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『bitter white』
ケヴィンla0192)&カペラla0637

 とある街の喫茶店。
 大通りから少し外れた細い路地に居を構えるその店内は、明るすぎない吊り照明やシンプルな装飾のみが施された壁などが大人な雰囲気を漂わせている。
 その窓際の席に向かい合って座る、一人の男性と少女の姿があった。

 ■

 チョコを貰うだなんて思ってもいなかったし、そもそもそんな期待もしていなかった。
 だから、だろうか。
 実際にバレンタインにチョコを貰ったことで、それに対する礼もきちんとしようと思ったのは。
 特に下心なんてあるわけもない。返すべき礼は返すもの、ただそれだけ。

 そういえば前に、ケーキと珈琲が美味しい喫茶店の話をした気がする。
 そうだ、あそこへ連れて行こう。

 ――ケヴィン(la0192)がカペラ(la0637)を連れてこの喫茶店に来たのは、そういう理由だ。

「いやー改めて先月はありがとね。あのくらいのビターチョコが丁度いい。美味かったよ」
「いえいえ。こちらこそ、まさか本当にケヴィンさんからデートに誘ってもらえるなんて嬉しいです」
 平日の昼間とあってか、喫茶店に来ている客は二人以外は殆どいない。
 オーダーしてから間もなく届いた二杯の珈琲とケーキ、それからケヴィンが頼んだクッキーを前に、二人はそう互いに礼を言い合う。
「デートねえ」
 これはそういう華やかなものではない。
 思わず苦笑いを浮かべるケヴィンに、カペラは問うてきた。
「そういえば彼女はできたんですか?」
「彼女? いないいない」
 眼前で手をひらひらと振り否定する。
 セフレならいるけど、というのは、流石に目の前にいる少女の年齢層を考えると安直に口に出すのは憚られたのでやめておいた。本人は気にしないかもしれないけれど、成長に良くない気がする。
「うーん。ケヴィンさんはどんな女性がタイプなんですか?」
「好きなタイプか……」
 ケヴィンは少し難しい顔になる。
 そもそもが人付き合いは浅いほうが楽だと考える性格だ。そういうことをまともに考えようと思った機会自体があまりない。というか、考えるのも面倒だ。
「セクシーダイナマイトかな」
 なんて、思いついたままに答える。言っておいて何だけれども、自分自身本当にそうかは分からない。
 ところで、訊かれたからには訊いてもいいはずだ。
「そういうカペラちゃんはどうなの? 一人くらいイイ男捕まえたかい?」
「私はケヴィンさん待ちなんで。あ、私でもいいですよ」
 即答。
 いや本当かどうかはこれまた分からない。何せカペラは表情の起伏がそれほどない。
「ハイハイナイスジョーク。将来セクシーダイナマイトボディの美女になったら一考してもいいよ?」
 ただ、なんとなくだけれども本気ではない気がする。だからこちらも冗談交じりで返した。
 むう、と唸るカペラ。その唸りはどういう意味なのかは深く気にせず、ケヴィンは問い返す。
「それはおいといて、カペラちゃんには好きな男性のタイプとかはいないの?」

 ■

 問われ、カペラは用意していたかのように
「ケヴィンさんみたいな大人の男性がいいですね」
 と答えた。実際、質問するからにはされる可能性もあると思って用意していた回答ではある。
 本当のところは、自分でもよく分からない。
 何せ恋愛をしたことがない、どころか、恋愛に対して漠然と怖いイメージを抱いている自分がいる。何で怖いと思うのかは、正直まだわからないけれど。
 だから当然ケヴィンに対しても恋愛感情というものはなく、また、何を言ったとしても彼が自分になびくことはないだろうと分かっている。だから安心して冗談が言えるのだ。
 ――それはそれとして、『そういう意味』でなく、ケヴィンとは普通にもっと仲良くなりたいという気持ちもある。
 ただ……それも簡単なことではない、と彼女は思う。
 おそらく放浪者としての生い立ちあってのことだろうけれど、ケヴィンは自分の『領域』を他人に踏み込まれたくない様子なのは見ていて分かる。だからこそカペラはそこに踏み込まない、もしくは踏み込めずにいるのだ。

 そんなどうにもならないことを考えていたせいか、口にしていた珈琲が実際以上に苦く感じた。

 ■

 回答した後無言で珈琲を啜るカペラの様子を、ケヴィンはぼんやりと見ていた。
 思うに、今はまだ幼さを残す少女だけれども、カペラは間違いなくイイ女になる。確信がある。
 それだけに……先程の発言がどこまで本気なのかはおいといて、自分のようなおっさんのところに出入りしているのはちょっと心配である。いい出会いの機会を逸してしまっているんじゃなかろうか。
 だから、何やら考え込んでいる様子の彼女を見て、少し茶化してやろうと思った。
「イイ男の一人でも思い当たるフシがある?」
 そう尋ねると、カペラは一瞬虚を突かれたような顔をした後、
「そういうのじゃないです」
 すぐに平静を取り戻してそう答えてきた。いたっていつもどおりのその様子に嘘は感じられない。
 何だ違うのか、と肩を竦め、ケヴィンは肩を竦める。

 ■

 お互い本気にならない恋愛話に踏み込んだら、それぞれ違う意味で微妙な気分になってしまった。
 ケヴィンもまた、ブラックが苦い、と感じるのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
津山佑弥です。
ご依頼ありがとうございます、と、大変お待たせして申し訳ありませんでした。

先月動画配信サイトで見たバラエティ番組に登場した喫茶店のイメージを思い出しながら書いていたのですが、何だか書いていたら思いの外苦いホワイトデーになったな……と思います。
本当の気持ちってどこにあるんだって考えるのも難しいものです。

口調などに間違いがありましたら、お気軽にご指摘ください。
この度はご依頼ありがとうございました。
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津山佑弥 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年03月25日

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