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『秘密の部屋』
蓬莱la0118#FS-10)&陸道 空la0077)&煉獄la0077#MS-01J

●キャリアー建造計画
 グロリアスベースのとあるドック。そこでは数多くの技術者が集まり、一隻のキャリアーの建造を急ピッチで進めていた。装甲板を溶接する音、扉や窓をボルトで留める音が広い空間の中に響き渡っている。華倫(la0118)はそんな光景を陸道 空(la0077)と共に見つめていた。艦の名前は蓬莱(la0118#FS-10@WT11AC)。仙境の名を冠するその船は、所有者の華倫によって、小隊によるアサルトコア運用時の拠点として用いられる手筈となっていた。
「御覧の通り、既におおよその外装は出来ています」
「ベースになったモデルとは随分形が違うんだな」
 空は窓越しに建造の進む船体をじっと見つめた。艦橋を中心として全体的に丸みを帯びたそのフォルムは、まるで鸚鵡貝のようにも見える。隣で華倫はこくりと頷く。
「はい。見た目そのものはわたくしの趣味もあるのですが……全体的には既成モデルよりも居住スペースを大きめに取ることで、わたくしの研究用のスペースを確保したり、長期間の戦闘の中でも士気を確保できるように居住性を高める設備を作るつもりですわ。空様、こちらへ」
 華倫は窓辺を離れると、部屋の真ん中へと空を誘う。どんと広げられた製図台の上には、キャリアー内装の見取り図が描かれていた。
「これが内装か」
「そうです。格納庫以外にも、隊員の個室から食堂にキッチン、そのほか諸々を設けるつもりなのですが……その中に一つ、アサルトコアの戦闘シミュレーションができるお部屋があった方が良いでしょうか?」
 そんな事を言う間にも、隣でじっと青写真を眺めている空をちらりと見つめる。小隊長に運用予定のキャリアーを見てもらうという、至極真っ当な目的で呼びつけたつもりが、こうして本人を目の前にすると胸の奥が震える。彼に心が囚われてしまうのだ。
「シミュレータールームか。……しかしアサルトコアにも色々なタイプがある。俺達小隊の中ですら、操作系統は統一されていないはずだ。それに対応しようと思ったら、結構なスペースが必要になるだろう」
 そんな華倫の視線には気づかず、空はひたすら真剣に検討していた。そして間もなく彼は気づく。艦長室の下に、不自然なほど広いデッドスペースがある事を。彼はそこを指差す。
「これくらいの余裕は欲しいな。これくらいのスペースがあれば、おおよその種類のコクピットは用意できるだろう」
「えーと……確かにその通りだと思いますが、そこは……」
 華倫は咄嗟に目を泳がせる。
「そこには別の施設を入れる予定がありまして」
「別の施設? ならどうして見取り図に書かないんだ」
 空はほんの少し訝しげな顔をするが、華倫はしらを切っている。
「……まあ、いいか。この艦は華倫の所有物だ。取り立てて注文を付ける気はない。しかしそうなるとシミュレータールームの導入は厳しいだろう。スペースだけなら幾つかあるが、一種類だけ用意しても仕方ないからな」
「そう、ですか……」
 華倫はちょっとしょんぼりする。だからといって、秘密の部屋を譲るわけにはいかなかった。大事の前の小事である。空はそんな彼女の顔をちらりと見遣った。
「まあ、解決の方法なら幾つかある」
「解決の方法?」
「ああ。そもそも、戦闘シミュレーションをするだけなら、特別なコクピットをわざわざ用意する必要はない。そもそもアサルトコアそのものが時代の最先端を行くCPUその他を搭載しているんだ。どうせならそれを利用すれば、わざわざ艦橋のスペースは取らずに済むだろう」
「なるほど……確かに、その通りですわ」
 彼女はこくりと頷く。普段は聡明な彼女だが、こと『蓬莱』の建造に当たっては、どこか惚けてしまう時も少なくなかった。全ては空が側にいるためだ。昔よりはこの世界の大気にも馴染んできた華倫だったが、薬の量は一向に減らない。萌える心を鎮めるための仙薬を使わなければ、歯止めが利かなくなってしまうからだ。
「そういうわけだ。ちょっとついてきてほしい」
 そんな彼女の想いには気づかぬまま、空は華倫を手招きする。一も二も無く、華倫は慌ててその後ろを追いかけていく。
「どちらへ行かれるのですか?」
「どうせならどのような形になるか、華倫にイメージを固めておいてもらいたい」
 大股で空が向かったのは、グロリアスベースのアサルトコア格納庫。ずらりと並んだアサルトコアの列の中に、空の駆る煉獄(la0077#MS-01J@WT11AC)も混ざっていた。スイッチを押すと、機体は小さく屈み込んで胸元のコクピットを開く。機体は自動でその右手を差し出し、コクピットへ続く足場となる。空は華倫に振り返った。
「とりあえず乗ってくれ」
「ええっ……」
 華倫は言葉を失う。アサルトコアのコクピットはどれもかなり狭く、タンデムは基本想定されていない。そんなところに二人で乗ればどうなるか。ちょっと考えただけでくらくらしてくるが、その大きな耳はちゃんと空の話を聞いていた。
「どのような形になるか、華倫にも想定しておいて貰いたいからな」
「は、はい!」
 空に続き、華倫はコクピットへと乗り込んだ。空は、コクピットの隅に身を寄せ、操縦席を華倫に譲った。
「乗ってくれ」
「え。他人のアサルトコアを運転する事は出来ないのでは……」
「もちろん、武装の起動は出来ないさ。だが単純に機体のコンソールを起動する分には問題ない」
 空は身を乗り出し、コンソールのスイッチを入れる。モニターが起動し、目の前に格納庫の景色が広がった。更にスイッチを入れると、アサルトコアは静かに立ち上がり、モニターに映る景色が変化した。
「シミュレーションモードを起動した。今からするコクピットの操作は機体にはリンクしない。つまりこれでアサルトコア操縦の練習が出来る」
「なるほど……」
 華倫は操縦席のひじ掛けに手を掛けてみる。空はそんな彼女に手を重ねた。
「ああ、実はちょっと違うんだ。元々この機体は神経接合によって操作するものだから……」
「ひゃあっ」
 空の手が華倫に触れた瞬間、華倫ははっと息を呑んだ。心臓がびくっと跳ねて大きな耳がふわりと跳ねる。目の前がくらんだかと思うと、華倫はそのままコクピットの中にぐったりと倒れてしまった。
「ん? おい、華倫? どうした? おーい?」
 空は慌てて華倫に尋ねるが、華倫はすっかり気を失っていた。

●花の誘い
 そんな小さな事件もあったりしたが、華倫は何とか『蓬莱』を完成させた。彼女のグラビアアイドルとしての、あるいはライセンサーとしての稼ぎのほとんどを注ぎ込んだ傑作である。舞い上がった彼女は、早速小隊長、かつ晴れて恋人同士となった空を招待した。空も『蓬莱』の就航を祝うため、早速船を訪ねる。そこには蜜のように甘い“罠”が待っているとも知らずに。

 キャリアーの中に足を踏み入れた華倫と空。まず訪れたのは二階に設けられた乗組員、ひいては小隊員達に宛がわれる予定の個室。そこにあるのはビジネスホテルのシングルにも似た一室。しかしシャワーとトイレは別になっており、居住性は十分だ。
「此処が隊員用の個室ですわ」
「個室か。掃除も行き届いているし、悪くないな」
『清掃命令は本日8時に履行しました! 長時間の睡眠が必要な場合はドアにマグネットを貼って指示してください!』
 インラインスケートのような脚をもつウサギ型ロボットが、掃除機を手にぴょんぴょんと飛び跳ねる。華倫は微笑み、その頭をそっと撫でた。
「お疲れ様です。ちゃんと動いておりますわね」
「それは?」
 掃除機を引きずり去っていくロボットを見送り、空は尋ねる。
「家事用AIを搭載したロボットです。少人数でこれほどの船を運用していても、掃除は全く行き届きませんから……このような面でもAIのサポートを導入しているのです」
「なるほどな。ナイトメアは神出鬼没だし、いつ敵が出てくるかは分からない。そういう時に家事仕事に手を煩わされずに済むのは良いかもしれないな」
「ええ、そうでしょう、そうでしょう」
 華倫は頷き、耳をぴくりぴくりと動かす。彼女の熱っぽい視線に、空は気づかなかった。

 次に訪れたのはキッチン及び食堂。キッチンはカウンター式になっていて、食堂から様子がよく見える。
「一応食料の備蓄は準備していますが、外から買い込んだ食料を保存して、調理するための設備も完全な形で用意しておりますわ。冷蔵庫はもちろん、炊飯器や電子レンジから……コンロはIHヒーターを採用していますの」
 食堂のテーブルに向かう空に説明しながら、華倫は冷凍庫から大きな中華まんを取り出す。華倫が取り決めた『蓬莱』の備蓄食料である。外側の皮で炭水化物を摂取するとともに、内部の餡で動物性たんぱく質と食物繊維を併せて摂取する。完璧な料理である。そして華倫にとっては、もう一つの意味があった。
「……」
 レンジから取り出したほかほかの中華まん。華倫はこっそりと注射器を取り出すと、その針を突き立てる。その底を叩くと、薬液がするりと中に沁み込んだ。僅かに頬を緩めた彼女は、何事も無いように振り返って空へと駆けていく。
「さあ、これが『蓬莱』就航の為に特注で作って貰った中華まんですわ。是非ご賞味くださいな」
「……ああ、もらおう」
 華倫から受け取った中華まんを、空は大口開いて食べ始める。
「冷凍保存されていると聞いていたが、悪くないな」
「ええ。私が具材の配分に至るまでしたのです。抜かりはありませんわよ」
 そうだ。本当に抜かりない。

 娯楽室やトレーニングルームを通って、二人は遂に大浴場までやって来た。最初はただ横に並んで歩いていた華倫であったが、今やすっかり空にべったりとくっついていた。腕を絡めてみたり、その肩や耳を摺りつけてみたり。
(だめ……はしたないですのに、気持ちを抑えられませんわ)
 小さく吐息を洩らす華倫。空はすっかり置いてけぼりだ。
「えーと、この浴場は随分凄いな」
 空が戸惑いがちに呟くと、華倫ははっとなった。
「はい! 以前訪れた温泉などを参考にして設計しております。この艦船のエネルギーを流用して海水を真水にして……というシステムですから、作戦時に使えるものではありませんが……しかし小隊員同士で羽休め、という時には十分役に立つと思いますわ」
「なるほどな……」
 今、浴場にはたっぷりと湯が張られている。ふわりと漂う水蒸気が、二人の装いに纏わりつく。互いに薄着の二人。その身体のラインがぴったりと浮かび上がっていた。戦士として無骨に生きてきた空。少し女の媚態を目にしたくらいでは動じない胆力を持っているが、今日ばかりはなぜか、空は思わず喉を鳴らしてしまった。
(……なんだ。妙に気持ちが高ぶってくるな)
 その薄布一枚の奥に何が隠れているか。空は思わずそれを思い浮かべてしまい、ちらりと眼を逸らした。そんな彼を見て、華倫はぱちぱちと眼を瞬かせるのであった。

 そんなこんなで艦内を一通り巡った二人は、艦長室へとやって来た。華倫の私室でもあるその空間は、落ち着きのある調度品で纏められていた。
「どうぞ、ハーブを用いた薬膳茶ですわ」
「悪い」
 空は茶碗を手に取り、熱いお茶をぐいと飲む。彼女はそんな彼の様子を、期待の眼差しで見つめていた。飲み干した空は、僅かに笑みを浮かべた。
「美味いな」
「ええ。空様のお口に合うように調整したのですわ」
「なるほどな……」
 茶碗を華倫に返すと、ちらりと部屋を見渡す。
「そう言えば、隅々まで見せて貰ったとは思うんだが、一つ気になっていることがある」
「なんですの?」
「設計の時に言っていただろう。艦長室の下は何か違う目的があって、シミュレーション室を入れることは出来ないと。結局、どんな目的で使う事になったんだ? 入り口も見当たらなかったが……」
「あー、それは……」
 華倫は身を翻すと、クローゼットを指差した。
「実はそこから行くことが出来るのです……」
「そこから? またなんでそんな入り組んだ設計に――」
「よろしければご案内いたしますわ!」
 大声を上げて空を圧倒すると、華倫は素早くその手を引いて空をクローゼットの中へと引っ張り込む。服の奥に隠れたエレベーターに踏み込むと、レバーを引いてそのまま下に降りていく。

「ここは、わたくしの秘密の部屋なのです」

 そして部屋に足を踏み入れた華倫は、ふにゃりと緩んだ笑みを浮かべる。空は呆気に取られて部屋を見渡した。
「あー、えーと、これは……」
 ムード溢れる照明と、艶っぽい調度品。蠱惑的な香りで部屋は満たされている。まさに秘密のお部屋である。
「まあ、お前の所有物だから文句は言いっこないが……まさかキャリアーにこんな部屋を作るとはな」
「わたくし、やはり空様の事を見るとどうかしてしまうのです」
 この部屋は空をモノにする前から設計し作らせていたのである。このウサギとんでもない。ちらりちらりと上目遣いを送って、華倫は空に尋ねた。
「……それで、その。今日はわたくし達二人きりなのですから。その……」
「まったく」
 空は呆れたように呟く。しかし、既に華倫の魅力には抗しがたくなっていた。二種類も仙薬を盛られたのだから当然である。このウサギとんでもない。
「ならそうさせてもらうか……」
 空は華倫の腰を抱くと、そのまま部屋の奥へと足を踏み入れた。



 おわり


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 華倫(la0118)
 陸道 空(la0077)

●ライター通信
 お世話になっておりました。影絵企鵝です。この度は御発注いただきましてありがとうございました。いやはや策士でありますな。気に入っていただけましたら幸いです。

 では。

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2020年03月27日

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