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『●輝かしき未来のためのパヴァーヌ』
ユリアン・クレティエka1664

 冬ともなれば、雪に閉ざされてしまうその地形から『帝国の辺境』とさえ言われるザールバッハ地方。その中心、マインハーゲンと呼ばれる町にユリアン・クレティエ(ka1664)は降り立った。
 基本的にこの地域人々はこの雪の中では犬ぞりやトナカイを使って生活しており、ユリアンの様にグリフォンなどの幻獣を持つ者はいない。
 ゆえに、グリフォンの姿を見た村人は一様にギョッとした顔でそのゆく先を見つめたが、降り立ったのがフランツ・フォルスター(kz0132)の館の前だった事から“フラットさんのところの客か”と深く追求する事無く立ち去っていった。

「おやおや。こんな真冬にお客様とは。いかがなされたかの?」
「ご無沙汰しております、フランツ伯。……その、少し相談に乗って頂きたくて……連絡もせず突然来てしまって済みません」
 目を丸くして出迎えてくれたフランツに、ユリアンは申し訳なさそうに頭を下げると、朗らかな笑い声と共に顔を上げるよう告げられた。
「いいんじゃよ。どうせ冬は引きこもるしかなし。読みたい本はあらかた読んでしまった後じゃったから、来客はありがたいくらいじゃよ」
 出会った時から変わらぬ好々爺のようなその笑顔に、ユリアンはほっと肩の力を抜いて「有り難うございます」と礼を告げるに留めた。

 フランツ一人と思うと広い館だが、元領主の家だと思えば比較的質素で小さい部類に入るだろう。とはいえ、いつもなら出迎えてくれる恰幅の良いメイドの姿がないので訪ねてみれば「冬は基本的に暇をやっておるのだよ」とフランツは苦笑した。
「一応週に何度かは来て、スープを作り置きして、パンを置いて行ってくれるがね……何しろこんな爺さんと二人じゃ身も心も凍えるじゃろう? 家族の元で温かくして過ごしなさいと暇を出す事にしておるんじゃよ。……そんなわけで、あまり大したもてなしは出来ず申し訳ないの」

「えっと……伯?」
 客間の前を通り過ぎてしまったので、思わず声を掛ければ、フランツは「あぁ」と頭を掻いた。
「あぁ、客間は火を入れておらんので、散らかっておってすまんが、わしの部屋でも宜しいかな?」
「え?! それは、はい。もちろん……やっぱり連絡を入れるべきでしたね……」
 ユリアンが恐縮してみせれば、フランツは声を上げて笑った。
「その時は休みだと思って油断しとったメイドが出勤になるだけじゃから、恨まれずに済んだと思っておきなさい。……さぁ、お入りなさい」

 誘われて入った温かな室内は、左右の壁が全て本棚で出来ており、その本棚にはみっちりと本が差し込まれている。他にも入りきらない本なのか、余所から持って来た本なのか、数十冊がいくつかの山となって机の上に積まれていた。
 薪の爆ぜる音が暖かみを増す暖炉には、鉄の棚が設えてあり、そこに置かれたポットからはシュンシュンと湯気が立ち上っている。
「……凄い本の量ですね」
「どれも過去の遺産じゃよ……そろそろ処分せねばならんのうと思いつつ、思うだけで手をつけておらんからいかんのぅ」
 断りを入れて、一冊取り出してみれば、それは帝国の歴史の写本だった。
「もしかして、ここにあるのは全て帝国の……?」
「そうじゃの。余所の国の事までは流石に手が回らんのでなぁ」
「これだけの本なら、図書館に寄贈してもいいんじゃないですか?」
「まさか! わしの悪筆を広めるだけじゃぁないか」
「え? まさかここにある本は全部写しなんですか……!?」
「全部ではないが、まぁ、大体そこからここまでは写しだのぅ」
 3/1が写本と聞いて、ユリアンは目を瞬かせた。さらにその殆どが20代の頃に書き留めた物だと知り、開いた口が塞がらなくなる。
「当時、役人になるためには二通りあってな。わしは剣の腕はからっきしじゃったが、弁がそこそこ立つ方でのぅ。がむしゃらに勉強して官僚になったんじゃよ」
「……帝国は世襲制なのだと思ってました」
「基本、貴族はそうじゃの。ただ、わしの生家は、戦火で無くしてな。遠縁に引き取られはしたが、これがまた色々と問題がある家で、逃げ出すためには実力で官僚になるしかなかったんじゃよ」

 鍋掴みでポットの柄を持つと、フランツは静かに紅茶ポットにお湯を注いで、砂時計をひっくり返した。一つ一つの所作に無駄がなく、それはフランツが日頃から自分で紅茶を淹れているという証左。
 受け取ったティーカップからはふわりと紅茶の良い香りが立ち上り、ユリアンの鼻腔をくすぐった。この地方で採れたという紅茶はとてもフルーティな香りと軽い口当たりで、ストレートで飲むのに適している。
「美味しいです」
「お口に合えば何よりじゃよ」
 ニコニコと微笑みながら自身もまた一口紅茶を啜り、鼻から抜ける香りを楽しむ。
 そんなフランツを見て、ユリアンは視線をティーカップへと戻した。

「――伯にはご子息はいらっしゃるのですか?」

「ほ?」
「あぁ、えーと。済みません突然。伯ほどの領地を治める方になると、跡取り問題とか、大変そうだな……と」
 しどろもどろに答えて、ため息を落とした。
「自分は家を出て弟に全て押つけてしまったから……実弟の方が世渡が上手な分うまくやってくれるだろうと……」
 嫡男として生まれ、育った。しかし、両親の教育は決して押し付けてくるような何かがあるわけでは無かった。むしろ好きな事をのびのびと……と、騎士階級の家とは思えない程自由に育てて貰ったと思う。
 ――ゆえに、父のような騎士になりたいとは思えないまま家を出た。
 結婚する。その話しから、目を背けてきたこの問題を妹に遠慮無く踏み抜かれたのが先日。
「――と言っても継ぐのは家位で、母の薬草園は例え嫁いでも妹が継ぐって張り切っています」
「ふむ……継ぐ気が無いのは皆さんご存知の事だろうと思うのぅ……王国の相続法がどうなっておるか、しっかりとは把握しておらんのじゃが、詰まるところ、『跡は継がない。相続は要らない』ときっちり親族の前で宣言して、必要なら一筆認めでもしたら良いんじゃ無いかの?」
「……そう、ですね」
「ただ、ユリアン殿に継がせる気の人間がいればもめるじゃろうなぁ。弟殿は継ぐ気があるのかね?」
「……わかりません。でもやっぱり弟とも一度向き合わないと……とは、思っています。出て行っても大事には違い無いし、変わらず帰る場所ではあるのだから」
「そうじゃろうな、それがよかろうよ」
 優しく微笑まれ、背を押される。ユリアンは答えが出せた事に安堵してようやく微笑みを返した。


「本当に今日は有り難うございました」
「本当に良いのかね? 泊まって行ってもよいんじゃよ?」
 フランツの予想では間もなく本降りになるという。ユリアンとしてはその前に転移門まで行きたかった。
「いえ。帰って、妹や両親、弟に伝える言葉を考えたいと思います」
 ――彼女と一緒に。
 その言葉をユリアンは飲み込んだが、フランツはお見通しだよと言わんばかりに目を細める。
「……そうかね。では、気を付けての」
「はい、伯も。お元気で」
 フランツは笑って応え、手を振った。
 ユリアンはグリフォンの手綱を取って空へと飛び上がると、街へと進路を取る。


 美しくも厳しい土地に灯る明かりを見下ろしながら、ユリアンは家路へと急いだのだった。





━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1664/ユリアン・クレティエ】
【kz0132/フランツ・フォルスター(NPC)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はご依頼いただき、有り難うございます。葉槻です。

 フランツをご指名下さり、有り難うございます。
 このお爺ちゃんは手綱を緩めると途端にしゃべりすぎるので、ホント毎回ジスー様との戦いが大変なのですが、今回もみっちりでした。

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。
 またOMCでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。
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ファナティックブラッド
2020年03月03日

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