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『My Funny Valentine』
アルバ・フィオーレla0549)&化野 鳥太郎la0108


 大切な貴方へ、愛を込めて。
 St. Valentine's Day。諸説様々、『女性から意中の男性へ、チョコレートを贈る日』なんていうのも今は昔。
 花束の需要も、年々増えている。


 冬空の下に、一軒の洋館が佇んでいる。緑色の屋根は、どんよりとした背景にあって優しい輪郭をとっていた。
 軒先を彩るを季節の花が、冷たい風に揺れている。
 2月半ばという時期であっても、花屋【一花一会〜fortuna〜】から花の姿が絶えることはない。
「ごめんなさい。お待たせてしてしまったのだわ!」
 配達から戻った店主アルバ・フィオーレ(la0549)は、店内の観賞用椅子に座っていた来客へ慌てて駆け寄る。
「どういったお花をお探しかしら?」
 贈る花を巡る、人々の事情や想いは様々。
 ひとつひとつ丁寧に、花の魔女は向き合い寄り添う。
 花束の予約・作成・接客・通常営業・配達等、繁忙期もアルバひとりで対応を続けていた。




 今日もまた、新しい陽が昇る。一日が始まる。
(楽しいのだわ♪ この季節は、特別ね)
 ケアをしている白い指先も、この時期はひどく荒れてアカギレがあちこちに。
 それに気づかず気にせず、アルバは軒先の花へ声を掛ける。
 誰かを想う誰かの為、花束を作ること。
 想う誰かへの贈り物を、自分へ任せてもらえること。
 喜んでもらえたよ、とっても素敵だよ、またお願いね、笑顔の報告が届くこと。
 そのどれもがアルバの喜びで、やりがいで、『新しい花の魔女』の本領とも思う。
「……あら?」
 が。
 不意に、視界が揺らいだ。
 膝から力が抜けて床にお尻をついてしまう。
 体に力が入らない。
(どうしてなのだわ?)
 バレンタインデーの近づくここ数日は文字通り、不眠不休だった。
 夜に翌日受渡しの花束を作り、日中は店内で仕事を続けつつ飛び込みのオーダーに対応、合間を見て配達に出る。
(だめ……わたしは、ここで倒れるわけにはいかないの……)
 足よ、動いて。立ち上がって。
 朦朧とする意識の中、上半身をなんとか起こしたアルバは、作業台にあるスマホに手を伸ばした。






 鳥太郎さん……助けて



 平和な朝、のどかな着信音。
 化野 鳥太郎(la0108)が通話に出ると小鳥のような声が鼓膜を震わせ、それきり音声が途絶えた。
「えっちょっとどうし、大丈夫? すぐ行くから待ってて!」
 書きかけの楽譜も何も放り出し、鳥太郎はマンションを飛び出した。
 あれから電話を掛け直してもずっと話し中だし(きっと、こちらへの通話終了を忘れている)、事件に巻き込まれていなければいいのだけど!!


 果たして到着すると。
 花束を抱えて店を出る客へ、笑顔で手を振るアルバの姿があった。




「……アルバさん。幾ら仕事が楽しくても無理はしちゃダメだよ……」
「お店の手伝いにきてくれてありがとうなのだわ、鳥太郎さん♪」
「ああ、あの電話はそういう……。いや、そうじゃなくて」
 アルバの立ち居振る舞いは、いつもと変わらない。
 しかし鳥太郎は、電話の声を聞いたとき背筋が冷えたのだ。少しだけ寝て回復した、とは思えない。
「店が繁盛しているのはそりゃ嬉しいけど! ……手伝い……そうだな、それでアルバさんの負担が減るなら」
 大変な時は手伝うと、約束をした。
 もっと早く気づけばよかった、という自責の念も少なからずある。
「配達や力仕事は俺に任せて。他のことも頑張るからさ」
 アルバが、花と店を大切にしていることは鳥太郎も理解している。
 どうしても自分の手でやり遂げたいこと・代理の利かない内容もあるだろう。
 その他の、出来る限り譲れる部分を受け持とう。

 申し出を受けると、アルバはストールの端を口元へ持ってゆき、肩を揺らした。
「ふふふ♪」
 ――待っているひとへ、お花を渡せないかもしれない。
 アルバが危機感を抱いた時、真っ先に思い浮かんで助けを求めたのが鳥太郎。
 約束もあったけれど、何よりも彼を信じていた。
 ピアノを愛する彼ならば、花を愛する自分のことも、理解してくれるだろうと。その通りだった。嬉しくてたまらない。
 クルリとターンして、仕事に必要なものを用意する。
「これがエプロン。サイズは合うかしら?」
「ありがと、うん、大丈夫だ」
「あとこれね」
 自然な流れで、アルバは猫耳カチューシャを鳥太郎(38歳)へ手渡した。
「鳥太郎さん。はい、『にゃあ』」
「にゃあ」
 装着後に鳴き声を出すことを求められ、疑問も抱かず鳥太郎は反復する。
「可愛いわ……癒される……」
 眩しいものを見るように目を細め、アルバは写真におさめた。おさめまくった。
「へー、普段からやってるのこういうの」
「バレンタイン期間の特別よ」
 本当は、ちょっとした悪戯だった。
 小学校の元教師である鳥太郎には抵抗がなかったらしく『ちょっと怖い印象を与えやすい方だから』と、かえって喜ばれる。
 それもまた良し。皆しあわせが一番だ。
「それじゃあ、仕事について簡単に説明するわね。鳥太郎さんには、注文分の受渡しと、配達をお願いしたいの」
「わかった。ちょうどバイクで来てるから、問題なく動けるよ」
 アルバは、通常業務と飛び込み注文を担当。
「……。ねえ、アルバさん。この花束は」
「朝一番にいらっしゃる方の、ご予約分だわ」
「開店前に作ったの? この量を?」
 接客カウンターの後ろに作業台。更に後ろには花束の束。
「夜のうちに束ねて、朝に仕上げたのよ。昼以降の分は時間が近くなってからラッピングをするのだわ」
 レース柄のセロファンで可愛らしくラッピングされた花束もあれば、簡単にまとめただけで水に生けているものもある。
「この量を」
 語尾を下げ、鳥太郎は繰り返す。
 その小さな手で、どれだけの数を生み出してきたのだろう。
 これは、疲労困憊もするだろう。
 しかし彼女が一つも苦にせず行なっているのも、わかるから。
「……にゃー」
 鳥太郎は掛ける言葉が見つからなくて、とりあえず鳴いた。




「いらっしゃいませー」
 猫耳店員(身長174cm)の対応に、客も一瞬は驚くが隣にアルバの姿を見つけて安心する。
 というイベントが立て続けに起きている。
「俺は臨時スタッフです。花束は店主が丹精込めて作っていますから、安心してください」
「素敵なバレンタインになりますよう、願っているのだわ」
 仕事の手を止めること無く、アルバは笑顔を向けて。
 品を確認し、鳥太郎へ驚いてすまなかったと伝えて店を後にする客もいる。
 販売の仕事には不慣れな鳥太郎だったが、覚えてくると楽しい。
 手から手へ品を渡し、笑顔を受け取って笑顔で見送る。
 案外と、猫耳のインパクトが空気を和ませてくれてるのかもしれない。
「アルバさんも、猫耳すればいいのに」
「ひとつしかないのだわ♪」
「ええー……」
 ようやく、そこで鳥太郎は悪戯だと気づいた。
「鳥太郎さんは、気配りが細やかだし、頼りになるのだわ」
「えー? そう見えるなら嬉しいけど」
 臆病の裏返しかもしれない、と鳥太郎は飲み込む。見透かすように、アルバは微笑む。
「自分を見つめられるから、向き合う相手のことも真っ直ぐに見ることができるのね」
 これがあったら、嬉しいだろうか。
 こう工夫すれば、持ち帰りやすいだろうか。
 カードや、手渡し方や、紙袋や。花束と、相手の手荷物状況に合わせて、鳥太郎は考えている。
 そういった姿を、アルバはきちんと見守っていた。
「あれ。……うん? アルバさん、これどうしよ?」
 花束の中に、しおれてしまった花弁がある。全体のバランスを考えて作っているだろうから、無造作に取り除くわけにもいかないだろう。
「見せてみて。水の回りがよくなかったのね……。ここを、こうして……」
 ラッピングをほどき、茎の部分に応急処置を。
「もう少ししたら元気になるのだわ。こちらのご予約は、受け取りまで30分あるから大丈夫ね♪」
「はーー……さすがだな」
 もう、だめな花かと思った。
 対応一つで、植物はしょんぼりもするし気を持ち直す。
 まさに『花の魔女』。アルバの姿を見て、鳥太郎はしみじみと感じた。




 予約の受け渡しや飛び込み依頼が押し寄せる時間を乗り越えて。
「ふう……それじゃあ、後半の仕事をするのだわ♪」
「その前に、昼ご飯を食べようか?」
「え?」
「はい、どうぞ」
 座るように椅子を引っ張り出し、鳥太郎はこちらへ来る際に自分の朝食にとコンビニで買っていた軽食を取りだす。
「今日は2人いるから、少しだけ休もうよ?」
「……はい」
 サングラス越しに、鳥太郎の目が穏やかに細くなるのがわかる。
「それじゃあ、お茶を淹れるのだわ♪ 少し、待っていてね。鳥太郎さん」
 軽やかに、アルバは店の奥へ消える。
(最近……ちょっと子供っぽくなったかな?)
 表情や、ちょっとしたしぐさ。どこをどう、と的確には言えないけれど……。
 なんとなく、鳥太郎はそう感じていた。
(自然に振る舞えるようになっているなら、いいことなのかな)
 限界まで動き回って、突然電池が切れたように寝てしまう子供のよう、とまでは……いや、今日は限りなく近かった。
(配達の帰り、何か栄養になるものを買ってこよう)
 料理の腕前もしっかりしているアルバだから、食事は大丈夫と思いたいところだが嫌な予感がする。


「それじゃあ、行ってきます」
「気を付けて、なのだわ♪ 皆さんに、よろしく伝えてね」
 軽い昼食タイムは、思考もクリアにしてくれる。
 朝に比べてアルバの肌色も良くなったように思えた。安心して、鳥太郎は配達へ出発する。
(これ、普段から1人でやってんのか……)
 繁忙期ではなくたって、大変に違いない。
 そんな様子を露とも見せず、アルバはいつだって笑顔で人と接しているのだ。
(かなわないなー)




 洋館の外壁が、夕日色に染まる頃。
 店には『CLOSE』の看板が掛けられる。
「お疲れ様、アルバさん。1日の手伝いだったけど、なかなか大変だよ。今後もたまに手伝いに来ようね」
「――……」
「アルバさん?」
 返答がない。
 店内の片づけをしていた鳥太郎が顔を上げると、ドアにもたれかかるように崩れ落ち、アルバは意識を失っていた。




 さらさらと、風がそよいで。緑の香りが鼻先をくすぐる。
 幼い自分の手を引いてくれる、大きくて暖かな手のひらは……
「……あ、ら?」
「起きた?」
 氷嚢を交換しようとしていた鳥太郎が、スイとアルバの顔を覗き込み、
「働きすぎだよ。うんうん、ぐっすり寝たからだいぶ顔色が良くなったね」
 ひひっと笑う。
「まあいつかは頑張りすぎちゃう気がしてたし、電話くれて良かったよ」
 もう少し早くても良いんだからね。
 そう付け足す表情には、心配の色がにじむ。
「ありがとう……。大丈夫よ」
 アルバは彼の頬を両手で包んで、ふわりと笑った。
 とても自然な、彼女の笑顔。
「ゼリーとか、食べられそう? 配達帰りに買っておいたんだ」
「うれしい。ありがとう、頂くのだわ」
 アルバは、ベッドからゆっくりを体を起こす。
 閉店した安堵で気が抜けてしまったアルバを、鳥太郎が自室へと運んでくれたのだ。
 色々と気を使わせてしまって、申し訳なくもあり嬉しくもあり。

 アルバはフルーツゼリー。
 鳥太郎は焼きプリンで、今日一日の労いを。




「今日は、ううん……今日だけじゃなくていつもありがとう。だいすきよ」
 別れ際。
 なんのてらいもなく、アルバはそんなことを言ってしまう。
「親愛なる友人へ、愛と感謝を込めて。ハッピーバレンタインなのだわ♪」
 銀のリボンが掛けられた、深緑の箱を手渡す。
 緑の屋根の洋館【一花一会〜fortuna〜】を、助けてくれる銀色のあなたへ。
「ちゃんと、手作りよ。お口に合うと良いのだけど」
「わざわざありがとね。えーと、じゃあお礼はホワイトデーに!」
「ふふ、楽しみなのだわ」


 あなたが居るから、頑張れた。これからも頑張れる。つい甘えてしまうけど、よろしくね。
 小箱を開けると、音符やピアノ型のチョコレートが五線譜のシートに包まれていた。
「ホワイトデーか。……ホワイトデーも、無理しなきゃいいけど……無理しそうだなぁ」


 ビターチョコレートを口の中で溶かしながら、次はいつ手伝いに行こうかと、鳥太郎は鼻歌交じりにカレンダーをめくった。




【My Funny Valentine 了】

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼、ありがとうございました!
バレンタインデーを巡る、お花屋さんの一幕をお届けいたします。
『Valentine』には、特別な人という意味もあるということで。
明るく楽しい、大切なあなたへ。
どちらからとも受け取れるタイトルを。
お楽しみいただけましたら幸いです。
イベントノベル(パーティ) -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年03月03日

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