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『これはデートではない』
常陸 祭莉la0023)&伊丹 透子la3340


 賑わう駅前の、誰が何を考えて設置したかわからない彫刻の前。そんな待ち合わせ場所に待ち合わせ相手の姿が見えない事に、常陸 祭莉(la0023)は眠そうな瞳を顰めた。待ち合わせ時刻を守らない事に、ではなく――

「……ナニ、してるの」

 無言で足を進めた祭莉は、ベンチの人に話しかけた。

「あら?……おはようございます、常陸様」

 ベンチの人は淑やかに挨拶をした。

「だから……ナニ、してるの。イタミ」

 ベンチの人は首を傾げ、数舜考え込むと。

「いえ、ここは待ち合わせのメッカのようですから……その、椅子が足りないのでは、と思いまして。あっ、お待ちくださいまし」

 頬を染めるベンチ(になってる)人――伊丹 透子(la3340)を物凄く残念な目で見ると、祭莉はさっさと歩きだした。知り合いだと思われたくない。

「常陸様……?お待ちくださいまし、今日も跳ねたメッシュの御髪がお似合いの、覇気の無い今時の若者然とした、常陸様……?」

 だからよく通る声で具体的に連呼するのは止めて欲しい、割と切実に。速足の追いかけっこはうっかり目的地まで続いたのだった。



 既に若干後悔しつつの本日の目的。アイスジェンガ、という新ジャンルの競技の勝者となった妹分よりの指令である『互いの服を選ぶ』を、果たすべく。二人はショッピングモールをあてもなく歩く。とはいえ両者とも衣類にさほど興味があるわけでもなく、ただ時間ばかりが過ぎていき――ふと、とあるセールのワゴン前で祭莉の足が止まる。

「あ……いい、かも」
「あら……何か、琴線に触れられる物が?」

 ――誤解無きように言っておくと、興味があまり無いだけで透子のセンス自体はけして悪くない。むしろ生まれの故にか目はそれなりに肥えている。その審美眼で以って祭莉の広げたTシャツをスキャンし、透子の脳内は高速で思考を回した。

(ダサいですわ……180度回っていましたらダサ可愛路線もいけたのですが、こうも中途半端では……いえそれならば視点を回すのです。完璧にダサいこのTシャツを着て歩く……すれ違う方々はどのような蔑みの視線を下さるでしょうか……ふふ、ふふふ)

「わかりましたわ、ではわたくしの分はその『ゴナ・リザ』Tシャツということで」

 変な笑い顔を見せるなとアイスジェンガで宣告されてしまったため、うっかり漏れそうになった笑みを首肯する事で隠し、『かの有名な微笑む女性の絵画をモチーフにしたゴリラTシャツ』をレジに置く。これ着るの?って顔の店員に二度見された。

「……選んでいただきましたの」

 頬を赤らめる(見た目は完璧な)淑女の指差す先を、哀願の眼差しで見る店員。祭莉は不思議そうに首を傾げた。ダメだ通じてない。絶望した店員はほつれを理由に(主に店員視点による)選び直しを提案する。

「……そう?じゃあ、よろしく」

 基本的に義母の選んだ服を着ているほどに服に興味のない祭莉。これ幸いと三人で店内を回り――

「ネコ、かわいい……」

 店員は営業スマイルで違う服を勧めた。

「蟹……」

 店員は引きつったスマイルで違う以下略。

「何か……形容、しがたい……モノ」

 最終的にほぼ店員が選びました。


 やりきった顔の店員に見送られ、次は透子のターン。またしてもブラブラとフロアを巡り、とあるお高そうなブティックのマネキンの前で足が止まる。

「こちら、試着していただけません?」
「……わかっ、た」

 試着室に消える消える背を、すり寄ってきた店員と共に待つことしばし。無難に着こなしてきた祭莉に、透子と店員は大きく頷く。

「やはり……常陸様は足も細く長いので、スラリとしたパンツが似合いますわね。身長もありますので映えますわ!」
「……まぁ、どうでもいい、けど。じゃあコレ、で――」

 きゃいきゃいと盛り上がる二人を冷めた目で見つつも、服自体はなんとなく悪い感じもしなかったので購入決定。着替えようと閉めかけた試着室の扉がナニカに引っかかる。

「お待ちくださいまし。まだ、完成しておりませんわ」

 爪先だった。本来なら痛みに恍惚としたい顔を気合いで微笑に保ち、透子はそっと手を取ると。スッ、と指輪を嵌める。祭莉は眉を顰めた――その行為に、ではなく。

「何、コレ……重い、んだけど」
「服がシンプルですので、こういったアクセサリーは必須ですわ」
「指輪…?多すぎ、ない?」
「ふふ……、ええ、その。物騒に見えますので……いいですわね……とても、(殴られると)良さそうですわ」

 頬に手を当て淑女の笑みでうっとりとしながら、透子は更に重たそうなチェーンのネックレスを首につける。

「……!?重た、っ」
「こちら、(締められると)良さそう、かと……ふふ」

 にこやかな笑みのまま、よろめく祭莉の腕を取り素早く革のブレスレットを何重にも巻き付けた。

「ちょ……!」
「ふ、ふふ……安心して下さいまし、すぐに取り外(してぶてるように)巻いておりますわ……ああっ!?」

 気のせいでなく呼吸の荒くなっていく透子に、祭莉は無言で全てのアクセサリーをむしり取って扉を閉めた。



 何だかんだとミッションをコンプリートし。ちょうどお昼時なのでフードコートへ。慣れた様子で人混みに踏み入れる祭莉とは裏腹、お嬢様育ちでこのような場所に縁の無い透子はおずおずとその背を追う。

「……まず、席を確保して、から、食べたい物を選んで……イタミ?」

 端の方になんとか二人分の席を確保し、祭莉はふと、後ろに透子の気配がない事に気付く。嫌な予感がした。

「おーいここ空いてた、ぞ……ヒッ!?」
「どうし――えっ人……椅子??」

 フードコートの一角が戸惑いに揺れる。恥じらい微笑むハートの瞳が、無垢なる一般市民のソレと合いそうになる、その瞬間。

『熱に慈悲はない、冷たく、殺すモノ――』

 視界に走る閃光。眩く灼かれた眼をゆっくりと開け、だが何事もない風景にギャラリーは揃って首を傾げる。そこに椅子なんてなかった――いいね?

「混んでましたので……よかれと思いましたの」

 興奮を淑女スマイルの奥に押し込め、しおらしくクネクネする透子を小脇に抱えたまま。祭莉は他人のフリをすべきだったと真剣に後悔しながら端の方の空席を確保。座らせた透子に指を突き付ける。

「買って、くるから……待ってて。大人しく、待ってて」
「心配でしたら……その、こちらを」
「……それ、買ってた、の……?」

 儚げな微笑と共に差し出された革のブレスレットへ溜息を吐き、くるりと背を向けて店舗を眺める。時間帯のせいかどこもかしこも行列の中、比較的マシなバーガーショップでビッグなセットを二つ買った。

「はい……これ」
「……テレビで見たことがあります、わね」

 テーブルに置かれたトレイの上から紙に包まれたナニカを持ち上げ、しげしげと眺めるお金持ちのお嬢様。その台詞の通り、おっかなびっくりの手付きではあるが包み紙を上手に開いていく。

「かぶりつく……の、ですわよね?」
「そう……こん、な感じ」

 精神的な疲れも相まってそれなりに腹の減っていた祭莉は、一口二口と躊躇なく喰らっていく。零れ落ちる葉野菜の欠片にも無頓着な様子に意を決すると、透子は思い切ってかぶりついた。ゆっくりと咀嚼――安っぽい脂と濃い調味料が口内に広がる。

「これがジャンクな味……悪くないですわね。で、ですがその……作法は合ってますでしょうか……?」
「まぁ……おおむ、ね?」

 ポテトを持つのに一々紙ナプキンを巻かなくてもいいのに、と思ったけどめんどk……個人の自由だし、と。祭莉はお茶と一緒に飲み込んだのであった。



 メインの目的を終え。特に予定はないが『できればあまり関わりたくない』『すごく変なバカ』との道行きを終わらせるべく出口に向かう祭莉の耳に騒音が近付く。

「ここは……何でしょう、皆様とても良いお顔をなされておりますけれど」
「ただの、ゲーセン……小銭、で遊ぶところ」
「あら、あれは……常陸様、あれはどう遊ぶ物なのでしょうか、常陸様常陸様」
「あー、もう、だから、ただの……っ!?」

 しつこく服の裾を引く力に負け、少年は振り向いた。振り向いてしまった。

「……ユ」
「はい?何かおっしゃいましt」
「行くよ、イタミ」
「はい……はい?」

 完全に据わった目をした祭莉は、流れるように財布から高額紙幣を取り出し両替機に突っ込むと。

「大人、ひとり……」

 カウンターに叩き付けられる硬貨の山。店員はフリーズした。

「大人、ひとり」

 重ねられた言葉に何とか再起動した係員は、とりあえずありったけの掌サイズのビニールボールを差し出す。祭莉は持てるだけ抱えると開始線へ。強い視線の先、よくあるボール的当てゲームの的には大きさに応じた点数が、そして景品台には。

「待って、て……!」
「常陸様、ぬいぐるみがお好きでしたのね」

 目玉景品なのか、檻(のように見えるケージ)の中の巨大狼ぬいぐるみ。景品にする気があるのか、首輪に付けられた点数は有り得ない数字で。だが力無く横たわる(大きさ的に一番安定するポーズ)彼に向け決意の念を送ると、祭莉は大きく振りかぶり。

「一球、入魂……!」

 周囲の電子音が、それを上回る連続した衝撃音にかき消される。一瞬の静寂の後、ゲームセンターは喧騒の坩堝と化した。ギャラリーは勿論のこと、慌てて駆け付けて来た警備員までがその鬼気迫る迫力に魅せられ拳を突き上げていく。兄ちゃんすげえ!いくらつぎ込んでんだ!?の野次に混じり。

「あひぃん……っ!」

 たまに立ってる仮面をかぶった変にリアルなマネキンから声がする、様な気がする。倒されてもすぐに起き上がってくるその的に気付いた人は、そっと見なかったことにした。なんだこのカオス。だが祭莉は一切合切に惑わされることなくボールを投げ切り。

「あと……五十点」

 気が付けば窓の外は夜の帳に覆われ、空になった財布の横にはラストボール。目標値を達成するには、一番小さな的に当てなければならない。ボールを額に当て、目を閉じ集中する。騒めいていたギャラリーも、この時ばかりは音量を下げ。

「はぁはぁ……良い球でしたわ……ふふ、ふ」

 満足気に痙攣している、様な気がするマネキンすらもシャットアウト。世界に在るのはただ自分と――目の前の的のみ。

「いく……!」

 カッと見開かれた瞳。右腕から飛び出したボールは、だが汗で滑ったのかとんでもない方向へ飛んでいく。ギャラリーから思わず悲鳴が漏れた、その時。

「あぁ……もっと、もっと味わいたかったですわっあぁん!」

 這い蹲って蠢くマネキンの額に直撃、跳弾の如く跳ね回るボールは何度かマネキンを痛めつけt……ヒットした後に真っ直ぐに狙いの的へと吸い込まれ。恐ろしいほどに静まり返る空気。

「とっ、た……!」

 投手の拳が高らかに突き上げられた直後、ゲームセンターに大歓声が爆発したのだった。



 優しく照らす星明りの下を、一人と、一人と一匹が行く。そこに言葉は無く、視線さえも(一人が巨大狼ぬいぐるみを抱き締めているので)交わらない。それでも。

「ふふ……今日は、ありがとうございました」

 最後の最後、別れ行く道を数歩いって立ち止まり。透子は振り向かない背に感謝を投げる。応えは期待しておらず、さて、と己の家路を歩み始めた背へ。

「……それなり、に、悪くはなかった、かも……ね」

 車の走行音にかき消されそうなほど小さな、そして不愛想な一言が辛うじて耳に届く。歩みは止めないまま、お嬢様はうっすらと微笑んだ。


 なお後日。

「イタミ……あの、バカ……!」

 紙袋の奥底にこっそり入れられていたアクセサリー達に祭莉がブチ切れてたり。

「お出かけはどうだったか、ですの?そう、ですわね……ふふ、とても良い球筋でしたわ」

(ボールにぶたれた痛みを思い出して)恍惚とした笑みを浮かべる透子に、興味津々だった妹分の表情が『球筋??』と困惑色に染まったり。

「もう、二度と……行か、ない……!」
「また行くのも良いですわね……ふふ……ふふ、ふふふ……」

 抜けるような青空の下、異なった場所で響く二つの叫び声。その傍ら、窓から差し込む小春日和の陽だまりの中。巨大な狼のぬいぐるみは気持ちよさそうに、首を傾げる少女は何となく悟った瞳で。

 グロリアスベースは今日も、変わらず平常運転でした。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
大変お待たせ致しました、ご縁を、有難うございました。
お二人の複雑(?)な関係性に悩みつつ……動かれるままに執筆してみました。関係性は今後変わっていかれるのでしょうか、密かに楽しみにしつつ。解釈違い等ございましたら、遠慮なくリテイクをお申し付けくださいませ。
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日方架音 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年03月05日

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