イラストコンバート第二弾 ハイブリッドヘブン スタート!

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『WoerterBuch』
ラルフla0044

●修行の一ページ
 SALFの本拠地、グロリアスベースのキャリアー係留スペースに一隻のキャリアーが停泊していた。各地に転戦して第一線で活躍するライセンサー、ラルフ(la0044)は普段からこのキャリアーに寝泊まりし、趣味の料理研究に打ち込んだり、任務の合間の訓練に明け暮れたりしていた。今日も彼はキャリアーの甲板に立ち、杖型のEXISを構えていた。
「せいっ」
 杖にIMDのエネルギーを込め、ラルフは杖を振り上げる。次の瞬間、雷のオーラが彼の周囲を取り巻き、次の瞬間彼の右手には白い輝きが閃く槍が握られていた。その穂先や樫の柄の補強材に用いられた骨は、彼の世界においては神話の代から存在する雷操る鹿の角だ。世界の名工達が面を揃えてようやく作る、十年に一振りくらいしか作られない大業物だ。その槍の穂を作った鍛冶屋ギルドの一つにコネを持っていたラルフでさえ、三年分の給金を揃えなければ手に入らなかったほどだ。
 しかしそれだけの価値はある。この世界では幻だが、それでも雷のオーラによる攻勢障壁は健在、槍の穂先も強靭だ。幻影の槍を一通り振り回すと、ラルフは爪を弾いて槍を宙に消し去る。彼は再び杖を構えると、今度は風雷を纏う棍棒を取り出した。棍に風雷が取り巻き、その風の力も合わせて棍の取り回しは非常に軽い。ラルフは右手左手で棍を振り回し、膝の内側に巻き込んだり、爪先で蹴り上げたりと彼自身も軽やかに動き回った。雷槍を掻い潜られた時に振るう、いわば懐刀。ラルフは実際に剣にするつもりだったが、既に雷槍ですっからかんになっている彼にとって、新たな剣を支度する余裕は無く、結果的に棍棒を手にする事になったのである。
 彼は大股で踏み込むと、袈裟懸けに一振り、そのまま身を翻して左から右へと一薙ぎする。唸る風の音は、今や秘密の保管庫に封印された本物にも劣らぬ感触である。
 ラルフは幻影の棍を宙へと放り投げると、代わりに降ってきた蒼い刃のクレイモアを手に取る。彼がその手の内で振り回すと、光を纏った宝剣は彼の手を離れて勝手に空へと浮かび上がった。それはとある戦いでの功績によって下賜された、王家に伝わる宝剣。雨滴と癒しの力にまつわる魔力を持ったその剣の力は、この世界においてもほとんどそのまま再現された。彼自身はその後直ぐに愛槍を手に入れてしまったから、結局武器庫のお飾りとなり、やっと取り出されたかと思えば畑を潤す程度の役目しか持たされなかったのだが。王家に伝わる宝物が野良仕事のお供にされているのを見た人々の内心は推して知るべしだが、ラルフは無頓着であった。
「……うーん」
 しかし、そんな粗忽がこの世界に来てちょっと厄介な事態をもたらした。空に輝く刃が消え去るのを見て、ラルフは首を傾げる。
「ちょっと、違うんだよなぁ」
 そのまま独り言を呟く。故郷に置き残してきた武器を細部まで再現してみせたつもりだったが、手応えが妙に違う。武器のバランスが平坦で軽すぎる。幻影だから仕方ないとはいえ、実際の武器を振るっている感覚が無かった。幻はあくまで幻であった。
(名前でもあればまた別なんだろうけど……)
 IMDを最大限に起動させるためには、よりシンプルに、より印象的にイメージを思い浮かべなければならない。その武器をどう利用してきたかという記憶だけではあまりにも散漫すぎて武器のイメージが固まり切らないのだ。イメージの核となる“名前”が必要なのだ。彼は頭を巡らせる。
「何だっけ?」
 しかし、彼はすっかり武器の名前を忘れてしまっていた。

●栄光に相応しい名前を
 そんなこんなで、彼はグロリアスベースの一角にある商業モールをぶらついていた。幾ら記憶を探っても、使っていた武器の正式な名前が出てこない。自ら仕立てさせた槍と棍棒については、ギルドの老人達の長々とした説法に飽きてとっとと持ち帰ってしまった。要するに名前を聞いたことが無かった。一度も武器を手放したことはなかったから、名前を覚える必要も無かったのである。唯一儀式の場で下賜された宝剣は名前を聞いていたはずだったが、手を取る機会が減れば、そんなものは忘却の彼方だ。
 ならば自分で名付けてしまえばいいじゃない、そう考えたラルフだったが、通りをぶらついているうちにまたそれも面倒になってくる。どうせなら武器の価値を貶めない名前をつけたかったが、今まで名づけなどしたことも無かった彼にとっては中々小難しい話だった。
(なんか適当に、それっぽい名前を拝借するかぁ)
 彼はとりあえずそう決めて、目を留めた本屋へと足を踏み入れる。手近な漫画コーナーから適当に数冊抜き取り、ページをぱらぱら捲って武器の名前らしいものを見繕う。しかし彼はすぐに閉じてしまった。漫画やアニメの類から引っ張ってくるのは武器の格式が落ちるような気がした。漫画を本棚に戻すと、彼は再び書店の中を練り歩く。隅っこに平積みされている本を覗いてみると、ポップで『厨二病御用達!』などと記された本が並べられている。
(……それって、あまり好意的な名称じゃなかったような)
 ラルフは眉を顰めながら、平積みにされた本を手に取る。そこにあるのは独語辞典。そこは日本人経営の書店だから仕方ないが、勝手に厨二病の代名詞とされてしまったドイツ語の立場はどうなるのか。ラルフは首を傾げながら辞典をぱらぱら捲った。当然大量の語彙が含まれているが、それを遠巻きに眺めてもやはりピンとくるものは無い。彼は辞典を戻すと、今度はその隣に置かれていた『神話図解』なる本を手に取った。この世界の各地に伝わる宗教の特徴や概要を簡単に総覧出来るという代物だ。ついている帯にはこれまた『厨二病系創作者の貴方に』などという怪しい宣伝書きがついている。
「好きなのかねえ、そういうネタ……」
 ぽつりと呟きながらページを捲っていく。帯はふざけているが、中身は案外専門的な話にまで踏み込んでいる。ふむ、とラルフは呟きながら更にぱらぱらとページを捲った。北欧神話の逸話に目を留めた彼は、ぱたりと本を閉じる。
「これなら悪くないか」
 彼は呟くと、その本を片手にレジへと向かった。

 キャリアーへ戻ってきたラルフは、早速杖を構えて正面に手を翳す。
「ゲヴィター!」
 彼が叫んだ瞬間、雷の槍はすっぽりとその手に収まった。その手に掛かる重みも、これまでとは違ってしっくりくる。かつての世界であらゆる攻撃を打ち砕いてきた本物の威力にも遜色ない。
「よし、これで決まり。次は……」



 かくしてラルフは、この世界でも槍で攻撃を打ち払い、棍で敵の搦手を叩き潰し、苦境を宝剣で押し流す当代随一の戦士としての力を再びその手にしたのである。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物
 ラルフ(la0044)

●ライター通信
 お世話になっております。影絵企鵝です。この度は発注いただきありがとうございました。今回は武器の謂れと名前を付けるまでの姿をイメージして書かせていただきました。満足頂ける出来になっているでしょうか。

 では。

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グロリアスドライヴ
2020年03月12日

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