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『ティーカップに映る星を探して』
黒帳 子夜la3066)&白野 飛鳥la3468


 お茶にしましょうか。

 穏やかな表情。低めの優しい声。
 時を越えて、世界を渡って、ようやく会えた。
 再び聞くことのできた、大好きな声。




 春まだ遠い、2月のこと。
 繁華街から一本、奥の道に入ったところに小さなカフェがある。
 手作りの木製看板が下がり、入り口のブラックボードには本日のおすすめ。
 季節柄、バレンタイン&ホワイトデーをイメージした期間限定メニューが写真付きで紹介されていた。
「こんにちは」
 普段の書生姿で黒帳 子夜(la3066)がカフェへ顔を出す。
 落ち着いた雰囲気。空気を察してくれる店主。邪魔にならない音量で、ジャズが流れている。
 茶が美味しく、茶を美味しく飲むために合わせた食事メニューが揃ったこの店は、子夜の行きつけ。
 馴染みの店主が笑みを返し、指定席となっている端のカウンター席を空ける。
「いえ、今日は……待ち合わせなんです」

 
 ゆったりした4人掛けの席に座り、子夜はふぅと息を吐いた。
 店内には様々な茶の香りがぶつかり合うこと無く漂っていて、心が安らぐ。
 ランチタイムを終え、客の入りが落ちつく頃合い。案の定、子夜の他に客の姿は無かった。
 見るとはなしにメニューを開いていると、待ち合わせ時間10分前にドアベルが鳴った。
「トバリ伯母さん!」
 店主が声を掛けるより早く、黒髪の青年が子夜を見つけて笑顔を向けた。仔犬のようだ。
「お久しぶりです。今日は、連絡をありがとうございました。それで、ええと」
「私は逃げたりしませんよ。まずは座ってください、飛鳥さん」
 話したいことが渋滞を起こしている甥・白野 飛鳥(la3468)へ、子夜がやんわりと向かいの席を促す。
「…………はい」
 飛鳥は赤面し、少し迷ったふうで、それからストンと腰を下ろした。
「ここのお茶は、どれも美味しいですよ。それと期間限定メニューがあるようです」
「伯母さんは、こちらへよく来るんですか?」
「ええ」
 子夜の落ち着いた雰囲気は元からだったが、リラックスしているようにも見受けられる。
(茶葉の持ち帰りもあるのかな……。あとで確認してみよう)
 飛鳥が全幅の信頼を寄せる、伯母の認める店ならば。
 期待して、飛鳥もメニューを覗く。
 日本茶、紅茶、中国茶。定番をおさえ、季節の銘柄をプラス。
 流行り廃りに乗らない、正統派な品揃えだ。
「メニューがバレンタイン色となる時期です。何だかお茶会のような心地ですねぇ」

 お茶会は、子夜たちが暮らしていた世界での大切な思い出。

 子夜の義妹――飛鳥の母――たちが存命の頃は、バレンタインコーナーで選んだものや手作りの菓子を持ち寄って、お茶会のような時間を過ごした。
 飛鳥が3歳の頃に義妹たちが落命した後は、子夜が飛鳥のためにチョコレートととっておきのお茶を用意して、小さなお茶会のような時間を過ごした。
「それから、ホワイトデーには俺からトバリ伯母さんへお菓子を贈って、もう一度お茶会をして……」
 どんなお菓子を喜んでくれるだろう。少年ながら、毎年毎年、一生懸命考えていたことを飛鳥は思い出す。
 同級生から義理チョコを貰った事もあったけれど、伯母と過ごすお茶会の時間がとても楽しみな時期でもあった。
 共通の記憶は、ひとつに触れるとするすると連鎖して言葉になる。
 あの時のお茶は――そうそう、淹れ方がとても特殊で――
 異世界での再会を『まさか』と思わなかったわけではない。
 しかし、話すほどに『やはり』という確信が深まる。
 オーダー前に、随分と話し込んでしまった。
 グラスの水が減っていることに気づき、子夜はオーダーへ話題を変える。
「私はほうじ茶と……おすすめはどれにしましょうか……」
「ホワイトチョコのムースと紅茶のゼリー二層仕立て、美味しそうですね」
 ハート型のガラス容器に入ったそれは、チョコレートの苦手な殿方向けと見える。
 伯母は口どけの良いものを好む、と記憶している飛鳥は薦めて子夜の様子を伺った。
「良いですねぇ。私はそちらを頼みましょう」
 興味深そうにうなずくのを確認して、ホッとしてから。
「俺は紅茶と……ショコラプディングフレンチトーストにします」
 香りづけに柚子を使った和風仕立てのものを、飛鳥は選んだ。




 昨年の10月頃。相手を見つけたのは、子夜が先だった。
 年が明けてから引き受けた依頼で、過去の資料を調べる機会があった。
 そこで飛鳥の名を見つけ、子夜は確信を抱くとともに腹を括ったのだ。
(合わせる顔が無いと、思っていましたが……)
 別れる前・16歳当時の面影がしっかりと残っている。義妹の忘れ形見を前に、子夜の心にじわりと暖かなものが広がる。
(嬉しいものですね……こうして会えるということは)
 前の世界へ置いてきてしまった甥のことは、常に気に懸かっていた。
 しかし飛ばされた理由がわからないまま、自分は自分で手いっぱいだった。
 迎えに行くことも呼び寄せることもできない。
 彼は無事に生活しているのか知ることもできず、自分が生きていることを伝えることもできなかった。
 それが……同じ世界で存在を確認し、戦う力を持たなかった彼がここでは戦士として活動していると知って。

「嬉しいです」

 にこにこと、飛鳥がシンプルに喜びを伝える。
 子夜の戸惑いを飛び越えて、あの頃の笑顔で、真っ直ぐに。

「……私もです」

 どんなに言葉を尽くしても、湧き上がる感情はそこに辿り着く。
 憑き物が落ちたように、子夜もまたストンと思いを伝えることができた。




 テーブルが、バレンタインに彩られる。
 カップで手を暖めながら、改めて子夜は正面から飛鳥を見つめた。
「改めて見ると、大人びたでしょうか。目元が貴方のお母様にそっくりな所は変わりませんが」
「この世界に来て成人を迎えたんです。トバリ伯母さんがいなくなって4年程過ぎていたので」
「4年……ああ、成人となっていたのですね」
 子夜が認識している時間とは、流れが違う。どこかで時間軸のズレが生じているらしい。
 放浪者仲間からもそういった事例は聞いていて、驚きと、納得と、何とも形容しがたい感情が胸の奥に塊のように沈む。
 飛鳥を実の子のように育ててきた。目に入れても痛くない、大切な存在だった。
 少年から青年へと変わる時期を共に過ごしてやれなかったこと。見守れなかったことを残念に思う。
「高校生の時よりも少し背も伸びましたし。……座っていると、わかりにくいですね。背比べしましょうか、トバリ伯母さん」
「……今は止めておこう……」
 時折り少年の顔に戻るのが可笑しくて、時間軸のねじれも吹き飛んでしまうようだ。
 子夜は軽く頭痛を覚えて額を抑えた後、穏やかな笑顔に戻す。
「遅くなりましたが、おめでとうございます、飛鳥さん」


 ホワイトチョコの甘ったるい香りを、紅茶のスッとした香りが包み込み、弾力をもって口の中でとける。
 ほうじ茶の深みと、実にいい相性だ。
「どうです?」
「美味しいですねぇ。冬らしさもありますね」
 ホワイトチョコのムースが雪原なら、透明の紅茶ゼリーは夕暮れ時だろうか。
 それがハート形の器に入ることで『同じ場所へ帰ろう』といったメッセージに、というフレーズがメニュー表にあった。
「フレンチトーストは、思ったより食べ応えがあります。でも柚子のお陰で重くならないですね」
 カリッと焼かれた表面。
 中は、プディングを称するだけあって卵多めのもっちり食感。
 たっぷりのチョコレートホイップクリームには、柚子皮の甘露煮がアクセントでちりばめられている。
「チョコレートには柑橘系が合うと聞きますし、紅茶とも相性がいいですからね」
「トバリ伯母さんがお勧めする理由がわかりました」
 『これを食べると、お茶が一層美味しい』。
 こういう楽しみ方があるのかと、飛鳥は思わず研究の角度で見てしまう。
「高校生の頃は、こういったカフェへ来ることは少なかったですね……」
 男友達とは、どうしたって安さや食べ応えを重視してしまう。
 逆に、大学に入ってからは自分の趣味や時間を大事にできるようになった。
 空白の時間を埋めるように、飛鳥は高校生活・大学でのことを語る。
 大学生活に慣れて来たと思ったら、2年へ上がる直前にこの世界へ来てしまった。
「トバリ伯母さんは、こちらの世界へ来てからどう過ごしていたのですか?」
 『放浪者』と呼ばれ、SALFの保護下に入りライセンサーとして戦うことを認められる。
 その流れは、飛鳥も身をもって知っているけれど。
「クラスはネメシスフォースを選びまして、刀を使っていますねぇ。手に馴染んだものですから」
 今度は、子夜が語る。
 世界は違えど『護るために、戦わねばならない』という状況は同じと感じた。
 ひとり放り出されたと思っていたが、同様の者達は少なくないこと。
 仕事を重ねるうちに縁が結ばれた、SALFの者達と戦っていること。
「! 俺も。俺もです。刀で戦うことが多くて。銃もですけど……あとは、回復等の補助とか」
「飛鳥さんらしい気がします」
 前の世界では、戦う力を持たなかった飛鳥。
 人の心を思いやる、優しい子だった。
 彼がライセンサーに、と知って驚いたが、周囲の助けになるよう立ち回る様子は目に浮かぶ。
「刀を選んだのは、トバリ伯母さんの戦う姿が影響しているんですよ」
「私が、ですか?」
「イメージの力が源と聞いて。俺が何より具体的に想像できるのは、刀を振るうトバリ伯母さんの背中です」
「喜んでいいのか……巻き込んでしまったといいましょうか……」
「導となる星を見つけられなかったら、俺は半端ものでしかなかったと思うんです。今は、戦友と呼べる人もできました」
「星、ですか」
「覚えていますか?」

 ――飛鳥さん。もしも道に迷うことがあったなら、星空を見上げましょう

 飛鳥が10歳の頃の思い出。冬の空を2人で見上げた。
「あなたは、俺にとっての星ですから」
 さらりと、飛鳥はそんなことを言ってのける。




 伯母さん。トバリ伯母さん。
 聞いてくれますか?
 教えて下さい!
 手伝います!
 新しい制服、似合いますか? 変じゃないでしょうか……

 ちいさな飛鳥が、表情をくるくる変えて子夜へしがみついたり、離れたり。
 遠い記憶の少年は、青年となって再会してもキラキラとした眩しさは変わらない。
(星は、飛鳥さんの方です)
 子夜には、そう返すほどの勇気はなくて。
「冬の星空……まだ、間に合いますねぇ」
 この世界の星空を、ゆっくり見上げてみましょうか。
 そう返すのが、精いっぱいだった。




 食事を終えて、それぞれにお茶をもう1杯追加注文して。
 積もる話が尽きる様子はないけれど、何事にも終わりの時間はつきもので。
「ああー……」
 話し足りない。飛鳥は空になったティーカップの底を恨めしげに見つめた。
「今日はそろそろですけど。また、時間の合う時にお茶をしましょう」
 今は同じ世界にいるのだから、子夜が宥める。
 不思議なことに、『放浪者』は他の世界へ転移することはない――できない――らしい。
 ここが最後の世界となるか、いつか戻れる日が来るか。現時点では不明だ。
 互いに、二度と会えないことも覚悟していたから、運命の悪戯は全く気まぐれである。
「また今度……約束ですよ」
「はい。約束です」
 伯母と甥という関係に変わりはないが、飛鳥も成人し立派な大人だ。
 この世界に来てからの、それぞれの生活もある。
 かつてのように、共に暮らすということはなかった。
 
 ――いつか、この手を放す時が来ても

 飛鳥の成長を見守りながら、子夜が抱いていた想い。
 予想外の形で手を離さざるを得なくなり、しかし、今は自信をもって送りだせる。
 迷子になって星空を見上げることはなくなっても、心の中に輝く星は変わらないままだ。
 



 約束を破られた記憶はない。
 仕事の都合で果たせなかったものは、必ず埋め合わせがある。
 伯母は、そういう人で。
 今も、変わることがなくて。
(どれだけ、俺を大事にしてくれていたんだろう)
 返しきれないほどの愛情を注いでくれたことを、『戦う者』の立場になって飛鳥は思い知る。
 明日をも知れぬ、危険な仕事だってあることも。

 だから、約束を。生き延びるための、星であるように。
 空に輝かずとも、例えばカップの底にでも、見つけられる約束を。




【ティーカップに映る星を探して 了】

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼、ありがとうございました。
再会を果たしたお2人の、お茶会のひと時をお届けいたします。
重なる思い出、離れていた頃のこと。
空白を埋める、あたたかなものでありますように。
楽しんで頂けましたら幸いです。
イベントノベル(パーティ) -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年03月06日

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