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『氷の女王の末裔と雪姫の戯れ〜再びの決着、今度こそ最終決戦……の筈』
アリア・ジェラーティ8537

 ……どうしたら勝負が決まるんだ、これ。

 それは氷雪の加護を受けし乙女二人の「最後の勝負」の筈だったファッションショーに於ける話。「どちらがスタイルがいいか」。そんな勝負の成り行きは、時間が経てば経つ程グダグダになって行く。
 要するに、雪姫の眷族な雪妖やアリアの――アリア・ジェラーティ(8537)の眷族と言える氷の精(仮)と言った即席審査員達の意見が完全に割れ、侃々諤々と勝敗が決まらなかった訳だ。
 元を辿ればアイス屋さんにして氷の女王の末裔であったりもするアリアが、雪女郎である雪姫の住まう極寒の雪山に“お仕事抜き”で「遊び」に来たのはいいがノープラン、なら勝負をして「遊ぼう」と二人して思い付くままに何だかんだと「勝負」し続けてみた結果――こんな流れになっただけなのだが。

 まず初め、アリアの持参したおみやげアイスを活用した大食い兼早食い競争は――用意されていたアイスの数の関係で、僅差で雪姫に軍配が上がる。
 次、どちらが大きな雪だるまを作れるか勝負は――純粋に大きさを競うと言うより、容赦無く融解を促す太陽の光熱対策に追われた結果、致命的な不備を見逃した事を雪姫が潔く認め、アリアに軍配。
 その次は休憩の為、一山越えた先にあると言う温泉目指して雪山の滑走勝負となるが――これもまた即席審査員の間で勝敗が決まらず引き分け。
 滑走勝負の終着点こと温泉まで至れば、今度こそ漸く本当に休憩。そしてそこで互いのスタイルどうこうの話となり何となく張り合い始め、じゃあとばかりに再び元の雪山に戻って――そこにある氷洞を舞台に服や装飾を氷雪で作ったファッションショーで勝負だとなり、冒頭の成り行きに戻る訳である。

 即ち、今日の二人の勝負は――まぁ、一勝一敗二分と言った所だろう。
(今日中に終わらせるには)これで最後だとは言っていたのだけれど、ここまで競り合っているとなると――何か、もうちょっと何とかしたい。
 アリアも雪姫もどちらとも無くそう思っており、お互い、ちらり。目線が合った所で、うむ。と頷き合う。

「もう一回……何か……しよう」
「今度こそ本当の最終決戦だな。何をする?」
「……雪合戦、する?」
「悪くない。どうせならいつぞやと同じ形式で――だが今度は邪魔者無しの一対一でと言うのはどうだ?」

 自陣のトロフィーを守り抜き、守るトロフィーを壊されたら負け、と言うあの形式。いつぞやはあやかし荘の連中や雪妖どもをそれぞれ仲間にしての団体戦だったが、今回は我らだけで。

「私と……雪姫ちゃんの」
「そうだ。我とうぬでの直接対決と行こうぞ」
「……うん。やろう」



 トロフィーはやっぱり十メートルそこらになる巨大雪像。これを造る時点でも結構気合いが入る――まぁ、流石に雪だるま合戦の結果を記念品にした天突く氷柱程の超絶サイズを目指さないだけの節度はあったが。だがこれで最後となれば尚更、半端な事は出来ないと二人共内心で燃えている――そんな二人が操っている技の方は毎度の如く軽く氷点下ではあるのだが、そんな事は関係無い。互いに自陣のトロフィーを造り終えると、それを背に守る形に前に出て、二人は雪原を挟み、対峙する。
 ひゅおおおおとその間を風が吹き抜け、雪が舞う。……何か格好付け易いかもしれない状況に興も乗る。

「クク。我らに似合いの舞台が整ったな」
「うん……やっぱり、こういうの、いいよね……」
「では征くぞアリアよ!」
「いざ尋常に……!」

 勝負!



 開戦の宣言と同時に、場の天気が大荒れに荒れた。氷雪混じりの暴風が不規則に渦を巻き、横殴り、地表に積もる雪すら巻き上げ易々と地形を変える。温度も一気に下がり、余りの極低温でかそこかしこで雷らしき光が弾け散りさえした。最早ここが「現代日本の何処か」であるなどと誰が信じるだろう、と言うレベルの極地振りを呈している。摂氏マイナス何度かの見当も付かない。
 そんな中で肝心のアリアや雪姫はどうなったかと言うと、当然、その中に居た。この天気や温度の原因も勿論彼女ら二人。暴風雪は雪姫、極低温はアリア――の能力が主に原因になる。二人共に作っているのは雪合戦には必須の武器である雪玉――いや、これは最早雪合戦の武器レベルでは無いサイズ。トロフィーとして事前に造っていた雪像にも匹敵するサイズの雪玉を、二人共に一気に作り上げている。その余波がこの急激な天候の変化――凄まじい物量の攻撃準備。
 ここまで来れば、一気に決めたい。アリアも雪姫もそう思ったのか、出し惜しみの欠片も無い。雪姫の方の雪玉には荒々しく踊り狂う風の刃が纏わり付いており、アリアの方はどれだけの冷気が籠められているかわからない程の「氷」玉になっている。そして思いっ切り威力を籠め終えたかと思うと、双方当たり前の様に能力を以って、ええいとばかりに真正面から投擲――雪玉と氷玉が激突し、ぎりぎりぎりと威力と勢い、そして玉本体を削り合う。まるで大自然の神秘の如く圧巻である。……あんまり自然の産物では無いけれど。
 さておき、その状況を認識したかしないかと言うタイミングでどちらも次の手に移っている。初手は互角、ならそこからどう動くか。守るか、攻めるか――目の前で拮抗している初めの攻撃がどうなるかにも依る。そこを見極められるか次第で戦況も動くだろう。アリアは氷の壁を自陣トロフィーの盾に乱立させつつ、次の氷玉を生成。雪姫は小竜巻で初手の雪玉氷玉が双方崩れた場合の残骸を全て掬い取り、次の攻撃に転じさせる構え。
 結果――氷の盾に初手の雪玉氷玉の残骸が悉く炸裂し、砕き割る。一枚、二枚、三枚――割れた側からアリアは次々に新しい盾を生成。やがて雪玉氷玉の残骸が目に見えて減って来る――冷気を更に低下させた氷の盾が残骸を全て吸着、凍り付かせて盾の強化に転用した。
 次。新たに氷玉を造っていたアリアの方が今度は先に攻撃。氷の盾乱立を目晦ましに使いつつ移動、雪姫側のトロフィーを直接狙う――が。これもまた暴風に逸らされ明後日の方向に飛ばされた。

 ――かと思いきや。

 次の刹那に、雪姫側のトロフィー雪像がびしばしばきと凍り付いたかと思うと、罅割れて崩壊した。
 一瞬、時が止まる。

「――なにっ!?」
「やった……できた……!」

 ぐっ、と拳を握ってアリアは小さくガッツポーズ。元々「次の氷玉」はブラフである。その実やっていた事は氷の壁の乱立――と同様にして、雪姫側のトロフィーも自分の能力で一気に冷気を送り込み「こちらの支配下として凍らせ直せないか」と試みていたのである。……雪姫は恐らく、初手の攻撃が拮抗した時点で「一気に全力を叩き込む」形の短期決戦は諦めた。アリアが氷の盾を乱立させたのもその判断への誘いになったかもしれない。反面、アリアは逆だったのだ。
 もし雪姫が初撃の次の手として「荒れ狂う暴風雪の力を一気に纏めて直接アリアのトロフィーを狙って」いたら、恐らくそちらが先に崩壊していただろう。冷気で芯まで凍り付かせるよりも暴風での暴虐の方が絶対に早い。だが雪姫はそうしなかった。初撃の残骸を利用しての攻撃と言う「遊びを入れた」のだ。「アリアなら受け止め反撃して来るだろう」との予測と共に。
 確かにそうやっての対決、も楽しい事は楽しい。だが今の場合、アリアはとにかく「勝つ」事を優先した。

 二人の間にあったのは、それだけの差だった、のである。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 氷の女王の末裔様にはいつも御世話になっております&いつも御手紙まで有難う御座います。
 今回も発注有難う御座いました。
 そして今回もまた大変お待たせしております。
 あと昨今は世間的に健康面で気懸かりな事が多いですから、どうぞ御自愛下さいとも追記しておきます。

 内容ですが、ファッションショーは決着付かずの切り上げになったのですね。
 そして再びの雪合戦は……短期決戦となりました。
 短い分、全力の割には迫力に欠けてしまったかなとも思っているのですが……如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、次はおまけノベルの方で。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年03月10日

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