▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『勝ったとしても、呪いは呪い。』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

 その日その時、SHIZUKU(NPCA004)からシリューナ・リュクテイア(3785)の元に助けを求める連絡が入ったのは、いつもの事と言えばいつもの事……だったかもしれない。

 神聖都学園怪奇探検クラブ副部長にして本名秘密、天下無敵の女子高生でもあるオカルトアイドルの芸名SHIZUKU――で普段から通しているこの彼女は仕事でも趣味でもそれはもう分け隔て無く、心の赴くまま片っ端から怪奇現象に徒手空拳で立ち向かいまくるのが常である。
 が、勿論SHIZUKU本人にはその手の事に対処出来る様な異能力は無い為――結果、動く時にはそんな怪奇現象に多少なりと対処可能な「なんでも屋さん」をいちいち恃んだりもする訳である。
 と言うか、「なんでも屋さんに仕事を」と言うより「なんでも屋さんをやっている友人のファルス・ティレイラ(3733)にお手伝いを」依頼したと言う方が正しかったかもしれない。彼女らの場合、何だかんだでその辺の区別は曖昧になってしまう所がある。
 つまり要するに、本日SHIZUKUはティレイラと二人で連れ立って調査に出ていた、と言う訳だ。

 ……となれば、シリューナの元に助けを求める連絡が入るのはある意味自然の成り行きである。
 何か事が起きたなら、ティレイラと同族――別世界よりこの世界に訪れた紫の翼を持つ竜族――にして姉の様な存在であり、魔法の師匠でもあるシリューナが頼れる大人としてまず思い付く。

 さて、SHIZUKU曰く「ティレイラちゃんが鏡に閉じ込められてるんだか鏡になってるんだかわかんないけどとにかくそんな感じになっちゃってるっぽいの!」との話だが――今回は何が起きたのやら。



 呼ばれた先は、何故かあちこちが鏡だらけな、鏡が目立つちょっとした豪邸。到着時点で現場の魔力状態はすぐに確認出来た。恐らく固着したばかりの呪いか何か――SHIZUKUが助けを求めているのは「それ」だろうと判断が付く。これは……いつもティレがしている様な「他愛無い失敗」とは少し訳が違うかもしれない、とやや眼差しを険しくする。一刻も早く詳しい状況を確かめないとと内心で焦燥に駆られ、SHIZUKUに現着の連絡を入れるより先に、己の感覚の方で「呪い」が醸している魔力をまず辿る。
 そしてシリューナは程無く壁一面が鏡張りになっている大きな部屋に着いた――SHIZUKUの姿もそこにあった。一面取り巻く「鏡」の中の一つの前で、心配そうに当の「鏡」を見つめている。
 ここか。

「SHIZUKU」
「……あっ、シリューナちゃん」
 この鏡なんだけどっ。
「……」

 言われて頷き、歩み寄る。見れば、その鏡が魔法の鏡である事は醸される魔力状態からしてすぐ知れた。そして――鏡面ではあるが真っ当に鏡として用いるにしてはやけに鏡面が歪んでおり、精妙なレリーフ状の突起物が数多――立体的に構築されている事にもすぐ気付く。……いや。そのレリーフの形をよくよく見れば、見慣れた竜の翼に尻尾の形、そしてシリューナにとって何より可愛くて可愛くて堪らない大切なティレの顔がそこにはあった。強力な呪いの魔力を受けて鏡と同化、封印されたと見てほぼ間違い無いだろう。

 一体何をしたのか、何が起きたのか。
 SHIZUKUに事情も聞いてみる。



 今日、SHIZUKUとティレイラが調査の為に出掛けた先――つまり「ここ」は、元々不思議な噂がある建物だったらしい。とある芸術家がインスピレーションのままに建てた豪邸だとかで、SHIZUKUがオカルトアイドルならではの伝手の伝手を辿って正式に調査の許可を得たのだと言う。今の家主は海外を活動の拠点にしているらしく、実質的にほぼ空き家状態なのだとか。

 ――鏡の中に何かが居る。

 不思議な噂と言うのは、それ。そしてこの建物はそもそもあちこち鏡だらけだと言う奇妙な特徴がある。今の家主も買ったはいいが実際に住むとなると向かないとすぐ気付き、海外を拠点にしているのも「この家から逃げている」――と言う面が無くも無かったらしい。
 既にこの家を売るつもりであちこち話を振ってみてはいるが何れも纏まらず、どうにも宙ぶらりんになってしまってもいるのだとか。そもそも今の家主の手に渡る前の歴代の家主で、家の外に出た形跡が無いまま行方不明になっている者が幾人か居るとの話まである。それもまた怪しい――「不思議な噂」に拍車を掛けている。

 で、その話を風の噂で耳にしたSHIZUKUが当然の成り行きとして興味を持ち、わざわざ直接の許可まで取った上で、ティレイラを連れて調査に出向いたと言う事だったらしい。
 玄関から普通に入って見た限りでは、一応普通の、何でも無い家だったとの事。ただ備え付けの鏡が異様に多いだけで、それが気にならなければむしろスタイリッシュである――と言うか、あ、この家いいな、と住んでみたくなる気持ちは何となくわかる程だったとか。
 その時点ではティレも特に違和感を感じてはいなかったらしい。……なら、始めから今のこの魔力状態では無かった事だけは言い切れる。ティレはそこまで鈍くない。

 それから、手分けして調査を始めて(この時点で魔力状態が正常だった事は確実だ。何かを感じていたならティレはSHIZUKUを一人にはしない)、暫くしたら何やら騒ぎが起き、ティレの助けを呼ぶ声も聞こえたとの事で、駆け付けた結果が今目の前にある「これ」だったらしい。

 調査の最中、何者かに襲われた、と言う事かしら?
 続けて魔力の痕跡を辿る。



 恐らく魔族か、と思う。少なくとも、SHIZUKUでも無いティレでも無い、闇の魔力を持つ他者が居た痕跡はある。が、そちらの痕跡はいかにも心細く、儚くなっている。そして反する様に、何処か類似したやけに重苦しく強い呪いが「ここ」にはある。……カウンター? 鏡で囲む。増幅。元からある噂。SHIZUKUが気付いた「騒ぎ」の長さ。ティレのこの姿と表情に、様子……連動?

 ……きっとティレはここで魔族と遭遇し、何かがあって戦って、倒した。
 倒した事により反動でこの「呪い」が起動、壁の魔法の鏡で増幅され、そちらと連動までした結果が――「これ」か。倒した魔族自体は恐らく代償として先に鏡に取り込まれた。……そんな所だろう。
 連動や増幅は偶然か元々想定されていたのか――まぁいい。理屈はわかった。
 構成が絡まっている分だけ少し時間は掛かるが、これなら呪いを解くにも何とかなる。……問題無い。

「ホントに?」
「ええ。大事にならなくて良かったわ」
「そっか。よかったぁ……何かいつもの「失敗したー」とかじゃない感じだったから、ちょっと焦った」
 はぁ、とSHIZUKUは安堵の息を吐く。吐いた所で――何やらいそいそとカメラを取り出し、レリーフ状の鏡と化しているティレを、何度か角度を変えて興味深そうに撮影し始めた。
「こーゆー物理的に残せる時には残しておきたいよねやっぱ」
 折角目の前で起こった不思議現象な訳だし。うん。
「……SHIZUKU」
「あーはいはい。勿論焼き増ししてきっちりシリューナちゃんにもあげるから安心してねー」

 ならよし。いい心掛けである。



 ぱちりぱちりと撮影しつつ、SHIZUKUは何となく被写体に触れてみている。どんな感触なんだろうと不思議に思ったのかもしれない。一度触った後に、おお、と思わず手を引っ込めてから、再び、すーっと指を滑らせる。レリーフ状の鏡と化しているティレ、一度理解すればその造形をはっきりと際立たせているのがわかる完璧なボディライン。つやっとした硬質な鏡の色。

「綺麗……」

 その溜息混じりの呟きを、勿論シリューナが聞き逃がす筈も無かった。自分が一番に思う事、それを他人からまで聞かされてしまったなら、もう、止まらない。自慢したい。わかってほしい。素敵な素敵なティレの事を。
 SHIZUKUの呟きに同調する様にして――シリューナもそっとレリーフ状の鏡と化しているティレに触れている。それから、曲面に柔らかく沿わせる様に指を滑らせ、ゆっくりと撫でていた。

「ふふ。綺麗でしょう」
「見てるこっちの顔がぐにゃーんってなって映ってるのも何か不思議な感じで面白い……」
「それもこれも、「ティレの形」に映されているのよね?」
「あ。そういう事になるよねコレ? うわあ……何か倒錯的って言うか、後ろめたいって言うか」
「でも。素敵でしょう?」
「……うう。否定は出来ない。何か癖になりそう。ごめんティレイラちゃん。すごーく頑張ってた所っぽいのにこのカタチ」
 レリーフ状に表現されている、ティレの姿形。
 取り込まれないよう必死で抵抗を続けている様な、SHIZUKUの言う通りに「すごーく頑張ってた」のがよくわかる造形。

 ティレはここで何をして、どんな思いでこんな風になったのか。
 想像しながら愛でてみるのも、また一興。



 まずは元々の魔力状態からして、然程警戒はしていなかったに違いない。あくまで普通に「調査」をしていただろう。建物自体の特徴からして鏡を重点的に見ていただろうなとは思う。
 壁一面鏡張りのこんな部屋があれば、何の為の部屋かと考えたかも。いや、足を踏み入れた時点で単純に驚いたかもしれない。改めて見てみればここまでびっしりと鏡が備え付けられているのは確かに圧巻だ。
 そんな中で、魔族に遭遇する。いきなり襲われたのかもしれない。もしくは――この部屋に閉じ込められでもしたか。……でもきっと、ティレなら鮮やかに撃退している。普段は他愛無い失敗が多くても、ここぞと言う時には「やる」のがティレだ。勝利の余韻に浸る位はしたかも知れない。
 SHIZUKUによれば「騒ぎ」自体は短かったと言う。なら一気に竜の翼や尻尾を生やした半人半竜の姿を取って、本気の――人型サイズのままとしては一番の本気になる戦闘スタイルを構築。多分、変化と動きはほぼ同時。力強く翼を扇いで一気に加速、肉迫し、三次元的な機動力を駆使して魔物を翻弄。そうして作った隙を見定め、得意の火魔法を叩き込む――そんな所だろう。その躍動する様も、きっととても魅力的だったに違いない。
 けれどそれで予想外に「呪い」を得てしまって――ここから今の「可愛らしい形」になる道に入る訳だ。

 苦しかったか悲しかったか、諦めたか、諦めなかったか。お姉さまと助けを呼んだかもしれない。同行していなかった私に対しても。……ええ。私は今ここに助けに来ているわよ。ティレ。
 きっと、水の中の様な感覚だったのではないかしら。この鏡の、鏡面に沈む時の感触。掴む頼りが何処にも無くて。「呪い」で引き寄せられ――ううん、吸い込まれると表現した方が近いかも。きっと急激かつ強制的な力だった筈だから。どれだけ必死に抵抗しただろう。その姿が丸のまま、確りと残されている。
 翼や尻尾は、最後まで鏡の中に沈み切らなかった。だから表からわかる「これだけの印」は残った。けれど魔力は結局及んでしまって、鏡と化しはした。それでこの絶妙なレリーフが完成した、と言う事だろう。

 何も確証は無い。けれど、然程この想像が間違っているとは思えない。



 ……見れば見る程、惹き付けられる。レリーフ自体が鏡である為、自分の姿を余す所無く映して来るのが、また何とも言えず、堪らない。オブジェの形にティレを封印してみる事は数あれど、こんな形に仕上がる事は珍しい。思えば思う程、ついつい触れてしまう。見てしまう。ああ、と思わず上がる感嘆。高揚が止まらない――そんなシリューナにSHIZUKUが軽くぎょっとした様だったが、シリューナはクスリと笑ってそこに流し目。促す様にSHIZUKUの手を取って、ティレのレリーフに触れさせる。
 翼の形。尻尾の形。ティレのティレでしかない美しい造形。鏡の鏡でしかない感触。両方が同居する目の前の芸術品の愛で方を、実践込みでSHIZUKUに見せ付ける。SHIZUKUもSHIZUKUで、そこまでされれば遠慮も薄らぐ。愉しんでみるのも一興かなと思う。
 それは勿論、シリューナも。

 ずっと夢中で愉しみ続ける。
 ここは殆ど空き家同然で、家主から許可を得てもある場所になる。「呪い」の始まりになる要素も今は無い。ならもう、邪魔は入らない。心置きなく、愉しめる。

 時を忘れて――ただ、ずっと。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 紫の翼を持つ竜族な御二人にはいつもお世話になっております。
 今回も発注有難う御座いました。いつもの如く大変お待たせしております。
 あと昨今は世間的に健康面で気懸かりな事が多いですから、どうぞ御自愛下さいとも追記しておきます。

 内容ですが、シリューナ様&SHIZUKUが愛でる方を中心にと言う事で、ティレイラ様側の描写についてはほぼ伝聞及び想像で、と言う形になりました。
 ホラー的になったかとか、他細部もイメージから逸れてないと良いのですが、如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(パーティ) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年03月09日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.