
 鬼塚は意を決するように顔を上げる。
「僕は……未来を勝ち取れたのか?」
 鬼塚はどうしてもそれをリアルブルーに問いかけたかった。
 マスティマを受領する際に掛けられた呪い。
 自分は本当に未来を勝ち取れたのか。
 あれだけの犠牲を払い、多くの者の未来を奪った存在が、未来を勝ち取ったと言いきって良いのか。
 鬼塚は、呪いの前で前へ進めずにいたのだ。
「邪神を倒したのだから未来は勝ち取れた……それで納得できるなら、君はここに来ていないよね」
 そう言いながらリアルブルーは立ち上がる。
 そして数秒だけ思考を巡らせる。
「……まず、最初に言っておく。この未来を選んだのは、間違いなく君を含めたハンター達だ」
「選んだ……?」
「そう。選んだ。君達は、選んだ未来を掴み取った。凡庸と称した者が守護者となり力を手に入れて邪神を倒すという選択を成し遂げたんだ。
 力は未来を掴み取る道具であるなら、その未来を選んだのは凡庸である君だ」
 リアルブルーの言葉に鬼塚は首を傾げる。
「つまり、邪神を倒すという選択をした時点である程度の未来は決定していた?」
「人間の言葉で表現は難しいけど……正確には少し違う。
 邪神を倒す選択をした時点で、他の未来は排除される。たとえば、邪神を封印する事も、邪神に恭順する事もできた。それにはそれぞれの未来が待っていた。
 君は邪神を倒す事を選択をし、守護者の力を行使して未来のヒトが平穏に暮らせる時代を勝ち取ったんだ。今の時代を生きるヒトの犠牲を計算に入れてね」
 鬼塚らハンターは無数にある未来の中で、ベストと判断できる未来を選んだ。
 そして、その未来に向けて命を賭けて戦った。
 別の見方をすれば封印を行う事で掴み取れる未来もあったはずだ。その未来は今と大きく異なるだろう。それでもリアルブルーからすればハンターが出した答えた。その未来でもリアルブルーは尊重してくれただろう。
「それは分かった。だが、答えとしては……」
「未来は勝ち取った。それは認めよう。もうちょっと無様でも良かったけどね。
 だけど……そもそも、選択した未来は本当に『君が望んだ最良の未来』なんだよね?」
「!?」
 鬼塚は、そこでリアルブルーの言わんとしている事が分かった。
 確かに鬼塚は未来を勝ち取った。
 だが、この未来は鬼塚が想い描いた未来なのだろうか。
 誰かに、否――無意識下に邪神を倒さなければならないと思い込んでいたら?
 もし、別の選択をした未来に掲げた未来があったのではないだろうか。
 あの戦いで幸いな人を失った人にとって、この未来は選ばれるべきだったのか。
 鬼塚は、その答えを持ち合わせていない。
「それは……」
「その答えはすぐに出せるものじゃない。何せ、すべてを救いたいと言い切った矛盾なる守護者様だ。君も気付いているはずだよ。この未来が望んだ未来なのかは、今の君が一人で決める事でもない。ましてや、大精霊である僕が決める事でもない」
 鬼塚は救いたい人々の為に、守りたい人々の為に、戦い続けた。
 そうして戦い続けて勝ち取った未来は、本当に自分が望んだ未来なのか。
 それはこのクリムゾンウェストに、リアルブルーに生を受けた人々が自然と感じ取る物だ。もしかしたら――鬼塚が勝ち取った未来は、この世界の人々のとってとても小さな事なのかもしれない。
「答えは出ない、か」
「そういう物だよ。ヒトは正しい答えを追い求めすぎだ。きっと何処かに求める答えがあると思ってる。本当は、そんな答えは何処にもないのに。君達はずっと、ずっと捜し続けるんだ」
 だから――。
 そう言い掛けてリアルブルーは、言葉を飲み込んだ。
 彼が初めてこの部屋へ来た時、壮大な理想を掲げる危うい守護者だった。
 しかし、目の前にいる守護者は危うい守護者ではない。
 ヒトとして迷い、傷付き、悩み続ける鬼塚陸というハンターだった。
 矛盾も、またヒトの証。鬼塚は、もっともヒトらしい守護者だ。
 だから――もう分かってるはずだ。その答えは自分の目で確かめ、自分で感じて、自分の言葉で紡がれなければならない。
「行くのかい?」
「ああ。勝ち取った未来が理想通りなのか。それを知る為に、もっと世界を見たい」
 鬼塚は、部屋の扉を開けた。

 この救った世界で――。
 終わりと始まりが繰り返される世界で。

 鬼塚自身が終わる日に向かって。



シングルノベル この商品を注文する
近藤豊 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年02月26日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.