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『夢のチアガール』
桃簾la0911)&磐堂 瑛士la2663

●夢のような一日
 サッカーフィールドに大歓声が響き渡る。今日はトーナメントの決勝戦。一進一退の攻防が続いていた。長時間走り回った事による疲労か、最終盤まで勝負が縺れ込んだことによる焦りか、だんだんと選手の動きが荒っぽくなる。中盤をドリブルで駆け上がっていた磐堂 瑛士(la2663)は、敵MFの鋭いスライディングタックルに襲われた。
「うわっ……」
 瑛士は咄嗟にボールを上空へ跳ね上げ躱そうとするが、MFは勢い余って突っ込み、瑛士の足を蹴りつけ地面に倒してしまった。
 観客がどよめき、主審が鋭くホイッスルを鳴らす。頭上にはイエローカードが掲げられた。
「何という事を! 瑛士に何かあったら、このわたくしが全力で蹴り飛ばしますよ!」
 チアリーダーの桃簾(la0911)は、最前線から高らかにブーイングを発する。目も三角にして、本気で怒っている。瑛士は何とか起き上がると、桃簾に向かってピースサインを送った。無事を表すサイン。桃簾はほっと胸を撫で下ろし、そばのチアリーダー仲間と共に再び観客席の最前線で応援を始めた。
「頑張りなさい! 勝ったら私が知る限りで一番のアイスをご馳走しますよ!」
「またアイス……」
 桃簾の高らかな叫びを聞き、思わず瑛士は破顔する。桃簾は同じライセンサーとして戦う近所のお姉さん。肌が白くて髪の毛がつやつやで良い匂いがする美人のお姉さんだが、なぜかアイスにハマって神が与えた人類の叡智とばかりに信奉する不思議なお姉さんでもある。
 しかし、今日の瑛士にとってはアイスなどどうでも良かった。既に一生分のご褒美をもらったような気分である。修道服にしろ、ドレスにしろ、桃簾は普段から露出が極端に少ない。しかし今日はノースリーブにミニスカなチアリーダー衣装。両手のポンポンを振るたびに、豊かな胸もぽんぽん揺れる。腿を高く上げるたびにスカートがふわりと揺れて、すべすべでしなやかな太腿が太陽に映える。その脇を固める高校生チアリーダー達も十分美少女だったが、スタイル抜群な桃簾と並び立てば皆お子ちゃまである。
(ありがとう桃ちゃん! 俺のために!)
 瑛士は心の中で歓喜の声を上げながら、そのままフィールドを駆け上がる。高らかにホイッスルが鳴り響き、チームメイトがサッカーボールを蹴り抜いた。風を切ったボールは、瑛士の足元へと吸い込まれていく。軽やかにトラップした瑛士は、そのまま右サイドを駆け上がっていく。彼のポジションはミッドフィールダー、いわばバイクの車輪である。
「頑張りなさい! 瑛士!」
 彼女が叫ぶ。瑛士は目の前に迫る敵選手を軽やかに抜き去った。そのままペナルティエリア付近まで踏み込むと、ゴール前まで上がってきた選手へセンタリングを放る。敵選手と競り合いながら、チームメイトはヘディングを放った。しかしキーパーの勇気ある飛び出しによりゴールは阻まれてしまう。ロスタイムへ突入、点数は2対2。そして相手の攻撃ターン。非常に危険な状況だ。瑛士は素早く切り返すと、全速力で後退する。MFは攻めも守りもこなさなければならない。普段は教室の隅で幽霊のようになっている瑛士だったが、桃簾にチアリーダーをされては頑張らざるを得ない。
 一気にコートの半分を駆け抜けた瑛士は、再び正面へと向き直る。ワンツーパスを駆使して敵が陣中まで切り込みつつあった。瑛士は足のバネを溜める。ボールには既に味方が向かっている。無理して自分が向かわず、ここは機を窺うのだ。
 敵味方がもつれ合い、ボールが零れる。その瞬間に瑛士が一気に飛び出した。ボールを掠め取った彼は、一気に敵陣へと突き進む。カウンター攻撃だ。
「ここだ!」
 そして瑛士は、強烈なドライブシュートを放つ。高く舞い上がったボールを受け止めに、キーパーは大きく伸びあがる。しかし、ボールは坂道を駆け下りるように急カーブを描き、キーパーの足元へと突き刺さった。この変化球にキーパーは対応しきれず、そのまま地面に倒れ込む。
 鋭くホイッスルが鳴り響く。値千金の一発だ。チームメイトが駆け付け、瑛士へと飛びつく。勝利は約束されたも同然だった。

 キックオフから間もなく、試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。瑛士のゴールによってチームは大勝利、トーナメントも優勝である。
「瑛士!」
 桃簾は観客席の塀をするりと乗り越える。ポンポンを手放し、フィールドから戻ってきた瑛士に桃簾はぴょんと飛びつく。両腕を首に絡めて飛びついたから、丁度瑛士の顔は桃簾の胸元に埋まる格好になった。桃の香水の香りが鼻をくすぐり、思わず瑛士は頬を緩めてしまう。
「見ていましたよ。素晴らしい活躍だったではないですか!」
「うん、その、えっと……」
 ビーズのクッションよりも心地よい感触に夢中になっているうちに、瑛士は引っくり返ってしまった。その拍子にてのひらが桃簾のお尻に触れてしまう。スカート越しでも、まるで手に吸い付くような触感だ。
「ちょっと、何処を触ってるのです」
 桃簾は恥じらうような声を上げるが、胸は顔に押し当てたままだから説得力があまりない。
「ご、ごめん……」
 そんなやり取りをしている間に、優勝に沸いた生徒たちまで柵を乗り越えて次々になだれ込んできた。人々が折り重なるように倒れ込み、丁度その真ん中にいた桃簾達はそのまま押し潰されてしまう。
(息、息が……)
 胸元に顔が押し当てられ、全く息が出来ない。しかし、自分が桃簾の胸の内で死ねるなら、それはそれで幸せな事ではないかと思い至る。じたばたする事も無く、全身に伝わる感触に身を委ねようとした時――

 普通に瑛士は夢の世界から追い出されてしまったのである。

●チョコとおしおきと
「……という夢だったのさ」
 SALF東京支部の食堂。その片隅に桃簾と向かい合わせで座った瑛士は、そんな高校生の欲望を詰め込んだような夢の一部始終を語ってみせた。桃簾はいたく穏やかな笑みを浮かべて聞いていたが、いきなりグーを瑛士の額に叩きつけた。
「痛いっ! 何するんだよ……」
「瑛士、『情欲を抱いて女を見るものは、心の中ですでに姦淫をしたのである』という言葉が、この世界には存在するそうですね?」
 拳を固めたまま、桃簾はにこやかに尋ねる。瑛士は己の頭を庇うように手を翳したまま頷く。
「ああ、高校の授業で確かに習った気がするよ。でも別の授業でもう一つ習ったよ。この国には内心の自由というものがあるんだ。夢に見ちゃったものは仕方ないじゃないか」
「……確かに、夢に見るのを止めろと責めることは出来ませんね。では一つ尋ねます。そんな夢を見て、私に何か言うことはないのですか」
 テーブルに手を突き、ぐいと身を乗り出す桃簾。瑛士はちらりと桃簾の胸元へと眼を伸ばす。チアの衣装を着ていたら、ぴっちりとした谷間が目の前にさらけ出されていた事だろう。思わず瑛士は呟いてしまう。
「現実の桃ちゃんも、もっと薄着すればいいのになぁって……」
 勿論そんな言葉が桃簾の機嫌を和らげるはずもない。桃簾は笑顔で頷いた。
「わかりました。後でやはりたくさん蹴ることにします」
「ええ……」
 自業自得である。瑛士がぐったりして俯いていると、不意にそんな彼の目の前に一つの包みが差し出された。それなりのブランドのチョコレートだ。ふと顔を上げると、桃簾は小さく肩を竦めた。
「チョコレートです。いつもお世話になっていますから。受け取りなさい」
「チョコレートアイスではなく?」
 このアイス狂信者、もといアイス総主教は、新作アイスがどこかで発売されたとなれば、常に彼を東京都の水先案内人にしていた。総主教は機械と大層相性が悪く、彼が居なくては自動券売機で切符を買うことすらできないのである。そんな彼女がプレゼントに選ぶものは常にアイス。こちらがどれだけアイスに飽きても構いやしない。先日の夢でも彼女はアイスがどうのと言い出したほどだ。
 そんな桃簾がチョコレートを差し出しても、瑛士は疑ってしまう。そんな彼の顔を見て、桃簾はさらに付け足した。
「アイスはいつでも食べられますから。今日はバレンタインですし、チョコレートをあげます」
 バレンタインデーにチョコレート。そんな普通の事でも、異世界のお嬢様に振り回される瑛士にとっては夢のようである。チョコレートの包みを取った彼は、これも夢なのかもしれないと思ってしまった。
「桃ちゃん、ちょっとつねってみて」
「まさかこれも夢と思っているのですか。それはとても心外ですね」
 桃簾は指を伸ばすと、思い切り頬を引っ張ってやった。

 その後さらにお尻に一発喰らったのは言うまでもない。



 おわり


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物
 桃簾(la0911)
 磐堂 瑛士(la2663)

●ライター通信
 お世話になっております。影絵企鵝です。この度は御発注いただきありがとうございました。最初はキャラ性を考えてEスポーツの会場にしようかとも思いましたがチアが活躍できるほど明るい会場ではないので敢えてサッカーにしました。夢なので。桃簾さんのスタイルも夢で一層補正されていたりいなかったりするかもしれません。
 何かありましたらリテイクをお願いします。では。

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グロリアスドライヴ
2020年03月03日

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