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『●彼らの今後の活躍にご期待下さい。』
ミィリアka2689)&岩井崎 旭ka0234)&シルヴィア=ライゼンシュタインka0338)&モニカka1736

 王国歴1019年。後の歴史書で「邪神戦争」として語られる戦いがあった。
 多くの戦死者を出し、歪虚により多くの人々も殺傷され、ハンターの活躍でここのところ復調の兆しを見せていた星にさえ大きなダメージを負わせてしまったその戦い。
 しかし、それでも人々は諦めなかった。
 それはもちろん、多くのハンター達もまたそうだった。

 ――その筆頭と呼べる『彼ら』は今日も開拓、依頼に探険にと忙しい日々を送っていたのだった……

「目をちょっと離しちゃったなのよ……! モニカのバカー! でもでもでもでも、この一瞬で迷子だなんてやっぱり理不尽だと思うなのよー!」
 自作の地図とにらめっこしていたモニカ(ka1736)が最終的に空を仰げば、その横で
「おいおい、あいつら迷子の天才かよ」
 マジかよ……と頭を抱えるミィリア(ka2689)。

 今回は久しぶりの南方大陸入りで、赤龍の故郷ということもあって、そりゃもうみんなのテンションが高かった。
 新たな開発拠点を作るという計画を聞き、遙々砂漠を越え、龍の翼と呼ばれる山岳へと向かい、その山中の樹海に入ったのがほんの1時間前。
 ところが山の天気は変わりやすいという噂通り、雲行きが怪しくなってきたため、一度最寄りの村まで引き返そうかと提案しようとしたら……リーダーである岩井崎 旭(ka0234)とシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)の二人の姿が消えていたのである。
 なおこの山岳は不思議な事に、マテリアル濃度が濃いためなのか、リアルブルー的に言うなら地場の影響なのか、電子機器はエラーを吐き、方位磁石さえクルクルと回って定まらないという難所の一つである。
 お陰で、折角のリアルブルーの技術による電子地図なんて物も全く使い物にならない。
 何もこんなところに拠点を作らなくても……とはミリィアなんかは思ったのだが、そもそも発端がこの謎を解明したいという物好き達がこう、盛り上がってしまったとか言う話しを聞き、妙に納得したし、さらにマッパーとしての血が騒いだのかモニカがやりがいを感じてしまったりなんかしたので、じゃぁ下見に行くか! となったのだ。
 ……なお、幻獣を使わず足で行こうとなったのも、『空飛んで行くとか、何かズルくね?』という変な冒険心ゆえである。

「旭ーー!? シルヴィアー!!!?」
 モニカが呼びかけながら周囲を見回す。
 野生動物だろうか? 何かが草木を掻き分けて飛び跳ねるながら2人から離れていった。
 木々の合間から見える空は今にも泣き出しそうな曇天……と思った傍から音を立てて大地にシミを作り始める。
 モニカとミィリアは「まったくも〜」と同時にため息を吐いて顔を見合わせた。
「仕方が無いでござるねぇ」
「ほんとになのよ……」
 苦笑し合ったその表情からも、互いに深刻さはないことが分かる。
 フードを目深に被り、モニカの地図を頼りに元来た道を戻り始めたのだった。


 号泣しだした空を見上げ、旭とシルヴィアはほぼ同時に額を拭う。
「雨宿り……出来そうな場所は無さそうですね」
 見渡す限り巨木が立ち並んでいる。その為か、最初は雨音こそすれ殆ど濡れずに済んでいたが、時間が経つにつれ、木葉に溜まった大粒が頭部を打つようになってあっという間に濡れ鼠となってしまった。
「あ! あの木の枝!」
 旭が指差した先には、太い枝を横に長く伸ばした大樹。二人は濡れた落ち葉に足を取られないよう気を付けながら走った。
「いやー、濡れた濡れた! つーかシルヴィア、寒くねぇか?」
「少し寒いですね。でも、雨宿り出来る場所が見つかって何よりです」
 とは言いつつも、元々軍人上がりであるため、こういった悪天候の中の進行も慣れたもの。何なら野宿にも慣れているので、未開の地でもさほど深刻になることはない。
 旭はシルヴィアを呼び寄せると、マントをかざして雨粒を遮る。
「モニカとミィリアは無事かなー」
「二人は大丈夫でしょう。あれでもしっかりした方々ですので」
 旭が呑気な口調で呟けばシルヴィアも意に介さない口調で返す。
 深緑の枝葉の向こう。僅かに見える曇天からは、どのくらいの時間雨が降り続くのかなど推測出来ないまま、二人は身を寄せ合い雨露を凌いだ。


「うーん……この辺までは一緒だったと思うのよー?」
 モニカが旭とシルヴィアを最後に見かけた地点まで戻ってきた。なお、ミィリアが最後に二人を見たのはさらに後方だったりしたので、この地点から探索を開始することにした。
 飛び出してきた蛙雑魔を虫を払うように手刀で一刀両断しつつ、ミィリアはうーんと唸る。
「道中これと言って、二人が興味を引かれそうな物ってなかったでござるよねぇ? ……あーやっぱり首輪付けておけば良かった!!」
 誰も知らない知られちゃいけない。岩井崎旭が世にも珍しいリード付き守護者であることを知っているのは、騎突のメンバーだけである。
「まだ木と木がそれほど密集してないしと思ったのが間違いだったのよ……シルヴィアを真ん中に隊列組むべきだったのね……」
 迷子になるだろうことは予測の範疇だったのだが、油断一瞬迷子爆誕である。
 よいしょ、とミィリアが背中のバックパックを背負い直す。なお、この中身は共有の大事な食料だったり水だったりする。もちろん個別に非常食なんかは持っているが、主はミィリアが引き受けるのが常となっている。
 ……何しろ、体力自慢の旭とシルヴィアが迷子の常習犯である。任せられるはずがない。
 枝葉を伝い落ちてくる雨粒は相変わらず大きいが、どうやら雨自体は徐々に上がりつつあるようだ。
「とりあえず、山頂を目指してゴー! でござる」
 方位磁石も効かない中、地図も持たない二人が村まで下りられるとはとても思えない。幸いこういう時は山頂を目指すのが遭難者の正しい行動であることを全員が知っている。
 むせ返るような木々の香りに包まれながら、ミィリアとモニカは進路を山頂へと変え、歩き出した。


 一方、旭とシルヴィアも雨脚が弱まった事に気付いて行動を開始していた。
「この密集具合だと空からは無理ですか?」
「だなぁ……多分、突き抜けても逆に樹の下に居る二人は見えないと思う」
「そうですか」
 スキルを使えば空を飛ぶ事も可能だったが、いかんせん森である。木々の上から二人を見つけるのは難しいだろう。
 シルヴィアもその返答を分かっていたのだろう、さして落胆した様子も無く淡々と前を行く。その、足元が滑りガクリとシルヴィアが姿勢を崩した。
「大丈夫か!?」
「……えぇ、ぬかるみに足を取られたようです。心配ありません」
 濡れた山は歩きづらくなる。普段は服や手袋で隠すようにしているため、気付かれにくいが、義手義足のシルヴィアにとっては更に、だ。
 少し不本意そうに口元を尖らせたシルヴィアのその顔はフルフェイスの兜によって他者に知られることはないが、長い付き合いから察した旭が手を差し出す。
「ここの斜面は少し急だからな」
 にかっと笑って見せる旭。シルヴィアは無言のままその手を取った。
「しっかし、何処ではぐれたんだろうなぁ……シルヴィア、覚えある?」
「……ないですね。全く、しっかりして欲しいものです」

 はぐれる直前。
 狼のような影を見つけて、シルヴィアは歩みを止めた。
 それに気付いた旭もまた歩みを止め、シルヴィアの視線の先に“何か”が居ることを察した。
 影が山頂へと向かい移動したため、シルヴィアと旭はほぼ同時に静かに、気配を消しつつそれを追いかけたのだ。
 結局それは狼型の雑魔であり、残念ながら骨も残さず塵に還ってしまったので二人は何の成果も得られなかったばかりか、モニカとミィリアがいない事に気付いたのもその時だった。

「しかし、強欲竜達が居なくなったらこの辺りもすっかり雑魔ばっかりになったなぁ」
 別に旭は常に強い敵と戦い続けたいとかいう戦闘狂……とかいうのではない。
 冒険が好きで、あちこちに首を突っ込んでいたら結果的に守護者になっただけで、『血湧き肉躍る、戦いこそが我が人生』みたいなそういうのは全くない。
 だが、未だ負のマテリアルが色濃く残るこの地域でさえ雑魔程度の敵しか現れなくなってしまったのは……うまく言い表せない寂寥感みたいな物を感じなくはない。
「邪神の眷属が根こそぎ消えましたからね。とはいえ、油断は禁物です。倒された記録のない歪虚がまだいくつか残っています。それらを倒しきるまでは真の平和は訪れませんよ」
 あくまで淡々と客観的事実を述べるシルヴィアに「そうだな」と同意しつつ、旭は顔を上げた。
 ほぼ頂上付近に来たようだ。多少隆起はあるが、見回しても今より高くなっている地面は見当たらない。
「お。風を凌ぐのにいい感じの岩発見! あの辺でたき火でもするか」
「えぇ、そうしましょう」
 もしかすると今日は合流が出来ない可能性もある。旭は火口箱を取り出すと岩の陰にあったお陰で濡れていない枯れ葉や枝を集めて火を点けた。


「とりあえず、頂上付近……のような気がするのよ」
 モニカの手には方眼紙。書き込まれたその内容の細かさに、やはりマッパーとはこうでなければとミィリアは頷く。
 ……性格的に向かないのはもちろんだが、それ以前として方眼のマップなのに曲線を書かれたときには迷子になるのも然もありなんと思ったのを思い出す。
 ……どちらのこと? それはご想像にお任せしたい。
「んー……あら?」
 モニカがすんすん、と鼻を鳴らす。それにつられてミィリアも大きく息を吸い込んだ。
「なんだか煙たい感じがするの」
「ホントだ! ……こっちでござる」
 風上に向かって二人は歩き出した。

 ――15分後。

「旭ーー!! シルヴィアー!!!!」
「おぉー!? モニカ! ミィリア!! ってうわっ!?」
 駆け寄り、ダイブしたモニカを受け止め損なって旭は尻餅をつく。
「もー、やっと見つけたでござるよ」
「まったく……どちらへ行っていたんですか? 探しましたよ」
「ど の く ち が そ れ を い う か ー !?」
 兜を脱いでいたシルヴィアのこめかみに、「おむすび」と言いながらミィリアが握りこぶしをゴリゴリと押し付ける。
 深刻にはなっていなかったが、心配していなかった訳では無い。無事合流出来たことに安堵して、四人は笑い合った。


「そうそう、二人に見せたい物があるんだ」
 旭が手招いて、モニカとミィリアは顔を見合わせた。
 手早く火の始末をして、五分ほど歩いた先には一際大きな巨木が立っていた。
 しかもお誂え向きな事に、丁度足場に良さそうな枝も生えている。
「登るの?」
「登る」
 えぇー、とモニカは困惑の表情を浮かべたが、旭とシルヴィアが「いいからいいから」とモニカを押し上げ、モニカは何年ぶりかの木登りに挑戦することになった。
「しかし、立派でござるなぁ。樹齢何百年ぐらいでござろうか」
 幹は四人でようやく抱え込めるほどの太さがあり、その割に枝やコブが良い具合にある為、ボルダリングの要領で予想よりすいすいと登り進むことが出来る。
 先導する旭に倣って、登り続け、引き上げられた先でモニカの目に飛び込んで来たのは――
「……すごーい」
 遠く、白い雲がたなびくその向こうに悠然とそびえる黒い大山、龍の巣。
 そこからぐるりと龍の背骨と呼ばれる高い尾根が続いているのが見え、それは途中雲に遮られながらも東へと広がり――
「……あれ? 私たち、今、龍の翼にいるのよね?」
「うん。多分アレが、龍の翼の山頂で、ここはまだ龍の翼の一部だったみたいだ」
 カラっと笑って旭が言う。
「いやー、やっぱ南方大陸は規模がでかいなぁ! でも、あの雪被ってる山脈を越えれば憤怒本陣なのかもと思うと凄いよな」
「ふぉー!? ということは、あっちの山脈越えたら長江とかでござろうか?!」
 確か、龍の翼の反対側には大輪寺があるはずだが、もちろんここからは見えない。
「山脈越えは途中で飛龍が疲れて辿り着けないって言うくらいだから、見えている以上に高さがあるんでしょうね」
 小柄なシルヴィアは枝の先の方に座ると、非常食のビーフジャーキーを取り出した。
 逆に言えば、この山脈があったからこそ、歪虚でさえ越える気になれず、強欲と憤怒の棲み分けが出来たのだろう。
「あ、いいでござるな! 絶景を見ながらの軽食。……鞄置いてきちゃったから、コレしかないのが悔しい……!」
 そう言ってミィリアが取りだしたのは堅パン。
「反対側は見事に砂漠なのね……あ、あの緑が立ち寄ったオアシスなのよ!」
「あぁ、こうしてみるとホントまだまだ砂ばっかだな……流石にここからじゃアウローラは見えないか」
 南方大陸の入口、始まりのオアシス・アウローラ。そこを起点として南方大陸は徐々に復興と開拓が始まっている。
 先住民族であるコボルド達との関係性を第一に、まずは緑化を進め、共存出来る環境を作るのだという。
 しかし、こうして実際に俯瞰して見るとまだまだ始まったばかりなのだと思い知らされる。
「あぁ、空がきれい」
 シルヴィアの言葉に、三人も空を見上げた。
 先ほどまで雨をもたらしていた雨雲は遠く。全体的に白いうろこ雲が浮かぶ中、頭上だけがぽっかりと青い穴が開いたようで、徐々に西へと傾きつつある太陽から天使の梯子が幾筋も下りていた。
「くぅ〜!! 世界中を駆けまわったけど、こんなにワクワクするもんがまだまだ溢れてるんだ! スゲーよな!!」
 旭が右手を空へと伸ばす。その瞳は陽の光を受けてキラキラと煌めいて。
「うん……うん!」
 絶景に圧倒されていたモニカもまた、尽きることのない冒険と希望に胸を膨らませる。
 シルヴィアは景色を噛み締めるようにジャーキーを咀嚼する。そして、世界はまだまだ見たことの無い何かに溢れている事を改めて知り、しみじみと思う。
(苦難も多いだろうが……まぁ、この四人で一緒に居れるのであれば……それも悪くは無い)
「――よし! 明日の突撃のためにも夕飯だ!!」
 旭に負けないくらい、大きな瞳をキラッキラと輝かせたミィリアが拳を振り上げた。
「……ミィリア、凄く鼻の穴広がってますよ」
「!?」
 シルヴィアの鋭い指摘に振り上げた拳で慌てて鼻を隠す。
 そんなミィリアを見て、三人は明るく笑い、ミィリアもまた声を上げて笑った。


「……ということで、今から山を下りるのは危険だと判断しましたので、本日はここで野宿なのよ」
 先ほどのたき火の場所まで戻ると、モニカが道中見つけた摂取可能な果実を鞄から取り出し、ナイフで皮を剥き始める。
「あいやいさー! でござる。たいちょー! テント宜しく」
「おぅさ。任しとけ」
「……では私は何か獲物を……」
「単独行動禁止なのよ?」
「……火を熾してきます」
 結局今夜の夕食は、持ち込んだパスタで作った簡単ペペロンチーノと果物となった。
 その後じゃんけんを行い、見張りの順番を決めると夜の帳が下りるのと同時に、速やかに見張り番以外は休息へと入って行った。

 深夜。
 火の番をしていた旭は夜空を見上げた。
 木葉の間から見える満天の星は、降って落ちてきそうなほど。
 たき火の爆ぜる音と葉擦れの音だけが耳朶をくすぐり、静かすぎる夜は闇への恐怖心を掻き立てるという。
 そう、この森では雑魔とはすれ違えど、野生動物の姿は殆ど見かけなかった。まだ数が少ないのか、それともうまく隠れているのか……それは分からない。
 旭が寂寥感を覚えたのも、恐らく生物の気配を殆ど感じなかったためだと今ならわかる。
 ただ、この森は生きている。砂漠に侵されること無く、ずっと生きてきた。だから、行く年か経てば必ず生物の生命に溢れた良い森へと変わるだろう。
(その日が来るのが、楽しみだ)
 闇への恐怖より、その先にある『明日』への好奇心に旭は笑みを浮かべた。
 ――約束は、今も胸に。

 空へと伸ばした右手は、今もこれからも『未来』を掴んで離さない。





━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2689/ミィリア】
【ka0234/岩井崎 旭】
【ka0338/シルヴィア=ライゼンシュタイン】
【ka1736/モニカ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 この度はご依頼いただき、有り難うございます。葉槻です。

 騎突の皆さんを再び書く事が出来て嬉しかったです。
 その思いの丈が暴走し過ぎてまとめるのが大変でしたが、とても楽しく書かせて頂きました。

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。
 またOMCでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。
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2020年03月03日

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