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『雪なし雪山と雪女』
海原・みなも1252

 とある地方の山の中。雪山のはずが、雪はない。隣の山には雪は見える所である。
 そのような山に海原・みなも(1252)は草間・武彦(NPCA001)はいた。事件解決のために来ていて、それが無事解決したのが現在である。

 みなもは武彦のかっこよさに感激していた。
 大人の男性かつハードボイルドなところが如実に現れている。なんといっても、怪奇事件はお断りと言いながらも受けて、的確に片づけることはなんと素晴らしいことか、などなどみなもは思った。
 帰るだけとなったところで、武彦がじっと見つめてくる。
 みなもはどきどきする。頬が赤くなっているかも知れない。
 その後、武彦は溜息を吐いて、たばこを取り出すと一服を始めた。
 みなもは何か悪いことをしたのかとハラハラする。
 みなもの様子に気づいて、武彦が「自分の格好を思い出せ!」と大きく吐いた息とともに言った。
「そういえばそうでしたね」
 武彦の指摘に、みなもは手を打った。
 自分の姿は直接見えない。視界は余り変わっていないが、見える範囲の衣類の様子などから本来の姿ではないと理解できる。
 これの件は、事件の解決に至る道のりが関わっている。
「雪女なんですよね」
 白を基調にした和服は雪の結晶を散らした染めに、黒に近い濃紺や金糸の帯。決して派手ではないが、人目は引く。
 腰を覆う程長い髪は本来の色ではなく、透き通るような雪の色だ。光を受ければ輝き、暗闇では静かに光るような色合いだ。
 依頼中に何らかの影響で変身したと気づいた後、ちらりと見えた自分の姿にみなもは驚いた。あまりにも繊細な美しさを持つ女性だったため、うっとりするほどだった。
 この状況は時間が経てばどうにかなるという楽観はある。しかし、このまま家に帰るのは難しい。
「どこかでゆっくり観光でもして帰ればいいのでしょうか?」
 みなものつぶやきに、武彦は首を横に振った。
「まずは宿に戻ろう。そして、温泉にでも浸かって頭を冷やそう」
「そうですね……雪女って入れるんですか? 温泉」
「本体はみなもだろう? 入れるんじゃないか?」
 みなもは武彦の言葉に肯定も否定もできない。大丈夫かもしれないし、駄目かも知れない。そもそも、雪女が温泉に入るだろうかも分からない。
「観光してもよいですよね?」
 おずおずと切り出す。スキー場意外にも観光スポットもあったはずだ。
「目立つ」
「はい?」
 みなもは首を傾げた。
「その格好は目立つ」
「え、雪女だからですね」
「うーん、服変えられるか?」
「無理です」
 武彦は仕方がないとうなずいた。たばこを携帯灰皿にしまう。
「とりあえず、下りよう。にしても、雪がなくなったから下りやすいか?」
 武彦のつぶやきに、みなもは周囲を見渡した。
 雪山のはずだ。
 雪がない。
 雪がないのはなぜか?
 依頼で色々あって今がある。この近辺の雪はパッと消えて、地面が若干ぬかるんでいるのがその名残だといえた。
「まだ、本当は雪山なんですよね」
 みなもは向かいの山を指さす。そこには雪がある。
 雪があれば雪女は目立たないのではないかと考えた。
「雪が消えてしまったなら、あたしがどうにかできます……」
 武彦はみなもの提案に首をひねる。
「そういうこと……かぁ?」
「雪も、水に連なりますし、雪を……」
 みなもは自身が持つ力でどうやって雪山を導くか検討する。
「下手にすると雪崩が起きるから、そういうことはやめておこう」
 武彦がきっぱり言う。溶けるときも逆も自然ではないものは危険が伴う。
「そうですか?」
 みなもは残念がるが、自然は侮れないのは理解した。
「宿に戻るか」
「そうですね」
 太陽があるうちに下りる方が良いだろう。そのため、下山を開始する。
 山の中であり、獣道のような有様だ。
 ここに来た時は歩きやすい格好をみなもはしていた。
 現在の格好は和服。幅広反物だったり、袴があったりする訳ではないため、足が開かない。
 山を下りるには大変つらい。
「草間さん、下りられません」
 数歩先の武彦は足を止めると、見上げる。みなもの足下を見て「あー」と渋い声を出した。
「いつ、元に戻る?」
「いえ、戻れるのが分かっていれば苦労していませんよ?」
 みなもはしょげる。
「化けられるか?」
「何にですか?」
「自分自身に」
「……それは戻れると同義ですよね?」
「そうともいう」
 みなもはじっと武彦を見た。
 その提案に応じられないというのは明確だ。できるならしている。
 武彦は理解したとうなずいた。
「じゃ、帰るか」
「はい」
 何も解決していないため、みなもは立ち往生をした。
「草間さん……」
 情けない声が出た。
 武彦は止まり、会話しただけで解決策が出なかったのを思い出す。
「……担ぐか」
「いえいえいえいえいえ」
 みなもは顔を真っ赤にして首を激しく横に振る。
「だよなぁ、担いで下りて滑ったら終わりだよな」
 武彦は肩に担ぐ動作をして地面を見た。
(荷物扱いですね。どっちにしろ……なんというか……)
 いわゆるお姫様だっこだろうが、おんぶだろうが、荷物のように肩に担がれるのだろうが、恥ずかしいのやら申し訳ないやら嬉しいやらで複雑だ。それに加え、前に抱きかかえられる場合、下山は非常に危険になる。
「様子見つつ、ゆっくりいくか」
「すみません」
 みなもは恐縮するが、武彦は気にした様子なく待っている。
 みなもは小さな歩幅でゆっくりと慎重に下りる。歩き方については慣れてくると問題はなさそうだ。
 先行する武彦が、滑りやすいところや危ないようなところは指示をくれる。
 そのため、じっくり行けば問題はなさそうだ。

 二人が宿についた頃には日が落ちていた。
 宿の人が困惑を見せた。
 宿の人の言葉に二人ははっとした。
 なぜなら、行きは大人と少女だったのに、帰りは大人二人になっているのだ。
 少女は帰ってその姉が来たというにしても、翌朝には少女の姿に戻っているかもしれないみなも。
 大変難しい問題を前に言いくるめるにはどうするかなど思考がぐるぐる回り、二人は思考しつつ硬直する状況から抜け出すのに時間が掛かるのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 発注ありがとうございました。
 さて、ほのぼの……しているのかどうなのか、のんびりしている状況にはなりました。
 え、むしろ、事件って何、とこちらが気になりますね!
 いかがでしたでしょうか?
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年03月23日

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