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『遙かなる時空の先で』
Uisca=S=Amhranka0754

 ――王国歴1025年。
 Uisca=S=Amhran(ka0754)の姿は、リアルブルーにあった。
 元辺境巫女であるUiscaの姿が何故リアルブルーにあるのか。
 その理由は、幾つかある。

 一つは最愛の人と結ばれ、二年前には女児が生まれたことから夫の両親に挨拶をする為である。結ばれてから二年という歳月を経てから夫の両親への挨拶を行う事に罪悪感を抱いていたが、孫の顔を見た夫の両親は素直に受け入れてくれた。

 もう一つはアルテミスとしてリアルブルーの国際的な医療機関と協力関係を構築する事。
 邪神の影響は未だリアルブルーの随所で見受けられる。その支援をアルテミスが助力する代わりに国際的な医療機関の持つノウハウをクリムゾンウェストへ持ち帰る。

 そして、双方の協力関係は二つの世界を強く結びつけてくれる。
 Uiscaは国際的な医療機関の本部へ赴き準備していた提案を行ったものの、国際的な医療機関側は回答を保留。国際的な医療機関からすればアルテミスを受け入れる体制がすぐに整えられない事を理由に挙げている。
 Uisca自身もすぐに協力体制が整うとは思っていない。何度も足を運んで国際的な医療機関と関係を築いていく他無いだろう。

 ――そして。
 Uiscaは残る一つの目的を果たす為、意を決して動き出す。

「ここが……」
 Uiscaは民家であったであろう小さな建物へ足を踏み入れた。
 アメリカ合衆国マサチューセッツ州ダンバース。かつてはセイラム村と呼ばれた場所である。
 何故、この村にUiscaが赴きたかったのか。
 それはクリムゾンウェストで出会った『ある歪虚』が関わっている。
(ブラッドリー……おそらくその名前も偽名でしょう)
 歪虚ブラッドリー(kz0252)。
 辺境、龍園を中心に、怠惰王やその周辺を利用しながら邪神への恭順を人類へ選ばせるように暗躍を続けていた。
 Uiscaもブラッドリーと何度か交戦。その度に普通の歪虚とは異なる思考とオーラに感じる取る物があった。
「ブラッドリーが残した言葉を考慮すれば、おそらく鍵はこの村に……」
 建物の中を見回すUiscaの目に飛び込んで来たのは、壁に貼られた数百年前の資料であった。
 Uiscaの中にある記憶から、ブラッドリーはある事件に巻き込まれたと考えた。
 ――セイラム魔女裁判。
 17世紀頃に発生した事件であり、当時魔女の存在が信じられていた時代に魔女を告発が多発。20名近い人間が処刑された凄惨な事件である。植民地時代のアメリカにおける集団パニックの深刻な事例として知られ、この街でも事件を風化させない為に当時の建物を買い取って資料館として広く公開していた。
(ブラッドリーの姿はリアルブルーの神父。もし、この事件に関わっていたとすれば当時の常識から考えて重罪……)
 Uiscaは考えを巡らせながら木張りの床の上でゆっくりと歩く。
 宗教の過激な思想は欧州を中心に広がっていた。当時の教会の権威維持と向上を考えていたとしても、ブラッドリーの言葉は常識を逸していた。
(教会で共に暮らしていた数名の少女が魔女として告発されたと考えれば辻褄が合います)
 当時の写真が貼られていたコーナーを見つけたUiscaは、壁に貼られた写真に何度も視線を合わせる。
 ブラッドリーが倒される際に放った言葉。
 
『神など、いない』
『あれだけ求めても、神は手を差し伸べてくれない』
『あの子達は、私は、どうすれば良かったのでしょう?』

 もし、ブラッドリーがこの街で神父を務めていて教会で数名の少女達と一緒に暮らしていたのなら――。
 そして、その少女達に魔女の告発が成されたなら――。

 少女達が孤児であったなら、当時の村人は告発しても良心の呵責に多少は悩まなくて済む。
(本当にそうだとしたら、なんて酷い話……)
 Uiscaの中に浮かぶ光景。
 神を崇め、神に感謝し続ける神父が、教会の権威向上や不安から来る集団パニックにより魔女を匿う者として攻撃される。
 必死で無罪を叫んでも人々の耳に声が届いたとは思えない。むしろ、ブラッドリー自身も魔女として糾弾されていても不思議ではない。
 降り掛かる苦難。ブラッドリーはそれでも神に祈ったかもしれない。
 だが、今の際まで神は助けてくれない。
 その時の絶望と怒りは――想像するだけでも背筋が凍り付きそうだ。
「……ありました」
 Uiscaの目に飛び込んできたのは一枚のスケッチ。
 当時、教会に焼き討ちが行われ、中にいた少女五名と匿った神父が一名死亡したとされる。教会の周囲を村人に取り囲まれ、火を付けて外へ逃げられないよう見張られていたようだ。
 当時の判事は、こう判断していたようだ。

『火を付けて火傷を負わなければ、魔女。負えば人間である』
「神父が一名……。名前や資料は村人は全て破棄……名前は分かりませんか」
 当時の過激な村人が教会の存在そのものを全て破棄しようとしたようだ。
 その為、当時の教会関係者の名前は消失してしまった。ただ、神父は裁判の結果にかなり抵抗を示したらしく、文字通り身を挺しての擁護を続けた。その結果、村人の怒りを買って焼き討ちを受けたようだ。
「リアルブルーの負なる歴史の側面ですか。それに抗おうとして、裏切られた神父……」
 今となってはそれがブラッドリーだったという確証はない。
 ただ、時代の流れに必死で抗おうとした証拠は間違いなくこの街に残されていた。


「この地では、貴方と捕らえられた子達の間に、確かに絆があったと思います。その想いの強さ故に、歪んでしまったのですね……」
 Uiscaは教会のあった場所に花束を供えた。
 更に調べた結果、教会の焼き討ちで神父の手により逃走を手助けされた子供も居たらしい。赤子であったが故に、別の村で大切に匿われていたようだ。その点からも神父の人柄が垣間見れる。
 Uiscaは片膝を付いて祈りを捧げる。
「クリムゾンウェストの祈りを捧げる方法ですが……構いませんよね」
 Uiscaには人間だった頃のブラッドリーも、裁判で亡くなった少女達を知らない。
 知る術も無い。
 ただ、ブラッドリーの――歪みはしたが――心を壊したかのような言動の裏に、裁判で失われた命に対する想いがあった。
 信仰への裏切り。
 信頼していた村人は豹変し、少女達の命を差し出せと叫ぶ。
 村を覆う空気の異常さに人間のブラッドリーに何ができたのか。
「もっと早く知り合っていれば、貴方を救うことも……」
 そう言い掛けた瞬間、Uiscaは言葉を飲み込んだ。
 果たしてUisca自身がその場にいても何かできたのだろうか。
「人々の狂気の前で出来る事を精一杯やった。その結果、ですね」
 Uiscaは、両目を閉じた。
 想いを馳せるのは、遙かなる時の先に存在した絆。
 資料館のスケッチは手書きであったが、写真であったならばそこにブラッドリーと少女達が写っていたに違いない。
 平和で平穏で幸せな日々。そこで溢れんばかりの笑顔。
「事件は悲劇かもしれませんが、そこにあった想いは本物です」
 過ちは覆らない。
 裁判も歪虚も――。
 出来る事は、ただ前に進む事だけ。
 非情に見えても、それが現実を生きる事だから。

 Uiscaは、そう考えて教会の跡地に背を向けて歩き出した。
 愛する娘が待つ夫の実家に向かって。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
近藤豊です。
この度は発注ありがとうございました。
FNBの世界についてその後彼らが如何なる運命を歩んで行くか。
それを描ける時間も少しずつ終わりが見えて参ります。邪神を倒した後、彼らが歩む道が本当に幸せだったのか。それはハンター自身にしか分かりません。
その答えの一端でもOMCで感じていただければ幸いです。
それでは、またご縁がございましたら宜しくお願い致します。
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2020年03月06日

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