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『本気の仕合』
不知火 仙火la2785)&日暮 さくらla2809

●本気の仕合
 不知火邸、普段は家主が近所の少年少女を掻き集めて護身術、剣術を教えている道場に、青年と少女が武器を構えて向かい合っていた。青年の名前は不知火 仙火(la2785)、少女の名前は日暮 さくら(la2809)。不可思議な宿縁に導かれ、二人は果たし合いの舞台へと立ったのである。
「『小烏丸』、受け継いだそうですね」
 不知火の家と日暮の家は鏡合わせの如く。家宝となった一振りの刀が存在した。その名前は守護刀『小烏丸』。始まりの刀の名前を冠する刃は、敵を討ち、仲間を守るために振るわれてきた。さくらはこの世界へ渡る折にその刀を受け継いだが、仙火はついこの間までその刀を目の端にさえ入れずにいたのだ。彼は『寥』を抜き放ち、じっとその切っ先をさくらの喉元へ向ける。
「もともと父さんがこっちの世界に佩いてきたのは知ってたんだ。だが俺は知らんふりしてた。その刀は俺に相応しいものじゃないと思ってたからだ。だがもうそんなのは関係ない。相応しいとか相応しくないとか、そういう次元じゃ話は片付かない。俺がこの刀に似合うようになるしかないんだ。……だから、とっとと渡してもらうことにした」
「なるほど。……もう覚悟は出来ている、と。ならば何も言うことはありません。今このときこそが、私の宿縁の結び目になるのです」
 さくらも刀を抜き放つ。仙火と揃いの刀だ。切っ先が触れるか触れ合わないかの間合いに立って、彼女は眉を決する。IMDを起動した瞬間、桜色の光がふわりと彼女を包み込み、花びらの幻影が宙に舞った。
「遠慮は要りません。私も全力で行かせてもらいますので」
「わかった」
 仙火も頷き、彼もIMDを起動する。白い光が彼の身を駆け抜け、翼の幻影が広がった。
「来いよ。どっからでも」
「行きます!」
 さくらはすぐに飛び出した。目にも留まらぬ速さで踏み込み、彼女は仙火の脇腹めがけて刃を奔らせる。仙火は一歩飛び退くと、彼女の肩目掛けて刀を振り下ろす。さくらは片手で刃を肩に担ぎ、その一撃を受け止めた。そのまま沈んで懐へと潜り込むと、ベルトのホルスターから拳銃を抜き放ち、その脇腹へと突きつけ引き金を引く。乾いた銃声が響き、白い羽根の幻影が舞い散る。仙火はすかしたような笑みを浮かべる。
「やるなぁ」
「手を抜くのは止めにしたほうがいいですよ。怪我をさせないように、などというつもりはありませんから」
「本気のお前を相手に、手を抜いたりするわけ無いだろ」
 仙火は刀を中段に構えて一歩引く。さくらは追いかけようと前に体重をかけたが、その足は地面へ縫い付けられたように動かない。とっさにさくらが足元に目を遣ると、自らの影が不自然に歪み、彼女の足を縛り付けていた。
「いつの間に……」
「今度はこっちの番だな」
 仙火は翼を広げ、白い光を刃に纏わせる。動けないままのさくらは、そのまま銃を構えて迎え撃つ。だが銃弾は、彼の肩をほんの少し掠めただけであった。
「お前が教えてくれたんだぜ。銃じゃなくて目を見とけってな」
 たっぷり力を込めた仙火は、さくらの喉元目掛けて鋭い片手突きを放った。シールドが喉を守ったが、たっぷりと衝撃をもらった彼女は、道場の壁際までふっとばされた。
「くっ……」
「下手くそならともかく、お前が的を外すわけがねえよな?」
「よく覚えていますね」
 彼女は顔をしかめると、銃にエネルギーを込め直す。刀を逆手に持ったさくらは、銃を構えて走り出す。仙火を真ん中に、弧を描いて走る彼女。目で追う仙火目掛けて、一発、二発と撃ち込んだ。仙火はさくらの視線を捉え、右に左に躱してみせる。
「撹乱しようったって――」
 仙火が構え直した瞬間、さくらはあっという間に彼の足元へと滑り込んだ。その足を素早く払って転ばせると、そのまま片手をついて跳ね起き、逆手に構えた刃を叩きつける。仙火はその腕で身を庇うしかなかった。
「ただの剣士にあらず、ただの銃士にあらず。それがこの日暮さくらです」
「……ああ、そうらしいな」
 力任せにさくらを跳ね除けると、仙火はその勢いで立ち上がり、刀を中段に構え直した。二人とも一歩も譲らない。足を摺らせながら、じりじりと間合いを探っていく。刀一本でこの場に立つ仙火より、銃を持っているさくらの方が体勢としては有利である。だがEXISの銃は実銃よりもポテンシャルが相当低い。一発一発があまりにも貴重なのだ。
 再び剣先の触れ合う間合いまで踏み込み、二人は睨み合う。両者は殆ど互角、手緩い行動をすればあっという間に呑み込まれてしまう。
 二人の足が一瞬止まる。互いに切り込もうとしたが、隙が窺えない。仙火は先に間合いを離した。離れた間合いは銃を持つさくらが圧倒的に有利なはずである。さくらは訝しんだ。間違いなく何らかの意図がある。そう肌で感じたものの、思案は出来ない。手を止め足を止めればそれが隙になってしまう。さくらは咄嗟に銃を構えて引き金を引いた。仙火はシールドを張ってそれを受け止めると、その場で素早く刀を振り抜いた。衝撃波が放たれ、さくらへと襲い掛かる。不意を突かれたさくらもまた、シールドでその一撃を受け止めざるを得なかった。
「……私が銃を持っているのを知っていて、わざわざ刀だけで来たのはそれが理由ですか」
「俺だって負けたくねえからな。やれる事は全部するさ」
 さらりと言ってのけた彼は、再び刀を構えて素早く踏み込んでいく。さくらは銃を納めると、刀を両手で構えて仙火の一撃を払い除け、その小手先に切っ先を振り下ろす。仙火はシールドで受けるに任せ、払い除けられた刃を無理矢理脇腹へ叩きつけた。
「くっ……!」
 さくらは咄嗟に飛び退き、遠間で仙火と対峙する。手数では彼女が勝っていたが、もう一度仙火の大技を受ければ、それだけで倒されかねない。迂闊に身動きは取れなかった。
 互いに次の一撃が勝負。道場の壁を背にした二人は、互いに出方を窺う。さくらは銃を向け、仙火は刀を上段に振りかぶった。銃弾と衝撃波が同時に放たれ、道場のど真ん中で炸裂し光が散った。それを合図に、二人は一斉に踏み込んだ。
 遠間に入るか入らないかの間合いに入った瞬間、仙火は素早く刀を振り下ろした。刀の先から伸びた影がさくらの影を捉え、その足を道場の床へと再び縫い付ける。
「貰った!」
 手の内で刃を返し、そのまま刀を再び頭上へ掲げた。遠心力も乗せた刃を、仙火はさくらの肩口目掛けて振り下ろす。渾身の一撃だ。
「……貰ったのはこちらの方です」
 しかし、さくらは半身になってその一撃を躱した。縫い付けられた足を軸にその身を翻し、勢い余って突っ込んできた仙火の腹目掛けて鋭い突きを放った。
 ぱっと羽根が舞い散り、シールドが砕ける。吹っ飛んだ仙火は、道場の真ん中に倒れ込んだ。
「ぐぅっ……」
「どうやら、勝負あったようですね」
 さくらはそっと刀を納める。仙火は何とか起き上がり、小さく溜め息を吐く。
「今のは貰ったと思ったんだがな」
「この時に備え、仙火の動きは具に観察してきました。その動きをしてきた時にはどう返すか、常に考えてきたのです。……それが当たりましたね。実力そのものは互角だったと思います」
 彼女はほっと肩を下ろす。安堵したような表情を見上げて、仙火は肩を竦めた。
「よくやるぜ。まったく」

 かくして、二人の勝負はさくらの勝利に終わったのであった。

●宿縁の正体は
 縁側に座った二人は、いちご牛乳を飲んでその身を労っていた。一気にグラス一杯飲み干した仙火は、空を見上げてほうと溜め息吐いた。
「我ながらガキくせーと思うけど……やっぱ美味いんだよな、これ。疲れてるときほど」
「同感です。いちごが好きなのは良いことです。卑下する必要はありませんよ」
「別に卑下しちゃないが。カッコはつかねえよなって」
 冗談交じりに呟く仙火。そんな彼の様子をしばらく窺っていたさくらだったが、彼女も一杯飲み干して、ついに決心を固めた。
「さて。……もう隠すこともないでしょう。改めまして、私の名前は、日暮さくらです」
「別に隠すようなことでもなかっただろ? 知ってる」
「そうですか。ならもう一つ質問しましょう。あなたの父君は、母君と結婚する前にどんな姓を名乗っていましたか。ご存知ですか?」
 さくらは首を傾げ、仙火の顔を覗き込む。彼はふんと鼻を鳴らした。
「それくらいわかってる。日暮だったな。……日暮」
 仙火はそこではたと気づいた。日暮という名字が世界にそうあるものか。異世界の事は知らないが、同じ姓を名乗る人間が転がり込んできた。これは決して偶然ではないはずだ。
「あ、そうか。お前が……」
 一つきっかけがあれば、一気に記憶が蘇ってくる。父が彼に話して聞かせた、不思議な夢の話。その話を聞いた頃から、漠然と自分はその少女と戦うのだと思ってきた。少女もそれを望んでいると聞いた。それは異世界を隔てた宿縁なのだと、彼自身も思っていた。そのはずだったのである。仙火は呻き、乱暴に頭を掻きむしった。
「あああ、もう! そうか、くそ。……それを覚えていたらなあ、もう少し気合い入れたってのに! 再戦だ。再戦を要求する!」
「ええ……?」
 さくらは眉を顰める。仙火はサンダルをつっかけ前庭に飛び出すと、振り返って彼女を見つめた。
「だってそうだろ。親越しにつったって、大事な約束を忘れておいた上に一本取られてるんだ。こんなのってないぜ。あー、なんてザマだ」
「仕方ありませんよ。……私は信頼できる人々に恵まれ、およそ平穏無事な日々の下で育ちましたが、仙火達は必ずしもそうだったというわけではなかったでしょう」
 言われた仙火は肩を竦め、再び彼女のそばに腰を下ろした。
「まあそうだな。色々あった。幼馴染が攫われて、助けに行っても何も出来なくて、こっちの世界じゃ母さんが同じような目に遭って、その時も俺は駄目だった。だから、俺にはもう何もないと思ってたんだ」
「それで腑抜けていた、と」
「ああ。でもお前や、他の連中に会って分かったよ。そんな俺の中にも、今度こそはって思いはまだ残ってるってな。その今度の為に、俺は強くなきゃならねえって」
 初めて出会った時の、空っぽの風船のような雰囲気は既にない。いつか一族郎党を背負う嫡男としての覚悟が既に固まりつつあった。それを確かめたさくらは、静かに微笑む。
「それが、仙火の根っこなのですね」
「そうだ。もうこれ以上、俺の身の回りにいる奴を誰も傷つけさせない。お前のこともな」
 彼の表情を見た時、思わずさくらはどきりとした。しかしその正体がわからなかった彼女は、そのまま仙火に頷いて見せる。
「……わかりました。これからも好敵手として、頼りにさせていただきますよ」



 かくして二人の宿縁は一つの結び目を作った。しかし二人の勝負はこれからも続く。次はどちらが勝つのかは、時の運次第だろう。

 おわり


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 不知火 仙火(la2785)
 日暮 さくら(la2809)

●ライター通信
 お世話になっております。今回の勝負については、最初は男の意地を見せて仙火さんが勝つ、と考えていたのですが、気づいたら仙火の動きに対策を仕込んでいたさくらさんが勝っておりました。とはいえ紙一重なので、次やったら仙火さんが勝ってるかもしれません。それくらいの感じです。
 残すノベルは後一つ。今しばらくお待ちください。

 ではでは。

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2020年03月26日

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