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『今年は二人だけの一日を控え』
ラシェル・ル・アヴィシニアla3428

 二月前半を締め括るバレンタインデーを前に、ラシェル・ル・アヴィシニア(la3428)は小隊仲間でもある友人二人のサプライズが上手くいくように、やれることは全てやったつもりだ。その甲斐あって後日嬉しい報告を聞き、やってきた二月後半。ラシェルは自室のカレンダーを指でなぞる。それなりに埋まった予定はスマホで管理している中、ペンで印をつけた日がある。バレンタインから丁度二週間後、二月二十八日はたった一人の妹の誕生日だ。そして、ラシェルは今プレゼントを何にするかで悩んでいた。

 この歳になるときょうだい、特に男女は疎遠になる場合も少なくないと聞く。しかしラシェルたちは元いた世界でも同じ機関に所属し、公私ともに一緒にいる機会の多い仲だ。両親も含めラシェルは家族のことを何よりも大切に思っているし、妹といるときが一番楽でいられるとも、逆に弱い部分を見せたくないとも思う。この世界に来て幾らかの月日が流れ知人友人は増えたが、妹のことをよく知っている人間はまだ少なく、なら自分が最も喜ぶ贈り物を渡したい、それが出来る筈だと考え出したら今までない泥濘に嵌まった。
(お菓子は……喜ぶだろうが、折角なら形に残る物にしたい)
 プリンやスイートポテトにカップケーキ、普段から買って帰るには少々値の張る菓子類を眺めながらラシェルは思案する。動物モチーフのドーナツやカラフルなフルーツケーキは箱を開くなり声をあげそうな可愛らしさだが、残るのが思い出だけなのは誕生日プレゼントとしては微妙だなと思ってしまう。何も買わないのも悪いと、カップケーキを二個購入しラシェルは店を出た。これは今日中にお土産として渡して一緒に食べればいい。そして平日の昼間にも拘らずそれなりの往来がある通路へと戻り、また当てどなく歩き出す。
 今日ラシェルが訪れているのはショッピングモールだ。自宅から少し足を伸ばしてここに来たのはひとえに、どういった品にするか以前にそれこそどういう系統の物を買うのかすらも決めきれていなかった為である。ある程度でも絞れていれば該当する店舗を何件かピックアップし回るのが早いだろうが、色々見るならこちらの方が移動の手間もなくていいだろうと判断した。
 吹き抜けまで戻ってくればガラス張りの天井から差し込む太陽光が燦々と眩しく、僅かに眉根を寄せ目を細める。小さな女の子の手を引く母親と思しき女性があれ買ってとせがまれているのを見て、ふと自らの母と妹の姿を重ね合わせた。妹は我が儘ではないが好奇心旺盛さ故に移り気な一面も若干あり、例えば試験でいい成績を出したご褒美に何か買ってもらう際にはあれこれ悩んでしまうことがあったのだ。とはいえ興味の度合いが僅差でもない限り、周囲を困らせる前に決めるが。年齢を重ねるにつれてその回数も減っていった。それは彼女が大人になったというより、エージェントとして戦いに臨むにあたり判断力が養われていった結果だとラシェルは思っている。しかし。
「今の俺にはとやかく言えないな」
 ぽつりと誰にも届かない小さな声で呟く。自分でいうのもなんだが無愛想な兄と天真爛漫な妹で殆ど真逆に近い性格だと思う。それは悪いことではなく、お互いの短所を補い合い、長所を引き立て合えるともいえた。彼女もライセンサーで小隊の隊長でもあり、安心して背中を任せられるのでその点でもいい方向に作用するだろう。ただラシェルにとって彼女は今までもこれからも大事な妹で、守りたい身近な人たちにも当然入っているけれども。微かに唇の端をあげ、人知れず微笑みを浮かべると、その妹の為のプレゼント探しを再開することにした。

(可愛い物が好きとはいえ……さすがにぬいぐるみは子供っぽいだろうな)
 女性たちの視線を感じつつ入った雑貨店ではこの前リビングのテレビで見た兎のキャラクターのそれを手に取る。流し見だったのでよく覚えていないが、女子中学生に今流行りのという宣伝文句だった気がする。妹は幼く見えるものの実際は十八で誕生日を迎えれば十九だ。内面も幼い部分が目立つがあくまでもそれは一面で、喋り口調のように母の影響が濃く、背伸びした印象は否めないが大人への憧れも抱いている。つい一瞬喜ぶも子供扱いされたとむくれる顔が目に浮かぶようだ。というわけでぬいぐるみを元に戻して、店内の別の棚を眺めることにした。時期的にマフラーや手袋も多く並んでいて、立ち止まってはどの色が好きかやどの色が似合うか考えるも、どうにもしっくり来ない。それに特定の季節だけ使う物より年中使える物の方が良さそうだ。となれば更に選択の難度が上がる服も却下して、次にラシェルが目に留めたのはアクセサリーコーナーだ。まず目につくのはシュシュやバレッタだが――。
(髪飾りはクリスマスに贈ったばかりだな……さて、何がいいものか)
 ピアスはなしとして、イヤリングに指輪、ブレスレット等、女性向けの装飾品は色々ある。椿ではないが白い花弁をあしらった物にふと目がいった。それ以外ならやはり、真っ白な照明を浴びて輝く宝石がついたアクセサリーだろうか。しかしラシェルは石言葉には聡くないし、どういう宝石が好きなのかよく分からないのが正直なところだ。誕生日プレゼントなので奮発するのは構わないのだが――。と、そこまで考えて不意に閃くものがあった。
(そういえば誕生石のアクセサリーを身に付けているのは見たことがないな……一つくらいあってもいいのでは?)
 誕生石の概念は知っていても二月が何かまではすぐ出てこない。スマホを取り出して二月の誕生石で検索をかければ、簡単にその答えが表示された。宝石はそれで決まりとして後はどういった種類にするか。最初は場所を選ばずつけられるかどうかで考え、しかしいまいち掴めないと男女の感覚の差を思い知って、結局は誕生石に当たりをつけた時と同じく、妹の好みや利便性を求めるのではなくそのものに想いを込めることにした。

「プレゼント用でお願いします」
 レジで商品を手に訊かれて答えれば、店員も承知の上といわんばかりに手際よくラッピングをし始めた。というより訊く前から準備していたような気もする。
(俺が誕生日プレゼントを買うと分かっていたのか。店員の観察眼とは鋭いものだ)
 と単純にホワイトデーのお返しだと思われているとは欠片も考えず、ラシェルは目の前で包装紙に隠されていく物を見つめた。――誕生石のアメジストで彩られたオープンハートのネックレス。シルバーのシンプルなデザインなので主張も少なくワンポイントとして丁度良さそうだと思った。一番の決め手はやはりネックレスに込められた意味だが。
(『相手の無事を祈り願う』や『幸せを祈る』……これ以上はないな)
 戦いに身を投じる以上は危険が付きまとうものだ。
(妹の幸せを願って……喜んでくれるだろうか?)
 正直なところ、決めた現在でも自信は全くないが。去年までの贈り物に喜んでいたあの華やいだ表情はすぐに思い出せた。今年もまた見られればいいと願う。綺麗にラッピングされたプレゼントを受け取ってラシェルは店を出た。
(ケーキは、アイツが好きな苺たっぷりのチョコケーキにしよう)
 こちらは悩むまでもなくすんなり決まる。口一杯に頬張って美味しさのあまり小さく声を零す姿を思い浮かべながら、ラシェルはクリスマスのときもお世話になった店に向かい歩き出した。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
シリアスにはなっていない筈ですがほのぼの感が上手く
出ているといいなと思いながら書かせていただきました。
仲のいい兄妹っぷりが、とても微笑ましくて和みますね。
外見も中身も子供みたいに見えてもご両親の次くらいに
彼女の成長を間近で見てきたラシェルさんだと思うので
年頃の女の子相手らしいおしゃれなチョイスをしつつも
しっかりとした意味が込められているのがさすがだなと。
一応は天然なところも意識してみたつもりだったり……。
今回も本当にありがとうございました!
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グロリアスドライヴ
2020年03月03日

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